恋人でから騒ぎ


星矢「しゅーーーーーーん！」
星矢が血相を変えてリビングに飛び込んでくる。ソファに座ってのんびり雑誌を読んでいた瞬は目を丸くした。
瞬「どうしたの、星矢。そんなに慌てて」
星矢「た、大変だ！瞬！！」
なおも慌てている星矢に、瞬も顔色を変えた。
瞬「どうしたの、まさか・・・」

新しい敵！？とソファを立ち上がりかけた瞬だったが、星矢に先に口を開かれた。

星矢「姉さんに恋人ができたっぽいんだ！！」
瞬「はぁっ！！？」

予想外すぎる答えに、瞬は呆気に取られたが、星矢はちっとも気にせず唾を飛ばしながら喋る。

星矢「姉さんに、クリスマスそっちに帰るって電話したら、帰ってこなくていいわよって。なんだかとってもウキウキして嬉しそうなんだよ！」
瞬「へぇ〜、よかったじゃない」
星矢「よかねえ！！俺の姉さんに、他の男が手を出すなんて！！アテナが許しても、俺は許さねえ！！」
瞬「沙織さんに人の恋路をどうこういう権利はそもそもないし、君にもないでしょ」
星矢「ある！！俺は姉さんの弟だから、姉さんにふさわしい男か見極める義務がある！」


瞬「ないよ、そんなの」


星矢「えっ！！！だって、国民には三大義務があるだろ！それって、姉さんを守る義務じゃないのか！？」
瞬「君の個人的な思い込みを国民全般にまで広げないで」
星矢「姉さんは魅力的だから、どんな男でも好きになってしまう！好きになった男がとんでもない悪党だったらどうするんだよ」
瞬「確かに、世の中には救い様のない愚か者もいるけど・・・。星華さんはメデューサじゃないんだから、魔性の女っぽく言うのはやめようよ。少なくとも、その魔力に一番ひっかかってるのは君だし」
星矢「姉さんには苦労かけどおしだったから、幸せになって欲しいんだよ！結婚するなら、姉さんを幸せにしてくれる人じゃなきゃ」
瞬「たとえばどんな人？」

星矢「俺より強い人！！」

瞬「じゃあ、黄金聖闘士とかかな。サガとか」

星矢「権力から転がり落ちてラストに自害なんて選んだ男、ダメに決まってるだろ！どんなシェークスピアだよ！！」

瞬「じゃあ、アイオロス・・・？」

星矢「結婚して早々未亡人になんてされてたまるか！！」

瞬「難しいなぁ」
星矢「そもそも、聖域の連中はダメだ」
瞬「どうして？星矢より強い人はいないってこと？」
星矢「そうじゃない。黄金が本気を出したら、俺なんてひとひねりさ。そうじゃじゃなくて、最大の条件がある」
瞬「なに？」

星矢「男は金持ちでないと！！！」

瞬「うわ・・・露骨・・・」
星矢「これ重要だぞ！お前も孤児なら分かるだろ。金のない苦しみが！」
瞬「・・・・・うん。わかる」
星矢「金がなくてもささやかな幸せだなんて、恵まれた奴らの欺瞞だ！！金があればしないでいい苦労があるんだよ！！」
瞬「うん・・・とてもわかる。今の会話の中で、そこだけは共感できるよ」
星矢「金がないから、ろくに検診も受けないで飛び込み出産みたいな危ない真似させられるか！！しかもまさか、未婚の母なんてとんでもない！！」
瞬「随分先のことまで正確に心配してるんだね。うん・・・でも・・・未婚の母がどれだけ苦労するから身を持って知ってるから、その心配もわかる」

