無垢なお嬢様のテーゼ

沙織「・・・・・・・・・やっぱり今年も来ましたか・・・・」
招待状が二枚。
沙織「瞬・・・・・ごめんなさいね。」
タイトルは、アルテミス冬の新作発表お披露目パーティ。
沙織「月島さんが男嫌いでなかったらねえ。」
そんな事いっても既に遅い。沙織は重い腰を上げて、瞬を呼び出す為、電話を手に取ったのだった。



瞬「良いですよ。」
沙織「本当!?」
瞬の口から出たのは、あっさりとした承諾の返事だった。
沙織「お断りしても良いのですよ。」
瞬「でも、沙織さんのボディーガードが必要でしょう？」
沙織「それはまあ・・・・・」
瞬「僕が女装するくらい、沙織さんに危険な目に遭うかもしれない事に比べたら、どうでもいいことですよ。」
沙織「ごめんなさいね瞬。」
瞬「いいんです。月島さんは悪い人ではありませんから。それに、何が起こるわけでもないでしょう？僕は財閥と何の関係もありませんから、上とのコネは皆無ですし、喋れなくても問題ありませんし。」
沙織「まあ、そうですね。」
瞬「だから、大丈夫ですよ。」
沙織「分かりました。でも、私の側を離れないようにしてくださいね。私なら瞬を守れますから。」
瞬「ふふっ。どっちが守ってるんだか分かりませんね。」
沙織「そうですね。」

こうして、瞬の女装の幕開けとなるのである。



月島邸では、沢山の人が訪れていた。勿論女性だけである。
沙織「こう女性ばかりだと、男共と対応しなくていいから楽でいいですね。」
瞬「そうですね。」
沙織「本当、ジュリアンといい、デートとかプロポーズする男達が多くて。」
瞬「あ、それは前沙織さんに変装したときに思いました。月島さんが男嫌いになったのって、本当は、財閥の男達の所為じゃないかって思いました。」
沙織「・・・・・・ありえますね。あの噂、誰から広まったかよく分かりませんし。」
瞬「沙織さんよく平気ですね。僕、凄い嫌ですよ、あんなの。」
沙織「私だって嫌ですよ。でも、世の中顔が大事で。プライドが高い方達ですから、仲にヒビが入ったら大変ですからね。」
瞬「財界も大変なんですね。」
沙織「月島さんはその点では良いですよ。財界中に男嫌いがふれまわり、噂もありますから、手をだしませんもの。」
瞬「確かに月島さんに手を出すのは、常識知らずだろうね・・・・・・」
自分が置かれてる状況とだぶらせながら、しみじみと思う瞬であった。
由梨「瞬さん、城戸さん！」
素敵なドレスに身を包んだ、由梨であった。
沙織「月島さん、招待頂きありがとうございます。」
由梨「いえ。城戸さんと瞬さんは大事なお友達ですもの、招待しなければ始まりませんわ。」
瞬「今回のコンセプトはなんなのですか？」
由梨「今回のテーマは天使です。」
沙織「へえ、天使。」
由梨「今、戦争とかで、心がギスギスしてますでしょう？だから、平和を願う気持ちだけでも、服でイメージしてみようと思いまして。」
瞬「素敵ですね。僕、アルテミスの服大好きですから。」
由梨「それは嬉しいですわ。是非、楽しんでいって下さいね。」
瞬「はい。」
由梨「それでは私は、他の方へご挨拶へ向いますのでこれで・・・・・・」
にこやかに微笑むと由梨は他の方々へ挨拶に向った。
瞬「月島さんお元気そうですね。」
沙織「プロですからね。」
瞬「プロ？」
沙織「総帥は、どんなに疲れてても、笑顔を忘れないのですよ。」
瞬「疲れてるんですか？月島さん。」
沙織「それはそうでしょう。服を作るのに神経を使うだけでなく、モデルの体調管理などを注意して、ショーのスタイルまでも細かく見ていなくてはいけないのですよ。楽な仕事ではありません。」
瞬「そうなんですか・・・・・・」
沙織「それでも月島さんは秘書の方がしっかりなさってるから、ショーに専念できるからまだ楽ですね。」
瞬「ああ、乾さんですね。凄腕だろうなあとは思っています。辰巳はしっかりしてないのですか？」
沙織「辰巳はね〜〜〜相手の押しに弱いのですよ。身分が低かったりすれば、きっちり対応するんですが、同等レベルだと、弱腰で。おかげで仕事が忙しいのに見合いを引き受けてきたりして。」
瞬「お見合い話あるんですか。」

