闘士の因縁

イオ「いやあ、気がついたらカレンダーが変わってて驚いたよ。」
カーサ「よく寝てたぜ。」
カレンダーが一枚捲られてから数日たった日、イオは目を覚ました。全く物を食わなかったので食事はおじやから始まったのだった。
アイザック「サープリス、なかなか良い滑り出しだ。」
イオ「そうか！良かった！私、入稿してからの記憶が一切なくて心配だったんだ。」
バイアン「そりゃそうだろう。で、疲れは取れたか？」
イオ「もうばっちりだ。」
カーサ「そりゃ良かった。」
イオ「それで、またまた新企画だ。」
カーサ「お前、体調は？」
イオ「体調なんぞ二の次三の次。病気が怖くてカメラマンやっていられるか！」
アイザック「いや、体調の問題じゃないぞ最早。」
バイアン「で、新企画とは？ソロデビューか？」
イオ「いや違う。」
カーサ「じゃ、何だ？」
イオ「北方の国、アスガルドの神闘士をスカウトする！」
カーサ「またスカウトか。」
イオ「やはり全部の闘士を押さえておいたほうがいいだろう。」
アイザック「セットは？」
イオ「多分問題は無い。私のコンセプトではな、冬を売りにしようと思う。自然なセットで十分だ。」
アイザック「いいけどさ、確か二月後にエスメラルダの撮影が控えてただろ？」
バイアン「そういえば。」
カーサ「とりあえず、この間だした計画書で問題は無い筈だ。」
バイアン「服も全部作り終えてある。水着も作った。」
アイザック「ロケ地をグアムにして、ホテルから航空便チケットの手配、ビジネスクラスにまで予約して既に準備は万端だろ？それなのにアスガルドの連中に構っていたら大変だろ。」
イオ「問題はない。私がいくらでも徹夜すればいいだけのこと。」
カーサ「また倒れられたら心配なんだって。」
イオ「すぐに撮影に赴こうとは思っていない。あくまで見定めに行くだけだ。」
バイアン「本当か？」
イオ「ああ。お前ら何をそんなに心配してるんだ？」
アイザック「お前のワーカーホリックに皆心配してるんだよ。お前はどこぞのサラリーマンか！」
イオ「私は一介のカメラマンだ。」
カーサ「一回人間ドックに行くべきだな。これが終ったら絶対に行かせる。」
アイザック「勿論だ。氷漬けにしてまでも連れていく。」
イオのことを心から心配しながらアイザックとカーサは二人を送り出した。バイアンもイオの監視役と体調取締役とデザイナーとパタンナーの役目を背負って北方の地アスガルドに向かったのだった。

アルべリッヒ「ヒルダ様。」
ヒルダ「何です？アルベリッヒ。」
ヒルダは暖炉にとうとうと炎が燃え盛る部屋で紅茶を飲んでいた。
アルベリッヒ「どうして我がアスガルドは極貧だと思います？」
ヒルダ「毎日慎ましく過ごす事を常としているからです。」
アルベリッヒ「ほんの少しでも野心をお持ちになってもよろしいと思いますが。」
ヒルダ「あなたは持ち過ぎです。少し変わらない毎日の平和を楽しみなさい。」
アルベリッヒ「毎日毎日吹雪の中缶詰状態でストレスはたまる一方！毎日の平和など脳味噌を腐らせるだけです！」
ヒルダ「そうでしょうか？」
ニコニコと微笑むヒルダ。世間知らずのお嬢様のようなヒルダはアルベリッヒにとってとてつもなく邪魔な存在であった。
アルベリッヒ「アスガルドが滅んでも構わないと？」
ヒルダ「アスガルドの民がアスガルドを愛しているのなら決して滅びないでしょう。それにオーディーンが我らのアスガルドを見守ってくれてる筈です。」
アルベリッヒ「建設的な事を申しあげましょう。アスガルドは極貧です。赤貧と言ってもいいでしょう。」
ヒルダ「そうですね。貧乏ではあります。」
アルベリッヒ「貧乏であるのはワルハラ宮も同じ事なのはお分かりですね？」
ヒルダ「勿論です。私がオーディーンの地上代行者だといってもアスガルドの民の一人に過ぎません。」
アルベリッヒ「フェンリル達のように、貧乏の更に一歩先を行ったものを除いては、アスガルドの民はただ一つだけ存在する学校に通っています。」
ヒルダ「ええ、その通りです。」
アルベリッヒ「ヒルダ様はかなりごねましたが、て、いうか私が本当に採算度ギリギリで考慮、設定したのですが、学費、入学金ともに安いとは言いがたいです。」
ヒルダ「どうせならタダにしたいのですが・・・・」
アルベリッヒ「極貧がパワーアップします。世間知らずもいい加減にしてください。」
ヒルダ「分かりましたよ。それで？」
アルベリッヒ「貧乏と言う事は金が少ないと言う事。しかし、教育費がそれに準ずるとは限りません。」
ヒルダ「そうですね。」
アルベリッヒ「我が国、アスガルドは、貧乏にも関わらず、殆どの家庭が一人っ子なのはご存知ですね。」
ヒルダ「ええ。」
アルベリッヒ「その理由はご存知ですか？」
ヒルダ「一人の子供に最大限の愛を注ごうと考えてるご夫婦が多いのでは？」
アルベリッヒ「違います。例をあげましょう。インドは貧乏です。しかし子供の数は多い。」
ヒルダ「子供好きな方が多いのですね。」
アルベリッヒ「なんで貴方はそこまで天然なんです。子沢山なのは、子供を工場に行かせて働かせているからです。」
ヒルダ「まあ、何て酷い事。いたいけな子供達に労働をさせるとは。」
アルベリッヒ「そう。ヒルダ様のお考えはアスガルド国民全てに知れ渡っているのです。ヒルダ様を哀しませるような事はさせまいと、どこを探しても子供を雇う場所はありません。職人修行とか、近衛の為とかで働かせる人はいますけどそれは、別の意味の学校なので、賃金はゼロです。家庭は貧しい。しかし子供は働かせられない。教育費は高い。ならば教育費をできるだけ節約したい。お分かりですか？極端な子供好きや成り行きでなってしまった人以外は子供をそんなには作りたくは無いのですよ。」
ヒルダ「そうでしょうか。何時の時代も子供は好かれるものです。」
アルベリッヒ「そんな戯言金の前には無力に等しいです。」
ヒルダ「金より人間の愛の方が上のはずです。」
アルベリッヒ「そっちはまた今度議論しましょう。子供を一人しか作らないとなると、結ばれるのは当然一人っ子。その夫婦が結婚して子供を一人作って、また一人っ子と結婚して・・・というふうに、一人っ子同士で結婚を続けていった場合、出生率は逆三角形状に低下し、いずれアスガルドの民はいなくなるのですよ！」
建設的な意見を持ち出されて、流石のヒルダも言い返せなくなってしまった。確かにアルベリッヒは正論である。アスガルドの民を減らさない為には最低でも二人は作らなくてはいけないのである。
ヒルダ「それで、あなたは何を言いたいのですか？」
アルベリッヒ「少しはアスガルドの景気回復のための努力していただきたい。」
ヒルダ「そんな事言われても、あなたの言う事は皆所詮絵空事にすぎないでしょう？」
アルベリッヒ「どこがですか！アスガルドを夏の避暑地にするために観光地化することがそんなにお嫌いですか？」
ヒルダ「オーディーンの愛するアスガルドがそんなけばけばしい場所になってしまうなんて私には耐えられません。」
アルベリッヒ「じゃあ、オリンピックに出場するとかは？それなら別に構わないでしょう？」
ヒルダ「そんなの毎日真面目に努力している選手さんに失礼ではありませんか。」
アルベリッヒ「私達がまるで不真面目のように聞こえますが？」
ヒルダ「そうとはいっていません。ただ、あなた達がそういうのに出場すると、今度はアテナの聖闘士までが出場しかねませんから。」
アルベリッヒ「血気盛んな奴らですからね。まあ、そう思うのも当然でしょう。しかし、本当に何かしないと本当に滅びますよ！」
ヒルダ「とはいってもあなたの意見は・・・・・」
議論が本論に移り、白熱した頃、フレアが部屋に駆けこんで来た。
フレア「お姉様！」
ヒルダ「どうしたのです？フレア。」
フレア「行き倒れの人が！」
相当急いで来たらしく、肩で息をしているフレア。
ヒルダ「まあ、行き倒れ!?それで？その人は？」
フレア「ワルハラ宮に連れてきてハーゲンが今介抱しているわ。凍傷寸前だったのよ。何だか用件があるって来たんですって。」
ヒルダ「アルベリッヒこの話はまた後で。フレア、案内しなさい。」
フレア「勿論ですわ、お姉様。」
ドレスの端をちょっとつまんで二人は駆けていった。アルベリッヒも二人につきあったのだった。

フレア「ハーゲン、この人達の容態は？」
ハーゲン「大丈夫です、フレア様。」
フレア「えっと・・・・あなた達は？」
イオ「すまない。普通に訪ね様と思ったのだが。」
バイアン「アスガルドは寒い。」
ヒルダ「極寒では負けませんから。」
イオ「だが、なかなか良い環境だ。な、バイアン。」
バイアン「そうだな。エリシオンに比べると百八十度違うな。だが、それがいい感じだ。」
フレア「それで、あなた達はどのような御用事で・・・・」
ヒルダ「小宇宙を感じますが、もしや聖闘士？」
イオ「いや、私達は海闘士だ。」
ジークフリート「海闘士だと!?」
立ち聞きしてたのか、ジークフリートがバアンと扉を開けて入ってきた。
ジークフリート「おのれ、行き倒れで弱ってるところを見せかけてワルハラ宮を汚染しに来たのか！ハーゲン、治療の最中どさくさにまぎれて指輪はされなかったろうな。」
ハーゲン「大丈夫だ。静かに治療を受けていたぞ。」
トール「これが、ヒルダ様を苦しめた海闘士！」
トールも入ってきた。
トール「あんなに気高くお優しかったヒルダ様があんな風になってしまったのはお前の所為か！」
ミーメ「あなた方の所為でしなくて良い聖戦を引き起こし、膨大な血が流れたのは知っているか？」
琴を奏でながらミーメも登場した。どう考えてもその曲は既に戦闘開始モードに入っている。
イオ「そう言えば、私達は神闘士とふかあい関わりがあったんだったな。」
バイアン「すっかり忘れていたが。」
フェンリル「お前ら、狼の餌食になるか？」
窓をギイッと開けてフェンリルが入ってきた。下のほうでギング率いる狼が遠吠えをしている。
ジークフリート「あいつはどうした。笛吹きは。」
イオ「ソレントの事か。あいつは今世界を旅している。」
フレア「世界を？」
バイアン「恵まれない子供たちの為に慰問活動をしている。」
フレア「素敵！」
ハーゲン「フレア様。こんな奴らの事なんか耳をお傾けにならないよう。どうせ嘘ですから。」
イオ「嘘じゃないんだがな。」
ジークフリート「それで？何しに来た。二人で戦闘を仕掛に来た筈ではあるまい。どこに伏兵がいる。」
アルベリッヒ「まあ、シドとバドが倒しているだろうから心配は要らんな。」
イオ「あの時はすまなかった。と、言うか私達は何もしていない。」
トール「何もしていないだと？」
バイアン「いい訳かもしれないが、ポセイドンを手玉に取り、世界を我が物にし様としてたのは元海闘士、現聖闘士のカノンだ。私達はオーディーンのことまではタッチしていない。」
イオ「そう言ったところで同罪には変わりないか。」
ジークフリート「当然だ。即刻死んでもらおうか。」
手を振り上げるジークフリート。慌てるのは海闘士であった。
イオ「ストップ！私達は戦闘をしにきたのではない！」
バイアン「そうそう！海闘士としての役割は殆ど放棄している。」
ミーメ「何だって？」
イオ「柱は私達が守らなくても全然OKなわけだし。海の生物が悪さをしたり、乱獲による減少の場合は活動しているが、そっちは既に副業。世界の平和を守る事を本業としてる。」
ヒルダ「世界の平和をですか？」
イオ「そうです。」
ジークフリート「騙されてはいけません。絶対にありえません。地上を自分の手を汚さずに手に入れようと考えていた奴らです。口車にのってしまうと気がつくとマカオに売られてたなどという事態になりかねません。」
イオ「そこまで憎まれるとは思っても見なかった事だが・・・・」
普通は恨まれても仕方の無い所業をした。因縁が深い神闘士が疑りまくっているのだって当然といえば当然なのである。
バイアン「修行も一切していないので、多分物凄く弱くなったと・・・・」
イオ「戦う前に引くからな、もう。アンドロメダに誉めてもらえそうなほどに。」
ミーメ「アンドロメダ？君もアンドロメダと戦ったのか。」
イオ「まあな。」
ミーメ「へえ、私もだ。」
急に親近感がわくミーメ。
イオ「そういえば、君も琴使いなのだな。」
ミーメ「アスガルドで敵う人間はいないと思ってる。」
イオ「ふむ。君はアスガルドを離れる気はあるかい？」
ミーメ「え？」
イオ「いや、オルフェみたいな凄腕の持ち主がいるんなら欲しいなって思ってたんだ。君は才能があるからクリシュナに頼んで売り出してもらおうかなんて。」
ミーメ「そのオルフェという人物は何を操るんだい？」
イオ「勿論琴だ。」
ミーメ「琴!?」
ミーメの心に何らかの変化が訪れた。
フェンリル「ミーメ、騙されるな。海闘士はお前を騙して何かする気なんだ！」
トール「人間不信のフェンリルだからの発言ではなく、本当に危険だ。ミーメ、騙されるな！」
ミーメ「・・・・・・そうだな。アスガルドを離れろの意味は落城させるには一人でも減った方が良いという意味だな。」
フェンリル「修行していないなんて絶対嘘だ。見ろ、こいつの腕を。こんなにも筋肉質ではないか。」
フェンリルが少々無礼にもイオを指差す。
イオ「ま、まあ職業柄そうなるのも仕方の無いことだとは思う。」
ジークフリート「修行ではなく特訓をしていたのか！じゃあ。」
イオ「いやあ、それも違う。」
バイアン「いつもいつも、カメラを持って歩いて、機材も肩にかけてれば筋肉質にもなってるよなあ。」
フレア「あなたは肌が綺麗ね。ミーメみたい。」
ヒルダ「確かに女性にも勝るとも劣らない肌の木目細かさですね。」
バイアン「こっちも職業柄そうした方が良いと思ってな。」
フレア「シャンプー、何使ってるの？」
バイアン「テティスに相談したところ、オリジナルブレンドがいいと言ってきたので、ちょっと地上でオリジナルブレンドをしてくれる会社に頼んできた。」
フレア「つやつやね、髪の毛。」
バイアン「まあな。」
ハーゲン「フレア様。そんな汚らわしい海闘士に興味をお持ちにならないでください。それに、フレア様の方が何倍もお美しいです。」
フレア「あら、手は痛んでるのね、いろいろ傷があるわ。」
ハーゲンの言葉が耳に入っていない。女の子は何時の時代のどこの場所でもお洒落に興味がある。（ちなみに管理人は興味が無い）
バイアン「これは、メジャーで擂り切れた傷で、こっちはチャコペンダコ。左の人差し指はまだ慣れない頃ミシンで手を縫った傷だ。他にも針を刺したりと無数の傷がある。」
フレア「何をしてるの？一体。男の人って裁縫に興味があるの？」
バイアン「まあ、そんなにはいないとは思うが、仕事の関係で私はデザイナーとパタンナーを行っているのでね。」
フェンリル「でざいなぁ？ぱたんなぁ？」
バイアン「洋服を作る人の事だ。」
ヒルダ「では海闘士は海闘士自身が洋服を作っているのですか？」
バイアン「ま、現在におきましてはそうです。」
フレア「いいなあ。私達なんて、もう何年も同じ洋服だもの。」
アルベリッヒ「だから私が景気回復をしようと何度も言っている。」
フレア「今までどんなの作ったの？資料ある？」
バイアン「ある。すまないが、私の鞄は？ショルダーバッグなんだが。」
ハーゲン「これか？」
ハーゲンが部屋のすみに置いておいた鞄を手に取るとイオに放った。イオは中から一冊のファイルを取り出した。
イオ「これが今まで作った洋服ファイルだ。先に進むほど新作だ。」
フレア「どれどれ・・・・わあ、素敵！お姉様も一緒に御覧になりましょうよ。」
素人とはいえ、なかなかの出来映えだった。ミディアム丈のドレスやジーパン、トレーナー、ワンピース。最新の物ではパンドラのドレスがあった。
フレア「何て素敵なの♪あなた名前は？」
バイアン「バイアンと申します。」
ハーゲン「フレア様。そいつに騙されてはいけません。こいつはフレア様の純真無垢なところにつけこんでいるのです。」
フレア「何失礼なこと言っているの？こんな素敵なものを作る人が悪人とは思えないわ。」
頬を薔薇色にしながらなおもページを捲っているフレア。ハーゲンはため息をついた。
ハーゲン「完全に洗脳されてしまった。」
ミーメ「アンドロメダと考えが少し似てる気がする。」
ヒルダ「フレア、あなたドレスが欲しいのですか？」
フレア「だって女の子ですもの。」
ヒルダ「バイアンさん・・・でしたっけ？」
バイアン「はい。」
ヒルダ「洋服は・・・売ってくださるのですか？」
バイアン「洋服ですか？」
ヒルダ「はい。」
アルベリッヒ「ヒルダ様。何を言っているのですか。」
ヒルダ「やはり年頃の女の子です。少しくらいお洒落をさせてあげても良いかと思いまして。」
アルベリッヒ「極楽蜻蛉！何ばかげた事を言っているのですか。アスガルドは滅茶苦茶に貧乏。そんな貧乏に拍車をかけるようなことしないでください！」
フェンリル「そうか。そうやって国家資産を破産させるのが今回の目的だな！」
ジークフリート「その方がてっとりばやいということか。お前、他にどんなキャッチをしようと考えている。宗教か！士か！アポイントメントか！」
イオ「待ってくれ。落ち着いてくれ。」
フレア「そうよ。」
ジークフリート「フレア様はこいつたちが行った事を許せるというのですか？」
フレア「う・・・・でも信じたいの。」
バイアン「別にそんなに険悪にならなくても。」
ジークフリート「なる気持ちを察しろ。」
イオ「なら、身体検査でも持ち物検査でも自由にしてくれ。全然本題に入れない。」
ヒルダ「そういえば、何の為に来たのです？世界平和とは聞きましたが、それなら小国のアスガルドではなく聖域に行けば良いのでは？」
イオ「私達は北方の国アスガルドにモデルを探しに来たんだ。」
ヒルダ「モデル？」
イオ「そう。将来有望なモデル。世界平和の為に。」
ジークフリート「ヒルダ様！今すぐこいつを殺します！」
イオ「待ってくれ！」
ジークフリート「ざけたことを言うな！」
イオ「本当だ！私達は写真集を作って販売しているのだ！それの売り上げを寄付している！世界平和の為に！」
ジークフリート「汚らわしい！聞く耳もたんわ！どうせ裏方面で売りさばいた金だろう！ヒルダ様をそんなところに送りこませられるか！」
ハーゲン「フレア様！そんな者達の肩を持つのですか？」
フレア「嘘をついてるように思えないわ。それに素敵な洋服。凄い努力をなさったのでしょう？」
バイアン「はあ。とりあえず、ちゃんとした服が作れるように勉強しました。お茶の間留学を行ってですね、二流のデザイナーくらいにはなったと思います。」
フレア「あなた達も少しはこの人達を信頼したら？お姉様しか信用しないなんてこれからの世の中うまく行かないわよ。」
ハーゲン「あなたは信じ過ぎです。」
フレア「それはあなた達全員にお返しするわ！私が何を言っても、本当にお姉様しか信じなかったじゃない。ハーゲンも！」
ハーゲン「う・・・」
フレア「お姉様よりも仲良しだと思ったのに、お姉様の言う事を信じたじゃない。」
ハーゲン「それは・・・・」
フレア「アテナの聖闘士か、アテナならきっと一発でこの方達を信じるはずよ！」
バイアン「これを見てくれ！」
バイアンがショルダーバッグから写真集をとりだした。見本である。
バイアン「これをみてくれ。とても健全だ！」
ジークフリート「何だと・・・・・って誰だこいつら！」
フェンリル「知らないぞ、どれも。」
トール「どうせ、本屋で買ったものだろう。自分達のだと偽る為に買ったんだ。」
イオ「そうか！黄金を一人も知らないのか！冥闘士も！」
ミーメ「むう。こいつはアンドロメダにそっくりだな。双子の妹か？」
バイアン「赤の他人だ。名前はエスメラルダ。」
ミーメ「居るものだな、そっくりさんは。」
トール「ん？ここにバイアンがいるな。」
ミーメ「本当だ。エスメラルダと一緒に写ってる。」
バイアン「信じてくれるか？」
フェンリル「これは証明にならん！」
イオ「いや、証明にならんといわれても。本当にこれで商売してるんだ。」
バイアン「じゃあ、テティスを知ってるか？」
フレア「テティス？」
バイアン「ああ。あだ名はマーメイド。芸能界のマーメイドだ。」
ヒルダ「私達は俗世間に疎いものですから。CDも全然買いませんもの。」
ジークフリート「やはり今この場で始末を・・・・」
フレア「待って！信じて！ハーゲン！お姉様！」
ヒルダ「フレア・・・・・」
フレアを除いて誰も信じていない。ヒルダはまだ半信半疑だ。結論は出せない。海闘士は絶体絶命の事態に陥っている。契約は破綻に終り、命も無くなりそうだ。
アルベリッヒ「ちょっと待て。」
アルベリッヒが拳を握ったジークフリート達を制した。
ジークフリート「何だアルベリッヒ。」
アルベリッヒ「少し冷静になれ。」
フェンリル「できるか！」
アルベリッヒ「熱を上げていては折角のチャンスを逃がしてしまうかもしれない。一つ質問だ。いいか？」
バイアン「あ、ああ。」
アルベリッヒ「モデルをやってこっちのメリットはあるのか？」
イオ「勿論だ。ここは貧乏。そうだな？」
アルベリッヒ「当たり前だ。俺が何を言っても聞きゃしねえ。」
イオ「写真集の売り上げの三割をそちらにあげよう。」
アルベリッヒ「三割か？」
イオ「足りないか。まあ、そうだな。貧乏国だからな。バイアン、どのくらいまでOKだ？」
バイアン「ちょっと待て。被服費が全体の一割だろ？印刷費現像費が一割で、雑費が一割。まあ、七割は余裕があるな。」
イオ「そうだろうな。なら四割。これなら良いだろう。」
アルベリッヒ「どのくらい売れるんだ？」
イオ「全員美形だしな。う〜ん軌道に乗るまでの間は少ないだろうが、とりあえず三万部はいけるかな。」
バイアン「そこのヒルダさんとフレアさんならソロデビューできるんじゃないか？スタイル良いし、見目最高だし。」
アルベリッヒ「ヒルダ様、この話受けましょう！」
ヒルダ「アルベリッヒ。」
アルベリッヒ「極貧のアスガルドが生まれ変わるチャンスです！」
ヒルダ「アルベリッヒ・・・・」
アルベリッヒ「これなら文句無いですよね、ヒルダ様。私達が協力すれば、世界の為になり、そして我がアスガルドも潤うのです。不穏だとは言わせません！」
ジークフリート「お前！」
アルベリッヒ「俺は信じる！信じることにした！」
フレア「ありがとうアルベリッヒ！」
フレアがアルベリッヒに抱きつき、こともあろうに頬にキスまでした。
ハーゲン「!!!!」
フレア「大好きよ、アルベリッヒ。」
ハーゲン「私も信じることにする。」
フレア「ハーゲン！」
ハーゲン「なんか・・・・な。」
フレア「ハーゲン！やっぱり分かってくれると思っていたわ！」
笑顔を見せるフレア。しかし二番目ともなるとご褒美はなかった。
ヒルダ「世界の為に一生懸命になっているのですね。申し訳ありません。疑ったりして。」
イオ「いえ、原因はうちにありますから。」
ヒルダ「嫌な思いをさせて本当に申し訳ありません。モデルの件、受けさせていただきますわ。」
バイアン「ありがとうございます。」
フェンリル「ヒルダ様がそういうのなら仕方ないが・・・・・」
トール「何か謀反でも起こしたら即刻ぶっ殺すからな。」
イオ「大丈夫だ。我々は生まれ変わったのだ。」
バイアン「いやあ、本当に死ぬかと思った。」
ハーゲン「シドとバドにも知らせなきゃな。」
フレア「全員モデルデビューなんて素敵！私、一度そう言う事してみたかったの！」
ハーゲン「・・・・私もです。」
フレア「ハーゲンも？偶然ね。なら最初から信じてよ！全く。」
バイアン「それじゃ、しばらくしたらサイズはかりにくるから。」
ヒルダ「サイズ？」
バイアン「ええ。」
ジークフリート「サイズとは？」
バイアン「勿論あなた達が着る服を作るために専用のマネキンを作るのだ。金をかけて買ったコンピューター制御の３Dスライス盤にセットして立体化し、マネキンを作る。何と二百ヶ所可動だ。」
トール「凄いな、それは。」
バイアン「写真集製作部でも金がかかってるところだ。だが、おかげで洋服の作りなおしが無く、経費削減になっている。」
アルベリッヒ「経費削減。良い響きだな。」
バイアン「寒いだろうが、スパッツやタンクトップなどぴっちりした物を用意しててくれ。」
ジークフリート「貴様！ヒルダ様に何をしようと言うのだ！」
バイアン「サイズを測るんだよ。バストウエストヒップは勿論、首周り、手首、足首、全てのデータを測る。」
ジークフリート「私はやはりこの場でお前を殺す！」
バイアン「ストップ！待ってくれ。」
フレア「そうよ。サイズを測らなきゃだめじゃない。」
バイアン「ならば、フレアさんはハーゲンさんに、ヒルダさんはジークフリートさんが測れば良いでしょう。」
ジークフリート「わ、私がか？」
イオ「台詞を聞いてると、そういうカップルじゃないのか？」
ジークフリート「わ・・・・・」
ヒルダ「全然違いますよ。」
ジークフリート「ヒ、ヒルダ様。」
ヒルダ「ジークフリートはアスガルドの為に尽くしてくれてるとても忠誠心厚い方で、誰が地上代行者でも同じような振る舞いをするはずです。」
イオ「なんだ、そうなのか。」
バイアン「今一瞬ラダマンティスとパンドラの姿が浮かんだ。」
フレア「ラダマンティス？」
バイアン「いや、何でも無い。」
イオ「嫌なら女性二人で測っても良いんじゃないか？」
バイアン「まあ、そうだな。」
フレア「できるかしら。」
バイアン「マニュアルを書いておくから大丈夫。」
フレア「そう？なら良かった。」
イオ「ミーメとか言ったな。どうする？先刻言った用件受けるか？」
ミーメ「うーん、悪いがちょっと断らせてくれ。やはり、アスガルドを離れたくは無い。」
イオ「残念だがしょうがない。誰でも母国は好きなものだ。立派にモデルとして働いてもらう。」
ヒルダ「そうだ・・・・先ほどのフレアの洋服の件なんですけど・・・」
バイアン「ああ、任せてください。撮影に使った服、全て差し上げますよ。」
ヒルダ「本当ですか？」
バイアン「ええ。どうせ本人しか着れない服ですから。持ってても意味無いですし。」
フレア「やったわ！」
ヒルダ「ありがとうございます。」
イオ「さて、疑いも解けたし、帰るとするか。」
バイアン「そろそろマユの写真集の売り上げもわかる頃だな。」
イオ「楽しみだ。日本で撮ったからな。」
フレア「沢山モデルがいるのね。」
イオ「ええ。粒よりのモデルです。」
フレア「よろしく言っておいてね♪」
イオ「言っておきましょう。」
ヒルダ「次来る時は立派な客室に用意しますね。」
バイアン「楽しみにしてます。」
まだ渋い顔をしてる神闘士はいるものの、全員イオとバイアンの用件にナットクした様だ。中でもフレアはやる気満々である。一番交渉が大変だった神闘士スカウト。なんとか契約にこぎつけ、心は晴れやか。吹雪もすっかり止み、太陽が覗いたアスガルドを歩きながら二人は帰っていったのだった。




あとがき
海闘士、ご苦労様でした。命の危険があるなんて大変でしたね。同じ貧乏で破産寸前の冥界に比べて交渉に辿りつくまで大変な時間がかかりました。まあ、深い因縁があるからしょうがないですけれど。これで全ての闘士は制覇ですか。世界平和維持活動もばっちりですね。もうけが大分少なさそうですが、痛くも痒くも無いでしょう。毎日暮らしていける分の金は確保してあるのですから。今回の裏シナリオ。カーサとアイザックはイオを強制入院させるため、人間ドックに依頼していました。金をかけて一流の病院です。


BY　　MUTUMI