守銭奴シリーズ

家政夫のムウ

ムウ「勝手に参りました、家政夫のムウです」

デスマスク「・・・・・・・は？」

口からスルメがポロッと落っこちた。正月から自堕落な生活をしているので、部屋は汚れきっていた。あちらこちらに酒瓶が転がり、脱いだまんまの衣服が散乱している。

デスマスク「何しにきたんだ、お前」
ムウ「お掃除、お洗濯、お料理何でも出来ます。何でもご命令ください」

淡々と言葉を紡ぐムウ。元々物静か（そうでない時も多々あるが）だが、今日はいつにも増して静かである。

デスマスク「・・・じゃあ、そこら辺のもの片してもらおうかな」
ムウ「承知しました」

表情を変えずに答えると、アリエスのパンドラボックスを開き、エプロンを取り出した。シンプルな黒いエプロンにアリエスのシンボルマークがついている。そして、叫んだ。

ムウ「スターライトエクスティンクション！！！」

デスマスク「ちょ、おいこら！！」

床に散らばっていたゴミ、酒瓶などがキレイに片付いた。

そう、確かに片付いた・・・が。

デスマスク「お、お前！！どこに片したんだよ！！」
ムウ「スターヒルです」
デスマスク「何アッサリ答えてるんだよ！」
ムウ「片せとのご命令でしたので」
デスマスク「服は！！」
ムウ「一緒に飛ばしました」
デスマスク「片すってのは、元の場所に戻すことだろ！俺のクローゼットはスターヒルじゃねえし！！」
ムウ「では、柏原選手を呼んで・・・」
デスマスク「山の神にも限界あんだろ。どうしてくれんだよ、俺の服」
ムウ「それは、あなたが決めることです」
デスマスク「・・・なんでそんな上から目線なんだ？わかったよ、じゃあ、俺の服取りに行ってくれよ」
ムウ「承知しました」

そう呟いたかと思うと、シュンッと姿が消えた。ムウお得意のテレポートだろう。しばらく経つと、服を抱えてムウが戻ってきた。

ムウ「服を取ってまいりました」
デスマスク「お疲れさん・・・って、なんか俺の服ボロボロじゃねえ？」
ムウ「スターヒルの頂上でシオン様に会いました。シオン様の顔に薄汚れた衣服がかかり、怒ったシオン様は『なんだ、この服は。ふざけるな！』と叫ばれ、見るも無惨に洋服をズタズタに致しました。『おい、この服は誰のだ』とシオン様がおっしゃったので、『デスマスク様です』とお答えいたしました。」
デスマスク「ちょ、おい！何言ってるんだよ！」
ムウ「シオン様は『あのバカ蟹か。汗とタバコ臭い服を顔にかけた礼は必ずする』とおっしゃっていました」
デスマスク「今度は俺がスターヒルまで飛ばされそうじゃんか！！」

頭を抱えて膝をつくと、上の宮からアフロディーテがやってきた。

アフロディーテ「デスマスク、この間の勅命の報告書できた？」
デスマスク「あ、いけね！！忘れてた！！」
アフロディーテ「え、忘れてた！？」
デスマスク「悪い、今週は忙しかったから・・・」
アフロディーテ「忙しいって・・・何で忙しかったの？」
デスマスク「え～と、それは・・・ムウ、答えろ」

ムウ「月曜日はアナベラとデート。火曜日はスザンナのお家にお泊り。水曜日はフランスでマリーと逢引きされ、その際、マリーは『浮気してなかった？ダーリン』デスマスク様は『当たり前だ、ハニー』と、しれっと嘘八百を言ってらっしゃいました。木曜日はアンジェラと巨蟹宮で熱い夜を過ごされました。金曜日はイタリアのレベッカと夜通し電話をし、土曜日は巨蟹宮の死者の面一の美女エリザベスと語り合っていらっしゃいました」

アフロディーテ「デ～ス～マ～ス～ク～～！！」

デスマスク「ちっがーう！！って、いや、確かにそうだったんだけど、ムウ、なんでお前知ってんだよ」
ムウ「自分の宮から見えましたから」
デスマスク「お前の視力はマサイ族か？ここからフランスが見えるわけねえだろうが。お前、もしかして、俺を破滅させるために来たのか！？」
アフロディーテ「ただ単に、君がだらしないだけでしょ！そんな付き合い方して良く体が持つね。てか、巨蟹宮のエリザベスと話すくらい女に飢えてるの？君は」
デスマスク「エリザベスを甘くみんな。あれは美人だぞ。ちょっと気が強いけど。で、ちょっと血が好きだけど」
アフロディーテ「・・・血が好きってどういうこと。エリザベスは蚊なの？」
デスマスク「蚊じゃねえよ、人間だけどさ。まあ、人間の中では一番血が好きって感じ？」
アフロディーテ「・・・・・グラスに血でもいれて飲むわけ？」
デスマスク「そーゆわけじゃないけど、ちょっと容器が小さいな」
アフロディーテ「・・・・・マグカップ？」
デスマスク「もっと」
アフロディーテ「・・・・・どんぶり？」
デスマスク「もっともっとデカく」
アフロディーテ「・・・・・鍋？」
デスマスク「もっともっともっとデカく」
アフロディーテ「もう！！鍋以上の容器なんて思いつかないってば。一体、難なの」

デスマスク「・・・・・バスタブ」

アフロディーテ「・・・・は？」

デスマスク「美女の血をバスタブにあふれるほどいれて、毎日浴びてたんだよ」

アフロディーテ「それって・・・・！！！」
デスマスク「そ！！聖域って、血を流すこと多いじゃん？だからさ、時々、来ちゃうんだよね」
アフロディーテ「来ちゃうんだよね・・・って！！」
デスマスク「野郎の血はいらないもんだから、安心安心！あ、エリザベスに会った時は『男です』って言わないと勘違いされるから注意しろよ。特にお前は」
アフロディーテ「余計なお世話！！！！」

ピラニアンローズ！！！

うぎゃぴ～～～。

アフロディーテ「ふん！！そんなに美人が好きなら、お花畑のニンフにでも会ってくるがいいさ」

全身傷だらけで目を回しているデスマスクを冷たく一瞥すると、アフロディーテは踵を返して自宮に帰っていった。

デスマスクが目を開けたのは、それから２時間後だった。
アフロディーテに攻撃を食らって昏倒した時とまったく同じ姿勢で、ムウも寸分変わらぬ場所にいた。時間の経過が分かるのは、太陽の傾きが違うからだ。

デスマスク「・・・・・お前、ずっとここにいたのか？」
ムウ「はい」
デスマスク「ベッドに運ぼうとか治療しようとかは考えなかったのか？」
ムウ「もし、ニンフに会われていたら、ご迷惑だと思いましたので」
デスマスク「とんだ配慮ありがとよ。できれば、すぐ連れ戻してくれた方がよかったし。イツツ・・・傷薬、切らしてたっけか。ムウ、持ってないか？」
ムウ「あります」

静かに言うと、パンドラボックスから、救急箱を取り出した。パカッとあけると、マキロンからオロナイン、はては痔の薬まで何でも入っていた。

デスマスク「すげえな。何でも入ってるんだな」
ムウ「何でもはありません」
デスマスク「ないのもあるのか」
ムウ「スケベ心を直す薬はありません」
デスマスク「・・・はは。とりあえず、治療してもらえる？」
ムウ「承知しました」

デスマスクをソファに座らせ、傷口に消毒液と傷薬を塗り、丁寧に包帯を巻いていく。

デスマスク「上手いな」
ムウ「ありがとうございます」
デスマスク「やっぱ、弟子がいるからか？」
ムウ「いえ、そうではないかと思います」
デスマスク「ん？違うのか？修行をさせれば、ケガしたりするだろ」
ムウ「唾をつければ治りますから」
デスマスク「ひどくね？」
ムウ「貴鬼がそう言って聞きませんから」
デスマスク「ありえないだろ。何でだ」
ムウ「わかりません。一度、チベット特製傷薬を塗ってやったら、喉自慢大会を始めましてね。あれ以来、治療を拒否するんですよ」
デスマスク「・・・・・・ごくっ」
ムウ「よろしければ、ここにその薬がありますが、つけますか？傷の治りが３倍早くなりますよ」
デスマスク「いえ！！謹んで辞退しまっす！！」
ムウ「承知しました」

秘境の民間療法ほど恐ろしいものはない。
第二の喉自慢大会を避ける為、光速で断ったデスマスクであった。

デスマスク「今日はありがとな」

日が沈み、夕飯まで作ってもらったデスマスクは、満腹の腹をなでながら目を細めた。

デスマスク「こんなことなら、毎日来てもらってもいいな」
ムウ「・・・これを」

スッと何かを差し出す。それは、一枚の紙である。
何も考えずに受け取って、その内容を見たデスマスクは驚愕した。

デスマスク「な、なんだこりゃ―――――！」

ムウ「本日の請求書です」

デスマスク「タダじゃねえのかよ！」
ムウ「家政夫・・・と最初に申しあげたはずです。私はあなたの奥さんではありません」
デスマスク「俺こそ、お前みたいなマッチョ女顔はごめんだけどよ、いくらなんでも２０万はひどいんじゃねえの！？」
ムウ「お時給１万円、材料費、治療費、スターヒルまでの交通費ですので」
デスマスク「高すぎるだろ！！ハケンの品格でもそんなねえぞ！瞬間移動しておいて、交通費なんか発生するわけねえだろ。俺は払わねえぞ」
ムウ「それは無理です」
デスマスク「・・・・・は？」

ムウ「もう、銀行口座から引き落とさせてもらいました」

デスマスク「なんだって―――――！！！」
ムウ「またご利用の時はお気軽に連絡してください。では」

驚愕してアゴがはずれそうなデスマスクに一礼すると、ムウはパンドラボックスを背負って宮を降りていった。

デスマスク「さすがムウだ・・・・・やられた・・・」

満腹の腹を恨みながらも、力無く膝をつくデスマスクなのであった。

貴鬼「ムウ様～！」
ムウ「おや、貴鬼」

双児宮を通り過ぎた頃、貴鬼がにこやかな笑顔を浮かべてやってきた。
ここへきて、ムウは初めて口元を緩ませた。

貴鬼「おかえりなさい～！」
ムウ「ただいま、貴鬼」
貴鬼「家政夫は上手くいった？」
ムウ「ええ。掃除も料理も手当ても完璧でしたよ」
貴鬼「さっすがムウ様！」
ムウ「今日はご馳走にしましょう。仕事が成功したお祝いです。せっかくですから、蟹鍋でも」
貴鬼「うわ～い！！ムウ様、手ぇつないでいい？」
ムウ「いいですよ」

親子のように、そっと優しく手をつなぎあう。

貴鬼「歌うたいたい、ムウ様」
ムウ「今日は甘えん坊ですね。でもいいですよ」
貴鬼「宮に帰るまでの歌がいい」
ムウ「いいですよ」

この階段を～（この階段を～）
下ったら～（下ったら～）
宮があります（宮があります）
ウシさんに挨拶したら（ウシさんに挨拶したら）
みんなの玄関白羊宮（みんなの玄関白羊宮）

到着すると同時に、聖域の入口から猛然と砂埃を立てて走ってくる男が目についた。

シオン「邪魔だ！どけ！！」

２人の存在を認識しているのかしていないのか、わき目も振らずに駆け上っていく。あっという間にシオンの姿は見えなくなった。

貴鬼「どうしたんだろう、シオン様」
ムウ「ああ・・・忘れてました」

今、思い出したように呟いた。わけがわからず首をひねる貴鬼。

ムウ「貴鬼、いい加減な大人になっちゃいけませんよ」
貴鬼「・・・う、うん！！」

イマイチ釈然としなかったが、尊敬する師の言葉に素直にうなづいた貴鬼であった――――。

あとがき

ムウ様守銭奴シリーズ、今回のネタは、お察しの方もいらっしゃると思いますが、「家政婦のミタ」です。この作品、すっごく面白かった！！毎週ドキドキしながら見てました。なので、オマージュとして、家政夫のムウにしてみました。犠牲になったデスマスク、ご愁傷様でした（笑）でも、君が隙だらけだからいかんのだよ（笑）

BY　　MUTUMI