夢の一時

星矢「明日九時だよな。」
瞬「うんうん。」
二人は楽しそうに荷造りをしている。
紫龍「随分楽しみにしてたもんな、お前ら。」
氷河「そんなに浮かれなくてもいいだろ？」
瞬「だって、明日はニューオープンする遊園地に行くんだよ。兄さんも行ってくれるんだもの。ね、兄さん。」
一輝「ああ。」
短いセンテンスに瞬はニコリと笑った。
星矢「楽しみだな〜、新しい遊園地のジェットコースター一番前が一番怖いって有名だぜ。」
瞬「うんうん。僕迷路も入りたいな。」
氷河「迷路？」
瞬「凄い難しいんだけど、綺麗なんだって。」
氷河「迷路というと、双児宮を思い出すからあまり好きじゃない。」
紫龍「星矢は迷路には入らない方がいいんじゃないか？」
星矢「なんでだ？」
紫龍「思いっきり走って鏡に激突するから。」
瞬「あはは！」
一輝「フ！」
氷河「星矢、もし迷路壊したら沙織さんに怒られるからな。」
星矢「氷河だって瞬がいたからこそ脱け出せたんじゃん。お前俺の事笑えるかよ。」
氷河「う・・・・・」
紫龍「とにかく、沙織さんがチケットくれたのだから、明日は楽しもうな。」
城戸邸の夜は楽しく更けて行った。

瞬「わあ、快晴だ。」
瞬が大きくのびをする。
星矢「絶好の遊園地日よりだな。」
紫龍「雨が降らないで良かった。春は結構雨が多いから。」
一輝「瞬、寒くないか？パーカー貸そうか？」
瞬「平気ですよ。」
氷河「ん？門の前、誰かいないか？」
一輝「あ、あれはエスメラルダ！」
一輝は一人先に駆けていった。遅れを取った四人が一輝の後を追った。
エスメラルダ「一輝！」
一輝「エスメラルダ。どうしたんだ。」
突然の訪問に嬉しさと驚きが混じる。
エスメラルダ「え、私一輝に葉書書いたわよ？」
一輝「え、葉書？」
瞬「エスメラルダさん。こんにちは。」
一輝に追いついてペコッと瞬がお辞儀した。
エスメラルダ「こんにちは、瞬さん。」
エスメラルダもペコッとお辞儀をする。
一輝「瞬。」
瞬「はい？」
一輝「俺のいない間に俺当ての葉書届かなかったか？」
瞬「え、知りませんよ？」
一輝「エスメラルダが俺当てに葉書を書いたと言ってるんだが・・・・」
星矢「あ・・・・・もしかして、葉書の角にハイビスカスが入ってる奴？」
エスメラルダ「そうです。その葉書です。」
星矢「悪い。犯人俺だ。」
すまなそうに、星矢が手をあげた。
星矢「手紙が前来たんだ、一輝が帰ってくる二日前くらいに。だけどさ、字が何書いてるんだかさっぱり分からないんだよ。誰当てかも分からなくて。英語でもないし、日本語でもないし、ギリシャ語でも中国語でもロシア語でもなくてさ。悪戯かと思って捨てちゃったんだ。」
一輝「お前・・・・・」
エスメラルダ「ごめんなさい、私一輝に日本語を話すことは習ったんだけど書くことまでは習わなかったの。」
瞬「デスクイーン島って何語ですか？」
エスメラルダ「キリバスです。デスクイーン島はフェニックス諸島にありますから。」
氷河「キリバスってどんな風なんだ？例えばこんにちはとか。」
エスメラルダ「マウリです。」
瞬「さようならは？」
エスメラルダ「サボーです。」
星矢「日本は？」
エスメラルダ「サバーンですよ。スペルはt、i、a、b、a、nです。」
紫龍「それじゃ分からんわな。」
一輝「それで、どうしたというんだ？エスメラルダ。」
エスメラルダ「お金がたまったから、一輝のいう日本に行ってみたいと思って。この日に行くわね、都合が悪いなら返信してねと葉書を書いておいたのだけれど・・・・・」
星矢「御免よ。エスメラルダさん。」
本当に心の底から謝罪したい星矢であった。
エスメラルダ「皆さん、その服装は？どこかにお出かけなんですか？」
瞬「今日僕達遊園地に行くんだ。」
エスメラルダ「そうだったんですか。じゃ、じゃあ一輝も行くのよね。私帰ろうかしら。兄弟水入らずを邪魔しちゃいけないわよね。」
一輝「エスメラルダも一緒に行かないか？」
エスメラルダ「え？」
一輝「折角日本に来たのだから、少し日本の雰囲気を味わってみないか。」
エスメラルダ「お金が無いわ。」
一輝「俺が奢るさ。」
エスメラルダ「悪いわ、一輝。」
一輝「エスメラルダ一人の金くらいだせるさ。」
瞬「一緒に行こう。増えた方が楽しみを共有できて良いよ。」
星矢「そうそう。遊園地って楽しんだぜ。」
エスメラルダ「じゃ、じゃあお言葉に甘えて私もご一緒させていただきますね。」
こうして、六人は遊園地へと足を運んだのだった。

