退屈しのぎに賭けをしよう
うだるように暑い聖域で、暑苦しい男達は大変暇だった。
デスマスク「すっげ、暇なんだけど」
ムウ「だったら、訓練でもしたらどうですか、アイオリアみたいに」
デスマスク「俺様の体は大変デリケートにできてるから、こんな日に外に出たら日射病でお陀仏だぜ」
ムウ「まあ、確かに炎天下の中、自らを鍛えるためと日焼け止めもつけずにマラソンしているアイオリアは異常だと思いますがね」
異常というより、アホだろう。
カミュ「暑い。もっと冷房きかせてもいいか？」
ミロ「良い良い！！凍えるくらい寒くしようぜ。ムウ、毛布貸してくれよ」
ムウ「やめてください！！」
ミロ「え〜〜！外はうだるくらい暑いのに中はシベリアばりに寒いのってとっても快感なんだぜ！」
ムウ「環境に悪すぎです！私はいつも２８度に設定しています」
ミロ「え〜〜、そんなんじゃ涼しくもなんともないぜ。カミュ、いいから冷房下げて下げて！」
ムウ「ここは私の宮です！！！！！」
そう。実は、今みんながいる場所は白羊宮なのである。
ムウ「ていうか、何で白羊宮に来るんですか」
シュラ「すまない・・・クーラーが故障してしまって・・・」
アフロディーテ「私の宮は太陽に近くってもう暑くて暑くて」
ミロ「ここだったら買物も近いし〜〜。ムウにはわかんないと思うけど最近石段が熱帯びててさ〜、卵割ってみたら目玉焼きできちゃってさ〜」
ムウ「アルデバラン・・・あなたは隣りでしょう？来る必要は無いのでは？」
アルデバラン「いや・・・一人ぼっちというのは少々寂しいのでな」
ムウ「カギっ子ですか、あなたは・・・・。一人ぼっちではないでしょう？サガは今も教皇の間で仕事中じゃないですか」
シャカ「仕事魔のサガと、凡人のアルデバランと比べたら可哀相ではないか。仕事がしたくても、仕事がないのだよ」
デスマスク「それ、フォローのつもりで塩塗ってるよな」
しかも、傷口を新たに作ってである。
シュラ「それはさておき、サガはまだ仕事なのか？一週間近く双児宮に帰ってないみたいだが」
シャカ「おや、何でそんなことを知っているのだ。まさか、サガのストーカーか？」
シュラ「んなわけあるか！俺の宮へは双児宮を通らなきゃいけないだろうが。通るたびに部屋が汚れているから帰ってないんだろうなと思ってるだけだ！」
アフロディーテ「流石シュラ。するどいのは目つきだけじゃないんだな」
シュラ「誉め言葉になってないぞ」
カミュ「部屋が汚いのは、もう一人の宮の主のせいじゃないのか？」
ミロ「・・・・誰？」
カミュ「カノンだよカノン」
ミロ「あああ！！なるほど！！もう、そう言ってくれよ！！」
カミュ「大体そう言っているんだが・・・お前、カノンをどう思ってるんだ」
ムウ「今のミロの発言、カノンが聞いていたらさぞかし落ち込むでしょうねえ。まあ、正式な宮の主はサガなんで居候といっちゃーその通りなんですけどね」
カミュ「そういえば、今ここにカノンいないけど双児宮にいるのだろうか？」
ムウ「いるでしょう。多分、爆睡していますよ。なんたって、朝帰りですから」
カミュ「そうなのか、知らなかった」
ムウ「千鳥足で修復完成間近の聖衣を軒並み倒していきやがりましたよ。まあ、仕返しはしてやったので、恨みも何もありませんけどね」
どんな仕返しをしたかは恐ろしいので聞けない。
アルデバラン「じゃあ、サガが帰ってきたらきっとびっくりするだろうな」
シュラ「びっくりじゃすまないんじゃないか？火山大噴火かも」
ミロ「意外に笑って許したりして」
ムウ「・・・・暇ですし、賭けます？帰ってきたら怒るか許すか」
デスマスク「暇だし、やるか！」
こうして、ギリシャ一くだらない賭けが始まったのであった。
ムウ「サガ、仕事がんばってますか？」
サガ「言われなくても頑張ってるわ」
今も書類が山積みの教皇の間。あまりに宮に帰ってないので、サガ自身、身だしなみが乱れてきている。
サガ「ムウ、暇だったらこの書類をカノンに届けてくれ。期限は三日後。大事な書類だからくれぐれも忘れないようにと伝えてくれ」
ムウ「ええ、わかりました」
