アルテミスの微笑

瞬「大きいですね、月島邸は。」
沙織「月島さん自らが設計された邸宅です。実は私があなた達のうちを設計した時も月島さんにいろいろとアドバイスを貰っていたのですよ。」
瞬「そうなのですか。すごしやすいですよ、今の家は。」
沙織「月島さんにアドバイスを貰って本当に良かったです。」
午後五時。日が沈み始める黄昏時。月島財閥が指定した時刻だ。門のガードマン（勿論女性）に招待状を見せ、月島邸に入った。

沙織「随分と名高い名士が来ているようですね。」
瞬「そうですか？」
沙織「ええ。月島さんはファッション業界に顔が広いのでその筋の大物がやってきているようです。」
瞬「沙織さんはファッション業界に進出する気はないのですか？」
沙織「私はファッションというものに少々疎いので。アフロディーテはその方面に詳しそうですが。」
瞬「確かにそうですね。それにしても本当に女性だけですね。なんか、僕凄く緊張するのですが・・・・」
沙織「大丈夫ですよ。自然にしていれば分からないですよ。」
？？「あの・・・・・」
誰かに声をかけられ、沙織は振り向いた。
？？「来てくれたのですね、城戸さん。」
沙織「ご招待ありがとうございます、月島さん。」
瞬「この方が月島さん？」
目の前にいる少女が月島由梨。弱冠十五にして月島財閥の総帥。ブランドアルテミスをプロデュースした人。凄腕の割には警戒心のない笑顔をする。
沙織「今年の新作のお披露目会にご招待頂き光栄ですわ、月島さん。」
由梨「今年はぜひ城戸さんも招待して一番に見ていただきたいと思ったのです。」
沙織「ありがとう。月島さんの心遣い。ありがたく頂戴しますわ。」
由梨「ところで、その方が電話でお話しになっていたお友達ですか？」
沙織「ええ。今日はぜひ一緒に拝見したいと思いまして参りました。」
瞬（なるほど。そういう設定なんだ。）
由梨「月島由梨と申します。今日は私の会に出席頂き真にありがとうございます。」
瞬「いえ、こちらこそ。新作をみれるなんて光栄です」
由梨「お名前は何と言うのですか？」
瞬「えーっと、・・・・・・」

沙織（しまった。そうだったわ。瞬の名前は女の子の名前じゃない）
瞬（どうしよう。瞬って女の子の名前じゃないし、どんな名前にすればいいんだろう。他の人の名前を使うわけにも行かないし・・・・）

二人がそろって沈黙するので流石に由梨が首を傾げる。
由梨「城戸さん？どうかなさったのですか。私、なにか失礼な事でも申しましたでしょうか。」
沙織「いえ、そんな事はありませんよ。えっと、瞬の名前の事なんですが・・・・」

由梨「瞬さんとおっしゃるのですね。」

あっさりと本名をばらしてしまった沙織。冷や汗が瞬と沙織、両方から流れる。沙織が瞬の小宇宙に直接話しかける。

沙織（ごめんなさい瞬）
瞬（いずれはばれる身ですから、それがちょっと早くなっただけですよ）
沙織（そう悠長な問題ではないのです）
瞬（え？）
沙織（本当に月島さんの男嫌いは半端じゃないのです。前に、月島さんの会に男性の方が出席したという話を聞いた事があります。その男性は招待されたのではなく、SPの警備を潜り抜けて入ってきた人だったそうですけど。特ダネを奪取しようと意気揚揚と忍び込んだのでしょう）
瞬（それで・・・・）
沙織（その男性は見つかってしまい、その時月島さんはどうも泣いてしまったらしく、その男性は当然の事ながら追い出され、その企業は二度と月島財閥にあえなかったそうです）
瞬（そんな・・・・・）
沙織（それだけではありません。その日の会は中止となり、そこに招待されていた企業全てから総好かんを食らったそうです）
瞬（・・・・・・）
沙織（そして、月島財閥からその男性の要請がありまして、三年以上ただ働き同然で会社の一番下の部署にいたそうです）
瞬（法律上問題はないのですか？）
沙織（ありません。月島財閥総帥の男嫌いを知らないものは付き合うほどのものでないと言われるほどですから）
瞬（そんな場所に僕を・・・・？）
沙織（名前のことを考えていなかったのは私の考え不足でした。ですが大丈夫です。グラード財団の命を賭けてあなたを守ります。私が瞬を手放す事などできません。たとえ、月島さんとの全面戦争になったとしても）

