楓より酒

聖域に大きな荷物が送られてきた。食べ物でも飲み物でも美術品でもない。

デスマスク「なんで楓なんだよ!!」
げしっと楓を蹴った。
サガ「アテナが送ってきてくださったものだぞ。そんな失礼なことするな！」
デスマスク「楓ってなんだよ楓って!!」
アフロディーテ「まあ、デスマスクの言う事にも一理ある。実がなるわけでもないし、これを送る意味は？」
サガ「ちゃんと手紙がついている。秋も深まり、紅葉の季節がやってきました。楓も身頃を迎えます。少しでも秋を感じ取ってもらおうと楓を一本送ります。沙羅双樹のところにでも植えてください。楓を見て、楽しんでいただけたら幸いですと！」
ムウ「アテナ・・・・・・・・とてもお優しく嬉しいのですが、楓を愛でられるメンバーかどうか・・・・・・」
シャカ「君こそ。」
ムウ「どうして私が。」
シャカ「君が愛でるのは金だけだろうが。」
ムウ「はは、言いますね相変わらず。」
シャカ「君の事だ。楓の拝観料でも取ろうとでも考えてるんじゃないだろうな。」
ムウ「んなことしますか！」
シャカ「する。君は。」
ムウ「口の減らない人ですね・・・・・・・」
ミロ「ストップ！ストップ！」
言葉の冷戦になりそうなので、強制的にストップしたのだった。
カミュ「で？本当にどうするのだ？サガ。ワインが作れるわけでもないし。」
アイオリア「銀杏ならまだしも。」
サガ「ああ、アテナの手紙にはな、観楓会をして楽しんでくれとも書いてあった。」
アルデバラン「観楓会とはなんだ？」
サガ「とどのつまり宴会だな。花見の楓版というところだ。」
デスマスク「何!?宴会！宴会していいのか！」
サガ「まあな。その様子を写真に収めてくれとも書いてある。」
シュラ「この歳で写真か？」
アイオリア「記念写真なんて撮るの初めてだな。」
ミロ「俺もだ！いっそのこと、戦いの時全部の写真撮っとけば良かった。」
カミュ「聖戦は遠足じゃないんだぞ。」
アフロディーテ「宴会はじゃあ、命令ということか？」
サガ「そうみたいだな。」
デスマスク「よっしゃ！酒！酒目一杯飲むぞ！」
シュラ「ほどほどにしておけ。お前の後始末が恐い。」
アイオリア「料理も必要だな。」
ミロ「お菓子も必要だな！なあサガ！おやつは300円までか？」
カミュ「・・・・・・・・お願いだから20歳らしい質問してくれ・・・・・」
サガ「消費税があるから、286円までだ。」
ミロ「はーい。じゃあバナナはおやつですか？」
サガ「さあ・・・・・・・持っていきたいならもっていけ。」
ミロ「じゃ、持っていくぜ！カミュ、一緒にお菓子買いに行かないか？」
カミュ「・・・・・・・・なあ、シュラ。私は何歳の友人を持っているんだと思う？」
シュラ「・・・・・・・・身体は大人。中身は子供。」
カミュ「・・・・・・・・・そうだな。」
暗闇を頭上に広げながら、そう呟いたのだった。

こうして、アテナ公認、聖域の観楓会が開かれるのだった。


デスマスク「アテナ公認だと思うと酒が凄く美味いな！」
酒あり、料理あり、女なしのちゃんちき宴会である。
ムウ「本当素晴らしい楓ですね。葉の色づき様といい、見事です。」
カミュ「そうだな。わざわざ私達の為に送ってくださるとは優しい人だな。」
サガ「酒も進むものだな。」
くいくい一升瓶が消えていく。

ソヨソヨソヨ・・・・・・

風が散り、楓が舞う。そしてふわりとグラスに浮かぶ。
アイオリア「風流だ。」
ムウ「風流なんて感じるのですか。あなた。」
アイオリア「感じて悪いか？」
ムウ「いえ、あなた達は、花より団子なタイプかと思ったので。」
アイオリア「失礼なヤツだな。」
ムウ「すみません。しかし、既に楓より酒の人達ができあってますので。」
視線の先には、デスマスクとシュラとアフロディーテ。酒の瓶がゴロゴロ転がっている。

デスマスク「シュラ、イッキのみしろよ！」
アフロディーテ「あははは。シャンパンとナポレオンとワインのブレンドだ！」
シュラ「じゃ、ブレンドイッキいきます！」

サガ「シュラ・・・・・・飲む前までは真面目なのに、一度のみ始めると壊れるな・・・・・」
シャカ「彼は、情緒に関する神経が鈍いのだ。一刀両断タイプだし。」
アイオリア「そういうお前はそういう感性はあるのか？」
シャカ「私は沙羅双樹の管理をしているのだぞ。感性が無ければそんなこと望んでやらぬわ。君らこそ、こんなに広大な土地があるというのに気づかなかったとはどういう事だ。」

完全に聖域暮らしの癖に、本気で今まで気づかなかったので、返す言葉もない。

シャカ「ま、これでも食うといい。今日の為に買ってきたものだ。君らにぴったりだろう。」
すっと差し出したものは、ピンク、白、緑に彩られたお団子だったのだった。


ミロ「なあなあ、カミュ、俺の料理美味いか？」
カミュ「う・・・・・・・・うん。」
不味いとは決して言わないカミュ。
ミロ「へっへ〜〜。今日朝四時に起きて作ったんだぞ。今日はいつもの料理にチョコレートとワサビと醤油混ぜたんだ！」
カミュ「ぐえ・・・・・・・・」
その未知なる食材を聞いて、ますます食欲の減退感と吐き気を催す。
ミロ「皆にも食べてもらいたいな。」
カミュ「ダメだ！」
思わず大きな声を出した。
ミロ「カミュ？」
珍しく大声を出したカミュにミロはきょとんとした。
カミュ「あ・・・・・・・・いや・・・・・・」
ミロ「そんなに俺の料理が好きなのか。すっごく嬉しい！じゃあ、俺の料理はカミュ専用な！他のは食べるなよ。皆の分無くなるもんな。」
カミュ「・・・・・・・・・・・・・・」
明日病院行き決定となったカミュであった。


宴もたけなわ。そろそろ酔っ払いがトラになる頃である。
ミロ「カミュ〜〜〜!!頭がくらくらするよ〜〜〜!!」
カミュ「うえ・・・・・・私もだ。頭がぐらぐらする。」
酒の酔いで頭がフラフラのミロと、ミロの弁当の所為で頭がグラグラのカミュ。
アルデバラン「情緒性がないだと。そんな筈はない！」
酒の所為で、すっかり泣き上戸になっているアルデバラン。
アフロディーテ「あーーーーーーーーーーっはっははは。」
顔を真っ赤にさせて、完全に笑い上戸のアフロディーテ。
デスマスク「ほら、飲め飲め飲め。」
シュラ「シュラ、もう一杯一気飲み行きます！ごっくごっくごっく。」
酒場の主デスマスクとシュラは、酔っ払っているもののまだまだ元気に酒を飲んでいた。既に四回イッキしているが、まだまだいけそうな口である。アイオリアは、雰囲気に酔って、すっかり一升瓶を枕に眠りこけている。
サガ「・・・・・・・・・聖域の出費がかさんでかさんでアテナに申し訳無くて・・・・・・」
シャカ「まず仏の誕生だが・・・・・・・・」
楓相手にグチを零しているサガ。半分泣き、半分黒である。同じく楓に説教をしているシャカ。酔っていなさそうで完全に酔っている。
ムウ「う〜ん、これは見事な楓より酒。」
くいっと酒を飲みながら、ムウはまだまだ素面状態で情景を見ていた。うわばみの異名を持つだけある。
ムウ「いつもは皆さん理性を保っていらっしゃるのに、どういうことでしょう。楓の魔力か、アテナ公認宴会だからでしょうか・・・・・・・・困りましたねえ。」
テレビでも見ているかのごとく、ニコニコと微笑みながら見るムウ。口では言っているが、全然困っていない。

デスマスク「ちらほら散ってるんじゃ、つまんねえ。いっそ盛大に散らそうぜ！」
デスマスクが、楓に攀じ登り
デスマスク「積尸気冥界波―――――！」
と、楓の枝を揺らし、ちらほらだった葉っぱをばらばら落とす。
サガ「うわ！」
ミロ「すっげ〜〜〜！紅葉饅頭が落ちてきた！」
アフロディーテ「うわあ、血にまみれた手が落ちてきた〜〜」
皆手を叩いておおはしゃぎである。


そして


葉を全部散らした。


最後は

デスマスク「シュラ！切れよ！もう葉のないこれいらないだろ。」
シュラ「はいはい！エクスカリバー！」

シュパ!!

ムウ「あらららら。」

楓の木は無惨にも二つにされてしまった。
アフロディーテ「はーい。私、薪が無くなったので使いたいです！」
サガ「私もあるといい。燃やしたら良い香りでもするかもしれん。」
デスマスク「じゃさ、しっかり切っておけよ。」
シュラ「はいはい。」

シュパパパパパ

シュラ「これでいいだろ？」
デスマスク「超オッケー！使いやすくなったな！」

千切りにされてしまった楓であった。


ムウ「あ〜らら。何年も生きれる楓をあんな風にしちゃうなんて・・・・・アテナが御覧になったらどう思われる事か・・・・・でもま、写真撮っておかないといけませんね。そう言われてますから。」
すっとデジカメを取り出した。
ムウ「はい、チーズ。」


パチリ



沙織「観楓会を行った時の写真ですか・・・・・・」
ウキウキしながら手紙を開ける写真。
沙織「あら・・・・・・・・・・」
跡形もない楓。どう考えても異常な行動の黄金達。写真は全てを物語っていた。普通に毛氈などをひいて、優雅に過ごす観楓会とは百万光年以上離れていた。
沙織「・・・・・・・あの楓は三百万円したのですが・・・・・」
奮発して三百万円のを購入したのだが、こうなるならば、十万円でも良かったかもしれない。
沙織「はは・・・・・でもま・・・・・ストレス解消には・・・・なったでしょうね。そう思いましょう。三百万の一つや二つ、聖闘士が裏切る事に比べたら安いものですね。」
にっこりと沙織は微笑んだ。


目尻がぴくぴくと動いていたことは、ここだけの秘密である。




あとがき
季節ネタです！秋なので,楓を愛でる話にしてみました。あまり愛でてないですけど。むしろ利用しまくりですけど。酔っ払っていつもと違う人達がかなりいますが。酒はまあ、性格を変えたりしますからね。それにしても、酒に強いシャカまでも酔っ払ったというのにムウが素面というのは、恐ろしい感じがします。ムウは本当にどのくらい飲めるのでしょう？


BY　　MUTUMI