サガ「それと、これも渡してくれ」
ムウ「何です？」
サガ「甘栗だ。視察の時日本人観光客から山ほどもらってな。私一人じゃ食べきれん」
ムウ「ええ、わかりました」
サガ「頼んでおいてなんだが、邪魔するなら帰ってくれ」
ムウ「邪魔だなんてとんでもない。ちょっと差し入れを持ってきたんですよ」
サガ「差し入れ？」
ムウ「ええ、ジャミールのお茶です」
そう言って差し出したのは、どどめ色したお茶
ムウ「これを飲むと、びっくりするくらい心が暖まります」
アフロディーテ「あっ！！ムウ！！抜け駆けなんてずるいぞ！サガ！これは私からの差し入れだ。これは心からリラックスするローズティーだ。これを飲めば、どんな状況も笑って受け入れられる」
ムウ「アフロディーテ、リラックスしてどうするんです。今のサガに必要なのは、無駄なくらいエネルギッシュなパワーです。どんな問題もすぐさま爆裂ファイトです！」
アフロディーテ「そんなもの飲んだら、燃え尽きたぜ真っ白にな現象が起こるだろ。例えガラスが割れてても、腐った御飯が転がってても笑って受け入れられる精神が大事なんだ。ただでさえ二重人格なんだから」
ムウ「精神が落ち着いたら二重人格の思う壺です。二重人格が現れる余裕の無いくらいビッグバンな精神。これが大事なんです！」
サガ「え〜い！！！邪魔するならでていけ――――――！！！！」
『怒らない派』は作戦失敗したと見える。サガの怒りが爆発し、哀れ二人は異次元へ消えるのだった。
カノン「あぁ〜〜〜良く寝た」
のそのそと寝室から出たカノンを待ち受けていたのは、
デスマスク「よぅ！」
ミロ「邪魔してるぜ！」
シュラ「・・・・・・・」
テレビをつけ、酒瓶がゴロゴロと転がり、エロビデオが床に散らばりまくっている中、顔を真っ赤にしているデスマスク、ミロ、シュラであった。
カノン「・・・・・な、なんだお前ら」
デスマスク「宮で飲みたりなくてさ〜、で、オススメのエロビデオもあったし、ここで続きをやろうかな〜って」
ミロ「カノンも飲もうぜ！」
シュラ「俺は・・・・帰りたい」
どうやらシュラはこの作戦に至るまでに一悶着あったようだ。
カノン「ヤバイ・・・・・サガに怒られる」
デスマスク「・・・・・は？」
カノン「うわっ！！こんな状況見られたら１００％ギャラクシアンエクスプロージョンだ！！お前ら、今すぐ掃除しろ！！」
デスマスク「いいじゃねえか。多少散らかっていても問題ねえよ」
ミロ「ちょびっとオーバーに散らかしただけで、大体来たどおりだぜ」
シュラ「腐った飯は俺が捨てておいた。後でバルサン買った方がいいぞ。キッチンで豪快に昼寝してたからな」
カノン「掃除器具はどこだっ！」
完全に人の話を聞いていないカノン。人の振り見て我が振り直せという言葉通り、彼らの生活態度が己の精神に大きなゆさぶりをかけたのだろう。
カノン「な、ないっ！嘘！何故ないんだ！」
それはあらかじめ三人が隠したからである。
カノン「くそっ、こうなったらゴールデントライアングルで・・・・！」
ミロ「そんなことしたら、宮の中身まるごとなくなるぞ！」
カノン「うっ、しかし・・・・」
カミュ「掃除器具ならあるっ！！！！」
そうやって登場してきたのは、割烹着を身にまとい、三角巾を頭につけたカミュであった。
カミュ「ほら、カノン。お前の欲しかった掃除器具だ」
カノン「おお、これはダイソン。吸引力の衰えない掃除機」
カミュ「私物だ。後で返せ。掃除の七つ道具も用意した。バケツ、はたき、雑巾、ゴミ袋、カネヨ、ワックス。そしてアルデバラン」
カノン「え！？」
カミュ「お前の宮の掃除を手伝ってくれるそうだ」
アルデバラン「がんばろうな、カノン」
カミュ「ほら、掃除の邪魔だ。帰れ、三馬鹿」
デスマスク「ちっ」
ミロ「負けだ〜」
シュラ「俺は・・・・何をしてるんだ・・・？」
すごすごと立ち去る三人。双児宮は『怒らない派』の勝利であった。
シャカ「本当に君には驚かされるよ」
アイオリア「誉めてくれなくて結構だ」
シャカ「全くもって誉めていない。おめでたい頭だな」
アイオリア「やかましいわっ！」
