北欧の姫の深イイ話

沙織「ようこそ、グラードパークへ」
ヒルダ「お招き有難うございます」
沙織「温泉をどうぞ楽しんでいってくださいね」
ヒルダ「ええ、楽しみにしておりました」
沙織「アスガルドには温泉はあるのですか？」
ヒルダ「アスガルドにはマグマがありますから、探せばあるとは思いますが、露天風呂は少々問題がありますので」
沙織「問題とは？露出狂がいるとか？」

ヒルダ「いえ、入ったら最後温泉から出られなくなると思いますので・・・」

沙織「アスガルドの寒さはギネス級でしたね。今日はゆっくり楽しんでください。私もお供いたしますから」
ヒルダ「ええ、ありがとうございます」

デスマスク「らっしゃ〜い！」
番台には浴衣を着たデスマスクがいた。光速でデスマスクに掴みかかると、ヒルダに聞こえないように、ひそひそと話し掛けた。
沙織「あなたが番台ですか」
デスマスク「どこぞに問題が？」
沙織「大有りです。どうせこっそり女性の裸体を覗く気満々でしょう？」
デスマスク「しねえよ。するわけねえだろ」
沙織「あら、どうしてですか」
デスマスク「俺、別に女に飢えてるわけじゃねえし」
沙織「まぁ・・・！」
デスマスク「覗きってのは、女に余裕のない奴がすることだろ？」

ふっと髪をかきあげて微笑むデスマスク。

沙織「まぁ、いいでしょう。今日はアスガルドのヒルダさんをご招待していますから、くれぐれも、くれぐれも粗相のないように。いいですね？」
デスマスク「わかりましたよっ」

ヒルダ「アテナ？どうされたのですか？」
沙織「いえ、ほほほ。入館料がいくらかなと聞いていたのですよ。ねえ、デスマスク？」
デスマスク「そうですよ。ラッキーですね。水色の髪をした方は本日無料となっております」
ヒルダ「まぁ！よろしいのですか？」
デスマスク「ええ、お嬢様の笑顔が見られれば、グラードパークの職員幸せでございますから。そちらのお客様は正規の料金を頂きます」
沙織「デスマスク！私からお金をとるのですか！？」
デスマスク「もちろんですよ、お客様」
沙織「私はオーナーですよ！？」
デスマスク「オーナーだろうとなんだろうと、暖簾をくぐられる方はお客様でございます。きっちり払いやがれでございます」
沙織「・・・・・後で覚えておきなさい」
デスマスク「気風の良さは金持ちの証ですよ」

チャリンと小銭をデスマスクの手の平にのせると、バスタオルやら何やら一式を手渡され、暖簾をくぐるのだった。

沙織「ああ、いいお湯ですね」
ヒルダ「本当に」
温度も上々、外の景色もよく、夢見ごこちの二人だった。
沙織「露天風呂は日本の大発明ですね」
ヒルダ「普段シャワーなので、とても気持ちいいですわ」
沙織「そちらは北欧ですものね。湯船よりシャワーなのですか」
ヒルダ「そうですね。湯船にはあまり浸かりません」
沙織「疲れは取れるのですか？」

ヒルダ「実はそんなにとれないんですよね。水ですし」

沙織「・・・・え？」
ヒルダ「うちは貧しいので、お湯を沸かすお金もなくて。アルベリッヒから、お湯は一切禁止だと言われてしまったのです。それからずっと水シャワーです」
沙織「もう十二月ですよっ！そして来月は一月ですよっ！」
ヒルダ「ですねえ」
沙織「ですねえってそんな冷たい水を浴びたら死んでしまいます！」
ヒルダ「かもしれませんねえ。でも、耐えることで精神が鍛えられるのなら私はそれに従いたいと思います」
沙織「・・・・・・」
ヒルダ「アテナ？どうされたのですか？」
沙織「いえ、最近そのような立派な言葉を聞いたことがないので感動してしまいました。ヒルダさんがそうなら、さぞ神闘士の皆さんもご立派なんでしょうね」
ヒルダ「ご立派なんてそんな。毎日粛々と仕えてくれるだけで、手柄を立てたりとかそんなことはありませんよ」



そういうのを立派と言うんじゃ・・・！



沙織「なんて羨ましい！うちなんて、騒ぎを起こしっぱなしで心が休まる暇がありませんよ。ヒルダさん、コツを教えていただけますか？」
ヒルダ「コツですか？」
沙織「はい、ぜひ！！」
ヒルダ「・・・・そうですねぇ。どんな時も慌てない心でしょうか」
沙織「どんな時も慌てない心ですか・・・？」
ヒルダ「お昼がタクアンと具なしオニギリでも、日々の糧を得られていることに満足すること。薪がなくなっても何とかなると思うこと。おっとりのんびり、世俗のことに捕われず悠然としていること。そうしてると、不思議とアルベリッヒの方からいろいろやってくれます」
沙織「な、なるほど！！」
ヒルダ「人間、多少欠陥があった方が、働く者は楽なんじゃないでしょうか」

沙織はハッとなった。
思い返せば、自分は黄金聖闘士達に完璧を求めていた。
あまつさえ、無給で働かせていた。（デスマスクに至っては24時間）
どんだけっ！である。

沙織「ありがとう、ヒルダさん」
ヒルダ「そんな、御礼を言われるほどでは・・・」
沙織「いえ、私は人として間違っていました。横暴な上司には乱暴な部下ということなのでしょう。生まれ変わった気持ちになって、やり直したいと思います」
ヒルダ「アテナ・・・・」
沙織「あなたは私の恩人です。今日は全て私がおごります。遠慮せず、楽しんでいってくださいね」


体も心もリフレッシュして、蒸気を昇らせながら暖簾をくぐる。


デスマスク「いいお湯だっただろ？」
沙織「ええ、ありがとうデスマスク。あなたが番台のおかげで安心してお風呂に入れました」

デスマスク「はっ！！？」

沙織「思えば、私のような愚かな者によくついてきてくれました。文句だけで許してくれたあなたに感謝しますよ」

デスマスク「えぇっ・・・・！？」

沙織「後数日ですが、辛いようでしたら休んで構いませんからね。代わりのものを雇いますから。では、ごきげんよう」

にこりと天使のように微笑むと沙織とヒルダはでていった。

デスマスク「どうしちまったんだ・・・？」

人が1８０度変わってしまっている。

デスマスク「やべえ！もしかして、この温泉の効能って改心させちまうって奴か！？
おいっ！！サガ！！お前、絶対風呂に入るな！！」

大慌てで男風呂の方へ行くデスマスクなのだった。



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