一石二鳥

パンドラ「この所、死者の数が少ないとは思わないか?」
ラダマンティス「確かにパンドラ様が察しの通り、地獄に来る輩が減っております。」
パンドラ「ヒュプノスからは何も聞いていないぞ。」
ミーノス「エリシオンに行く善良な輩が多いのではありません。冥界に来る輩が減っているのです。」
パンドラ「何故だ?」
ミーノス「医学の発達が考えられます。」
パンドラ「たんそ菌の死者は?」
ミーノス「今のところおさまりつつあります。」
パンドラ「狂牛病は?」
ミーノス「数人それが原因でやってきた者がおりますが、あの病気は発病が十五年後ですので。」
パンドラ「アフガニスタンの攻撃はどうなっておる。」
ミーノス「アテナの聖闘士が影ながら助太刀しているようです。」
パンドラ「ポセイドンの攻撃の頃が、我が冥界のバブルだったな。」
パンドラがしみじみと呟いた。
ラダマンティス「今は底抜けの不景気です。明日の飯もどうなる事やら。」
アイアコス「冥闘士も元気がないのか、地獄も迫力がありません。」
パンドラ「どの世界であろうと、最低限の金は必要なのだな。」
ミーノス「我が冥界には金持ちのボンボンもお嬢もいませんからね。」
パンドラ「私の血筋はとてもよいものだが生き残りは私しかいないからな。」
ラダマンティス「なんとかしないと、冥界は破滅ですよ。」
パンドラ「金融業社から金借りてくるか?」
ミーノス「それは冥界を更におとしめます。返すあてがないのに借りてしまっては借金地獄が訪れます。」
パンドラ「どうすればよいものか。ハーデス様には心配をお掛けしたくはない。」
ジュデッカにて。四人の若者が真剣に考え込んでいた。

イオ「考えは悪くないと思っていたがな。」
バイアン「考えは悪くなかった。」
アイザック「聖闘士のアクの強さを考えなかった事以外はな。」
イオ「まさかカーサが倒れてしまうとは。」
この間、黄金+エスメラルダのソロデビュー化が決まったのだが、そのコーナーを考え、考えすぎてとうとうカーサが過労で倒れてしまったのだった。
イオ「どれも個性が強すぎて対応し切れなかったのか。」
バイアン「同化してるとはいえ、他人だからな。精神の方が持たなかったのだろう。」
イオ「このままじゃ、本誌の方も出せるかどうか分からなくなる。」
アイザック「その方が俺としては助かるがな。」
バイアン「お前な・・・・」
アイザック「お前らはこれ一本で生活してるからそのような発言ができるのだ。俺はもう一つ仕事を持っているのだぞ。ガンダムサイズどころかゴジラサイズを頼んできた輩も登場したのだぞ。二千万だといっても注文してきやがった。」
イオ「それで受けたのか?」
アイザック「受けた。二千万もだしてくれる阿呆なファンを逃すのは惜しい。」
アイザック・・・どんどん商人になっているようだ。
バイアン「カーサに頼りすぎたか。」
イオ「そうだな。」
バイアン「お前の方は大丈夫なのか?カーサ並の忙しさだろう?」
イオ「どういうわけか
コンセプトを考えるだけでウキウキするというかワクワクするというか凄く爽快な気分なのだ。」
アイザック「狂ったか?」
イオ「そうではない。カメラマンは私の天職だったとにらんでいる。」
アイザック「好きに解釈してくれて良いけど。俺はしばらくセットを作れない。」
イオ「困るな。自然のセットも悪くはないがやはりアイザックのセットがないと同じような写真になってしまって面白くもなんともなくなってしまう。」
アイザック「そんな事言われてもだな、小宇宙を使いすぎて死んじまうぞ、俺は。」
イオ「新しいモデルでも探すか?」
バイアン「こんな海底を見ても驚かず、秘密を守れるような一般人がいるか?」
イオ「しかし、このままじゃいけないだろ。裏町で拾ってくるか?有望なモデル。」
バイアン「人生の大事な時期を海底ですごしていいのだろうか?私達はもうどっぷりつかっているから抜け出せないけどさ。」
イオ「じゃあ、冥界に行くか?」
アイザック「死ぬ気か?」
イオ「そうではない。冥界の冥闘士達で美形な奴らを撮るのだ。」
バイアン「大丈夫か?冥闘士もかなりアクが強いと聞くぞ。」
イオ「しかし、それしか方法がないだろう。」
アイザック「ボランティアって言って言う事を聞く奴らだとは思えないぞ。」
