見つめるは恋のめぐり　〜４つの繋がりのテーマ〜



「春麗・・・！！」
搭乗口からやってきた紫龍が嬉しげに手を振る。恋人の視線を独り占めにして、春麗もはにかみながら笑みを浮かべる。
「ただいま、春麗」
久しぶりの逢瀬に、今すぐ抱きついてしまいたい衝動に駆られるが、さすがに一目を気にして自制する。
「待ったか？」
「いいえ、絶対帰ってくるって分かってる時は待ってることも楽しいから」
何でもない顔をして、サラリと言う。逆を言えば、聖戦の時は辛くてたまらないということだろう。しかし、彼女にはそういう意図があるとは微塵も思っていないだろう。そんな彼女の強さを心から誇りに、いとおしく思う。
「さぁ、早く帰りましょう。老師もお待ちよ」
「ああ、そうだな」
ほんの少し、腕に隙間を空ける。そして、照れ臭そうに笑う。
「あ・・・・・」
その意味に気づいた春麗が、恥ずかしげに紫龍の腕を握る。少し首をあげ、紫龍と瞳が合うと、甘い笑みを浮かべた。寄り添いながら二人は家路へと歩いていくのだった。

「今年は星矢さんとは祝わないでよかったの？」
老師に挨拶をして、家でお茶を飲んで、まったりしているときに春麗が不意に尋ねた。今日は十月三日。明日は一年に一度訪れる大切な日だ。
「星矢たちは、俺が帰ってきたら改めて祝ってくれるってさ」
「そうなの・・・じゃあ、悪い事しちゃったわね」
「春麗のせいじゃない。俺が帰りたいって言ったんだ。君に、１番に祝って欲しくて」
真剣なまなざしに、春麗の胸は熱く高鳴る。この言葉を言わせたくて、あんな風に言ってしまっただろうか？いや、否・・・のはずだ。
「俺は誕生日がこの世で１番嫌いだった。俺の誕生を祝ってくれる人など、この世の誰もいるはずもない。自分の孤独を思い知る日だった」
「紫龍・・・・・」
この点においては、二人には違いがあった。春麗は生まれてすぐ捨てられたが、老師に間を置かずに拾われたため、孤独は感じずに育った。
「君と老師に出会わなかったら、ずっと独りのままだったと思う」
二人の距離が少しずつ近づいていく。確かめ合うように、紫龍は春麗を抱きしめた。トクントクンと心臓の音が響きあう。
「本当に、君に出会えてよかった。うれしすぎて、言葉にできない」
「そんな歌詞の歌、なかった？」
「そんなの忘れた」
クスッと春麗が笑う。紫龍はほほにかかる春麗の髪を優しく払うと、あごに手を添える。その合図を察した春麗が静かに瞳を閉じる。窓の外の小鳥と葉擦れが妙に大きく聞こえる。そんな穏やかで優しい時――――。
「やっほ〜、今、帰ったぞい！！」
「うわあああ！！」
いきなりの登場に、紫龍の歯と春麗のあごがガチンと痛い音をたてた。雰囲気が最高潮の時の登場に、違う意味で心臓がバクバク音を立てている。
「ん、どうかしたかの？」
「い、いえ！！なんでも！！」
「邪魔してしまったかの？」
「大丈夫です！！」
何がどう大丈夫なのかサッパリわからない。
「老師、お疲れでしょう、お茶をいれますね」
春麗の方は、何事もなかったかのように振る舞い、茶箪笥から茶筒をとりだし、急須で中国茶をいれる。笑みはすっかり『娘』らしいものへと変わってしまっていた。
「・・・まぁ、いいか」
紫龍は、座り直した。冷えてしまった中国茶を飲み干して、春麗に器を差し出した。
「すまない、もう一杯もらえるか？」
「ええ、もちろんよ」
その笑みは、家族へ向けられる慈愛のものだった。それは、その昔、欲しくて欲しくてたまらなかったもの――――。


十月三日の、午後十一時五十九分、五老峰の滝の前に二人はいた。
「寒くないか？」
「大丈夫よ」
厚手の外套を身に纏い、春麗がニコッと笑う。標高の高い五老峰では、平地よりもかなり寒いのだ。
「あと少しで四日ね」
「ああ」
空を見上げる二人の手は、しっかりと握られていた。ビルの灯りに邪魔されない五老峰のダークブルーの空は、ダイヤモンドのように美しい星で散りばめられている。十月の空には、アンドロメダとペガサス、そして、北の空に龍座も姿を現す。
「紫龍の誕生日を、星矢さん達も祝ってくれてるのね」
「そうだな」
天空からのメッセージを、自分は毎年もらっていた。小さい頃に自分の運命に気づいていたら、孤独を感じずに済んだだろうか。
「あ・・・！」
小さな流れ星が空を翔けた。時計を見れば、たった今、四日になっていた。
「フフッ、素敵な誕生日プレゼントね」
「うん、うれしいよ。とても」
もしかしたら、アテナからのメッセージだろうか。春麗が手を解き、静かに向かい合うと、言葉を紡いだ。
「紫龍、誕生日おめでとう」
春麗の笑みが、より甘く優しくなる。頬が紅いのは外気のせいではないだろう。
「これ・・・たいしたものではないけれど・・・」
そっと春麗が小さな包みをさしだす。
「俺に？」
「ええ、開けてみて」
春麗から包みを受け取ると、リボンをシュルシュルと解き、箱を開ける。そこには―――
「龍のブレスレット・・・」
龍が施された、シルバーブレスレット。ゴテゴテした風ではなく、細身でどんな服にも似合いそうな、それでいて厳かさを感じさせる。
「紫龍にご加護がありますようにって」
そう言って、春麗はブレスレットをそっとつまみあげると、留め金を外し、紫龍の左腕につけた。銀の部分はひんやりと冷たいが春麗の指先が温かく、どうにも不思議な感覚に陥る。
「いつ、どんな時も、紫龍が独りぼっちでありませんように」
春麗が自分の右腕の外套を捲くる。しゃらんという音ともに現れた、銀色の腕輪。春麗の名にちなんだ、花があしらってある。
「聖闘士は一対一の戦いを良しとするのでしょう？負けないで・・・負けちゃ嫌よ」
「ああ、負けないよ」
目の前の敵にも―――。待ってくれている君の為にも―――。
そして、

たった１人で苦難に立ち向かい、心が折れそうな時にも――――。

「ありがとう春麗。君がいるから、俺は強くいられる。何度君に助けられたか知れない。このブレスレットがあれば、俺は独りじゃない。独りで立ち向かう時も、君が側にいてくれる」
「一生懸命お祈りするわ。紫龍が無事でありますようにって」
「君は俺にとって、最高の女神だ」
「やだ・・・そんな、恥ずかしい」
「恥ずかしいなんてことはないさ」
ブレスレットをしている春麗の手を握る。龍と花の飾りがしゃらんと響きあい、絡み合う。
「ヤダ、鎖が切れちゃったらどうしよう」
「そうしたら、お互いの鎖を交換して繋ぎ合わせればいいよ。それよりも・・・」
紫龍が春麗の瞳をみつめる。その瞳は誘っているようで。春麗は頷くと、昼間にできなかった続きをしようと瞳を閉じた。今度こそ邪魔が入りませんように。
龍座に向かって、幾筋もの流れ星が空を翔けたが、それに気づく事はなかったのだった――――。




あとがき
紫龍誕生日おめでとーーー！おお、今年は祝えた！！うれしいです！！
紫龍の場合、春麗をとるか、星矢たちをとるか悩むんですよね（管理人が！）
今年は春麗にした！！春麗たん大好きだから！！
で、どんなストーリーがいいかな〜と思って、数年前に書いた、春麗のバースデー誕をなぞったものにしようと思って、見つめるは恋の巡りになりました。春麗誕のはお蔵入りしちゃいましたが、さすがに比べるものがないとアレかな〜と思うので、コチラにアップしますね。こっちの方が、ロマンス味が強いかもｖｖ
ネタにつまりまくった時は、○○は○○巡り〜○つの○○のテーマ〜は楽ですよ★サイト様で結構いろんな御題があるじゃないですか。あれを見て、ハッとしたんですよ。１作品でどれだけ達成できるかな！！って。前作はキスをテーマにして、どれだけどの箇所にキスできるかをテーマにしました。ちなみにこれはＣＬＡＭＰ部の方でもテーマにして、１冊の本にしちゃいました（笑）
ぜひ、他の方もやってみてください！きっと、モエモエします！
今回は繋げるをテーマに、『腕を組む』『抱きしめあう』『手を繋ぐ』『心を繋ぐ』で４つ！！書いてて楽しかったです。老師のお邪魔っぷりもｖｖ紫龍×春麗大好き〜ｖｖこれからも書いていきたいｖｖ

あとがきもいつになく長いぜ（笑）

ＢＹ　　ＭＵＴＵＭＩ