アイスノンを体中に貼り付けているアイオリア。日焼け止めもつけずに訓練した結果、彼の身体は真っ赤に成り果てたのだった。
アイオリア「このくらいの試練に耐えられんようでは、到底立派な聖闘士にはなれん」
シャカ「なんでもかんでも試練にするな。君のミスに他ならないだけだろう。日焼けに耐えて立派になれるなら、アフリカ人は神だ」
アイオロス「お〜い、そこで何やってんだ」
シャカ「む、アイオロスか。おい、一言言ってやってくれ・・・・」
シャカは絶句した。アイオロスは黒人と成り果てていた。
シャカ「アイオロス・・・君は国籍を変えたのか？」
アイオロス「いや、何。日焼け止めを塗ったつもりがサンオイルでな。１日ぶっ続けて訓練したら真っ黒になってしまった」
両極端を行っているが、果てしないアホにシャカの言語中枢はぷっつりと切れた。何を言う気も起こらなくなったシャカは賭けについて話すのを忘れたのだった。
当人の預かり知らぬところで賭けが進行して幾日。とうとうサガの仕事が終了し、双児宮帰宅の日である。見物場所は金牛宮。盗聴器をしかけ、オペラグラスを持ち、準備万端である。
サガ「ただいま」
双児宮に入ると意外と宮はキレイだった。足の踏み場も無いくらい汚いのかと思ったが。
カノン「おかえり〜」
サガ「しばらく帰らなかったが、出かける前と変化ないな」
カノン「そりゃそうだろ。顔が一週間かそこらで変わるかよ」
サガ「そういうことじゃなくて。宮が意外とキレイだなと思って」
カノン「俺だってやる時はやるわ」
サガ「はは、そうだな。ふむ、小腹が空いたな」
カノン「甘栗あるぜ。食うか」
サガ「もらう」
テーブルにつき、紙を敷いて甘栗をペキペキと剥く。実に和やかなムードである。
カミュ「ふ・・・・賭けは怒らないの勝ちだな」
ムウ「さあて、どうですかね」
サガ「素朴な甘味が美味いな」
カノン「ああ」
パクッと口に甘栗を放り込むカノン。殻がたまってきたので、ゴミ箱に殻とサーッと流しいれる・・・が、その時サガは紙の裏に何か黒い点々があるのに気づいた。消しゴムのカスか・・・まさか・・・・
サガ「カノン・・・その紙を見せてくれるか」
カノン「ああ、いいぞ」
何の気なしにカノンが紙を手渡す。サガはぺらっと紙を裏返した。黒い点々を認識した瞬間サガは戦慄した。
サガ「カノ――――――ン！！貴様！！これは三日も前に渡しておいた書類じゃないか――――――！！」
カノン「え、ええええ！！」
サガ「締め切りをオ、オ、オーバーしてる！！！貴様、こんな甘栗を食う余裕があるなら何故書類を処理しない！」
カノン「嘘！！そんなん知らないぞ！！」
サガ「知らないはずあるか！現に書類はここにあるのだからな！というか、書類を甘栗の殻置きにするなバカモノ！！誰だ、こんな子供っぽい食べ物を持ってきた奴は！」
カノン「お前だろ！！ていうか、お前が渡した書類なら、期限過ぎた時点で気づけよ！」
サガ「数百枚の書類に囲まれた生活をしていたんだぞ！１枚や２枚届いてないからって全部把握できるわけ無いだろうが！」
カノン「知るかバカ！！」
サガ「バカはお前だ！！」
カノン「ええい、うるさい！！それならどっちがバカか拳で決着つけようじゃないか！」
サガ「望むところだ！」
よくわからん短絡的思考な展開で、大喧嘩が始まる双児宮であった。
ムウ「ふふふ、私達の勝ちですね」
カミュ「・・・・なあ、もしかして、ムウ、何か・・・したのか？」
ムウ「え、まさか。カノンが書類を処理し忘れたなんてまったく予想外でした。ズボラだったのが今回の勝因ですね」
パクッと甘栗を食べるムウ。賭けに負けたカミュ、アルデバラン、アフロディーテはそれから一週間、炎天下のドブ掃除をやることになったのだった。
あとがき
炎天下ネタです。いや・・・本当はジューンブライドネタでいくつもりだったのですが・・・つーか、サガカノの誕生日ネタも盛り込むつもりだったんですが、なんつーか紆余曲折してこれに落ち着きました。久しぶりの黄金ギャグです。わずかですが、ロスも登場です。くだらなさがいつにもましてすごいですが、笑っていただけたら幸いです。
BY MUTUMI