住めば都

今宵はクリスマスイブ。アスガルド一行はアテナ主催クリスマスパーティに招待され、ギリシャに赴いていた。
ヒルダ「や、やっとつきましたね」
フレア「私、マルコって名前に変えようかしら」
美しい彼女達の顔はやつれ、明らかに疲労困憊、息も絶え絶えであった。
ジークフリート「アルベリッヒ・・・もう少しまともな道行はできなかったのか？」
屈強な男、ジークフリート以下六名も流石は神闘士だけあって見た目は変わりないが、疲労の跡が見え隠れしている。
アルベリッヒ「うちの国庫がどうなってるか知ってるだろうが」
ハーゲン「知ってるが・・・アスガルドからギリシャまで徒歩で行くだなんてむちゃくちゃだろ」
アルベリッヒ「本当は辞退するつもりだったのに、ヒルダ様が出席するのが礼儀だっておっしゃるから、公費と相談したら徒歩になったんだ」
ミーメ「どういう相談をしたら徒歩になるんだ・・・？」
ヒルダ「まあまあ、アルベリッヒは私の願いを叶えてくれたのです。お金がないのなら体でどうにかするのは世の常というものです」
アルベリッヒ「その世の常は別の意味でも使われますがね。さて、そろそろ行かないと遅刻します。ヒルダ様、これを」
手渡したのは心地いい重みの箱。中身を確認するべく、そっと蓋を開けてみると、中からでてきたのは香水。
ヒルダ「アルベリッヒ、これは？」
アルベリッヒ「アテナへの手土産です。招待されたら手土産を持っていくのは当然でしょう」
フレア「随分高級そうね。これを買ったからお金がすっからかんになったの？」
アルベリッヒ「いやいやとんでもない。この瓶は私のアメジストシールドで作ってますし、中身の香水はそこらに生えていたハーブと値崩れ起こしまくって売るにも売れないワインで作りました。ほとんどタダです、タダ」
フレア「そこまで貧乏なの？うちって・・・・」
アルベリッヒ「はい！貧乏です！」

そこまではっきりさっぱり言われると却って悲しい。

ジークフリート「金がないのは仕方ないとして、お菓子の手作りなら失敗しても多少微笑ましいが、香水だろう？お前みたいな素人が作ったのなんか危なっかしくて使えないんじゃないか？」
アルベリッヒ「ちょっと嗅いでみるか？」
箱の中から香水を取り出し、しゅっと空にまく。嗅いだ事のないさわやかなハーブと甘いハーブの香りが鼻腔をくすぐる。
ジークフリート「とても・・・いい匂いだ」
アルベリッヒ「俺の最高傑作だ。これに辿り着くまでに百は作った」
ミーメ「経費節減でそこまでするとは。ただ百も作ってるんだったら買った方が安上がりのような気もするが」
ハーゲン「お前、どんどん器用になってくな。そのうち壊れた壁とか割れたガラスなんかも手作りして修理してくんじゃないか？」
アルベリッヒ「何を今更。それくらいのこととっくの昔にやっている」
ヒルダ「うふふ、アルベリッヒは立派な職人さんですね」
アルベリッヒ「何度も言いますが、俺は文官です！はっきり言いますが、どの国見ても壁の修繕なんかしてる政治家なんかいません！」
ヒルダ「職人兼文官ということでいいではないですか」
アルベリッヒ「なんで職人が筆頭なんですか！俺は文官が主なんです！職人はやりたかないけどやらなきゃ本当に死んでしまうのでやってるだけです！」
ヒルダ「そうですか・・・じゃあ、老後は趣味でガラス工芸などを楽しめるといいですね」
アルベリッヒ「どうしてもアンタは俺を職人にしたいみたいですね。俺は生涯文官でいますよ。これ以上無駄話してるのはエネルギーの無駄です。巡り巡って国庫に響きます。あ、そうそう。世間ではノロウイルスっていうのが流行ってるそうですが、かかったら最後放置ですから」
ジークフリート「ヒルダ様がかかったとしてもか？」
アルベリッヒ「当たり前だろう」
ジークフリート「ヒルダ様はアスガルドの地上代行者で最も大切なお方だぞ」
アルベリッヒ「医療費はこの間フレア様が使ったのでラストだ。もうない。だから出せん」
フレア「私が使ったって・・・バンソウコウ一枚よ？」
アルベリッヒ「だから、それです。うちの年間医療費はバンドエイド一枚。それっきりです」
ヒルダ「それはあんまりではないですか・・・もし神闘士が病気にでもなったらどうするのですか」
アルベリッヒ「病気で死ぬような奴らいりませんよ。戦士なら戦って死んでこそ価値があるんです」
ヒルダ「そんな使い捨てカメラみたいなこと言わないで下さい。あなただって神闘士ではないですか。そんなやつれた顔をして。アスガルドを想ってくれる気持ちはうれしいですが、もっとあなた自身を大切にしてください」

アルベリッヒ「その台詞はアスガルドの景気が少しでも上向きになってから言えーーーー！！」

アスガルド唯一の文官、アルベリッヒはついに発狂したのだった。

アルベリッヒをどうにか押さえ、一行は聖域に訪れた。
沙織「まあまあ、よくぞいらしてくれました」
ヒルダ「このたびはお招きいただきありがとうございます。これは、私どもからアテナへ手土産です」
沙織「まあ、気を使わずともよろしかったのに。でも、心遣い感謝します。ありがたく受け取らせていただきます」
ヒルダ「聖域というのは初めてきましたが、なかなか風雅な建物ですね」
沙織「ガレキ寸前とはっきりおっしゃって構いませんよ」
フレア「このガレキ同然の建物で満足しているの？」
ハーゲン「フレア様！『ガレキではない』から『ガレキそのもの』になってます！失礼です！」
アルベリッヒ「きっちり解説したお前も失礼だ。アテナ、この者達が失礼致しました。私はアルベリッヒと申します。お詫びといってはなんですが、よろしければ私が修理いたします」
沙織「え、お客様に修理をさせるだなんて。それに神闘士のあなたが職人のようなことできるのですか？」
アルベリッヒ「今月に入ってからというもの、壁の修繕、屋根の葺き替え、雪漏りからくる老朽化した床の張り替え、雪下ろしを欠かした日がございません。聖域とアスガルドは気候は違いますが、やれないことはないでしょう」
沙織「まあ！アスガルドには優秀な方がいらっしゃるのですね。うちはみんな切った張ったでぶっ壊すのは大得意なんですが、直すという概念は塵ほどにもないらしくて」
アルベリッヒ「貧乏になれば全ては解決します。モヤシ1本、マッチ1本にまで節約するようになれば、きっと聖域にも職人が誕生するはずです。ためしにお年玉か給料を半額にしてみるとか」
沙織「そうですね、聖闘士一人一人にかかる費用も半端ではないですし、検討して・・・・」
デスマスク「おいおいおい！ちょっと待てや！何勝手なこと言ってんだ！そんなこと俺は許さねえぞ！」
ムウ「そうですよ。給料が半分にされると聞いては黙って聞いてはいられません」
沙織「あら、あなた達。聞いていたのですか」
ムウ「当たり前ですよ。アテナ、私達は心を砕いて日夜働いているのです。それを他国の者の助言一つで給料を下げてはなりません」
デスマスク「そうですよ。俺はお年玉払いでプレステ３とＷｉｉを買ってしまってるんです。そんな非道なこと、アテナはできませんよね」



沙織「する！！」



デスマスク「えええええええ〜〜！」
ムウ「ええ！はこっちですよ！せっかくまともに話を進めていたのに、何でよりによってプレステ３とＷｉｉなんですか！こんなごく潰しに金なんか払いたくなくなるのは至極当然です！」
デスマスク「もらったら使う。これは社会の常識だろうが！」
ムウ「先走って使ってどうするんですか！まったく、アテナ！給料及びお年玉はデスマスクのをゼロにすることで許してください！私達はこのような馬鹿げた行為は致しませんから、今のままで！」
デスマスク「ひでえ！俺様を売る気か！？お前だって馬鹿げた行為してんだろ！」
ムウ「私は株と貯蓄に使うんです！あなたなんかよりよっぽど健全です！」
デスマスク「アテナ！こいつは給料なんかもらわなくても金持ちだ！二十歳過ぎてるんだし、お年玉なんかいらねえ！」
ムウ「あなただって二十歳とっくに過ぎてるでしょうが！！！」

