イメージチェンジ

イオ「もう少し笑ってくれないか？」
海闘士が冥界の闘士達をモデルと起用してから一週間。今日は冥闘士だけの雑誌を発行するべく、撮影を行っているのだった。
パンドラ「先刻から笑っている。文句あるのか？」
イオ「おおありだ。そんな含み笑いや薄笑いを止めて可愛らしく笑ってくれ。」
パンドラ「こ、こうか？ニコ。」
イオ「顔がひきつってる！」
バイアン「なあ、イオ。休憩したら？血管切れるぞ。」
カーサ「こっちは休憩のし過ぎで欠伸が出るけどよ。」
イオ「じゃあ、十分休憩だ。」
カメラを外して花畑に倒れこむ。フワッと花弁が舞い散る。撮影はタナトスとヒュプノスを口説き落としてエリシオンで行っているのだった。
イオ「困った。パンドラが全く撮れない。」
カーサ「妥協すれば？」
イオ「妥協レベルにも届かない！モデルは笑顔が命なのに笑ってくれなきゃぶち壊しだ！」
ラダマンティス「失礼だな、お前は。」
ラダマンティスが話しかける。口にはチョコレートがついている。
イオ「あ？」
ラダマンティス「パンドラ様の魅力に気づかないお前がバカなんだ。パンドラ様はあの冷静さが魅力なんじゃないか。笑うだけがモデルじゃない。」
イオ「悪いが、冷静を通り越して不気味で怖いんだよ。撮ったら私の魂取られるんじゃないかって不安だった。」
ラダマンティス「失礼過ぎる！モデル降りるぞ！」
カーサ「じゃあ、今度から食糧不足で死ぬけど？」
バイアン「誰よりも食べてるくせに。」
冥界には空腹で死にそうな冥闘士の為に持ってきた食糧があるのだった。五百人分は持ってきたはずだが、もう半分に減っている。冥界三巨頭分の食糧もエリシオンに運んだが、もう殆どなくなっている。
カーサ「とりあえず、あんたらは撮影終ったから良いじゃないか。食べてろよ、思いっきり。」
ラダマンティス「凄く今嫌味に聞こえた。」
カーサ「気のせいだろ。」
今現在の上下関係は海闘士が高い。
パンドラ「なあ、イオ。笑うとはどういう事だ？あまり笑わなかったのでわからないのだ。」
イオ「冥界に住んでたのが不運としか言えないな。カーサ、エスメラルダだせ。」
カーサ「へいへい。」
ブウンとエスメラルダに変化した。得意の笑顔を見せる。
エスメラルダ「まあ、ここまでとは言わないけれど、せめてムウくらいの微笑みは出して欲しいかしら。」
流石、血の繋がりは無くても瞬とそっくりなだけあって、どこか人目を引く華やかな雰囲気を持っている。例え、変化だとしても。
パンドラ「私なんぞ使わなくても、エリシオンには美形のニンフが大量にいるじゃないか。タナトス好みだがな。」
イオ「駄目だ。こんな脳味噌がとろけそうなところにいる所為か、はっきりいってムカツクニンフばかりだ。知性の欠片も無さそうだ。」
バイアン「私から言わせてもらうと、ニンフよりもパンドラの方が売れると思う。ニンフをピカピカに磨いたガラス玉に例えると、パンドラは黒真珠って所だ。」
パンドラ「ありがたいが、相当撮影が滞っている。すまないとしか言えない。」
イオ「原石を輝かせるのが私の仕事だからな。」
プルルルプルルル
電子音が鳴った。イオは懐から携帯をだすと、ボタンをONにした。
イオ「はい。」
アイザック「イオか？」
イオ「ああ。」
アイザック「俺だ。アイザックだ。撮影の方はどうだ？」
イオ「ん、まあまあ。」
アイザック「そうか。さっきな、仕事が一息ついたんだ。」
イオ「それを報告しに電話してくれたのか？」
アイザック「俺はそっちの仕事の関係者でもあるんだぞ。裏方の小道具大道具係だがな。」
イオ「すまないな、二束の草鞋履かせて。」
アイザック「まだかかりそうか？」
イオ「もう少しな。」
アイザック「そろそろヤバイんじゃないのか？」
イオ「実はそうだ。」
アイザック「オチないように気をつけろよ。」
イオ「頑張るよ。」
アイザック「それじゃ。」
イオ「ああ。」
プチッと携帯をきった。
ラダマンティス「お前ら携帯なんて持ってるのか。」
カーサ「イオだけ。この仕事、地上と絡んでるから必要なの。」
パンドラ「どうやって通信してるのだ？確か海底の底にいるんだろ？」
バイアン「各柱に一個ずつ電話があってな、親機がポセイドン神殿にある。」
パンドラ「それで？」
バイアン「電話回線に小宇宙を送りこんで電話回線のかわりにするんだ。携帯の場合は小宇宙を電波の代わりにして送る。」
ミーノス「繋がるのですか？」
イオ「繋がるのは今見ただろう？」
ミーノス「まあ、そうですが・・・・」
ラダマンティス「逆はどうするんだよ。地上から海底へは？」
カーサ「小宇宙を貯めておく。蓄電ならぬ蓄小宇宙しておけばOK。」
パンドラ「そういう小宇宙の使い方もあるんだな。」
意外な小宇宙の使い方に感心した冥界の人間達だった。
ラダマンティス「それにしても、何でミュー達が女として売り出さなきゃいけないんだ？」
イオ「女性がいなきゃポンコツの雑誌で一冊売れるか分からないからだ。女性は沢山いた方が良い。」
ラダマンティス「酷い言い方だ。俺達はゴミかよ。」
アイアコス「黄金聖闘士はどうなんだ？」
カーサ「これ、みてみて♪」
カーサがばさっと写真集を投げた。冥闘士だけあって全部受け取る。
ラダマンティス「何だこれは・・・・・げ、ムウ！シャカ！アフロディーテ！」
カーサ「私の変化だけど素敵でしょう。」
ラダマンティス「黄金で女装してるのはこいつらだったのか。」
バイアン「美形だから売れる売れる。」
カーサ「水着が着れないのが残念だけど。」
ラダマンティス「こいつらこれ知ってるのか？」
イオ「実は知らないんだよなあ。」
ラダマンティス「大丈夫なのか？」
カーサ「そうなったらそうなったで、海底捨てて他の所で活動しようかなあって。」
ラダマンティス「こっちに連れてくるなよ。」
イオ「大丈夫だ。既に同志。死ぬときは一緒一緒。」
ラダマンティス「ふざけるな！」
小宇宙が爆発する。花弁が花霞となった。
ミーノス「静かにしたらどうです？食後の腹ごなしにしてもここはエリシオンですよ。」
ミーノスがラダマンティスをたしなめた。
パンドラ「本当に感情が激しい奴だ。私もお前くらいできたら問題は無いのに。」
ラダマンティス「それは誉めてくれているのですか？」
パンドラ「勿論だ。」
誉められてるのかけなされてるのかいまいち疑問な発言である。
パンドラ「そういえば先刻オチるとか何とか・・・・」
イオ「モデルが気にすることじゃない。」
パンドラ「もしかして私が原因か？」
イオ「大丈夫。まだ時間あるから。」
バイアン「無いだろうが。あと一週間以内に仕上なきゃ写真集だせないんだよ。」
イオ「こら！余計な事を！」
パンドラ「そうなのか。大変申し訳無い。」
イオ「いや、私がこだわりたいだけだから気にしないでいい。」
カーサ「そう言うけどもう二週間寝てないじゃない。大丈夫？」
イオ「大丈夫。テティスやクリシュナの忙しさに比べたら。」
バイアン「休めば？」
イオ「できないだろう。休んだら本当に写真集がだせなくなる。収入無くなるぞ。」
パンドラ「どうすればいいだろう。どうしても上手く笑えない。」
カーサ「いっそイメチェンは？」
パンドラ「イメチェン？」
バイアン「いいかもな。重苦しい黒い服に重そうな髪形してるから気分が暗くなるんだ。」
ラダマンティス「この姿が駄目だというのか？」
カーサ「この姿も可愛いけど、もっと可愛くなると言ってるの。」
ミーノス「パンドラ様どうしますか？」
パンドラ「しょうがないだろう。このままじゃ写真集がだせないのではな。ただでさえ私のショットずるずると後回しにされて一番最後になったというのに。」
イオ「ふむ。イメチェンか。いいかもしれない。スタイリストがいればいいのに。私はカメラマンだからな。その辺はどうも分からない。」
バイアン「今までスタイリスト無しでやって来た事が奇跡だな。」
カーサ「一般公募してみる？スタイリスト大募集って。」
バイアン「だが、海闘士以外の人物をメインに加えるのは少し嫌だな。全て今まで私たちでやってきたのに。折角海闘士がたてた企画なんだから。」
イオ「いいが、いるか？海闘士の中でスタイリスト。」
カーサ「バイアンは？」
イオ「バイアン？」
カーサ「できるはず。洋服はバイアンが作ってるんだもの。実質スタイリストに変わりはないわ。」
バイアン「なるほど、今までモデルに合うように作ってきたからスタイリストには変わりは無さそうだ。」
イオ「頼むぞ。大丈夫か？」
バイアン「大丈夫だ。」
イオ「道具は？」
バイアン「揃えてくる。自分のは海将軍になったときにほかしたからな。経費はそっちもちな。」
イオ「領収書持って来い。ついでに丈夫なのな。壊れやすいのを使うと後々金がかかる。」
バイアン「分かった。」
バイアンは道具を買い揃えに、通行許可証を使ってエリシオンからでていった。パンドラの最終的な撮影は翌日行われる事になったのだった。

アイザック「この女の撮影で俺まで狩り出されるとは。」
イオ「まあまあ。仕事は一息ついたんだろ？」
アイザック「まあな。昨日一日寝て小宇宙も回復したし、大丈夫だ。」
イオ「頼んでた物は？」
アイザック「任せておけ。」
バイアン「それでは、パンドラのイメチェンを開始します。」
専用のはさみを持ってやる気十分だ。
バイアン「まず、この重苦しい髪型を何とかするか。肩甲骨あたりまで切ってもいいか？」
パンドラ「ああ。」
パンドラ「じゃあ、肩甲骨まで切って軽くするためにシャギーいれよう。」
専用はさみを使ってチョキチョキ切っていく。前髪も、眉の辺りまで揃える。
ラダマンティス「慣れた手付きだな。」
バイアン「海将軍をやっていて忘れていたが、私は実は美容院の息子なのだ。よくカツラを玩具代わりにして切って遊んでいた。小学生の頃既に、カナダヘアデザイナー大会少年の部で優勝をしている。できるのは当たり前だろう。」
イオ「流石だ、バイアン。」
軽く鼻歌を歌いながらパンドラの髪をちょきちょき切っていく。
バイアン「さあ！これでどうだ？」
バサッとパンドラに着せていた汚れ防止のマントを取った。
全員「おお〜」
怪しい女からどこかのお嬢様に変貌した。
バイアン「どうです？素敵でしょう。重たるしい雰囲気が消えたでしょう？」
ラダマンティス「とても綺麗です、パンドラ様。」
パンドラ「そ、そうか？何だかこうじろじろ見られるのは恥ずかしいな。」
そっと少し頬を赤くして顔を背ける。
ミーノス「流石、ハインシュタイン家の娘さんですね。見目麗しゅうございます。」
アイアコス「俺達はこんな美人の配下だったのか。知らなかった。」
イオ「やはり私の目に間違いは無かったな。こう見目が良くなると服も変えなくては。バイアン、選べ。」
バイアン「ああ。え〜と・・・・」
バイアンが持ってきた衣装箱から服を幾つか引っ張り出す。
バイアン「昨日大急ぎで作ったから少々雑かもしれないが私が計ったデータから作った物だからサイズはピッタリだと思う。」
ラダマンティス「貴様!!何あっさりとぬかしてやがる。」
バイアン「私はパタンナー兼デザイナーだぞ。衣装は全部私が作っているのだ。」
カーサ「バイアンなかなかセンスが良くて俺達のイメージにピッタリなんだぜ。美容院の息子でカナダ大会優勝の持ち主なら当たり前って感じだけど。お金も最初の頃より破格の値段で済むようになったし。」
バイアン「アルテミスには遠く及ばないが。」
ラダマンティス「おい。ピッタリと言う事はパンドラ様の身体に触れたと言う事だよな。」
バイアン「触れなきゃ分からないだろう。お前のだって計ったじゃないかって、いうか全員分計ったけど。」
ラダマンティス「パンドラ様に何かヘンな事しなかったろうな。」
バイアン「地雷を踏むわけ無いだろう。普通に計っただけだ。」
パンドラ「心配するな。普通に計られただけだ。バストタッチもセクハラも何も無かったから安心しろ。ラダマンティス、私の心配をしてくれるなんて、本当にお前は忠誠心厚い男だな。」
ラダマンティス「ありがとうございます。」
空振りストライクのラダマンティスの心。心では血の涙が零れている。
バイアン「これが良いか。着てみてくれ。」
パンドラ「分かった。」
カーサに服を渡されて、誰にも見られないところで着替えに行った。

バイアン「うん♪」
バイアンが満足そうに微笑む。パンドラは闇の娘から光の娘へと新たな変貌を遂げていた。白の何も飾りの無いシンプルなロングドレスは黒髪を強調させ、エレガンスな雰囲気をかもし出している。
バイアン「レースやリボン、スパンコールやコサージュもあったのだけれど、パンドラにはゴテゴテしたものは合わないと思って。何もないボートネックラインにスタイルいいから腰をキュッとしめて腕は手首にフリルをつけて上品さをだしてみた。」
アイザック「流石に首が寂しいだろう。ちょっと待ってろ。」
左の掌を目の前に置き小宇宙を高め、右手で何かをするように動かす。凍気がアイザックの思うそのままに形になっていく。
アイザック「ほい！いっちょあがり！」
ふっと力を抜き、左手に何かがポトリと落ちた。
アイザック「アイザック特製のネックレスだ。ほれ。」
ポンと投げる。つけてみるとパンドラをささやかに彩った。
パンドラ「ありがとう。」
アイザック「これも仕事だ。あ、あとそれから・・・・」
どっこらせとでもいうように、アイザックが何かを運んできた。
アイザック「昨日作ったテーブルと椅子だ。」
イオ「ありがとうアイザック。昨日頼んだそのままにできてるな。」
アイザック「これも仕事のうちだ。それに今仕事は片付いてるしな。」
イオ「パンドラ、今日はこのセットも使うぞ。無理に笑わなくても良い。無表情でも眠ってくれても構わない。さあ、パンドラの撮影開始だ。」
パンドラを椅子に座らせての撮影。雰囲気が変わると気持ちも変わるのか、パンドも笑顔までは見せなくても十分魅力がでたのだった。

カーサ「やった！何とか二万部いったぞ！」
バイアン「良い滑り出しだな。」
アイザック「パンドラも結構可愛いし、他の女としてうりだした奴らも悪くない。」
バイアン「パンドラに少々霞んでる気がするな。」
カーサ「パンドラは一番の権力者だからじゃないか？」
バイアン「それはあるかもしれないな。次はあいつらの服ももっと考えてみよう。」
アイザック「イオはどうした？まだ寝てるか？」
カーサ「ああ。やっぱ無理がたたったんだろ。もう三週間眠ってるぜ。」
バイアン「写真集を入稿した直後倒れたからな。」
アイザック「はやく売れている事を知らせてやりたいものだ。」
イオが眠り始めて三週間。製作関係者にスタイリストのところにバイアンを加え、冥闘士達の写真集サープリスは現在も発売中。


あとがき
写真集シリーズ冥闘士編。パンドラのイメチェンです。パンドラ笑うと怖いです。本当に。イオも大変です。作中のパンドラをイラストで見れたら面白いですが、私のイメージではDrリンの万里です。さて、バイアンが美容院の息子というのが発覚しました。柊的改造してしまってすみません。許してください。このシリーズは完全にギャグでいってるんです。バイアンがスタイリストになり、海闘士は忙しくなりそうです。現在の役割をあらわしてみると
カメラマン・・・イオ
スタイリスト・・・バイアン
パタンナー＆デザイナー・・・バイアン
セット、小道具大道具・・・アイザック
モデル・・・カーサ、バイアン
パソコン処理・・・イオ
ソロ写真集内容・・・マユ（カーサ）、エスメラルダ（カーサ）、ウェヌス（カーサ）、ローズ（カーサ）
写真集最終製作・・・イオ
氷工房クラーケン・・・アイザック
です。一人何役も大変ですね。今回の裏シナリオ。サイズは、全部コンピューターにデータをうちこみ、専用のマネキンを作ります。モデル全員のマネキンが柱のそこかしこにあります。おたくではありません。仕事です。そのお金は経費から。金持ちですもの、海闘士は。


　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI