願いをこめないで


それは、夕食後テレビでも見ながらダラダラと過ごしていた夜。番組と番組の間にやるニュースを見ていた時のことであった。競馬中継がブラウン管に表示される。

星矢「馬ってすごいよな。テレビで見ても大迫力だぜ」
瞬「星矢はペガサス座だから、余計親近感あるでしょ」
星矢「まあな。でも、俺は飛べるから、コースなんていらないぜ。ぴゅーっと飛んでゴールしてやる」
紫龍「それは別名、失格って言うんだろうな」
氷河「競馬って言うなら、星矢よりも邪武だろ。騎手を乗せて走るんだからな」
一輝「ムチに打たれて喜ぶ男は、アイツくらいだろう」
瞬「ユニコーンって美女に弱いらしいから・・・」
星矢「で、一輝はどれに賭けるんだ？」
一輝「・・・どういう意味だ？」
星矢「え、だって買ってるだろ？馬券」
一輝「バカ言うな。俺をいくつだと思ってるんだ」
星矢「戸籍上１５歳」
一輝「まどろっこしい言い方をするな」

星矢「見た目はおっさん。中身もおっさん。年齢だけが１５歳」


一輝「お前、鳳翼天翔食らいたいか・・・？」

星矢「じょーだんだって！！でも、お前、なんとなくギャンブルで生計立ててる気がするんだもん」
紫龍「確かに、この中で一番山っ気がありそうに見えるしな」
氷河「競馬場にいても一番違和感がないしな」
一輝「競馬なんてあんな確率の悪いものやるわけないだろ。道路工事で稼ぐ方がずっと金になるわ」
瞬「さすが兄さん！！」
沙織「何の話ですか？」

唐突に登場したのは沙織である。

星矢「お！沙織さん！！いやなに、一輝って競馬場が似合いそうだよなって話」
沙織「まあ、そうですか。確かに赤鉛筆を耳にかけて、馬場に向かって怒号を浴びせそうな感じに見えますものね」
一輝「お嬢、妙にリアルな気がするが、まさか経験あるのか？」
沙織「ありますよ」
星矢「ええっ！マジ！！？」
一輝「やっぱりあれか。見た目か。お嬢も俺に負けず劣らず老けてみえるからな」
沙織「しばき倒しますよ、一輝」
星矢「じゃ、あれか！胸か！！沙織さん、胸でっかいからな！！それで１３歳に見えないんだ！！」
沙織「・・・・・星矢・・・できれば、あなたからその発言はやめてもらいたかったですが・・・」
氷河「まぁ、天然女たらしだしな。ある意味当然とも言えるか」
沙織「別に私が顔面ババアだからでも、爆乳だから競馬ができるのではありませんよ。オーナーだからです」


オーナー！！？


沙織「オーナーなので、一番上のVIP席にいつもいるんです」
星矢「沙織さん、馬持ってるの？」
沙織「持ってますよ。ほら、映画でよく乗ってるじゃないですか」
瞬「言われてみれば・・・。競馬に出すほどの名馬を持ってるんだ」
沙織「自前の牧場を持ち、数々の重賞を総なめにした馬が何頭がいますよ。もしよかったら、あなた方にもあげましょうか」
瞬「いいなあ！乗ってみたいです！」
星矢「俺も乗ってみたい！」
氷河「馬が馬に乗るのか？」
星矢「いいだろ別に。お前こそ乗れるのか？」
氷河「俺は犬ゾリのプロだぞ」
紫龍「説得力ないぞ、それ」
沙織「ふふ、じゃあ、今度一人一頭ずつ用意しておきますね。ごめんなさい、白馬か青毛か栗毛しかいなくて。赤とかオレンジとかいないんです」
星矢「お嬢さん。俺達、常にイメージカラーでないとダメってわけじゃないから。別にフツーでいいんだよ、フツーで」
沙織「フツー・・・。そうそう！！今度、デビュー戦に出る牝馬がいるんですよ。よかったら、名付け親になってもらえませんか？」
星矢「え、俺らが！！」
沙織「ええ。素晴らしい才能を持った父と母から生まれた子で、ぜひあなた達にこれから勝てるよう祝福を与えてやってくれませんか？」
一輝「ムチで叩かれて飼い殺しの人生か。まさに俺達のようだな」
沙織「あ、あの、別にそう言う意味じゃ・・・」
氷河「マーマという史上最高の母から生まれた俺は、確かに素晴らしい遺伝子を持った人間といって過言ではないだろうな」
瞬「その度を越したマザコン発言、やめようね。周囲が聞いたらドンビキするから」
紫龍「本当に俺達でいいんですか？」
沙織「いいんですよ。私はあなた方を信じています。それでお願いしましたからね」

