静かに眠るアンティーク

ムウ「サガ、明日一日あいていませんか？」
ムウは教皇の間を訪れていた。
サガ「まあ、別にあいてるぞ。」
ムウ「私とちょっと見に行きませんか？」
そういってチケットを見せる。
サガ「観劇か？そう言えばここのところ見ていないからなあ。ギリシアの劇は素晴らしいよな。」
ムウ「日本に赴くのですが・・・・・」
サガ「それも勿論構わない。別にギリシアに拘ってるわけじゃない。美しい姫君でもでているか？」
ムウ「ええ、でていますよ。お若く美しい事必至です。」
サガ「そうか。それは楽しみだ。明日だな。予定空けておくぞ。」
ムウ「それは喜ばしい。私は選球眼はもっておりませんので助かりますよ。」
サガ「？」
ムウ「それでは私はこれで・・・・」
にっこりと微笑みを向けるとムウは教皇の間を去っていった。

翌日、飛行機に乗って日本に赴いた二人。
サガ「・・・・・・何だココは。」
予想もしていなかった現状に呆然とする。
ムウ「見て分かりませんか？」
サガ「何で、女子校なのだ！間違いではないのか？」
ムウ「ここですよ。間違ってません。」
サガ「観劇だからというから私は日本まで来たのだ。何故女子校にこなければいかんのだ。」
ムウ「私、一言も観劇とは言っていませんよ。」
悪魔の微笑み。
サガ「・・・・・・確かに一言もいってないな。で、ムウ、精神科紹介してやろうか？」
ムウ「何故？あなたのほうが必要なのでは？」
サガ「デスマスクが来るのは分かる。あいつは腐ってるからな。何故ムウがここに誘うのだ。黒ムウでも現れたのか！」
ムウ「どうどう。私は正常です。落ちついてください。」
サガ「それ以前に入れるのか？女子校は入場規制があったりするらしいぞ。」
ムウ「心配ご無用、だからこそのチケットです。」
昨日見せたチケットを見せる。
ムウ「ちゃんと二枚ありますからね。怪しまれずに入れますよ。」
サガ「・・・・・・おかしくなったのにも気付かないのか？」
ムウ「は？」
サガ「どうしたんだ、本当に。どうして女子校の文化祭の入場チケットを持ってるのだ！何故女子校に知り合いがいるのだ。出会い系か？」
ムウ「落ちついてください。私が出会い系など使うはず無いでしょう。あんな人生の苦汁をなめた事の無い軽薄な馬鹿女なんか私ゴメンですから。」
サガ「その台詞もどうかと思うぞ。で、誰に頼んだんだ？」
ムウ「アテナにお頼みしたんですよ。」
サガ「アテナに？」
ムウ「ええ。アテナにお頼みしたら、少々窮するけれど、大丈夫ですって言って下さったので。」
サガ「アテナ、何か仰っていなかったか？」
ムウ「何か深い考えがあるんでしょうねと言ってくれましたよ。」
サガ「その深い考えが思いつかない事がある意味恐ろしい・・・・」
ムウ「目的は二時からですから、それまではいろんな所を見て周りましょう。」
サガ「ああ・・・・・」
美形外国二人組は女子校に入っていったのだった。

サガ「聞きたいのだが、何故ここの女子校なのだ？」
ある程度見て周り学生食堂でお茶をすることにした。クッキーとサガはダージリン。ムウはモカを頼んだ。
ムウ「ここの学校は、超お嬢様達が通う学校なのですよ。」
サガ「まあ、パンフを見れば分かる。」
ムウ「1879年開校。身心洗練という言葉をモットーに財閥のお嬢さんを始めとする、上流階級のお嬢さんを育成する学校として絶大な評価を受け、奨学金制度も導入し現在は中流家庭、下流家庭にも門戸を開いています。そして幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、大学院と完全エスカレーター制の進学校に発展。ハイレベルな学問、高技術のスポーツを教えています。」
デスマスクなどは狂喜乱舞しそうである。何せ制服は懐かしのセーラー服なのだ。膝丈だし、白と黒で構成されている。帽子は可愛くベレー帽。足を人に見せない様に黒ストッキングである。本当に1879年開校以来変化の無い制服である。マニアには萌えそうである。
サガ「本当に・・・・・デスマスクを一緒に連れてこなくて良かった。」
ムウ「制服売上ランキング第一位だそうですよ。」
サガ「それはすごい・・・・・。どういうことだ？生徒数は他校とそこまで大差はあるまい。」
ムウ「大きいお友達が買うそうです、裏で。」
サガ「・・・・・・ほぉ、そうかい。」
ムウ「一式五万。既使用だと八万にはねあがるとか。」
サガ「・・・・・・もう言うな。」
ムウ「お小遣い稼ぎになると思いません？」
サガ「やめてくれ。清らかな雰囲気が一気に汚い金にまみれてくる。」
ムウ「あなたは殺し略奪専門で脱税横領は門外漢でしたものねえ。」
いいかげんにしてあげた方がいい。
サガ「・・・・お前、そのカメラはなんだ。」
ムウ「変な想像しないで下さいよ。下賎な連中が取る写真と思われては迷惑です。」
カメラを見せてにっこりと微笑む。
サガ「お前に限ってはな。その辺の心配はしないが・・・・で、何故この学校なのだ？別の学校ではいけないのか？」
ムウ「ここがお金持ち集団と言う事が大切なんですよ。」
サガ「訳分からんな。」
ムウ「訳分かりますよ、サガ、あなたなら。」
サガ「？」
女生徒「お待たせしました。」
クッキーと共に珈琲と紅茶が置かれる。
サガ「ああ、ありがとう。」
ムウ「お疲れ様です。」
女生徒「は、はい！」
顔が真っ赤になりながら挨拶した。スタッフルームに消えてからきゃぴきゃぴした声が聞こえる。
ムウ「妙にざわつきますね。お嬢様学校なのに。」
サガ「一年に一回の文化祭だ。浮ついても仕方ないだろう。」
ずうっと紅茶を啜る。二人は気付いていなかった。純粋培養の超お嬢様学校に二人の容姿は刺激が強すぎる事に。文化祭後ファンクラブができることを二人は知らない。そして、恋に溺れすぎて、進学率が史上最低になることを知らない。なんと罪が深い二人である。

ムウ「さてと、今日のメインですね。」
サガ「やっとメインか。」
ムウ「ここですよ。」
訪れたのは学校主催学生提供バザー会場だった。
サガ「この為に・・・・・わざわざ？」
ムウ「そうですよ。」
サガ「あまりにも馬鹿げて・・・・・ん？」
目にとまったのは一つの紅茶ポット。
ムウ「おや、綺麗ですね。」
サガ「これは、ちょっと傷物だが、マイセンだ。価格は・・・・三百円!?安すぎる！これは買いだ。」
すっと手に取る。
ムウ「サガ、このお人形はどうですか？」
埃が拭い取れていないちょっと古い人形がニ体。
サガ「・・・・これは！ブリュではないか！隣はジュモウ！ブリュのお嬢さんとジュモウのお嬢さんが三千円!?お買い得過ぎる！」
ムウ「じゃあ、買いですね。」
ブリュとジュモウの人形も手に取る。
ムウ「このクマさん人形も可愛らしいですね。貴鬼にでも買ってあげましょうか？」
サガ「クマさん人形？」
サガはクマの人形を手に取りクキクキと関節を動かした。
サガ「貴鬼にやるのは少々勿体無いぞ。」
ムウ「何故です？」
サガ「これは立派なアンティークテディベアだ。」
ムウ「これがですか？」
サガ「私も詳しくは知らないが、くまの動きが悪い・・というか硬い。つまりハードボードジョイントだ。普通はプラが多い。それにこのドレスには見覚えがあるな。あ、あれだ！某国のプリンセスの結婚式の引き出物だ！何故ここにある？懇意にしてる家があるというのか？是非お近づきになりたいものだ。金で買えないぞこれは。」
ムウ「詳しく知らない割にいろいろよくご存知ですねえ。わかりました。購入します。」
サガ「隣のは安いぞ。それを貴鬼用にしろ。」
ムウ「わかりました。」
テディベアニ体を手に取った。サガは少々並んでいる絵画も目を走らせていた。
サガ「ん？この裸婦絵画はクラナッハではないか！しかも修正済み！クラナッハで裸なのは希少価値だ。誰がそんな仕事をしたんだろう。全く、裸だから恥ずかしいと思って持ってきたな？五千円はタダ同然だ。ちょっと持って帰るのが大変だが、間違いなくお買い得だな。」
女生徒にその絵の差し押さえ・・・もとい購入予約をする。
ムウ「このカメオは私にも分かります。これも買いですね。」
サガ「勿論だ。ついでにそのグラスもだ。」
ムウ「単なるグラスでは？」
サガ「馬鹿。立派なアンティークグラスだ。十万はくだらんぞ。」
ムウ「そうなのですか。この絨毯も？」
サガ「ペルシャ絨毯に間違いは無いな。踏まれこんで美しい。これ、教皇の間にでも置こうかな。」
ムウ「このオルゴールも綺麗ですね〜〜」
ちょっと装飾のついた古めかしいオルゴール。手にとって蓋をあけてみる。美しい音色が流れる。
サガ「ムウ！それも買え！」
ムウ「これもですか？」
サガ「珍しいシリンダー式のオルゴールだ。見てみろ。土管みたいなのが五本あるだろ？」
ムウ「本当だ。」
サガ「シリンダー式はその名の通り拳銃の様にシリンダーが回って音が引き継がれる事からその名がついてる。凄く長い曲が聞けるんだ。どこの馬鹿が持ちこんだんだろう。千五百円はタダも同然。買え！」
ムウ「はい！」
ムウはカバンにも目をとめた。
ムウ「サガ、これは？」
サガ「それはわからん。単なるバッグだ。ほっとけ。」
ムウ「はい。」
男性だからといえばそれまでかもしれないが、それは立派なブランドであった。誰でも分かる高級ブランドはさっぱりわからないのに、誰もがわからないような美術品は分かる選球眼というのはどうなのだろうか。こうして、美形外国人の二人は心行くまでバーゲンを楽しんだのだった。ちなみに他の客は二人のように目は血走っていない。

ムウ「サガ、今日は本当にありがとうございました。」
両手に荷物を抱えてにっこりと微笑む。
サガ「私もこんな日本の文化祭でお宝にめぐり合えるとは思いもしなかった。」
ムウ「やはりサガと一緒に来て大正解でした。」
満足そうに微笑む。
ムウ「私は美術品を見なれていないので、価値があるのか無いのかまでは良く分かりません。サガなら偽教皇時代に加えて、アンティーク好きとあり長く親しんできたでしょうから、見定めて欲しかったんです。」
サガ「何故あんなお宝がわんさか・・・・？」
ムウ「その答は簡単です。超お嬢様学校の生徒は大半は超お嬢様。なら、身の回りも高級品に決まっているでしょう。ならば、だすものも高価なものに違いない。場合によっちゃアンティークだと踏んだんです。日本人は外国コンプレックスにいまだに支配されてますからね。お嬢様になればなるほど洋風になります。高級なアンティークは全てエコノミックアニマルが買いあさってると思ったのです。バザーでアンティークをゲットする為にわざわざアテナにお頼みしてここの学校の文化祭チケットを手配してもらったのですよ。」
サガ「・・・・・・成る程な。流石だムウ。」
考えの深さに敬服したサガであった。
サガ「で、どうするんだ？売るのか？」
ムウ「勿論。何の為に来たのか分からないじゃないですか。勿論ネットで売りさばきますよ。数倍の値段で。」
サガ「私だったら全部取っておくが・・・・」
ムウ「うーん、サガの功績あってこそですからね・・・・・サガ、特別とっておきたいのはありますか？今日のお礼にサガに差し上げますよ。」
サガ「そうか。じゃあ、グラスと絨毯とオルゴールを頂いておく。ブリュとジュモウとクラナッハはせっかくだが私の性格を疑われそうだからな。マイセンは傷物だから、売って構わない。」
ムウ「それじゃ、その人形と絵とカメオとマイセンは私のほうで売りさばかせていただきます。高い方のテディベアは今日のお礼にアテナに差し上げましょう。」
るんるん気分で帰ったムウであった。

翌日。
デスマスク「サガーーーーー！」
購入した絨毯をずかずか踏んでデスマスクが教皇の間に訪れた。
サガ「何だ騒々しい。」
きゅっきゅと昨日買ったグラスをサガは拭いていた。
デスマスク「俺も、その文化祭行きたかった。」
サガ「は？」
デスマスク「写真じゃ物足りない。」
サガ「写真？」
デスマスク「昨日女子校の文化祭行ってきたんだろ？ムウが俺に写真を売りつけてきたぞ！あまりに可愛いから全部言い値の一枚三千円で買ってしまった！黙ってるなんてひでえだろ！」
サガ「写真を撮っていたのはその為か・・・・・・」
デスマスク「あそこの学校は生徒めっちゃ美人で制服も裏で十五万はするんだぞ！」
サガ「ムウに聞いたときより値段が上だな・・・・」
デスマスク「おまけにあまりに美人すぎてストーカーが絶えなくて生徒一人一人にボディーガード雇ってるんだぞ。」
サガ「そうなのか・・・確かに美人が多かったな。」
デスマスク「でもさ、よく生きて帰ってこれたよな。校長が男嫌いで、本当男が入ろうものなら業者ですら制裁を食らわされるって言うぜ！だから、あの学校、男の地獄とも言われてるんだぜ！」
思わずグラスを落としそうになった。
サガ「ムウめ・・・・・・」
金のためならば危険を省みない・・・というか危険とすら思ってない。人を巻き込んでも構わないという神経。ムウの経済思考に本当に平伏したくなったサガであった。




あとがき
ムウ様守銭奴シリーズ第四弾！ムウ様、経済観念強すぎますね。うむむ・・・・経済思考で悩んでる時もあるけど、こういう時が輝いてて私は好きです。サガもお疲れ様。サガはアンティーク好きだと思います。いいお買い物ができて良かったですね。


BY　　MUTUMI