沙織「ありますよ。グラード財団の総帥ですからね。私に惚れてるのか財産に惚れてるのか分かりませんけど。でも、全部断ってます。」

瞬「アテナだからですか？」
沙織「私の聖闘士に比べると、度胸も根性も優しさも従順さも器量も足りない奴らばっかりなのです。」
瞬「そうなんですか？」
沙織「そうですよ！顔の点においては、サガ、カノンやムウ、アフロディーテ、シャカ、カミュの方がずっと美形ですし。度胸と根性は星矢にアイオリア、アルデバランでしょ？優しさは瞬じゃないですか。従順さは勿論全員でしょ。彼女を大切にする面では紫龍が一番ですし、師匠を大事にする面では氷河でしょ？弟思いなのは一輝ですし。キャラが楽しいのはミロにデスマスク、真面目なのはシュラ。皆個性があって、素晴らしい人材だから、財閥の影に隠れた男達が物足りなくてね。」
瞬「なるほど。」
沙織「だから、アテナだからという理由で断った男性はいませんね。大丈夫。瞬が気にする事はないのですよ。何せ、ボーダーラインにすら届いてませんからね。」
そういった時、パツンと照明が落ちた。舞台にライトが当てられる。

由梨「皆様ようこそお越し下さいました。アルテミス秋の新作発表お披露目パーティに来ていただきありがとうございます。今回のコンセプトは天使。平和が訪れる様に願いを込めて、服を作りました。パーティ後、全国のアルテミスブランドショップで天使をモチーフにした服が売られます。それではショーを始めます。」

幻想の時間が流れ始める。

様々な天使が様々な形で表される。天使が地上に舞い降りる度に、新鮮で魅惑的な驚きが生まれる。

瞬「相変わらず、綺麗ですね・・・・・」
沙織「本場フランスのデザイナーに勝るとも劣らないと言われてますから。」
瞬「なるほど・・・・・・・」

食い入る様に見つめる。どれくらい時間が経った頃だろうか。もうすぐクライマックスという頃、舞台入り口のドアへと慌しく駆ける人達がいた。

瞬「・・・・・・・・・」
それが何となく気になって、そろっと暗闇に紛れて舞台入り口へと向ったのだった。



















沙織「・・・・・瞬はどこにいったのでしょう・・・・」
舞台を見ながら、ジュースをこくんと飲み、沙織は一人、瞬の行方を心配していた。
沙織「何も言わずにいつのまにかどこかに行ってしまうなんて。ナンパはないからその点では心配してませんけど、本当にどこに行ったのかしら・・・・」
ぐっとジュースを飲み干す。舞台はとうとうクライマックスを迎えた。ドライアイスが舞台に広がる。
沙織「とうとうクライマックス、最後はどんな驚きを見せてくださるのでしょう。」
わくわくしながら最後のモデルが登場するのを待つ。ライトがすっと消え、奈落から、最後のモデルがでてきた。少しづつでてきて、早く見たいのに見れないという、じらされる気持ちが由梨の作戦なんだろうと思いながら見ていた。ライトもモデルがでてくるにつれて、だんだん明るくなっていく。

沙織「!!!!!!!」
思わずグラスを落としそうになるほどの衝撃だった。ただ、他のパーティ客とは全然違う理由で。
沙織「・・・・・・・・・どうして・・・・・・何があったの・・・・・・」