本日オープンの遊園地には大勢人がいた。前評判が高いだけに行列が出来ているアトラクションもある。
星矢「何だよ、今日って日に来なくてもいいじゃん。」
瞬「僕達だって来てるじゃない。同じでしょ。」
不満を零した星矢を瞬が窘める。
エスメラルダ「これが遊園地ですか。楽しそうですね。」
瞬「面白いよ。凄く前、兄さんと教会の子達と来た事あるんだけど、凄く楽しかった。」
思い出を懐かしんでるのか瞬が微笑みを浮かべた。
エスメラルダ「一輝は、どれが好きなの？」
一輝「俺か？」
エスメラルダ「一輝が好きなやつに乗ってみたいわ。」
氷河「一輝って何が好きなんだ？絶叫か？ほのぼのか？迷路か？」
一輝「俺は別に何でも・・・・・」
星矢「好きなの無いのか？」
一輝「俺は、瞬の好きな奴に便乗していたから自分から好んで乗った奴はないな。」
瞬「あ、ごめんなさい兄さん。僕の我侭につき合わせてたんですか？」
一輝「そんなことない。気にするな。」
くしゃっと瞬の頭を撫でた。
星矢「じゃ、まず絶叫系いってみよーぜ。前評判高いからさ！」
紫龍「エスメラルダさんは絶叫系大丈夫か？」
エスメラルダ「大丈夫も何もそういうの乗った事無いから・・・・・」
瞬「あ、そうだね。」
星矢「じゃあ、気絶したら一輝に介抱してもらわなきゃな。」
エスメラルダ「そんなに怖いんですか？」
氷河「怖がりには死ぬほど怖いだろうな。」
エスメラルダ「そうなんですか・・・・」
一輝「心配するなエスメラルダ。怖い時は目を瞑ってればいい。そうすれば怖くない。」
エスメラルダ「本当？」
一輝「本当だ。瞬が実践してたから確実だ。」
瞬「兄さん！僕はもうジェットコースター平気です。」
一輝「ほらな。」
エスメラルダ「フフッ。一輝がそういうのなら安心だわ。」
星矢「早く行こうぜ！」
瞬「うん！」
星矢と瞬が先頭きってジェットコースターまで駆けていったのだった。

星矢「お〜〜〜、世界が回ってるぞ〜〜〜」
紫龍「星矢！手摺から手を離すんじゃない！落ちたらどうする！」
一時間並んで、星矢は希望通り一番前に座った。二人席なので、紫龍と星矢。氷河と瞬。一輝とエスメラルダという風に座っている。
瞬「目が回るね〜〜〜」
氷河「口動かすと舌噛むぞ。」
顔色が良い瞬と悪い氷河。グルグルグルグルコースターが回転を続ける。
エスメラルダ「空が近いのね。風も気持ち良いわ！」
一輝「デスクイーン島に比べたら空の色なんて及びもしないけどな。」
アップダウンの激しいコースではエスメラルダはご機嫌だった。手を伸ばせば空に手が届きそうだった。

星矢「流石！ハヤブサだけあったな！」
星矢がうーんと大きく伸びをする。
瞬「凄い楽しかった！あ、氷河大丈夫？」
氷河「ちょっと目が回った。」
氷河の足はフラフラしている。それを見て瞬は氷河を支えた。
一輝「大丈夫か？エスメラルダ。」
エスメラルダ「大丈夫。とても面白かったわ。」
紫龍「遊園地はどうだ？楽しいか？」
エスメラルダ「遊園地って楽しいのね。あんな楽しいの初めてだわ。」
一輝「喜んで貰えたなら良かった。」
一輝がエスメラルダに微笑んだ。
紫龍「次はどうするか。とりあえず目当てのものは乗ったし・・・・・」
エスメラルダ「あの綺麗な館、何かしら。」
エスメラルダが指したのは、鏡の館、ミラーパレスだった。
一輝「あれにはいるか。」
瞬「あのミラーパレス、凄い幻想的なんだって。鏡とか壁とかが七色に輝いたりするんだってよ。入り口から出口に行くパターンも数十通りあるみたい。」
入り口で貰ったパンフレットを見ながら瞬が答えた。
氷河「また並びそうだな。」
入り口の人だかりを見てげんなりした氷河だった。
星矢「あ、皆で行ってもつまらないから、時間差つけていこうぜ。」
瞬「それ楽しそうだね！」
紫龍「星矢、走るなよ。」
星矢「走らないって。」
こうして、列の最前列に並んで、ミラーパレスの順番を待っていたのだった。