アテナや神闘士などそっちのけでぎゃあぎゃあ言い始める黄金聖闘士二人。

沙織「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんわ」
アルベリッヒ「裕福っていいもんですね。俺なんか給料もお年玉もついぞもらってないですよ」
沙織「まあ。アスガルドでは給料をもらってませんの？」
アルベリッヒ「はは、他の近衛は些少ながらもらってますが、俺達身内は一切もらってません」
沙織「ヒルダさんは慈愛に満ちた方と存じておりましたが、そのような厳しい面もおありなんですね」
ヒルダ「いえ、私も本当はお給料を差しあげたいのですが、アルベリッヒがいらないと言ってくれました」
沙織「まあ！なんて忠誠心に溢れた方なんでしょう。どこぞの蟹にも見習わせたいくらいです」
アルベリッヒ「ヒルダ様の言葉には多少語弊があります。私も本当は給料が欲しいです。ですが、ふんだくれる金がないんですよ。こいつらだったら、別に気を使う必要もないし、同情するつもりもさらさらないので、給料は私がばっさりゼロにしたんです」
沙織「お金がないのなら、どなたか解雇すればいいのでは？」
アルベリッヒ「真っ先にそう言ったら、みんな苦しいのですから、苦しんでいる人を更に絶望させてしまうことはやめてくださいとこの人に言われました。なので、爪に火を灯す生活です」
沙織「気骨あふれる方がアスガルドに多いのは、このような厳しい環境にあるからなのですね。なまじ私がグラード財団総帥で金があるばかりに戦士の心に脂肪がついてしまっていたようです。ココは一つ改革を行って体脂肪を落とさなくては。アルベリッヒ、ありがとうございます」
アルベリッヒ「いえ、礼を言われるほどのものでは」
沙織「パーティ、ぜひ楽しんでくださいね」
アルベリッヒ「折り詰めを使ってもよろしいですか？」
沙織「もちろん。よろしければ全部お持ち帰りください。あのバカ達に少しは厳しさを教えなくては。夕食はカップラーメンにします」
アルベリッヒ「手ぬるいですよアテナ。きちんとした食べ物だなんて。うちなら雪のにぎりめしにしますね」
沙織「さすがはアルベリッヒ。貧乏度が違います。聖域にまだ雪はないから・・・・・葉っぱサラダなんてどうでしょうか」
アルベリッヒ「その意気です」
二人はにこりと笑いあった。

アルベリッヒ「今日はお招きありがとうございました」
大量の折り詰めを背負って礼を述べる。
沙織「楽しかったです。アルベリッヒ、また助言くださいね」
アルベリッヒ「貧乏国の一文官の助言でよければよろこんで」
二人の間に友情が芽生えたようだ。アテナに見送られ、一行は聖域を後にした。帰りもまた徒歩である。腐らないように折り詰めはアメジストシールドにかけてある。
ヒルダ「アルベリッヒ、ちょっといいですか？」
アルベリッヒ「なんですか？」
ヒルダ「アテナと随分仲良くお話していらっしゃいましたね」
アルベリッヒ「アテナはあんたと違って聡明で頭のいい方なんでね。シンパシーが合うんですよ」
ヒルダ「この国から出て行きませんよね？」
アルベリッヒ「・・・・・は？」
ヒルダ「聖域に行ってしまわれたりはしないですよね？」

ヒルダの瞳は不安げで心配そうにしていた。アルベリッヒはふぅとため息をついた。

アルベリッヒ「心配するくらいならもっと大切にして欲しいもんですね」
ヒルダ「私はいつも大切に思っていますよ」
アルベリッヒ「知ってますよ。ただ、俺とアンタの考え方が195度くらい違うだけで」
ヒルダ「微妙な角度ですね」
アルベリッヒ「考えを逆にしただけじゃアンタにはなれませんから。ジークフリートくらいですよ195度に付き合えるのは」
ヒルダ「それで・・・・この国には・・・・」
アルベリッヒ「アンタみたいな天然女を置いてアスガルドをでていけますか。俺が支えなかったらこの国はおしまいです」
ヒルダ「一生飼い殺しですよ？それでもですか？」
アルベリッヒ「今すぐ出て行きたくなりました」
ヒルダ「す、すみません。言葉が足りませんでした。謝ります。だから、この国にいてください」
アルベリッヒ「ヒルダ様、俺、ここに来た時もいったでしょう。俺は生涯文官でいると。この国が異常すぎて、それに慣れきってしまって、他の国ではできっこありませんから、ここで文官してますよ。だから、もうその顔やめてください。ジークフリートにいちゃもんつけられたらたまったもんじゃありません」
ヒルダ「巡り巡って国庫に響きますものね」
アルベリッヒ「今日は賢いですね。その通りですよ」


例え、どんなに貧しくても、住めば、都―――――



あとがき
今年のクリスマスはアスガルド一色にしてみました。トップもエガオキッズ４コマも小説もアスガルドです。小説はアルベリッヒが主役です。あんまり甘くない上にキャラも少ししかでてません。そこまで遠大なストーリーにできませんでした。ギャグ路線でありながら少しシリアスな感じですかね。こういう時戯曲でいくかノーマルでいくか悩みます。メインはギャグなので戯曲にしましたが。楽しんでいただければ幸いです。うちのアスガルドはアルベリッヒが唯一の文官です。神闘士は本来なら武官だと思いますがね。まあ、奴は文官向きです。ヒルダとアルベリッヒは好敵手みたいな感じなのでラブにはなりません。ヒルダはやっぱりジークとくっついて欲しいですね★

BY　　MUTUMI