舞台にいるのは間違いなく瞬だった。ストレートでティアラまでしていて、お化粧も施してして、完璧に女性だと周りには思われているだろうけれども、あれは瞬である。
沙織「・・・・・クライマックスらしい、超スペシャル級の驚きですね・・・」
今だ心臓がドキドキしているのを感じながら、沙織は、瞬の姿を見つめていたのだった。




ファッションショー後、瞬と由梨が沙織のもとにやってきた。
沙織「クライマックス、本当にびっくりしました。」
瞬「でしょうね。」
由梨「ごめんなさい。」
沙織「謝らなくていいけど、瞬がモデルとして舞台にあがった理由をお聞かせねがいますか？」
由梨「ええ、勿論です。全ては、私のモデルのミスから始まったのです・・・・・・・・・」




そろっと沙織の側から離れて舞台のドアを開けた時
由梨「どうして言わなかったの？」
入ってすぐ由梨の困惑した声が響いた。
由梨「せめて昨日言っていれば・・・・・・・・・」
モデルに何か問題が起こったようだ。
瞬「あの・・・・・どうかしたのですか。」
由梨「実は、トリを飾るモデルが足を痛めていて、どうにもこうにもな状態なのです。舞台を思って我慢してくれていたみたいですけど・・・・・・」
モデル「ごめんなさい・・・・・」
由梨「いえ、もういいのです。気づけなかった私も悪かったです。ですが・・・・・ショーのトリのドレスのモデルがいないとなると・・・・・困りますわ。」
瞬「他に代役は？」
由梨「このモデルは誰よりもスレンダーなのですよ。少年体型なのです。それを個性にしているのです。ですから、彼女用のドレスは、彼女以外のモデルにはバストやヒップが大きすぎて入らないのです。せめて昨日言ってれば、代役を立てて、それに合うように服を直したのですが・・・・・・・・」
瞬「それじゃ、トリは無し・・・・・・？」
由梨「そういうわけには参りません。トリがないということは、クリスマスにクリスマスケーキがない事と同じ。トリがなければ終わりません。本当にどうしましょう・・・・・・」
困っていても、時はだんだん過ぎていく。モデルが入れ替わり立ち代っていく。


ごくんと息を呑んだ。
瞬「・・・・・・・・・僕で良かったら・・・・・・やります・・・よ。」
自分の保身や、プライドも勿論大切だが、何もしないでやり過ごせる瞬ではなかった。
由梨「え、瞬さんが・・・・・・？」
瞬「あ、いえ、僕は素人ですから。そんなできるはずありませんよね。いえ、ごめんなさい。出過ぎた事を言って。」
由梨「いえ！名案ですわ！」
瞬「・・・・・本当ですか？」
由梨「瞬さんならきっと合います！やってくださるなら是非お願いします！」
瞬「でも・・・・・ちゃんとできるでしょうか。」
由梨「トリは奈落からでてきて突っ立ってるタイプにしていますから、素人でも何とかなる筈です。大丈夫。」
瞬「そ、そうですか。」
由梨「それでは急いで着替えを。手伝って・・・・・」
瞬「いいえ！僕一人で着替えられますから！大丈夫。」
由梨「大丈夫ですか？」
瞬「はい！そこの小部屋貸してください。」


『由梨の助けはしたいけれども、男ということは、秘密にしておかなくては。』

記憶喪失になっても忘れてはいけない言葉である。瞬は、一人で小部屋に入り、ドレスに着替えたのだった。


瞬「着替えました。」
小部屋から着替え終えた瞬がでてくる。
由梨「まあ、ピッタリですね。良かった。」
瞬「良かったです。破けたりしなくて。」
由梨「さあ、お化粧をしましょう。」
瞬「お化粧!?」
由梨「舞台に立つのですものね。舞台に映える様にちょっと厚めに塗りますよ。」
由梨自らが化粧を施す。髪の毛もストレートヘアにしてティアラを飾った。
由梨「さあ！できました！」
由梨が満足そうに頷く。由梨のモデル達も、瞬を見て驚きの声をあげる。瞬は、モデルが驚くほど、綺麗に美しくしあがったのだった。
由梨「瞬さん、うちのモデルに負けないですわ。将来はモデルを目指されては。」
瞬「それはちょっと・・・・・・・・」