由梨「かっこいいお名前ですね。」
瞬「へ？」
由梨「とっても素敵なお名前ですよ。」
瞬「変に思わないのですか？」
由梨「男の子っぽいお名前ではありますが、とてもお美しいかたですし、凛とした感じもしますし、中性的な魅力があってお似合いですよ。」
瞬「ありがとうございます。おかげで寿命が延びました。」

言葉通り、本当に寿命が延びた。

由梨「今日は楽しんでいってくださいね。御招待客の為にジュースやカクテル、軽食などをご用意いたしましたので、御自由にお手をつけてください。御不満がありましたら私の方まで。それでは私はステージの方で準備がありますので。」
由梨はにこやかに笑うと、ドレスを翻して二人の前から消えていった。ホッと沙織が安堵のため息をつく。
沙織「よかったわ、瞬を手放すような目にならなくて。」
瞬「僕も十年くらい寿命がちぢみました。」
沙織「少々不審を抱くとはいえギリギリ女の子でもなんとか平気な名前で良かったわ。」
瞬「僕もそう思います。」
沙織「星矢や一輝、紫龍なんて男の子の名前にしか思えないものね。」
瞬「そうですね。そういえば、月島さんってどうしてそんなにも男嫌いなのですか？深窓の佳人といっても沙織さんも同じでしょう？」
沙織「私もよくは知らないのですが、どうもお父様が原因ではないかと囁かれています。」
瞬「お父さんが？」
沙織「はい。私も月島さんのお父様にはドアの影からそっと見た事があるという程度なのですが、かなり忙しそうな雰囲気を持った人でした。確かその時月島さんを見ていないので、仕事の話をしにきていたのでしょう。月島さんは仕事で忙しく、殆どお家に帰ってくる事はなかったと言います。家にはお母様と一緒に過ごしていたそうです。月島さんはお母様を大事にしていたそうです。ですが、八歳の時お母様が不治の病で亡くなられたそうです。その時お父様は仕事で死に目にも会えず、その反動で月島さんに当り散らしたそうです。それがあまりにもショックだったのでしょう。男の方が怖いという男嫌いになってしまったそうです。なかでも月島さんのお父様が亡くなられた日のことは有名です。」
瞬「どんなことなのです？」
沙織「通夜の時も出棺の時も、繭一つ動かさず、無表情だったそうです。」
瞬「先刻見せた表情からは想像もつかない事ですね。」
沙織「どれが本当なのか分かりません。ですがこうではないかという噂が流れています。」
瞬「城戸光政は沙織さんに優しかったですか？」
沙織「ええ。怒った時もありましたがとても優しく接してくれてました。」
瞬「それは良かったですね。」
沙織「ごめんなさい、その愛情はあなた達が受けるはずだったのに。」
瞬「平気ですよ。」
瞬が微笑む。
沙織「気付けにカクテルでも飲みますか？」
瞬「カクテル、ですか？」
沙織「瞬はお酒に弱いのですか？」
瞬「さあ。まともに飲んだ事がないので分かりませんが。」
沙織「じゃあ、お酒の初体験という事で飲んではみませんか？アルコールが殆どないものを選んできますから。」
瞬「はい、分かりました。」
沙織「じゃあ、取って来ますね。」
沙織はカクテルを取りに、白いテーブルクロスがかかったテーブルに向かった。瞬はしばらくの間一人になる。

瞬（今まで、自分の事で精一杯で周りのことなど気にもとめてなかったけど、沙織さんと月島さんを除くと今日来ている人って殆ど大人なんだ。周りの人は、そんな子供が総帥をやっているなんてこの業界を甘く見てるとか思ってたりする事あるのかな。きっと沙織さん、仕事の事全然話さないけど家名を汚さないように凄く努力してるんだろうな）

沙織「瞬、おまたせ。」
瞬「あ、沙織さん。」
沙織「何をボーっとしていたのですか？気になる女の人がいましたか？」
瞬「あ、いえ。」
沙織「そうですか。瞬は甘いのが好きですから甘めのカクテルを持っていました。アレキサンダーといいます。」
瞬「アレキサンダー？」
沙織「ええ。1863年英国国王エドワード７世とデンマークの王女アレキサンドラの結婚を記念してアレキサンドラに捧げられたといわれるカクテルです。」
瞬「そうなのですか。」
沙織「結婚の時に捧げられたお酒なんてロマンティックですよね。」
瞬「はい。」
瞬と沙織はカクテルに口をつけた。量が少ないから一気に飲み干す。
沙織「なかなか美味しいですね。」
その時不意に会場が暗転した。ステージにスポットライトがあたる。そして出てきたのは月島由梨だった。
由梨「皆様、今日は私の為に御足労頂き真にありがとうございます。今日は私がプロデュースいたしましたブランドアルテミスの新作をお披露目したいと思い、会を開かせていただきました。テーマはバラ。情熱的なバラをモチーフにし、デザイン、製作いたしました。そして、お帰りの際にはバラのトワレをお土産にお持ち帰りください。市場にはでていない品です。バラの香りに身を包み、貴人の魅力を更に引き立てられれば光栄です。それではごゆるりとお楽しみ下さい。」
由梨の姿も消える。そして優雅なワルツが流れてきたと思うとドレスに身を包んだモデルが登場した。華やかなドレス。シルクでもあれだけのしなやかさはでないだろうというくらい、歩くたびにフワリフワリドレスが靡く。情熱的なワインレッド。清純なパールホワイト。無邪気なレモンイエロー。テーマはバラでもロング丈やショート丈、スリーブやラインも雰囲気もそれぞれ全然違う。何種類ものバラがあるように見え、それでいて、テーマを崩したりはしない。バラの妖精がステージにいるような感じさえ覚える。
沙織「瞬。」
瞬「・・・・・・」
沙織（すっかりひきこまれてしまったようね）
沙織は微笑むと自分もステージに目を移した。
　
由梨「皆様、今年のアルテミスはどうだったでしょうか。魂を込めて製作いたしました。皆様のお心に残っていただけたら幸いでございます。長い間空腹の方もいらっしゃるかと思いまして、立食式のディナーをご用意しました。ぜひお食べになっていってください。それから今日のドレスを着たモデル達が会場にいますので、感想などを掛けてくださると嬉しいです。今日はありがとうございました。」
パチパチと盛大な拍手が由梨に送られる。瞬も大きな拍手を送った。
沙織「ショーの間、瞬は一言も話しませんでしたね。」
瞬「とても素敵でしたから。月島さんのデザインは惹かれる物がありますね。」
沙織「そうですね。」
由梨「お二人に誉めていただけるなんて光栄ですわ。」
沙織「月島さん。あら、どうかなさったんですか？」
由梨の目は真っ赤だった。ステージの上では気づかなかった。
由梨「いえ、先刻SPから何者かが入りこんだという情報が入り、そのうちの一人が発見されたそうなので。」
沙織「そうだったのですか。」
由梨「私のSPは確かに優秀なのですが、こうもあっさり入られてしまうのは困ります。」
沙織「それでしたら、グラード財団が誇る最新防衛システムを差し上げようかと思いますが。」
由梨「よろしいのですか？」
沙織「ええ。瞬の家の設計にお手伝いしていただいたほんのお礼です。」
由梨「ありがとうございます。それが、発見された人がそれほど寒いわけでもないのに凍傷になっていたので恐ろしかったのです。それに、火傷を負った人や、切り傷擦り傷で沢山だった人も発見されたので。」
瞬（兄さん達だ。そういえば、外で待っててくれるって言ってたっけ）
沙織（間違いなく星矢達ね。姿がばれないといいけど）
由梨「瞬さん、モデルをする気はありませんか？」
瞬「え？」
由梨「初めてお会いした時からそう思っていたのですが、身長はちょっと低めですが、どこか惹きつけられる魅力がありますし、モデルをしてもらいたいなと思っていたのです。私のモデル達は、モデル会社から派遣された人達ではなく、私が自ら選んだ才能のあるモデル達です。孤児の人や外国人、人生のどん底にいた人達まで様々です。あなたも、変わった運命をたどっているような魅力を感じるのですが。」

瞬（あたってる）
沙織（月島さん、第六感が冴えているのかしら）

由梨「今度の新作の時はぜひあなたにもモデルとして出ていただきたいのですが・・・・・」
瞬「すみません。そちらのほうは慎んで辞退させていただきます。月島さんのご好意はありがたくうけとります。」
由梨「そうですか・・・・・ですが諦めたわけではありませんからやりたくなったときはいつでも私に言ってください。最高の待遇をいたしますから。」
瞬「わかりました。」
沙織「月島さん、今日はご招待頂きありがとうございました。」
由梨「もうお帰りですか？」
沙織「はい。いろいろ用がありますし。」
由梨「そうですか。」
沙織「また今度、ゆっくりお会いしたいですね。」
由梨「瞬さんもご一緒だと嬉しいです。」
沙織「どうして・・・・」
由梨「城戸さんも勿論信頼できて大好きですが、瞬さんも優しくて落ち着くからです。きっと嘘をつかない方なのでしょう？」
由梨がやわらかな微笑を向ける。
瞬「僕のほうも用事がなければ沙織さんとご一緒します。」
由梨「僕だなんて、珍しいですね。」
瞬（心底僕を女だと信じているみたいだな）
沙織（月島さんが瞬をそこまで気に入るなんて・・・・瞬の女装、これきりじゃなさそうね）
沙織「それじゃあ、また、月島さん。」
由梨「ええ、さようなら城戸さん。お土産お持ち帰りになっていってくださいね。」
沙織「ええ。」
沙織と由梨は互いに握手をした。そして、微笑みあうと、バラのトワレを貰い、月島邸をあとにした。

