牡羊座の帝王教育

シオン「ムウよ、聖闘士として一人前になるには、経済をも掌握しなければいけぬ。どんな些細なことでも経済は変わるのだ。」
ムウ「わかりました。」
シオン「平和を守ると言う事は、経済の均衡を守ると言う事なのだ。わかるな。」
ムウ「はい。」
シオン「聖衣の修復にはスターダストサンドやオリハルコンにガマニオンが必要。それらは自分自身でだす事はできん。」
ムウ「分かっています。」
シオン「それらは山の中でとれる。」
ムウ「この間教えていただきました。」
シオン「私はそれを買っているのだ。盗むわけにはいかぬ。それが唯一の資源だからだ。」
ムウ「知っています。それがあるからこそ人は暮らしていけるのだと。」
シオン「戦争になったらその土地を奪うものがいるだろう。」
ムウ「戦争はいついかなるときも理由がなければ始まらないでしょう。」
シオン「戦争は、勝てば全てのものが手に入るけれど、負ければ全てを失う。」
ムウ「その通りです。」
シオン「そうすれば、全てのものは下落を辿り、国は破滅する。勝ったとしても、人々の心は傷を負い、復興までは時間がかかるだろう。つまり、物の値段は上がる。」
ムウ「そうでしょう。」
シオン「それだけは避けなければならぬ。物価が上がればその分手に入れなければいけなくなる物も買えなくなる。ねぎることも容易ではなくなる。戦争はいけぬ。経済を圧迫する最大の敵。」
ムウ「分かりました。私は聖闘士として戦争を止め、経済をよくするよう頑張ります。」
シオン「良くいった、ムウよ。」

ムウ「戦争の話を聞くたびに、あのじじいの話を思いついて嫌になりますね。」
午後三時。株取引も終わり、優雅にお茶を飲みながら、アフロディーテとテレビを見ていた。アフロディーテは良いお茶が手に入ったのでお茶をしようとわざわざやってきたのだった。丁度その時、アフガニスタンの速報がブラウン管から映し出されたのであった。
アフロディーテ「前教皇はムウに一体何を教えたのだ。」
ムウ「経済を掌握することは大切だというくだらない事を。」
アフロディーテ「しっかりと受け継いでるようだが。」
アフロディーテは後を見た。後ろには経済新聞がスクラップされたファイルが山のように並べられていた。
ムウ「教わるのが早過ぎました。これでも幼い時は誰の言う事も信じていましたからね。」
アフロディーテ「昔から思慮深かったわけではないのか。」
ムウ「今くらい思慮深かったらよかったのですが・・・・・」
アフロディーテ「しかし、君も弟子がいるだろう。あのチビが。」
ムウ「貴鬼の事ですか。」
アフロディーテ「そう。チビにも経済を叩きこむのか？」
ムウ「とんでもない！あれ以上じじいの教えを伝えるわけにはいきません！何せ、戦争をしてはいけない理由、アフロディーテどう考えますか？」
アフロディーテ「普通は争ったら誰かが傷つくからだろう？アンドロメダは率先して　こう答えそうだ。私は美しい物が消えていくのを見るのが耐えられないから反対だが。」
ムウ「普通はそうでしょう？でもあのじじいはまだいたいけなこの私に・・・・」
アフロディーテ「何を教えたんだ？」
ムウ「戦争をしたら、物価が上がってオリハルコンなどの値段を値切る事ができなくなるから戦争は良くないなどと私に語ったのです。」
アフロディーテ「それは・・・・強烈だな。私でも考えつかない。」
ムウ「アフロディーテの考えの方が未だマシです。」
アフロディーテ「私のほうがマシだといわれるとは。」
ムウ「あんな考え方、シオンにしかできませんよ。私だってあんな考え方絶対に反対です。」
アフロディーテ「ムウ・・・・考え変わったのか？」
ムウ「考え？」
アフロディーテ「以前、私がハーデスの走狗になっていた頃は、シオンに土下座するほど忠誠を誓っていたではないか。」
ムウ「昔はね。今はこんな人格に作り上げたシオンに恨みの気持ちを持って会いたいですよ。」
アフロディーテ「随分屈折してしまったんだな。何故だ。」
ムウ「あのあと目覚めたんです。夢も見つつ。」
アフロディーテ「そんな悪口言って良いのか？仮にも前教皇で、お前の師匠なんだろ？」
ムウ「いいんです。死人にくちなし。何も言えっこありませんよ。」
アフロディーテ「お盆とかに帰ってきたらどうするんだ。」
ムウ「私、仏教徒じゃありません。アフロディーテだってそうでしょう？」
アフロディーテ「まあな。私は国教のルター派だ。シャカは多分仏教だろうな。」
ムウ「よって問題はありません。」
アフロディーテ「なあムウ。そんなに今の性格嫌なのか？」
ムウ「ええ、まあね。」
アフロディーテ「その性格だっていいではないか？そうではないムウは考えにくいぞ。」
ムウ「この性格に時々自己嫌悪をおこすから嫌なんです。」
アフロディーテ「どんな？」
ムウ「株が0.1ポイント下がっただけで機嫌が悪くなったり、経済新聞のスクラップをしなければ手が震えてくるし、テレビを見ても経済に関係のあるものばかり気になって・・・この間日本に皇太子の娘さんがうまれたでしょう？」
アフロディーテ「そうだったのか。」
アフロディーテはそんな事に興味はない。
ムウ「それで株が上がることを見こんで半年も前にベビー関係の株を買っていたんです。」
アフロディーテ「凄いな。株のことを良くは知らないが。」
ムウ「テロの事なら知っているでしょう？」
アフロディーテ「ああ。わざわざ私が救護しに行ってやったんだからな。」
ムウ「あの日以降、株がグーンと下落したんです。」
アフロディーテ「それで？」
ムウ「アフガンの辺りに不穏な動きがあると風の噂で聞きましてね、テロが起こる前に株を売ったんです。」
アフロディーテ「儲かったのか？」
ムウ「ええ。」
アフロディーテ「良かったな。」
ムウ「良かったのは結構ですけど、金にがんじがらめにされている自分が腹立たしいんです。」
アフロディーテ「そうなのか。」
ムウ「嫌なのに、体に染み付いてる経済精神が邪魔をして、変われないんですよ。」
アフロディーテ「そのままで良いと思うが。この間サガが零していた。カノンは経済がまるで分かっていないと。言い聞かせても耳を貸さないとな。」
ムウ「だから彼は野宿が得意なんですよ。」
アフロディーテ「だからいいんじゃないか？浪費癖より。」
ムウ「そうでしょうか。」
アフロディーテ「人間、何かに虜にされるものだろう。私の場合はバラだな。バラを語ったら一本のバラで五時間はいける。」
ムウ「それは凄いですね。」
アフロディーテ「だからといってこの性格が嫌になったことはない。これは個性だからな。シャカは数珠集めだし、デスマスクは仮面集めだし。どっちも私は理解してないぞ。」
ムウ「私もです。」
アフロディーテ「しかし本人は楽しんでいるんだろう。それでいいんじゃないか？本人は楽しんでるんだし。」
ムウ「そうですか？」
アフロディーテ「ムウの性格はムウの物だろ。