星矢「それと顔！！美形でないと！！」

瞬「そこって大事？顔よりも心じゃないの？」
星矢「心は前提での話さ！！俺の甥が市みたいな顔だったら困る！！」
瞬「市が母似か父似かはわからないけど、仮に城戸光政の血によるものなら、誰と結婚しようと隔世遺伝で市似の子供が生まれることはありえるんだけどね」
星矢「ぐああああ、そうか！！それはヤバイ！！」
瞬「なんにせよ、君は星華さんのことに口出しをしちゃダメだよ。それで星華さんが不幸になったら、君も嫌でしょ？」
星矢「・・・・・でも・・・」
瞬「星華さんが大事なのは分かるけど、星華さんには星華さんの人生があるの。君にも君の人生があるの。星華さんが、『聖闘士なんて危ない事もうやめて。アテナの聖闘士なんてやめて』っていわれたらどうする？やめる？」
星矢「それは・・・」
瞬「ていうか、同じこと美穂さんに言われて、あっさり説得して振り切ってきちゃったでしょ。それと同じことだよ。いくら好きだからって干渉しすぎちゃダメ」
星矢「でも・・・姉さんが傷つくのを見るのは嫌だ」
瞬「その思いを美穂さんがしてるってことに気付かないで言うのは傲慢だよ。紫龍なんて、分かっててさせてるんだから更に酷だね。人にさせて平気なのに、自分は嫌だなんて子供っぽすぎるでしょ」
星矢「・・・・・そうだな・・・」
瞬「僕達ができる事は、傷つかないように排除するなんじゃなくて、見捨てない事だよ。ろくでなしを好きになってしまった星華さんは嫌い？」
星矢「そんなわけないだろ。どんなことがあっても、好きに決まってるだろ」
瞬「それだけで充分だよ。どんなことがあっても、側にいてくれるなら、人はいくらでも立ち上がれるから」
星矢「ああ、そうだな。俺たちもアテナを側に感じられるから、どんな時も立ち上がれるんだ」
瞬「落ち着いた？」
星矢「ああ・・・。俺、ちょっと動転しちゃってたみたいだ」
瞬「あれでちょっとなら、地球はとっくに９０度反転してるよ。そもそも、星華さんに恋人ができたかもしれないっていうのも、星矢の想像なんでしょ？ちゃんと聞いてご覧よ」
星矢「そう・・・だよな」
瞬「仮に本当に恋人ができたとしても、怒ったりしちゃダメだよ。星華さんにとって、星矢は世界でたった１人の肉親なんだから、そんな星矢に突き放されたら傷ついてしまうからね」
星矢「ああ、そうだな。ありがとう、瞬」
瞬「どういたしまして。君の役に立てたならうれしいよ」

星矢は今日はじめて主役らしいさわやかな笑顔を見せた。リビングにある電話の受話器をとると、プッシュホンを押した。

星矢「あ、ね、姉さん？俺だけど・・・・あの・・・姉さん。クリスマスなんだけど、俺、帰らないでいいって言ったじゃん。それって・・・なんでかな・・・って」

星矢「え、聖域がロドリオ村の慰労にって、旅行をプレゼントしてくれた！？それで、一週間、南の島でバカンスするって！？マジで！！俺、聞いてないんだけど！！いや、マジで！！俺は・・・たぶん行かない。というか、行けないかも。誘われてないし。勝手に参加したら、下手したらムウあたりに抹殺されるかもしれないから。いや、マジで。沙織さん、強硬手段好きだから。うん、あれだね、恋人ができたとかそういうことじゃないんだね。え、ホント！！できてない！！店に来るひとはみんな主婦かおじいさんばっかり！！そりゃあよかった！！お土産買ってきてくれるの！？じゃあ、ビーフジャーキーがいいぜ！！ありがとう、姉さん！！じゃあまた！！」

朗らかな顔で受話器をおろす。

瞬「よかったね、星矢」
星矢「ああ、姉さんに恋人なんてできてなかった！！本当よかった！！」
瞬「そこまで心から喜ぶのもどうかと思うけど・・・」
星矢「そうか？氷河に相談したら、俺のマーマはもう誰にも心を奪われることはない。マーマは俺だけのものだって言ってたぜ？」
瞬「・・・・・僕たちって本当、ところどころ兄弟だなって実感するよ・・・」
星矢「そっか〜、姉さんはクリスマスは南の島か〜。うーん、俺、どうしよっかなー」
瞬「星矢、美穂さんからは誘われてないの？それこそ沙織さんとか」
星矢「え、別に？俺のまわりは静かなもんだぜ。な、瞬、お前も暇ならクリスマスは遊びにいかないか？ボーリングでもカラオケでもさ」
瞬「・・・・・僕なんかが星矢と過ごすなんて、なんか申し訳ないよ」
星矢「誰に謝るつもりなんだよ！相変わらず優しいな、お前は！よっしゃ、じゃあ、クリスマスは男子会だな！！邪武とか他のやつらも誘ってワイワイ騒ごうぜ！」
瞬「男子会っていうより、兄弟会だね」
星矢「おお！ナイス！！瞬！！」

瞬の勘だと、美穂や沙織やシャイナが相手の動向をうかがって何もできないでいるだけなのでは・・・と思っていたが、さすがに口出しはしないことにした。

鈍感で純粋な城戸家の末っ子に幸あれ！！


あとがき
え〜、遅れに遅れまくったクリスマスのストーリーです；；パソコンを新しくて初めての作品です。なんだかとてもドキドキしちゃう！

瞬と星矢の二人組ー。この二人可愛いですｖｖ星矢のシスコンを前面に押し出してみました。オメガでさおりんとあそこまで恋人チックなのは、姉さんが結婚したからだと勝手に思ってます（笑）１３年オーバーなら、星華さんも結婚して家庭を持ってそう！そうなったら、さすがに姉さんを卒業するでしょうからね（笑）

楽しんでいただければ幸いですｖｖ
皆様にハッピーなクリスマスを！！

BY　MUTUMI