遠い極寒の国の一コマ

アルベリッヒ「ヒルダ様、何を読んでおられるのですか？」
ヒルダ「ああ、アスガルド経済新聞です」
アルベリッヒ「へえ、あんたも少しはこの国のことを考えているんですね」
ヒルダ「いえいえ、今朝森を歩いていたらパンを欲しいという方がいて。お金がなくて新聞しかないというので、交換したのです」
アルベリッヒ「相変らずの極楽トンボですね。あんたはわらしべ長者ですか」
ヒルダ「ほほ、ワラもありませんよ。この国には」

アルベリッヒ「笑えませんから。どういう貧困ですか」

ヒルダ「で、アルベリッヒ。何か用ですか？」
アルベリッヒ「ああ、アテナから手紙が来たのです」
ヒルダ「あら、アテナから？何でしょうか」
ふむふむと沙織からの手紙を読む。アルベリッヒもさすがに主君からの手紙を勝手に読むことはできないので、読み終わるのを待っていた。
ヒルダ「アルベリッヒ、よろこびなさい。アテナから吉報です」
アルベリッヒ「は？なんですか？」
ヒルダ「アテナが日本にご招待くださいました」
アルベリッヒ「は？招待？」
ヒルダ「ええ。なんでも、温泉が沸いたそうなのです」
アルベリッヒ「へえ、それは何よりですね」
ヒルダ「行きたいのですけれど・・・」
アルベリッヒ「行けばいいじゃないですか」
ヒルダ「行ってもいいんですか？」
アルベリッヒ「あんたがアスガルドを留守にしてる間、俺がアスガルドの王になりますから」

ヒルダ「なってもいいことありませんよ？」

アルベリッヒ「知ってます。アスガルド中の贅を凝らしても、我が家の粗食に勝てません」

ヒルダ「よくご存知ですこと。今日の昼御飯は、タクアンと具なしオニギリです」
アルベリッヒ「相変らずひどい食事ですね」
ヒルダ「慣れればたいしたことありませんよ。それではアルベリッヒ、留守の間、よろしくお願いしますね」
アルベリッヒ「本当に預けていいんだな？帰ってきたら席がないかもしれんぞ」
ヒルダ「信頼してますから」
アルベリッヒ「・・・・・・・・」









ヒルダ「ジークフリートの次に」

アルベリッヒ「その言葉がなければ、密かに感動してやったのに！ええい！アンタなんか日本でも木星でも好きなトコに行きやがれ！」
ヒルダ「その罵声、心地いいこと。それでは行ってきますね」
るんたったるんたったと足取り軽くヒルダは出て行った。嫌いなはずなのに、何故か憎めない。むすっとするアルベリッヒなのだった。



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