星矢「やっほ、沙織さん。」
沙織「星矢。」
月島低から少し離れたところに星矢達がいた。
紫龍「ご苦労だったな瞬。」
氷河「迎えにきた。よく耐えたな瞬。」
一輝「ばれなかったか？」
瞬「大丈夫だったよ兄さん。」
沙織「四人とも瞬が心配で来たのですね。」
星矢「迎えに行くって約束してたしな。ずっと尾行してたんたぜ。」
沙織「ところで四人とも、月島さんのお宅に侵入したりはしていませんよね。」
星矢「してないぜ。しようとしてた男達をやっつけてはいたけどな。」
氷河「随分とあっけなくやられたが。面倒くさいので気絶させたまま放っておいた。」
沙織「そうですか・・・・・」
瞬「見つからなかった？」
一輝「大丈夫だ。たいした警備ではなかったしな。」
沙織「それなら良いのですが。」
星矢「なあ、沙織さん。今日は月が綺麗だから、しばらくの間歩かない？車は先に帰らせてさ、後で大通りでタクシー拾って帰ろうよ。」
瞬「本当だ、月が綺麗。今日は満月なんだね。」
瞬が空を見上げる。夜空には丸い月と月の輪がある。
沙織「今日を指定したのはその為だったのですか。アルテミスは月の女神ですものね。」
紫龍「狩猟の女神でもあるがな。」
瞬「見事に今日来た人の心を捕まえちゃったよ。凄く綺麗だった、ドレス。」
氷河「ブランド名に負けてないな。」
沙織「たしかに星矢の言う通り綺麗なお月様ですね。そうしましょうか。」
一輝「その姿では寒いだろう。ほら、ストール。」
瞬「ありがとう。」
瞬と沙織がストールを羽織る。夜空の下をゆっくりと歩く。
星矢「瞬、その服スースーしないか？」
瞬「するよ。ちょっと寒い。でも、肌触り凄くいいよ。」
星矢「俺は肌触りなんてどうでもいいけどな。」
氷河「聖域は一年中暖かいからな。シベリアなんて寒くて寒くて洋服に気を使わなきゃ死んでしまうほどだったぞ。」
紫龍「冬でもノースリーブでいる奴の言葉か？」
氷河「日本とシベリアじゃ温度差が全然違う。なんたってシベリアで死亡例が一番多いのは凍死だからな。マーマも俺が凍えて帰ってきたときはロシアンティーを作ってくれた。ブランデーが入っててな、すぐ体があったかくなるんだ。」
一輝「俺なんぞ、そんなものを飲んだら熱中症で死んでしまうわ。毎日灼熱地獄だったからな。」
星矢「五老峰ではどうしてたんだ？紫龍。」
紫龍「五老峰ではチャイナドレスしか着なかった。そんなに寒くないし、寒い日は春麗とあったかい鍋を作ったからな。暑い日は冷たい料理を作ったし・・・・」
瞬「いいなぁ。僕なんて同じ料理ばっかりだったよ。材料が全然ないからそうなるんだけど。僕、弱虫で泣き虫だったから全然捕れなくて、皆の御飯係になったんだ。最後まで僕の食事食べてくれたのジュネさんだけだったよ。星矢は聖域でなに食べてたの？」
星矢「俺か？俺の師匠は魔鈴さんだったからさ、ギリシャ料理なんて出てくるわけなくてさ、いつも握り飯だったぜ。どこで手に入れてくるのか知らないけど梅干とかオカカとかが具でさ、朝昼晩ずっと握り飯ばっかりでさ、おかげで握り飯を作るのには自信がある。」
沙織「先刻から食べ物の話ばっかりですね。お腹空いているのですか？」
星矢「勿論。ずっと外で番してたから。」
沙織「夕食食べていきましょうか。」
星矢「やった。」
沙織「何が食べたいですか？」
星矢「紫龍と瞬の意見を最初に聞かなきゃな。」
瞬「何で？」
星矢「二人の事だから明日の朝のメニューとか決まってるんだろ？だったらそれを考えなきゃな。」
瞬「明日はフレンチトーストの予定だったよね。」
紫龍「あと、サラダとポタージュスープ作る予定だ。」
瞬「ジュースはイチゴセーキ作ろうと思ってる。」
星矢「だったら洋食の店は駄目だな。和食か中華がいいんじゃないか？」
紫龍「まともな中華料理店ならいいが近頃は化学調味料を沢山使う奴が増えてきていてチャイナレストランシンドロームという病気まであるほどだからな。結構探すのは困難だぞ」
瞬「中国料理を語らせたら聖闘士一だね、紫龍は。」
沙織「では和食にしましょうか。日本人なのに和食が一番縁遠いなんて少し寂しいですね。」
氷河「俺は産まれも育ちもシベリアだから当然だけどな。」
沙織「氷河はそうでしょうけどね。さて、和食をやっているお店を探しましょうか。」
星矢「聖闘士だったら小宇宙を使って楽に探しだすのになぁ。」
瞬「美味しい料理店を探すコツって知ってる？」
星矢「知らない。そんなのがあるのか？」
瞬「あるよ。香りで判断するの。美味しい料理は香りも澄んでるからね。」
星矢「そんなんわかるのか？」
紫龍「分かるさ。排気ガスに紛れてしまう場合もあるがこの辺は車が通らないから大丈夫だ。」
一輝「何が大丈夫なんだ？」
瞬「紫龍、いい匂いがしてきたよ。」
紫龍「本当だ。この匂いは何だろうな？」
瞬「お吸い物じゃない？」
紫龍「そうだな。出汁は鰹節と昆布・・・・だな。それも一番出汁。」
星矢「そんな匂いがするか？」
沙織と氷河と一輝に意見を求める。三人も瞬と紫龍の発言に首をひねるばかりだ。
瞬「お店屋さんがあるね。」
紫龍「それもかなり腕の立つ料理屋だ。」
瞬「大当たりだね。」
氷河「お前ら・・・・何を言ってるんだ？」
星矢「匂いなんて全然しないし、店なんて見えないぞ。」
瞬「分からないの？星矢。」
星矢「わからない。」
瞬「毎日僕達の料理を食べてるんだから判ると思うけどな。」
紫龍「瞬、この道を左だ。匂いが左から来ている。」
そう言って紫龍が道を左に曲がった。するとそこには
星矢「嘘だろう!?」
氷河「本当に・・・・・・」
沙織「あった・・・・」
一輝「なんて大きい料理屋なんだ・・・・」
四人はただただ呆然とするばかりであった。
紫龍「ここなら満足できそうだな。」
瞬「そうだね、でも予約なしではいれるかな？」
二人は狂喜する。二人が見つけた店は、かなり大きな老舗だった。経営して百年はざらに立っていそうなお店。内装も古くてワビサビを感じさせる良い作りだ。六人が通された部屋は畳のいい香りのする『小紫』というところだった。
瞬「なに食べる？」
瞬がお品書きを開く。
星矢「その前に、何故分かったんだ？」
瞬「だから、匂いがしたからだって。」
紫龍「料理屋からもれた香りがした。ただそれだけの事だ。」
氷河「どこでそんな能力身につけたんだ？」
瞬「いつのまにかかな。兄さん達本当にあの匂いに気がつかなかったの？」
一輝「匂いなんか全然感じられなかったがな。」
沙織「あの店を素通りする可能性すらありましたから。」
瞬「そうかな、随分突出してたと思ったけどな。」
紫龍「うむ。排気ガスで汚れてない分より感じたな。」
星矢（化物だ）
氷河（俺が鈍感なんだろうか）
一輝（我が弟がそんな能力を持っていたなんて知らなかった）
沙織（もしかして凄い才能を持っているんじゃ・・・・）
瞬「この店は期待できるからコース料理頼んじゃおうか。」
紫龍「そうするか。」
楽しそうにお品書きを見る瞬と紫龍。二人の凄い能力を垣間見て、少々食欲が失せた四人だった。そして、瞬と紫龍の言う通り、その店の料理は絶品だったのだった。



あとがき
瞬の女装です。タイトルとラストが少々変わってしまいましたが、まあいいかと重います。無事にパーティも終わって良かったと思います。由梨は瞬の事を気に入ったようです。心底女だと信じきっているのでばれた時が大変ですね。つまり、これから由梨が登場する場合は瞬が女装すると考えて結構です。毎回どうやって由梨にばれないように切りぬけるかが今から楽しみです。おおらかな気持ちでいてください。由梨を嫌わないで下さい。よろしくお願いします。
瞬と紫龍に凄い能力がありました。二人がいれば料理の心配はなさそうですね。将来はコックさんというのも悪くないと思います。今回の裏シナリオ。星矢達は侵入してきた人達を泥棒と勘違いをし、ほぼ瞬殺しました。殺してはいません。後の月島財閥の方がよっぽど辛い目にあわせてます。捕まったのは八人。その中で星矢達は六人倒しました。

　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI