真夏の昼の悪夢
バイアン「夏の写真集もどうにか入稿できたな」
久しぶりの休暇にまったりのんびり過ごす海将軍達。全員、ポセイドン神殿にいることから、
本来の仕事を完全に忘れ去っているようだ。
アイザック「イオは？」
バイアン「死んでる」
アイザック「またか。毎度毎度よくそこまで頑張れるよな〜」
カーサ「海将軍の中で忠誠度ナンバーワンだからな」
バイアン「今、爆睡中だから言うけど、実は写真集の依頼があるんだ」
アイザック「へえ、どこから」
バイアン「まあ、依頼っていうか、知り合いのカメラマンの紹介なんだけどさ。仕事を引き受けたはいいけど、体調が悪くてどうにもできそうにないから、よかったらやってくれないかっていう」
カーサ「ほ〜、すごいじゃないか。どういう人の写真集なんだ？」
バイアン「なんでも、日本で有数の企業の総帥だって」
カーサ「なんだ、ジジイか」
バイアン「多分、我が半生みたいな感じじゃないかな。社員にでも配るつもりなんだろう」
カーサ「うっわ、迷惑な話」
バイアン「でな、依頼はあるんだが、ほら。イオがあんなだし、断ろうかな〜と思って」
イオ「私がどんなだって？」
海将軍「げっ！！！」
イオ「スキュラのイオ、大復活！！さあ、日本に行くぞ！！！」
後ろに色の三原色のバックライトが光って見える。
アイザック「バイアン・・・イオのお守り頼んだ」
カーサ「医者の手配はこっちでしとくからさ・・・・」
バイアン「了解・・・・」
どんよりとした空気が彼らを包んだのだった。
イオ「日本は暑いな〜。カメラがいかれないといいけど」
バイアン「お前の方がいかれないように注意してくれよ」
イオ「わが身よりカメラだ！普通そうだろう？」
バイアン「普通はわが身だ」
いえいえ、海将軍だったら、わが身より柱と答えていただきたい。
イオ「日本にはおもしろい店がたくさんあるな〜。ほら、見ろ。鼻眼鏡だ」
バイアン「おもしろいか？」
イオ「これかければ、すぐさま他人に大変身だぞ。これ１個買っていこう。お、これはマスカレードだ。なんて品のない色合い！蛍光グリーンなんて母国にもない。デカデカ光ってておもしろいな。これも買っていこう」
バイアン「まあ、好きにしたらいいんじゃないか？」
鼻眼鏡１つと蛍光グリーンのマスカレードをぎゅむっと鞄に入れ、目的地のスタジオに赴く。
バイアン「おはようございまーす」
受付嬢「おはようございます。モデルの方はもういらしてますよ」
バイアン「そうですか。ありがとうございます」
イオ「しまった。モデルの方に先を越されるとは情けない。バイアン、急ぐぞ」
バイアン「ああ」
カンカンカンと廊下を速歩きする。金属製の重い、スタジオの扉を開けると、そこには
アテナと青銅聖闘士がいた。
バタンッ！！！！
慌てて扉を閉めた。心臓がバクバクいっている。
バイアン「待て待て待て。なんでアテナと青銅聖闘士がいるんだ？」
イオ「知るかそんなこと！」
バイアン「今日はジジイの撮影じゃないのか！？」
イオ「知らん！わからん！」
バイアン「スタジオを間違えたかもしれない！聞いてくる！」
ズダダダダダ
バイアン「あの、今日他に使っている団体ってありますか？」
受付嬢「え〜っと、ヘビメタ友の会にザ・ミズムシの方が使われています」
バイアン「・・・・そうですか」
トボトボトボ
バイアン「やっぱりここっぽい。他はヘビメタ友の会にザ・ミズムシが使っているってさ」
イオ「そうか・・・・どうでもいいけど、ザ・ミズムシってどういう団体なんだ？」
バイアン「さあ？バンド名じゃないか？どうでもいいけど」
イオ「本当にどうでもいいな。そんなことより、アテナと青銅だ！どうするんだ！奴らは俺たちの副業のこと知らないんだぞ！」
バイアン「黄金の時もメチャクチャもめたしな・・・しかも無断で今もしてるし、みつかったらあの世行きかも」
イオ「顔がわからなきゃどうにかなるかもしれん！これつけろ！！」
バイアン「背に腹はかえられんな」
２人「おはようございまーす」
星矢「あ――――――っはっはっは！なんじゃそら―――――！」
開口一番の言葉は、星矢の大爆笑だった。
沙織「星矢！失礼ですよ！すみません、気を悪くしないでください」
バイアン「いえいえ、気にしないでください」
星矢「鼻眼鏡！鼻眼鏡だよ――――！宴会芸にしか普通使わない、無駄な小道具ナンバーワン！こんなん日常で使う奴いるんだ――――！あっはっはっは！」
瞬「星矢！失礼にも程があるよ！きっとご本人は最新の流行のつもりなんだよ」
紫龍「そういうお前もフォローになってないぞ。すみません、失礼なことをして」
バイアン「いえ、知ってますから」
紫龍「知ってる？」
バイアン「あ〜〜〜、いえ、ていうか、この仮面で笑わない人の方が珍しいのでね」
紫龍「なるほど。あの、無礼を承知でお聞きしますが、なんで鼻眼鏡なんてつけるんですか？」
イオ「素顔を隠すためです」
星矢「素顔っていうか、別の素顔が見えるよ――――――！あっはっはっは！腹いてぇ――――――！」
沙織「星矢！！すみません、本当にすみません」
イオ「いえいえ、全然気にしてませんから」
自分に大注目を浴びてはいるが、自分の正体には誰も気づいてないようだ。まったくもって、この魔法の眼鏡には感謝である。
沙織「自己紹介が遅れました。私は城戸沙織です。それから、右から順に一輝、紫龍、氷河、瞬と、それからあそこで笑い転げているのが星矢です」
イオ「そうですか、どうぞよろしく。では、早速撮影に移りたいと思います。バイアンが衣装とヘアメイクをしますので、どうぞ別室へ」
一輝「バイアン？」
イオ「え？」
一輝「バイアンっていうのか？そのマスク男は」
イオ「うぐっ！！！な、何か問題でも？」
一輝「いや、俺達の知り合いに同じ名前の奴がいてな」
バイアン「あ、そ、そうですか。でも、その方ってEのつくバイアンさんじゃないですか？」
一輝「Eのつくバイアン？」
バイアン「そうですそうです。私はEのつかないバイアンでして。つづりが微妙に違うんですよ」
瞬「ふうん、なんか赤毛のアンみたいだね」
バイアン「自分にもアンが含まれてますからね。Eのつかないバイアンさんじゃ長いので、普通にバイアンでいいですよ。では、アテナ、どうぞこちらへ」
氷河「今、アテナって言ったか？」
バイアン「言いましたが、何か・・・・・・ああああああっ！！！」
沙織「ど、どうしました？」
バイアン「いえ、ちょっと思い出しびっくりです。す、すみません、姿が美しいので、思わずふっとでてしまったんですが、どこぞに問題が？」
氷河「いや、別に・・・・・」
沙織「初対面の方にそう言われるのはうれしいですね。昨日、エステに行ってピッカピカに磨きあげてきましたから」
イオ「そうですか！！お美しい！バイアンが呼び間違えるのも無理ない美しさです。さ、さっさと参りましょう。はい、今までのセリフは忘却の彼方と参りましょう」
沙織「そうですね、時間もそんなにありませんから」
なごやかに笑いあう沙織と青銅。ひきつりながら笑うイオとバイアン。
習慣って恐ろしい・・・・・・・！！
内心では、滝のような冷や汗が滴り落ちている。アテナについてそこまで突っ込まれなかったのは、アテナ自体が日常では秘密とされているからだろう。
バイアン「あ、しまった。今回企業の総帥ということでてっきり男性だと思ってしまったので、男性用の服しか用意しておりません。調べ不足で申し訳ありません」
沙織「いえ、こちらも連絡がとれないことを、ま、いっかでスルーしていました。こちらの責任です。あの、お家に帰れば服はありますか？」
バイアン「そうですね、ストックがいくつか・・・」
沙織「お２人は口は堅いほうですか？他言しないという約束を守れますか？」
イオ「え、ええ、まあ・・・・」
沙織「じゃ、今、ムウを呼びます」
２人「それは待ってくれ――――――！」
沙織「え？」
バイアン「それは勘弁してください！本当！命の危険があるんです！」
イオ「本当、マジやめてください！お願いです！」
沙織「あなた達はムウと知り合いなのですか？」
バイアン「知り合いというか・・・・一方的に・・・ですけど」
星矢「一方的・・・？あ、そっか！別に仲良くしたくないのにひっつかれて仮面とか鼻眼鏡でいじられたり、もっと悲惨なことさせられたんだろ！」
いや、むしろ逆・・・だけどね。女装させたり・・・とかね。
一輝「お嬢、ムウを呼ぶのはよした方がいいだろう。あの鬼畜野郎のことだ。この仮面やら鼻眼鏡やらで再起不能になるほど笑ったりバカにしたに決まってる。わざわざ、また笑う材料を与えることはないだろう」
沙織「確かにムウは性格に多分に問題がありそうですからね。わかりました」
イオ「あの、お願いです。今日のことは絶対に秘密にしてください。他言無用でお願いします」
沙織「わかりました。私も総帥です。守秘義務は守りましょう」
星矢「それはいいとして、服はどうすんだ？」
沙織「私のお気に入りの服を今からとりよせます。なに、二十分もあれば届くでしょう」
はぁ〜〜〜〜〜
心の中で盛大にため息をついた。どうやらアテナはムウを便利に使っているらしい。それにしても、身内にも多分に問題があると言われているムウの性格・・・・。自分の身は大丈夫だろうかと本気で不安になる２人だった。
それからは順調に撮影が進んだ。海将軍とアテナという枠さえなければ、優秀なカメラマンとモデルなのだ。
イオ「は〜い、終了です。お疲れ様でした〜！」
沙織「お疲れ様でした〜！」
イオ「いい写真がいっぱい撮れましたよ」
沙織「ありがとうございました」
星矢「キレイだったぜ、沙織さん」
沙織「今回の撮影とっても楽しかったです。次もあなた達にお願いしたいのですがよろしいですか？」
・・・・・え？
沙織「気に入ってしまいました」
思わず顔を見合わせる２人。そして出た言葉は・・・・
イオ「依頼人とは二度と会わない主義ですので」
だった。
沙織「あら、そうなのですか？」
イオ「誰かの専属になったり、何度も撮ったりしたら他の方達が撮れる機会が減ります。私達は全ての人に平等でありたいのです」
沙織「まあ、なんて立派な。では、これでお別れですね。あの、餞別に仮面を外してはいただけませんか」
２人「嫌です」
こうしてカメラマンとモデルはスタジオを後にした。
バイアン「ただいま・・・・・」
アイザック「お、おかえり！どうだった？」
カーサ「医者の準備はしてあるぞ。内科、外科、耳鼻咽喉科なんでも揃ってるぜ！」
バイアン「じゃあ、私に心療内科を頼む・・・・」
アイザック「心療内科？お前にか？」
バイアン「ちょっと・・・心臓に悪すぎだ」
暑い暑い夏の気温さえも一気に凍りつく、真夏の昼の悪夢なのだった。
あとがき
久しぶりの平和維持活動シリーズです〜。今までとは少し趣向を変え、本物の聖闘士達との会話にしてみました。そのため、バイアンとイオは大変心にプレッシャーを感じさせることになってしまいました。でもまあ、そうだろな・・・・無断でやってることの首領だもんな。これから、どう書いていくかは決めていませんが、ばれるかばれないかのドキドキ展開も織り交ぜていこうかなと思っています。これ、漫画にしたらビジュアルで笑えそうなのにな〜、鼻眼鏡イオとマスカレードバイアン見てみたいな〜絵描きでない自分が悔しい。笑っていただけたら幸いです。
BY MUTUMI