ｚ
ムウ「ありがとう、アフロディーテ。」
貴鬼「ムウ様―。」
ムウ「貴鬼が帰ってきたようですね。」
アフロディーテ「何しに行ってたんだ？」
ムウ「遊びにですよ。」
アフロディーテ「いいのか？」
ムウ「この後修行です。その前の休息くらい良いではありませんか。」
アフロディーテ「まあ、人の弟子だから口出しはしないが。」
貴鬼「ただいま、ムウ様。」
ムウ「おかえりなさい、貴鬼。今日はどこにいってたんですか？」
貴鬼「処女宮のはずれの花園だよ。」
ムウ「楽しかったですか？」
貴鬼「うん！ムウ様、これお土産。」
そういってさしだしたのは色とりどりの花。
貴鬼「ムウ様にぜひあげたくて。」
ムウ「私にですか？」
貴鬼「うん。きにいってくれた・・・かな。」
ムウ「ありがとうございます。さっそく飾りましょう。花瓶を持ってきてくれませんか？」
ムウが貴鬼から花を受け取る。
貴鬼「いいよ、ムウ様。おいら探してくる。」
貴鬼は物置の方に駆けていった。
アフロディーテ「そんなものが嬉しいか？バラの方が百倍もいいのだがな。」
ムウ「あなたにとってはでしょう？私にとってはとても嬉しいものです。何せ、物を貰うなんて全然ありませんでしたからね。
アフロディーテ「そうだったのか。」
アフロディーテは酔ってたからその事を知らないらしい。
ムウ「ですから、嬉しいのですよ。」
アフロディーテ「前教皇が完全に反面教師となってるみたいだな。」
ムウ「ええ。」
貴鬼「ムウ様―、ありましたよー。」
貴鬼が水色の花瓶を持って駆けてくる。
アフロディーテ「私もそろそろ帰ろうか。修行の邪魔をしてはいけないし、そろそろバラに水をやる時間だ。」
ムウ「お茶、美味しかったですよ。」
アフロディーテ「そういうのが分かるのは君だけだ。だからわざわざやって来た。またいいのが手に入ったら持ってくるよ。」
ムウ「楽しみにしてますよ。」
アフロディーテ「ムウ、君と前教皇との仲は今のところ良くないみたいだけど、君とチビの関係はいいんじゃないか？それをずっと保てれば良いな。」
ムウ「そうですね、ありがとうございます。」
アフロディーテ「それではな。」
アフロディーテは白羊宮をでていった。
貴鬼「どう？ムウ様。」
ムウ「綺麗ですね。」
貴鬼「綺麗だなって思うのを持ってきたんだ。」
ムウ「そうですか。」
貴鬼「喜んでもらいたくって。」
ムウ「嬉しいですよ、ありがとう。」
ムウ（そういえば、私は『あげる』ということをシオンにしたことがありませんでしたね）
貴鬼「ムウ様？」
ムウ「いえ、何でもありません。」
ムウ（そのかわり、『もらう』ということもされたことがありませんでしたが）
ムウ「貴鬼、私は貴鬼に物をあげたことが全然ないのですが、寂しいと思った事はありませんか？」
貴鬼「え、何でですか？」
ムウ「私はそういうのがどうも苦手なので・・・・・何か欲しいと思うものがありますか？」
貴鬼「えっと・・・・・カブとか。」
ムウ「駄目です！人を奈落に落とすようなものに興味を持っては。」
貴鬼「美味しいのかな・・・・って思ったんだけど。違うの？」
ムウ「違いますよ。」
貴鬼「ムウ様が毎日一生懸命見てるから美味しいカブの情報なのかなってずっと思ってたんだけど。」
ムウ（貴鬼はまだ八歳でしたね）
貴鬼「カブってやっちゃ駄目なの？」
ムウ「貴鬼に教える気はありませんよ。」
貴鬼「いつ教えてくれますか？」
ムウ「大人になったら・・・・でしょうか。」
貴鬼「おいら、ムウ様のようになってみせるからね。」
ムウのようになる＝シオンのようになる。ムウの計算は瞬時にたたき出された。
ムウ「貴鬼、私は駄目な師匠かもしれません。」
貴鬼「え、何で？」
ムウ「シオンのコピーを生み出してるからです。」
貴鬼「シオンってムウ様の師匠さんだよね。」
ムウ「そうです。」
貴鬼「なら、おいらの師匠でもあるんだよね。」
ムウ「違います。シオンをけして師匠と仰がないでください。」
貴鬼「シオンはムウ様だけの師匠？なら、おいらはずっとムウ様の弟子だ。」
ムウ「貴鬼、貴鬼は私のことどう思ってますか？」
貴鬼「え？尊敬できて大好きだと思ってるけど。」
ムウ「大きくなったら私を嫌ってくれますか？」
貴鬼「何でさ、どうしておいらがムウ様を嫌わなくちゃいけないの？」
ムウ（どんどんどつぼにはまっていってる気がしますね）
ムウ「いえ、いいです。私の失言でした。」
貴鬼「そうだよ、ムウ様はおいらの目標なんだ。」
ムウ「さて、修行を始めましょうか。」
貴鬼「はい！」
ムウ「今日は、ノーザンクロスを作りましょう。初心者でも作れる簡単な形にしましょう。今日は私も作りましょう。」
この間、絵梨衣がノーザンクロスを修復してくれと持ってきて、意外にも聖衣以外も作れることが分かったので修行には聖衣の前の段階に小物を作る特訓を設けたのだった。
ムウ「いいですか？ちゃんと九十度にまげて作るのですよ、手は傷つけないように。」
貴鬼「はい！」
カンカンカンとトンカチの音が聞こえる。ムウは慣れた手付きで、貴鬼は危なっかしい手付きで。一時間、鐘のような音が聞こえていた。
ムウ「できました。どうですか？貴鬼。」
貴鬼「えっと・・・・」
貴鬼が作品をさしだす。お世辞にも上手いとはいえない。
貴鬼「ごめんなさいムウ様。」
ムウ「まだ修行中なので構いませんよ。次が未だあります。」
貴鬼「ムウ様のは？」
ムウ「これですよ。」
貴鬼「凄い・・・綺麗。沢山ある。」
一時間は貴鬼には短くてもムウには長い。貴鬼が一個作る間にムウは二十ものノーザンクロスを作っていた。
ムウ「少しずつできるようになって、最終的には聖衣が修復できるようになりましょう。ところで、貴鬼はこのノーザンクロスどうしたいですか？」
貴鬼「え、えっと、ロドリオ村の子供たちにあげたいかなって思う。」
ムウ「そうですね、恐らくそれが一番でしょう。」
ムウ（シオンの呪いにかかった私にはすぐには思いつきませんね。ネットオークションにかけようと最初に思いつくのですから）
ムウ「貴鬼が作ったのは自分で持ってなさい。初心を忘れてはいけないという願いを込めて。」
貴鬼「ムウ様、おいらムウ様が作ったの一つ欲しいな。」
ムウ「ええ、いいですよ。不謹慎ですが、一番良くできたのをあげましょうね。」
ムウがさっと一つ取る。
ムウ「これが一番だと思います。」
貴鬼「ありがとうムウ様。おいら、皆にあげて来る。」
ムウ「すぐ戻ってくるのですよ。」
貴鬼「分かってます。いってきます、ムウ様。」
ムウ「いってらっしゃい。」
ムウは貴鬼を送り出した。
ムウ（シオン・・・・あなたの教えは私で止めます。貴鬼は絶対に経済の奴隷にはさせませんよ）