『瞬は男である。』

これも忘れてはいけない言葉である。

由梨「そうですよね。瞬さんも財閥のお嬢さんですものね。」
瞬「・・・・・そうですね。」
理解を示そうとしてくれる由梨の性格に感謝である。
瞬「ところでこれは天使では・・・・・」
由梨「トリは、天使を統べる女神なのです。」
瞬「なるほど。」
由梨「瞬さん、それでは奈落の方へ。」
由梨が瞬を奈落へと案内する。とうとうクライマックスなのだった。






瞬「と、いうわけなんですよ。」
由梨「本当にごめんなさい。」
沙織「いえいえ。瞬らしいですわ。」
瞬「そんな。」
由梨「凄い評判良かったですよ瞬さん。うちのモデルが妬いちゃうくらい。」
瞬「そうなんですか？」
由梨「ええ。」
嬉しそうににっこりと微笑む。
沙織「ショー、今回も成功で良かったですね。」
由梨「ええ。本当に。良かったですわ。瞬さんのおかげです。お礼の品は、後日送らせていただきますからね。」
瞬「え！いいですよ！」
由梨「遠慮なさらずに。私がしたいのですから。」
瞬「でも、善意でしたわけでお礼が欲しい訳では・・・・・・」
由梨「それでは私の気が収まりませんわ。瞬さんがいてくれたからこその成功ですから。」
沙織「瞬、これ以上断るのもなんですから、お引き受けなさい。」
瞬「沙織さん。」
沙織「ね？」
瞬「・・・・・・・・・じゃあ、ありがたく頂きます。」
由梨「良かったｖｖｖｖ」
満面の笑みで由梨が微笑んだ。瞬と沙織もつられて微笑んだのだった。こうして、由梨のファッションショーは終了したのだった。






その後・・・・・・・・沙織の部屋にて。
沙織「瞬、瞬専用の部屋ができましたから。」
瞬「え？」
沙織「一番左端の部屋です。月島さんのプレゼント、全部包みを開けて綺麗に整頓してタンスなどにしまってありますから。」
瞬「だからって、僕専用の部屋って・・・・・・・・」
沙織「頂いた服を収納していったら一部屋分できてしまったのですよ。瞬が着たドレスも送ってきました。それは一番見える位置に飾ってあります。」
一部屋は勿論、沙織の部屋のサイズと同じだろう。一般庶民の大きさではない。
瞬「・・・・・・どのくらいのお礼の品だったのです？」
沙織「トラック一杯分送ってきたとだけ伝えておきましょうか。」
瞬「・・・・・・・・」
沙織「瞬、これで女装には困らない身となりましたね。」
瞬「ええ、そうですね。」
沙織「全てブランドの服なんて普通じゃできないことですよ。」
瞬「自己破産する人からみたら、死ぬほど羨ましい環境でしょうね。」
沙織「部屋、覗いていきますか？」
瞬「・・・・・・・・後で。」

バレても地獄、バレなくても地獄。




あとがき
前回は女装ナシだったので、今回はスペシャルな女装です。瞬モデルデビューです。瞬はやっぱり凄く綺麗だろうと思います。由梨ちゃんも、本当お礼が半端じゃありませんね。お金持ちの考えなんでしょうか。お金持ちは部屋が膨大にありますし、広いですからね。私はブランドものには興味ないのですが、ブランド大好きな人は、ブランドに囲まれる生活って憧れなんでしょうね。


BY　　MUTUMI