イオ「なら、そっちの売り上げの三割をあげれば良いではないか。」
バイアン「三割で言う事を聞くか?」
イオ「漫画は著者印税率は一割だぞ。声優プロダクションのマネージメント料も二割だぞ。それに比べれば三割はでかい。」
バイアン「マニアックな事を知ってるんだな。」
イオ「雑誌に書いてあった。で、冥界に行って写真を撮り、売る。するかしないか?」
バイアン「私はイオの体調さえよければ構わない。」
アイザック「俺の仕事が増えなければ構わない。」
イオ「ならOKだな。今から行ってくる。バイアンも来てくれないか?」
バイアン「私も?」
イオ「お前はうちのモデルだからな。それにパタンナー&デザイナーだし。来てモデルの見極めをしてほしい。」
アイザック「死ぬなよ。」
イオ「努力する。」
バイアン「留守番頼むぞ。」
アイザック「ああ。行って来い。」
アイザックはイオとバイアンを送り出した。見送った後、ゴジラサイズの氷像を作るため工房に戻ったのだった。

イオ「冥界はドロドロした空気だな。」
バイアン「いいモデルなんかいるのだろうか。」
アケローン川に辿りついたイオとバイアン。死者が減った所為かとても静かだ。
イオ「どうやってこれを渡る?」
バイアン「泳ぐか?」
カロン「これに乗らなきゃあっちへはいけないぜ。」
イオ「あんたは誰だ?」
カロン「お前ら、生きてるな。聖闘士か?」
イオ「俺達は海闘士だ。」
カロン「海闘士?何しに来たんだ?」
イオ「モデルを探しに。」
カロン「モデルだと?」
イオ「そうだ。今ちょっとモデルに窮していてな。新しい売れそうなモデルをわざわざ探しに来たんだ。」
カロン「俺様はどうだ?」
イオ「とりあえず、撮っておこうか。」
パシャっと一枚撮っておく。
イオ「のせてくれないか?」
カロン「まあ、いいだろう。俺様を載せてくれるんだったらな。」
イオ「検討しよう。」
バイアン(イオの事だ。撮るだけとって捨てるな)
カロン「さあ、乗りな。」
海闘士は無事にアケローン川を渡ったのだった。

バイアン「あいつ載せるのか?」
カロンと別れてから大分経った後、バイアンが話しかけた。
イオ「まさか。ただ撮っただけだ。」
バイアン「やっぱりな。」
イオ「あれに乗らなければ先に進めないようだし、機嫌を損ねたらいけないと思ってな。フィルムが一枚無駄になったがしょうがないだろう。」
バイアン「随分カメラマンが板についてきたな。」
イオ「おっ、次が見えてきたぞ。」
次は裁きの館だ。いつも閑静だが死者がいない分より一層静かだ。
マルキーノ「お前ら、今日の死者か。」
イオ「パス。」
マルキーノ「パスとは?」
イオ「お前はいらん。先へ通せ。」
マルキーノ「俺を侮辱する気か!」
イオ「ファインダーからみてもお前は魅力のかけらもない。よってお前はいらない。先へ通させてもらうぞ。」
マルキーノ「ちょっとまて、お前ら何者だ?なんでそう偉そうなんだ。」
バイアン「すまないな、ちょっと今自分の世界に入ってるんだ。気にしないでくれ。」
スタスタ先に進むイオとバイアン。マルキーノは不機嫌に歩きながら法廷に向かわせた。
ルネ「静粛に。マルキーノお前は静かにすることができないのですか?」
マルキーノ「申し訳ありません。」
ルネ「下がりなさい。顔も見たくありません。」
マルキーノ「失礼します。」
ルネ「さて、あなた達は何をしに来たのですか?あなた達は生きてますね。」
イオ「名前はなんて言う?」
ルネ「はい?」
尋ねたつもりが逆に尋ねられてしまったルネ。すっとんきょうな声をあげる。
イオ「あんた、気に入った。ストレートな髪がいい。美形だし。」
ルネ「何を言って・・・」
イオ「モデルにならないか?」
ルネ「モデルとは?」
イオ「私達の専属のモデルだよ。」
ルネ「もっと詳しく。」
バイアン「実は私達は写真集を作ってるんだ。売れた分だけ寄付をしてポセイドン様のお役にたってるんだが、モデルが一人倒れちまって活動するのが困難なんだ。だから、冥界の人物でいいのがいたらモデルにして売り出そうと思ってるんだ。」
ルネ「それでこのルネにですか?」
イオ「そうだ。あのゴブリンなんかよりずっといい。契約だけでもしとかないか?」
ルネ「契約ですか?」
イオ「他にもいいやつがいるかもしれない。写真集が作れるほどの人数がいたら日を改めてここに来たい。その時にモデルをするという契約だ。」
ルネ「私は仕事があるのですが。」
イオ「ギャラは払う。」
ルネ「分かりました。ひき受けます。」
あまりにもあっさり掌を返した。
イオ「良かった。先通してくれな、まだ良いモデルいるかもしれないから。」
ルネ「どうぞ。」
あっさりと通すルネ。不況の波はここにまで訪れている。
イオ「サンキュ。」
バイアン「よろしくな、同志。」
イオとバイアンはあっさりと通ったのだった。

イオ「金の話をしたらすぐにOKをだしたな。」
バイアン「貧乏なんじゃないか?」
イオ「なるほど。なら、金の話を持ち出せば即解決というわけか。」
バイアン「次が見えたぞ。」
第二獄。ケルベロスがいる地獄だ。しかし死者が少ないのでケルベロスは寝る事で体力を温存していた。
イオ「あの化物は駄目だな。」
バイアン「ちょっと化物すぎるからな。」
ファラオ「可愛いケルベロスに向かって何を言ってるんだ。」
イオ「お前は?」
ファラオ「それはこっちの台詞だ。何をしにきた。」
イオ「女として売り出す気はないか?」
ファラオ「私は男だぞ。それに売り出すとはなんだ?」
イオ「モデルになる気はないかという意味だ。」
ファラオ「モデル?」
イオ「そうだ。お前は美形だから売れる。女として売り出せばもっと売れるぞ。」
ファラオ「おかまみたいなことできるか!」
バイアン「おかまではないぞ。最初から女として売り出すのだし、スカートなんぞははかないから安心しろ。」
ファラオ「嫌だ。ファラオのプライドが許さない。」
イオ「うまくいけば、金が沢山手に入るが。プライドを捨てて沢山の金をてにいれるか、プライドを保ち少しの金を手に入れるかどっちだ。」
ファラオ「前者を選ぶ。」
イオ「よく言った。」
バイアン「エジプト系はいないからきっと売れるだろうな。さすがイオ。名カメラマン。」
イオ「なんの。ではモデルになるのだな。」
ファラオ「宜しく頼む。」
イオ「じゃあ、他の奴らも見て行きたいから通してくれな。」
バイアン「肌の管理だけはちゃんとするんだぞ。後で迎えに来る。」
ファラオ「あ、ああ。」
ファラオは女として売り出す事に決めた。これで二人である。

イオ「花のいい香りがするな。」
バイアン「ここで撮ったらいい写真ができるだろうな。」
イオ「それに気持ちのよい音楽まで聞こえてきた。」
そう。オルフェとユリティースが暮らす花畑である。誘われるように花畑を踏みしめ、音の発信源に向かっていった。
ユリティース「綺麗な音楽ね、オルフェ。」
オルフェ「君に誉めてもらえると嬉しいよ。」
バイアン「この曲はあんたが弾いてるのか?」
突然二人の世界に入ってきたバイアンとイオ。はっきりいってお邪魔虫であった。
オルフェ「誰だ?」
ユリティース「聖闘士の方?」
オルフェ「こんな奴ら知らない。」
イオ「私達は海闘士だ。」
ユリティース「海闘士?」
バイアン「私はシーホースで、こっちがスキュラ。」
オルフェ「何しに来たんだ?」
イオ「モデル探し。」
オルフェ「モデル探し?」
イオ「海底で写真集を作ってるんだが、モデルが一人倒れちゃったんだ。それ で冥界で有望なモデルがいないか探してたんだ。」
バイアン「その女の人凄く美人だな。」
ユリティース「ありがとう。」
イオ「五体満足だったらモデルにつかうのに。実に残念。カーサ連れてくればよかった。」
バイアン「それじゃここに来た意味がないだろう。奴の苦労が増えるだけだ。」
全くその通りである。
イオ「あんた、やらないか?」
オルフェ「僕はそういうのに興味ないからいいよ。」
バイアン「売れそうな顔してるけどな。」
イオ「金は払うが。」
オルフェ「金に困ってない。毎日琴を愛でて、空腹になったらその辺の花を食えばいい。」
この花畑は愛でる為だけでなく、食用の花も咲いているのである。オルフェは毎日花を食べているので不況知らずであった。
バイアン「随分な暮らしだな。虫みたいだ。」
オルフェ「結構美味いぞ。それにお前らだって海産物コンビだろう。」
イオ「今は違うぞ。地上のものも食べている。」
バイアン「写真集が売れてからファンからプレゼントが届いてな。それで地上の食い物も手に入るようになったんだ。」
イオ「やらないか?」
オルフェ「結構だ。」
バイアン「固い男だな。」
オルフェ「カメラに向かって笑うのは苦手だ。僕は静かにユリティースの側にいればそれでいい。」
ユリティース「オルフェを誉めてくれてありがとう。けれど、こんなにも拒んでいるのだから他の人をあたってはくれないかしら。」
イオ「カメラに向かって、が駄目ならテティスのようになるのはどうだ?プロバイオリニストみたいに全世界をまたにかける名音楽家になるのは。」
オルフェ「琴はユリティースが聴いていてくれればそれでいい。」
イオ「大きな金の卵なんだけどな。その才能を埋めておくなんてなんて勿体無い。」
ユリティース「オルフェには才能があるの?」
イオ「私の目から見れば、テティスに負けない実力がある。ソレントとも手を組みたかったが彼はポセイドン様と一緒に旅をしているのでそれは叶わない。先ほどの琴はすばらしい音色だった。それをほんの少し他の人にわけてはみないか?」
ユリティース「やってみたら?オルフェ。」
ユリティースが優しく語り掛ける。
オルフェ「ユリティース。」
ユリティース「オルフェの琴を皆に分けて、それで幸せにできたらこんな幸福な事ってないわ。」
イオ「金もはいるし。」
オルフェ「だから金には興味ないと・・・・・」
ユリティース「お金は三の次にしたら?オルフェの琴はいい音色だもの。きっと皆を幸せにできるはず。」
イオ「ソレントの笛も幸せにしているぞ。無論タダで。金はこのさいオマケと考えないか?」
オルフェ「君と離れ離れになってしまうが。」
ユリティース「大丈夫。一度は離れ離れになったもの。あなたの琴は時空も超えて聞こえるはず。だから寂しくなんてないわ。それに私のためって言ってオルフェの才能を埋めてしまうのは罪悪感を感じるの。だから・・・・」
オルフェ「僕には才能があるのか?」
イオ「間違いない。後でクリシュナにも話しておく。奴なら君を悪くさせないだろう。」
オルフェ「分かった。宜しく頼む。」
ユリティース「オルフェを宜しくお願いしますね。」
イオ「準備できたら迎えに行くから。」
オルフェ「暇ができるのなら君の側に帰ってくるよ。」
イオ「じゃあな、また後で。」
バイアン「それまで二人で楽しく過ごしていなよ。邪魔して悪かった。」
大きな金の卵をゲットして、気分がよくなりながら、二人は花畑をあとにした。

バイアン「よく、オルフェを落とせたものだ。駄目かと思った。」
イオ「オルフェの弱点はユリティースだ。彼女を落とせばオルフェなどすぐに落ちると思った。」
バイアン「凄い洞察力だな。」
イオ「ありがとう。」
バイアン「本当にオルフェがYESと言ってくれてよかった。」
イオ「ああ。モデルなんてめじゃない。滅茶苦茶金が入るぞ。」
バイアン「ポセイドン様のお役にますます貢献できるな。」
イオ「喜ばしいな。そうだ、あとでカノンにも言っておかなくては。」
バイアン「買ってもらわなきゃね。」
第三獄をポコポコ歩いていた時である。突然大きな岩石が落ちてきた。まさに一瞬のことであった。
ロック「他愛もない。誰だかは知らんが二匹片付けた。クックククク。」
ロックが笑い声を上げたとき、歩く音が聞こえた。それは勿論イオとバイアンである。腐っても海闘士。こんな小宇宙と関係ない岩に押しつぶされるほど柔じゃない。
ロック「貴様ら、いつのまにかわしていた。」
バイアン「いつのまにと言うほど速かったか?」
イオ「ただゆっくりかわしただけだったが。さて、先を急ごう。」
ロック「貴様ら、何者だ?」
イオ「まあいろいろとな。」
ロック「第三獄を通すわけにはいかん。ローリングボンバーストーン!!。」
バイアン「悪いが先を急ぐ。
ゴッドブレス!!。」
バイアンのゴッドブレスによりロックははるか彼方まで飛んでいった。聖闘士より弱い海闘士にやられるあたり、このへんの冥闘士もたいした実力じゃない。
イオ「すっごく弱いな。」
バイアン「そうだな。私の息吹一つで見えなくなってしまった。」
イオ「戻ってこられておかしな戦闘が始まっては困る。命より大切なカメラを壊されてはたまらないからな。」
イオがカメラのボックスを愛しそうに撫でた。
バイアン「少し急ごうか。」
面倒な事から逃げるため少し駆け足になった。そんな矢先
イワン「貴様らどこへ行く!!勝手に第三獄を通ることは許さんぞ。俺の名は・・」
イオ「
クイーンビーズスティンガー!!
名前どころか、星の名も言えなかったイワン。一撃で倒された。
イオ「第三地獄は碌なのがいない!」
バイアン「オルフェと別れてから二人ほどみかけたが、どれも最低だな。優雅とか気品とかなんてものからかけ離れた正真正銘阿修羅だな。」
イオ「名前を聞くことが既に無意味だ。先を急ごう。」
次の地獄は暗黒の沼。渡るならイカダを使わなければいけない。
フレギアス「貴様ら聖闘士か?」
イオ「海闘士だ。」
フレギアス「海闘士が何のようだ。ハーデス様を倒しにでも来たのか?」
イオ「あんた、ちょっと聞くがハーデスは美形か?」
フレギアス「何を突然。」
イオ「いや、美形だったらモデルにしたいなと思って。」
フレギアス「モデル!?ポセイドンは芸能プロでも作る気か?」
イオ「私達の独断だ。」
フレギアス「何の為に。」
バイアン「ポセイドン様に尽くすために。」
フレギアス「ハーレムでも探すのならこんなトコ来るな。」
バイアン「ハーレム作りなどばかげた事。平和を守る努力をされているポセイドン様に私達は死力を尽くしているのだ。」
イオ「と、いうわけでイカダに乗せてくれないか?戦いは御免だぞ。金なら払う。」
フレギアス「金を持っているのか?」
バイアン「勿論だ。冥界の金の単位はなんだ?円か、ドルか。」
フレギアス「マルクだ。」
イオ「なんだそりゃ。」
フレギアス「ハーデス様とパンドラ様はドイツ出身。だから貨幣もドイツの貨幣なのだ。」
イオ「今持ち合わせがドルしかないのだが。」
フレギアス「構わない。後で両替する。」
バイアン「いくら払う?」
イオ「面倒だから一万ドル。」
財布からポンとだす。一万ドルも入る財布があるというのにも驚きだが、そんなに持っているイオもイオである。
フレギアス「お前ら、そんなに金持ちなのか?」
バイアン「貧乏だ。」
フレギアス「一万ドルもあってどうして貧乏なんだ!」
バイアン「寄付するのが第一だからだ。その金は経費として使っている。自由にできる金ではない。」
イオ「毎日食べられるくらいの金しか持ってはいない。」
バイアン「何より税金が大変なんだよな。バッチリとっていきやがる。」
フレギアス「俺達は今日食う飯の金すら危ういんだぞ!」
バイアン「冥界は今不況なのか。」
フレギアス「そうだ。死者が減っているので金が全然入らないのだ。」
イオ「そういうわけか。」
バイアン「今、冥界の弱点は金!金を条件にすればすぐYESが返ってくる。」
イオ「疑問が確信に変わってよかった。あんた、渡らせてくれないか?モデルを探したい。そのモデルで写真集を作るんだ。」
フレギアス「俺達のメリットは?」
イオ「もし、売れたら売り上げの三割を冥界に差し上げる。」
フレギアス「OK!乗せよう。あ、一万ドルは俺のものだからな。」
イオ「分かっている。戦いをしなくていいのならそんな金くらい別に構わない。」
フレギアス「では、出発しよう。」
前回はカノンに倒されたが今回は平和的な解決に落ち着いた。フレギアスはイオとバイアンを第五獄まで連れていった。

バイアン「暑いな、第五獄は。」
イオ「こんなところじゃ良い写真なんか撮れないぞ。」
バイアン「アイザックに頼んでセット作ってもらうか。これじゃ売れないぞ。」
イオ「花畑以外に綺麗なところはないのかね。ほら、でっかいクワガタムシまで倒れてる始末だ。」
そのクワガタムシが冥闘士だとは思わない海闘士。
バイアン「さっさと通りすぎよう。こんなとこにいたら死んでしまう。」
イオ「海の中にいたから暑さに弱いんだよな。干からびたらお終いだ。」
倒れてるクワガタムシを無視して、二人は第五獄を抜けた。

バイアン「なあ、碌なのがいなかったな。結局三人だぞ。」
イオ「とうとう第八地獄まで来てしまった。途中でカエルやミミズに会ったが最低だった。」
カエルとはゼロス。ミミズとはワームの事。どちらも容姿、性格共に劣悪である。
バイアン「どうする?これっぽっちで活動できるか?」
イオ「さあ。しかし、少し前まではお前とエスメラルダだけでやってたから大丈夫かもしれないか。」
イオとバイアンは多少疑問を持ちながら一の圏カイーナに入った。カイーナは地獄の監視場所である。いろいろなオペレーションシステムがあり、すみずみまで見る事ができる。
イオ「やっぱり、駄目だな。」
バイアン「少しは希望を持ってたんだが。」
希望を失わせたもの。それはパピヨン、ミューだった。
イオ「化物だ。」
バイアン「この企画に無理があったか?ここまで化物じみていたとは。」
ミューの初期形態を見れば誰でもそう思うだろう。
ミュー「君達は誰だと聞かなくてもフェアリーで見ていたから分かる。海闘士達だな。」
バイアン「そうだ。」
ミュー「モデルを探しに来たのだろう?」
イオ「そうだが、碌な人間がいない。カエルもミミズも最低だった。性格まで捻じ曲がっている。」
ミュー「私は?」
イオ「
人間の形をしていないものに対しては何を言う気すら起こらん!
ミュー「私も人間なんだがね。」
イオ「それがか!」
ミュー「あまりにも空腹なので初期形態でしか空腹を凌げないのだ。今最終形態になるからしばし待て。」
ミューが糸を吐き、繭の中に身を包んだ。幼虫を通りすぎ、一気に最終形態になる。
ミュー「どうだ。これなら人間だろう。」
イオ「美形だな、意外に。」
バイアン「確かに。あの姿からは考えられない。」
イオ「今の姿からなら、モデルになるな。ならないか?」
ミュー「なる。」
イオ「女性として売り出しても良いか?」
ミュー「任せる。」
バイアン「これで四人だな。」
ミュー「次のアンティノーラには人が沢山いるから寄るといい。仕事がないので休んでる奴らが多いのだ。」
イオ「ありがとう。早速行くよ。じゃあ。」
イオはミューに礼を言うと、二の圏アンティノーラに行った。アンティノーラは冥闘士の家。ドーナツ状になっており、各自個室が与えられている。ドーナツ状の中心は修行場となっており、日々鍛錬をする事ができる。
イオ「こんにちは。」
バレンタイン「誰だ?」
修行場のはずなのだが、沢山の冥闘士がそこに寝っころがっている。枕まで用意してる奴もいる。
イオ「私達は海闘士。何してるんだ?」
バレンタイン「仕事がない上、食糧もつきかけている。」
イオ「その辺は分かるけど。」
バレンタイン「皆一緒にいないと最早餓死するのにも気づけない。よって、修行場で皆休んでいる。」
バイアン「修行場が台無しだな。」
バレンタイン「
修行する自体が破滅の一歩なのだぞ。で、何しに来た。」
バイアン「モデル探し。今、ここにいる奴らで、美形な奴はいないか?」
バレンタイン「そうだな。クィーンとシルフィード、ゴードンなんかもいいかな。おーい、御指名だぞ。」
クィーン「なんだ?腹が減るのでできれば寝ていたいのだが。」
ゴードン「貴様ら、こんな私的なところまで何の用だ。」
シルフィード「ここにきても、何の価値もないぞ。」
イオ「いや、おおいにある。君達三人は十分モデルになる。」
クィーン「モデル?」
イオ「そうだ。それに使えるモデルを私達は探しに来たのだ。」
ゴードン「その為にわざわざ冥界に来たのか?」
シルフィード「何の為に?」
バイアン「ポセイドン様の為に。」
クィーン「ポセイドンに尽くす気はない。」
イオ「金が欲しくはないのか?」
バレンタイン「なんだと?」
イオ「写真集を作り、その売り上げを私達は寄付しているのだ。ポセイドン様は現在平和のために働かれている。同僚の一人も然り。私達が何もしないのは忠誠に反する事と考えたのだ。」
ゴードン「それで?」
バイアン「売り出して、売れたのは良いのだが、同僚の一人が過労で倒れてしまって負担を軽くするために、新しいモデルを探しているのだ。今までにルネ、ファラオ、オルフェ、ミューがOKサインをだしてくれている。」
クィーン「何か得はあるのか?」
イオ「勿論だ。そうでなきゃやってこない。その写真集の売り上げの三割を冥界に差し上げる。」
バレンタイン「三割だけか?」
イオ「不満か?あんたらはただセットの上で笑っているだけで良いのだぞ。そのあと、編集したり、現像したりするのは私たちなのだ。セットでさえ、アイザックが作る物だ。その差に文句があるか?」
バレンタイン「ない。」
イオ「あんたもモデルに入れ。気に入った。」
バレンタイン「ありがとう。貧乏から脱出できるのならやります。」
ゴードン「俺も。」
シルフィード「同じく。」
クィーン「異議なし。」
バイアン「一気に八人か。喜ばしいな。」
イオ「本当だな。」
バレンタイン「美形なら、冥界三巨頭もだ。それにパンドラ様も。」
バイアン「本物の女性だ。」
イオ「本物の女性を撮るのは初めてだな。どんな人だ?」
バレンタイン「会えば分かる。」
バイアン「じゃあ、会いに行くか。お前ら、死ぬなよ。私達が迎えに行くまで。」
シルフィード「努力する。」
クィーン「次の圏トロメアは単なる書庫室だ。多分誰もいないから入らずにジュデッカに行くといい。」
バイアン「ありがとう。」
イオ「失礼した。またな。」
イオとバイアンはアンティノーラをあとにした。

ラダマンティス「今、冥界に残っている食料は五日分くらいしかありません。」
パンドラ「その間、ここに訪れる死者の予想は?」
ミーノス「残念ながら百人がせいぜいかと。」
パンドラ「それじゃあ、せいぜい五日が七日に増えるだけだ。何かてだてはないか。」
アイアコス「アルバイトでもなさりますか。」
パンドラ「私はアルバイトの仕方などわからぬ。元お嬢様だし、ハーデス様の下僕として育ったゆえ。」
ラダマンティス「あなた様の食事くらい、私が稼いでみせます。」
パンドラ「ありがとうラダマンティス。」
ミーノス「しかし、本当にどうにかしないと。」
パンドラ「ハーデス様にご心配をかけるのはとても恐れ多い事。冥界の不況は私達で乗りきらなければ。」
イオ「あんたらが冥界三巨頭とパンドラか?」
パンドラ「何奴!」
イオ「海闘士の者だ。」
ミーノス「海闘士!?何しに来た。」
パンドラ「またもやハーデス様を倒そう等と考えてる輩か?」
イオ「なかなか美形ぞろいだな。」
パンドラ「質問に答えろ!」
バイアン「その美貌がカエルやミミズに少しでもあれば・・・・」
パンドラ「質問に答えろと言っているのだ!」
イオ「結論から言おう。全員モデルとして合格だ!」
パンドラ「なんだと?」
イオ「私達は今写真集を作り、それを売りさばき、その売り上げを寄付して生活している。」
ラダマンティス「海界はそんな優雅な暮らしができるのか。羨ましい。」
バイアン「しかしだ、私の同僚の一人が過労で倒れてしまってな、活動できるのか怪しくなってしまった。よって、負担を軽くするために新しいモデルを探しに来たのだ。」
イオ「ルネ、ファラオ、オルフェ、ミュー、バレンタイン、ゴードン、シルフィード、クィーンの八人がOKをだしてくれている。」
パンドラ「聖闘士だけでなく冥闘士まで。何故だ。」
アイアコス「力でねじ伏せたか?」
バイアン「そんな野蛮な事はしない。ちょっと条件をつけたら、すぐ飲んでくれた。冥界では今不況だそうだな。」
パンドラ「お前らには関係のないことよ。早く帰るがよい。」
イオ「モデルとなってくれたら、売り上げの三割を冥界に差し上げる事になっているが・・・・・」
パンドラ「なんだと!金をくれるのか?」
イオ「勿論だ。嘘はつかない。」
パンドラ「ちょっと考えさせてくれ。」
ヒソヒソヒソと話し始めるパンドラと冥界三巨頭。十五分経った時パンドラが返事を出すべくすっと立ちあがった。
パンドラ「その話、お受けする。モデルとなろう。」
イオ「ありがとう。よかった、これで十二人。」
バイアン「立派な活動ができるな。」
パンドラ「先ほどの話、嘘ではあるまいな。」
イオ「嘘ではない。寄付の金額がそちらの方へ少々行くだけで何も思う事はない。食い物にも不自由してないし。」
アイアコス「そんなタカビーなことを言うな。こちらは明日の飯も危ういのだぞ。」
パンドラ「こちらの弱みをそれ以上みせるではない。」
バイアン「それだったら、今度来る時食糧持ってこようか?」
ラダマンティス「あるのか?食糧。」
バイアン「ファンがいろいろ食糧を送ってきてくれてな。おかげで若布サラダがトマトサラダや牛肉サラダに変貌するほど、地上の食糧が溢れている。」
ラダマンティス「羨ましすぎる。」
バイアン「ただ、異常なファンもいてな。そんなファンから送られる品物を始末するのが大変なんだ。十二単とかボディビルダーセットとか」
イオ「カノンに始末してもらっているが。」
アイアコス「そんな奴は一人もいないぞ。」
バイアン「何が欲しい?」
ラダマンティス「何でもいい。腹にたまる食糧を持ってきてくれ。」
バイアン「分かった。お近づきの印に新鮮な食糧を持ってこよう。だから今度来る時肌の調子を整えてくれ。」
イオ「それから、冥界には第二獄のはずれの花畑のような美しい場所はないのか?」
ミーノス「ないから地獄なのですよ。」
イオ「ないのか。ならアイザックに頼むしかないが。」
パンドラ「エリシオンにならある。とても美しいところだ。」
イオ「そこを使えないか?」
パンドラ「ヒュプノスとタナトスに聞いておこう。」
ラダマンティス「パンドラ様、よかったですね、不況を脱せそうですよ。」
パンドラ「そうだな。アンティノーラで死にそうになっている冥闘士達の命を永らえさせる事もできそうだ。」
バイアン「こっちこそ、冥界に来た甲斐があった。」
イオ「フィルムが一枚無駄にはなったが十二人ものモデルを見つける事ができたからな。」
バイアン「一人は大きな金の卵のオルフェだし。」
イオ「まずは冥闘士で売ってみよう。」
バイアン「目標は何部?」
イオ「とりあえず、誰もファンがいないから一万部くらいかな。」
ラダマンティス「他にモデルはいるのか?」
イオ「ああ。同僚が変化した黄金達とエスメラルダ。それとバイアンだ。黄金とエスメラルダの人気はすさまじくてな、ソロデビューすることになっている。」
ラダマンティス「俺達もソロデビューできるくらいになってやるぜ。」
バイアン「無理だと思うぞ。女じゃないから。」
ラダマンティス「黄金は男しかいないだろう。」
バイアン「それが、数人は女性として売り出している。」
ミーノス「何てことだ。」
バイアン「ここの冥闘士だって何人かは女性として売り出すんだぞ。」
アイアコス「誰だ!?」
イオ「ファラオとミュー。この二人は女として売り出す事を決めた。」
パンドラ「二人共承知したのか?」
イオ「ああ。」
パンドラ「ならば何も言うまい。」
バイアン「私達はポセイドン様にますます貢献できて、あなたたちは不況から脱け出せる。まさに一石二鳥だな。」
パンドラ「ハーデス様に代わって私が挨拶をする。両方の利益の為にこれから宜しく頼む。」 
イオ「こちらこそ。」
ギュッと手を双方握り合う。
パンドラ「今度来たら連絡してくれ。テレポーテーションでここまで飛ばす。」
イオ「それはありがたい。ここまでくるのは結構な道のりだった。」
新しくモデルが手に入った。カーサの負担もこれで軽くなるはずだ。さて、冥闘士の評判はどうなるのか。そしてオルフェは名音楽家になれるか。それはイオとクリシュナの手にかかっている。


あとがき
何の面識もない海闘士と冥闘士の初の対面です。まあ、聖闘士に倒されちゃったから面識ないのは当然だけど。冥闘士もとうとう写真集にデビューすることが決まりました。参加は十二人。まあまあいい人数です。これでカーサの負担が減り、ソロデビューへもうまく事が進むでしょう。聖、海、冥と全て制覇です。海闘士はバイアンしかいないのでちょっと少ないのですが、我慢してもらいましょう。オルフェの琴もクリシュナが手をかけ、プロハーピストになることでしょう。世界平和維持活動もうなぎのぼりになってきました。頑張ってどんどん寄付してもらいましょう。今回の裏シナリオ。アイザックはゴジラサイズの氷像をまるまる三日徹夜して仕上ました。ちなみに横長です。注文したのはアフリカの大富豪で、庭というか荒野に氷像を飾っています。ナスカの地上絵のようです。
 
         
BY  MUTUMI