牡羊座の帝王教育
シオンの場合・・・・・弟子を完璧なまでに経済をわからせる。経済新聞のスクラッ　　プをさせる。株の売買を徹底的に教え込む。オリハルコンやガマニオンをねぎる方法を教える。

ムウの場合・・・・・・絶対に弟子に経済をわからせない。金の亡者にはさせない。経済新聞のスクラップに興味を持たせない。株は教えない。オリハルコンやガマニオンの仕入れは弟子のいない時に（自分は絶対にねぎってしまうから）。　弟子の言う事をまず聞いてみる。（自分じゃ金儲けしか思いつかないから）

貴鬼の場合・・・・・・未定


貴鬼が弟子に教える帝王教育は一体どんなものになるのでしょう・・・・・？
シオンのようになるのか、それともムウが望むとおりになるのか・・・それは
未来だけが知る・・・・

あとがき
守銭奴といわれるムウの苦悩です。シオンに徹底的にしこまれたせいか何でも経済に結びついてしまうのがムウは嫌いです。凄く個人的に金持ちだと思っています。ムウは経済の天才ですね。幼いころから刷り込み教育をしたシオンの賜物です。私は凄く羨ましいと思いますが、まあ、それが嫌でシオンを恨んでいるのですからしょうがないでしょう。貴鬼には素直なままで育って欲しいとムウは思っているようです。今回の裏シナリオ。アフロディーテはバラの世話をしながら、自分はどんな師匠になるのだろうと考えていました。

　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI