全日本大和撫子杯開催！〜本選編〜




瞬「新たなる聖戦は起こりませんでしたね・・・」

空は日本晴れで気持ちのいい風も吹いているというのに、城戸邸はどんよりと暗かった。若干、え、ネビュラストリーム？みたいな空気も流れている。
予選で終われば瞬と沙織の二人の胸のうちに収まる所だったが、そうもいかなくなったため、星矢たちにも全てを明かし、この会議に参加させている。

沙織「一応、練習試合でもやりません？とポセイドンとハーデスに申し出てみたのですが・・・」
星矢「なんだって？」
沙織「ポセイドンは、『眠いから嫌だ』、ハーデスからは『年末調整が大変だから断る』と言ってきました」
星矢「そんな断り方ありかよ・・・！」
沙織「こうなったらしょうがない。私が悪の女王になって、地上を荒らし尽くしてやろうかと思ったのですが・・・」
紫龍「ですが・・・？」
沙織「実際、この不況で幾つか不採算部門の切り捨てを行ってしまったので、それ以上のことは・・・良心が咎めましたので止めました」
氷河「確かに沙織さんなら、神の力なんかなくても日本を荒らし尽くせるよな」
星矢「軽くスルーしてたみたいだが、悪の女王はＳＭみたいだから」
沙織「こうなったら、背に腹！全日本大和撫子杯に参加するしかありません！」
瞬「そうですね、こうなったのも運命ですから、挑みましょう。それに、受かりたくて受かれなかった人に失礼ですから」
星矢「そうだな！俺もカシオスに恥じない聖闘士でありたいもんな！」
紫龍「撫子杯の本選ってどんなことをするんですか？」
沙織「本選では、より個々の能力を見ていくみたいですよ」
瞬「個々の能力って例えば・・・？」
沙織「私も詳しくは知りませんが、前回はお裁縫やお料理などをやったみたいですね」
星矢「お、それならバッチリじゃん！！雑巾だってなんだって縫えるし、料理も上手いもんな！」
沙織「あと、語学ですね」
瞬「語学はダメですね。僕ができるのは、日本語とギリシャ語とアンドロメダ島系エチオピア語ですから」
紫龍「使えない事は無いが、マニアックだな」
氷河「デスクイーン島よりはマシなんじゃないか？」
瞬「となると、事前にテーマは分からないということですか」
紫龍「ぶっつけ本番ってことだな」
沙織「これ以上、瞬が世間に広まるのは勘弁願いたいものです。中途半端な成績で、中途半端に負けましょう」
瞬「そう考えて、予選通っちゃったんですよね〜」
星矢「なら！優勝するつもりでいけば、負けるんじゃないか？」
瞬「ああ、そうかも。よし、頑張って優勝目指すぞ！」
紫龍「それで優勝しちゃったらどうしようなぁ・・・」

どことなく不安が胸をよぎる中、日一日、撫子杯本選が近づいていくのであった。


星矢「わお、すげえホテル」
紫龍「これが一日貸切とは、財界主催のパーティは違うな」
会場は予選が行われたホテル。堂々と看板に『撫子杯本選会場』と書いてある。
氷河「俺たちも来て大丈夫なんですか？」
沙織「大丈夫です。観覧席のチケットをとりました。はっきり言って、心臓が止まりそうな事ばっかりですから、貴方達に居て欲しくて」
星矢「大丈夫だって！沙織さんの心臓丈夫だから！射抜かれることはあっても、止まる事はないって！」
紫龍「星矢、声を落とせ。周りの人がギョッとしてる」

普通にしていても目立つ。これが車田クオリティなのであった。


司会「全日本撫子杯本選にようこそ！！今日は予選を勝ち抜いた美女が、頂点を求めて激しくバトルするぞ！！」

星矢「女じゃないのも約一名いるけどな」
紫龍「シィッ！！」

司会「まずは選手入場だ！」

ファンファーレと共に、５人の少女が入場してくる。

星矢「なるほど。どれも美人だな」
紫龍「あれだったら、春麗も負けてないと思うが・・・」
氷河「マーマの方が美しいな」
沙織「紫龍の惚気はいいとして、氷河、あなたの発言はちょっとどうかと思いますよ」

司会「おお、まるで天使が地上に舞い降りたようだ。では、出場選手の紹介をしていくぞ！まずは右から！」

星矢「ほぉ・・・どの子もお嬢様なんだな。聞いたことあるメーカーとか財閥ばっかりだ」
紫龍「金持ちじゃないとダメなんですか？」
沙織「まあ、基本金持ちじゃないと相手にされない社会ですからね。瞬は例外ですよ」
氷河「ていうか、瞬はどういう家柄になってるんですか？」

司会「残る最後の美少女は、グラード財団総帥・城戸沙織嬢の親戚で、世界中に格闘家を輩出し、地上に蔓延る悪を打ちのめす正義の財閥『アテナ会』のご息女、城戸瞬さんだ〜！！」

星矢「うわ、嘘は言ってないけど、本当の事も言ってない」
沙織「しょうがないでしょう。いずれ、あなた方がこの渦に巻き込まれた時、こういう設定なら、いくら大暴れしても不審に思われませんから」

司会「以上、五人のビューティフルガールが大暴れするぞ！！みんな、応援よろしくな！！」

星矢「さり気なく思ったんだけど、この司会の人、言葉のチョイスおかしくない？」
紫龍「ミニ四駆の熱血司会者みたいだな」

司会「では、さっそく今日のルールを説明するぞ！課題が全部で三題！その課題の順位ごとに得点が与えられるぞ！合計得点が一番高い者が優勝だ！！」

紫龍「分かり易いルールだな」
星矢「ようするにカシオスを倒して聖衣を手に入れろってことだな」
氷河「そう言えば、対戦相手を倒して手に入れろって試験はこの中でお前だけなんだな・・・」

司会「まず最初の課題は、お嬢様教育に必須の、シェークスピア暗誦！！」


なにぃ！！？

司会「シェークスピア悲劇の１つ、ロミオとジュリエットがバルコニーで語り合うシーン！そこを暗誦してもらうぞ！！！」


星矢「なんだそりゃ！！どこがどう必須なんだよ！！」
氷河「ああ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの？だっけか？」
星矢「そんな命名の由来なんて聞かれても困るよな！！『なんとなく』かもしれないし！」
氷河「案外、女の子の名前しか考えてなかったのかもしれん。『ロミ』ってつけたかったが、男の子が生まれてしまったので、男をつけて『ロミ男』で『ロミオ』」
沙織「あなた方、無教養さを１００％発揮しないでください」
紫龍「沙織さんはシェークスピア暗誦できるんですか？」
沙織「当然でしょう。ロミジュリを読んで爆笑した思い出は忘れられません」
星矢「悲劇なのに爆笑できるのか？」
沙織「もうロミジュリは笑いどころが満載ですよ。冒頭の従者の漫才、ロミオとロレンス神父のノリツッコミ。ヨシ○トの売れない漫才師に見せてやりたいくらいです」
紫龍「その読み方・・・若干、作者の意図しているところとズレているのでは？」
氷河「そんなことより、瞬がマジで困ってるぞ！」
沙織「わかりました。私がコスモでシェークスピア暗誦を語り掛けましょう」
星矢「ようっし、それならバッチリだ！！」





ああ、ロミオ、ロミオ！どうしてあなたはロミオなの？
お父様と縁を切り、ロミオと言う名をお捨てになって。
それはお嫌だとおっしゃるなら、私を愛するとお誓いになって。
そうすれば私もキャピュレットの名を捨てます。
私の敵といっても、それはあなたのお名前だけ。
モンタギューの名を捨てても、あなたはあなた。
モンタギューという名が何だと言うのでしょう？
手でもない、足でもない、顔でもない、体中どこでもないではありませんか。
だから別のお名前になってください。
名前って？バラと呼んでいる花を別の名前にしてみても美しい香りはそのまま。






星矢「す、すげえ・・・！いいセリフだ！！」
氷河「瞬が言うと、更に健気さ、可憐さが浮き立つ！！」
星矢「そうだよな。俺が星矢でも、ペガサスでも、俺は俺。お嬢さんの名前がアテナだろうと沙織さんだろうと、尊大でワガママなのは変わらないもんな！」
沙織「星矢・・・？」
星矢「うわっ、つい本音が・・・！」
沙織「ふふ、いいでしょう。作品のタイトルを『聖闘士星矢』から『女神沙織』に変えてやります。なあに、タイトルが変わっても、あなたはあなたのままですから」
星矢「やめてー！！俺からタイトルを取らないで〜！ハーデス十二宮編の時困るからー！」
紫龍「お、得点がでましたよ！」
星矢「よし！！瞬は３位！！即席にしてはかなり良い感じだ！」
氷河「ええ！！瞬が１位に決まってるだろう！！」
沙織「うーん、訳が審査員好みではなかったでしょうか。個人的には小田島雄志氏が好みなのですけど」
紫龍「・・・・・あ」
星矢「なんだ、紫龍」
紫龍「俺たち、負けにきたんじゃなかったのか？」




・・・・あ。

星矢「そーいえば、そーだった」
氷河「あまりに瞬がオロオロするから、つい助けたくなって！」
沙織「これも四大悲劇にいれられるでしょうか」
星矢「次は、しっかり負けるぞ！！」
紫龍「星矢、声を押えろ。お前は声に特徴がありすぎるんだから」

司会「次の課題は、これもお嬢様には必須の項目！社交ダンスだ！」

星矢「シャコーダンス・・・シャコーさんが考えたからシャコーダンス？」
沙織「違います。シャコーじゃなくて社交。シャコ貝じゃないんですから」
紫龍「社交ダンスか・・・瞬の奴踊れるのかな」
氷河「前、盆踊りなら教えてもらった」
星矢「よし！それだ！和風シャコーダンス！これでいこう」
沙織「何が行こうですか！社交ダンスには相手役がいるんですよ」
星矢「大丈夫！相手の背中について踊れば！」
沙織「そんなダンスみたことありませんよ」
氷河「お前ら、社交ダンスの本質を忘れてるだろ」
紫龍「本質はなんだ？」
氷河「社交ダンスの本質は、相手とコミュニケーションをとることだ！コミュニケーションがとれれば、ワルツでもタンゴでも、盆踊りでも、ビバリンバ式リンボーダンスでも、みんな社交ダンスだ！」
星矢「なるほど！！瞬！！お前の得意なアンドロメダ島ダンスを見せてやれ！相手を食ってやれ！！」
紫龍「いかん・・・やっぱり勝つつもりだ・・・」


瞬「城戸瞬、アンドロメダ島式、結婚の舞踊ります！」


沙織「結果は４位・・・やはり、普通でない踊りは認められないということですか・・・」
星矢「ブラック聖闘士は聖闘士じゃないってのと似た理屈？」
氷河「俺は瞬に１位をやりたい」
紫龍「とりあえず、３位と４位で、優勝の目はなくなったな。よかったよかった」

司会「さあて！３題目！ラストだということで、哀しんでおられるレディに朗報だ！！ラストの問題は得点が３倍！つまり現在５位のレディに逆転のチャンス！！」

紫龍「ホッとしてたのに余計なことするな！！」
星矢「あ、紫龍がキレた」
沙織「大丈夫、まだ脱いでませんから幾分か冷静です」
氷河「基準はソコですか？」


司会「ラストは超難関だ！！温室育ちのお嬢様には悩む事必至！！」


星矢「へえ、どんなことだろ」
紫龍「あ、パネルがでてきた」
氷河「桜に桐に菊に稲に・・・植物の問題か？」

司会「ラストは、一般常識クイズ！この中から、１００円玉に描かれている植物はどれか！！」


星矢「嘘だろ！！こんなの光速で分かるじゃん！！」
紫龍「本当だよな。日本人でないならともかく」
氷河「おい、それ俺へのあてつけか？」
紫龍「違うから。お前は半分日本人だろ」
氷河「じゃあ、半分馬鹿にしてるのか？」
紫龍「そういうセリフは十四で車を運転するのを止めてから言え」
星矢「一般常識って、そんなの常識中の常識じゃん。な、沙織さん」

沙織「・・・・・わ、わかりません」

星矢「何が？」
沙織「どれが１００円玉に書かれているのか・・・そもそも、１００円って日本にありましたっけ？」
星矢「ええ！！そこから！！？」
沙織「基本的にカードなので、現金を持ち歩かないのですよ。社会科見学で造幣局を訪れて以来、貨幣なんて見た事も・・・」
星矢「え、社会科見学で造幣局なんて行けるの！？俺、行ってみたいんだけど！」
氷河「俺もだ。大変興味がある」
紫龍「いや、そういうことは置いといて。お嬢さんが分からないってことは・・・もしかして・・・」
沙織「壇上のお嬢さんたちも分からないと思います・・・」
星矢「よっしゃ！！となると、分かるのは瞬だけだな！！勝ったも同然！逆転優勝だ！！」
紫龍「バカ！これは勝っちゃいけないコンテストだろうが！！」
星矢「あ、そうだった！！瞬！！間違えろ！！天高く思いっきり！！」
氷河「しかし、ヒジョウシキだと思われたら・・・」
紫龍「いいんだ。優勝しないようにするのが目的だろう」
星矢「コスモで伝えて！沙織さん！！」
沙織「分かりました！瞬、ここは間違えるのが正解です！はっきり答えなさい！―――って！！」



司会「全日本撫子杯、優勝は・・・城戸瞬さんに決定だ――――――！！！」



沸き起こる拍手喝采。笑顔で祝福するライバルたち。
そんな中、応援席は暗雲と沈黙に包まれていた。

紫龍「・・・なんで、こんなことに・・・？」
星矢「間違えるように言ったんじゃなかったのか！？」
沙織「言いましたよ！！」
星矢「じゃあ、なんで瞬の奴、サクラって答えるんだよ！！」
沙織「・・・私がサクラって答えなさいって言ったからです」
紫龍「どうして！！？」
沙織「とっさのことで・・・まさか、サクラが正解だなんて思わなくて」
星矢「ぐわぁ！！そうだった！！沙織さん、さっき１００円玉が分からないって言ってたっけ――――！！」
氷河「それで４分の１が当たっちゃったわけ？すごい強運」
沙織「ふ、年末ジャンボ宝くじの当選率７０％ですから」

由梨「城戸さ―――ん！！」

感涙しながら由梨がやってくる。ぎゅうっと沙織の手を握り締めて興奮冷め遣らぬ様子で語りだした。

由梨「おめでとうございます！！最後の問題の堂々とした姿に感動してしまいました！！」
沙織「あ、ははは。そうですか。ちなみに、月島さんは最後の問題って答えわかりました？」
由梨「それがさっぱり！！１００円って日本で使えるんですね。城戸さんはご存知でした？」
沙織「実は、ここ何年も貨幣なんて見たことなくて」
由梨「ですよね〜。紙幣だって年に一回くらいしか見ないのに、貨幣なんてもっとですよ。１０００円札ってそう言えばデザイン変わったんですよね」
沙織「らしいですね。野口英世でしたっけ」
由梨「私、記念に一枚額にいれて飾ってるんですよ」
沙織「あ〜、分かります。滅多に手に入りませんからね」
由梨「でも、あれってどういう買い物の時に使うんでしょう？」
沙織「確かにそうですよね。消費税にもなりませんしね」
由梨「一万円札だけで十分だと思いませんか？」
沙織「思います思います。十万円札とか、百万円札とかあれば、持ち運びがもっと楽になるのにとか思いません？」
由梨「ですよね！！」


星矢「あれが、セレブな会話な訳？」
紫龍「これがスタンダードなら、そりゃ貨幣のデザインなんて分からないよな」
氷河「俺、一万円札こそ滅多に見られないんだけど」


上流社会の一端を垣間見、困惑の隠せない星矢たちなのであった。


瞬「こ、これからどうなっちゃうんだろう・・・？」

スポットライトを浴びながら、引きつった笑顔で周囲に応える瞬。
優勝カップと王冠のひんやりとした感触が、明日の未来を示しているようなのだった。




あとがき
本選編です！長い間お待たせしました！！
実は、これを書いていたのは去年の１２月なのです。なのにアップは７月・・・。何故かというと、本当はサイト開設祝いに、全てのシリーズをアップしようと、これを書いていたのです。もしくは女装シリーズだけでもクリスマスかそこらでアップしようかと思っていたのです。ハーデスの年末調整発言はそこから来てます。ただ、ご存知の方もいらっしゃると思うのですが、１２月にサイトでトラブルがあり、とてもアップするメンタルじゃなくなってしまいました。そして、サイト８周年祝いの時も、トラブルがあり、当初予定していた企画まで中止することに・・・。（毎年、アンケートトップ５が何らかの形で発表されるのですが、今年は中止にしました）そういう意味で、完全に発表を逃してしまいました。星矢は月に一回誰かしらのバースデーがありますので、ズルズルと伸び・・・。７月に発表という形になってしまいました。そんなこんなですが、本選編はギャグ一色になっております。星矢ちゃんが、若干おバカさんでしょうか？さてさて、優勝してしまった瞬ちゃんですが、これから先、どんな展開になるんでしょう・・・？実はな〜んも決めてないんですが、きっとゆる〜くのんびりしたテイストになっていくと思いますｖｖｖ


BY　　MUTUMI