にっこり笑って沙織は帰っていった。

星矢「俺らが名付け親か！最高の名前を考えなくちゃな！」
氷河「マーマも、俺が生まれるときにこんな風に一生懸命考えてくれたんだろうな」
瞬「そうだね。ロシアで暮らすのに日本語の名前つけるなんて、よっぽどだと思うよ」
紫龍「うーん、どんな名がいいか。競走馬は勝たないと殺されてしまうというから、勇ましい名前がいいか」
一輝「漢字はダメだぞ。カタカナだからな」
星矢「さらっとそういう常識言えるとこが、なんとも不思議だぞ」
氷河「やっぱり、マーマナセグダーかな」
瞬「縁起でもない。今の紫龍の話聞いてた？負け試合でグリーングリーンが流れ出すくらい縁起でもないよ」
紫龍「・・・シンプルに、セイントタロウってどうだ」
瞬「どこかの区役所のサンプルみたいなの止めようよ」
星矢「よかった、俺、星矢って名前で。もしも太郎だったら聖闘士太郎になるとこだったぜ」
瞬「うーん、やっぱり勝って欲しいし、女の子だし、女性聖闘士の代名詞、イーグルマリンとかオピュクスシャイナとかどうかな」
星矢「確かに、どっちも強そう。でも、魔鈴さん真面目だからな。こういうの嫌がりそうだぜ。オピュクスシャイナは、カシオスに悪影響与えそうだから止めようぜ」
瞬「確かに、貢いでしまいそうだね。じゃあ、カメレオンジュネは？」
一輝「ダメだ。馬にカメレオンっておかしいにも程がある」
瞬「僕の為にアンドロメダ島から来てくれたり、イメージピッタリなんだけどなあ」
星矢「ムチ使うし、ホント、イメージピッタリだよなぁ。ていうか、一輝、お前、ジュネに嫉妬しての発言じゃないだろうな」
一輝「そんなわけあるか」
星矢「６年間一緒に寝泊りしてたわけだし、実質上、姉って言ってもいいもんなあ。お前より瞬のこと知ってるんじゃねえの？」
一輝「やかましいっ！！エスメラルダに瞬を重ねるほど、こいつを想っていた俺だぞ。たかだか他人に姉を名乗られてたまるか！！」
星矢「今の発言で、２〜３個以上突っ込むところあるけど、それはあえてスルーしよう」
紫龍「そうだな。姉のことになると、お前だって泣き所はあるだろうしな。あんまり言うとしっぺ返しが来るぞ」
星矢「うっ・・・た、確かに・・・」
氷河「名付けって難しいものだな。どんどん珍名奇名が名案のように思えてくるし」
紫龍「いっそ老師にお聞きするか？老師は春麗って名付けるくらいだから、なかなかセンスあると思うぞ」
星矢「いや！沙織さんは俺達にって頼んだんだ。俺達が逃げてどうする！」
一輝「名前なんて、意味はない。大事なのは生き様だ。名前に願いを託すから、どんどん完璧を求めるんだ」
瞬「そうだね。初心に帰ろう。僕達だって、金や名誉の為にアテナの聖闘士やってるわけじゃないから」
星矢「ああっ！俺達は誇りをもってアテナの聖闘士をやってる！！この気持ちは押し付けでもなんでもないぜ！！いくぜ、熱き血潮の兄弟達よ！！」
全員「おうっ！！」


翌日、沙織の元に届けられた１枚の紙。
彼らが考えた名前は『ツッパシリゴッド』であった。



あとがき
最近、CMで競馬のものがよく流れるなーって思って作ってみました。いかがでしょうか。兄さんは一番競馬錠にいても違和感がない人だと思います。さおりんは映画でも馬に載ってるし、いっぱい馬持ってるような気がします。女性聖闘士のくだり、本当はセインティアでもいいなーと思いましたが、そこはあえて無印で。あんまり読んでないのもあるんですが、セインティアはあまり混ぜたくないなーって。負け試合のグリーングリーンは実際のサッカーの応援で流れたものです。負けかけてる中、負けてるチームが突如グリーングリーンを演奏し始めて、『縁起でもない！！』って思いました(笑)うん・・・負けちゃいました。サッカーなのに『かっとばせ！』とか応援したり、野球以外にも力をいれてあげてよ！！って思った試合でしたよ(笑)


BY　　MUTUMI