ミラーパレスは幻想的な鏡の館で、迷子も何人も出るという。七色に輝く鏡や、三面鏡が、方向感覚を麻痺させる為だろう。
瞬「わあ！綺麗！」
鏡の片方に手を添えながら瞬は歩いていた。
瞬「僕が一杯で、迷っちゃいそうだなあ。こんな時ミーメのストリンガーレクイエムなんて聞いたら一生ここから脱け出せないね。」
フフッと微笑みながら先に進む。道がいく通りにも用意されている。星矢達には分かれてから全然あっていない。
瞬「星矢はちゃんとゆっくり歩いてるかな。」
ドン！
？？「キャ！」
誰かにぶつかって女性の小さな悲鳴がした。空想していたので辺りに周囲を配っていなかったのだ。
瞬「ごめんなさい、大丈夫ですか？」
エスメラルダ「あ、瞬さん。」
瞬「エスメラルダさん。」
エスメラルダ「偶然ですね。」
瞬「兄さんは？」
エスメラルダ「さあ？一輝は一輝でゴールを目指してると思いますけど。」
鏡に二人の姿が映る。髪の色と、異性でなければ、鏡から抜け出たといっても過言ではないほどそっくりだ。
瞬「一緒に行きましょうか。」
エスメラルダ「ええ。」
ポコポコ二人で歩く。
エスメラルダ「一輝の言ってた弟さんに会えて、私嬉しく思います。」
唐突にエスメラルダが話し出した。
瞬「僕もですよ。エスメラルダさんに会えて嬉しいです。」
エスメラルダ「一輝は、瞬さんの事デスクイーン島で凄く大事にしてましたから。」
瞬「エスメラルダさんの事だって、僕を大事に思う事とは別の次元で大事に思ってますよ。それに、兄さんの事唯一呼び捨てにする人ですし。」
エスメラルダ「実はほんの少しだけ嫉妬したことがあるんです。」
瞬「嫉妬？」
エスメラルダ「目覚めると、私を見ていつもあなたの名前を呼んでいたので。私は弟さんの代わりに見られてるのかって。」
瞬「そんな事無いですよ。エスメラルダさんは、一人の女性として見られてて、兄さんは純粋に好きなんですよ。代りじゃないですよ。」
エスメラルダ「ありがとう。」
優しくエスメラルダは微笑んだ。百人以上のエスメラルダも同様に微笑む。
瞬「こうして見てみると、本当にそっくりなんですね。」
エスメラルダ「一輝が間違えるのも無理ないかと思います。双子みたいですね。」
瞬「他のご姉妹もエスメラルダさんに似てるんですか？」
エスメラルダ「そうですね・・・・・私ほどではありませんけど。でも、最後に会ったのは随分前ですから今、どんな容姿なんだか・・・・」
瞬「どうかされたんですか？留学とか・・・・」
エスメラルダ「女の子は皆売られていきましたから・・・・・」
瞬「そうなんですか・・・・・すみません。」
エスメラルダ「気にしないで下さい。」
瞬「だけど・・・・・」
瞬の目に涙が浮かんでいた。
瞬「辛くないのですか？」
エスメラルダ「辛くないと言ったら嘘になりますけど。」
瞬「親を恨んだりとか・・・・」
エスメラルダ「当たり前の事ですから恨む気にもなれません。それに両親は育てられなくなったからと言って殺すのでは無く、生かしてくれましたから。」
瞬「そ、そうですね。」
エスメラルダ「それに、今は売ってくれた事を感謝したいくらいです。売ってくれたから私は一輝に会えました。売られたことは確かに不幸ですけど、それによって一番の幸福も手に入れたんです。不幸のどん底に光がささないって事はないんです。上からは光はささなくても、横からは、光がさしこむんです。私は今幸せです。」
瞬「僕も、それ良くわかります。」
エスメラルダ「この世に生まれて本当に良かったって思いますよ。」
瞬「僕も・・・・・」
ドカッシャーン
何かが砕ける音が響いた。
瞬「きっと星矢だ♪まったくあれほど注意してたのに。」
エスメラルダ「実は一輝だったりして。」
瞬「え〜、兄さんが？」
エスメラルダ「私と瞬さんを見つけて、駆けたら実は鏡だったとか。」
瞬「そうかなあ。」
エスメラルダ「賭けてみますか？もし一輝がぶつかってたら私の勝ち。もし星矢さんだったら瞬さんの勝ち。」
瞬「何を賭けましょうか。」
エスメラルダ「そうですねえ・・・・」
瞬「兄さん一人じめ権ってどうですか？」
エスメラルダ「いいですね。それ乗ります。」
瞬「約束ですよ。」
互いに笑う。もしあれが普通の客だったらどうするのかとも思うが二人はその考えは浮かばなかったのだった。

星矢「よ！遅かったな！」
瞬とエスメラルダは一番最後だった。
氷河「迷路はもう入りたくない・・・・」
紫龍「俺に出会わなければ、お前一生同じ場所をぐるぐる回ってたろうからな。」
氷河「煩い。」
エスメラルダ「一輝！」
エスメラルダが一輝のもとに駆けつける。一輝の顔は、細かな切り傷で一杯だった。
エスメラルダ「どうしたの？一輝、その顔。」
一輝「ま、まあなんと言おうか、鏡にぶつかって鏡を破壊してしまったと言おうか・・・・・」
星矢「こいうバカなんだぜ。瞬とエスメラルダさん見つけて、話しかけようと駆けたらそれが鏡だったんだって。」
エスメラルダ「全く。」
エスメラルダがハンカチを取り出し、一輝の顔に添える。
一輝「妙に嬉しそうだな、エスメラルダ。」
エスメラルダ「え？だって・・・・・瞬さん、ほら私の言ったとおりでしょう？」
瞬「そうみたい。僕の負けだね。」
エスメラルダ「私の勝ちですね。」
瞬「分かりました。ねえ、氷河。僕と一緒にあそこのアトラクションはいろうよ。ドルアーガの塔だって。行こう。」
氷河「え・・・・」
瞬「自由行動しよう。一時になったら、メモリアルカフェエリアに集合って事で。」
星矢「そうだな！俺もっと絶叫乗りたいし。」
紫龍「じゃ、俺は星矢と一緒に行くよ。保父なら慣れてるしな。」
星矢「ひでえ。」
瞬「はやく行こ！行列しちゃう！」
一輝の意見を聞かずに、氷河の手を引っ張り瞬はドルアーガの塔へ向かってしまった。星矢も瞬とは真逆の方向に歩き始めた。
一輝「俺達も何か見に行くか、エスメラルダ。」
エスメラルダ「ええ！」
一輝「何にするか。」
エスメラルダ「さっき見たけど、あの可愛いお人形さんの館みたいな奴。なんて書いてあったのかしら。」
一輝「マイリトルワールドだな。エスメラルダらしい。」
エスメラルダ「子供っぽいかしら。」
一輝「そんな事は無いさ。行くか。」
一輝は瞬の向かった方向と九十度の方向に歩き始めた。
エスメラルダ「えっと、一輝。」
一輝「何だ？エスメラルダ。」
エスメラルダ「手、繋いでもいい？」
一輝「・・・・・・いいぞ。」
照れた様に言う一輝にエスメラルダは満面の笑顔で一輝と手を繋いだ。

エスメラルダ「凄く綺麗だったわ、マイリトルワールド。」
一輝「そうか。」
エスメラルダ「幻想的で夢みたい。」
一輝「綺麗だったな。」
二十分並んで入ったマイリトルワールドだったが、待った甲斐はあった。精巧な人形が、バックライトに光り、そしてまた浮かび上がり、遊園地慣れしている日本人でも感動するほど素晴らしかった。
エスメラルダ「一輝はああいうところ入らないのかしら？」
一輝「いや。瞬がああいう幻想的なのが好きだから、良く入った。」
エスメラルダ「本当に一輝は弟想いなのね。」
一輝「たった二人の兄弟だからな。」
そう言って微笑む一輝の顔は、エスメラルダに向ける笑顔とは少し違っていた。大事な物を守るような、庇護するような暖かい母親のような笑顔だった。
エスメラルダ「ねえ、一輝。あれは何？」
一輝「え？」
エスメラルダ「あれ、大きいドームみたいなところ。」
一輝「あ、あれは・・・・」
一輝は言葉に詰まった。あれはゲームセンター。一輝の感覚では不良の巣。中学、高校の校則『盛り場には行かない』に賛同する今時珍しい若者。瞬にも口がすっぱくなるほど行くなと言っている。その所為か、瞬も星矢に無理強いされた時以外近づかない。
エスメラルダ「あそこに入ってみたいわ、一輝。人も並んでいないし。」
一輝「エスメラルダ。あれはゲームセンターっていうんだ。」
エスメラルダ「ゲームセンター？どういうアトラクションなの？」
一輝「アトラクションじゃない。」
エスメラルダ「？」
一輝「あれは、不良が集まるところなんだ。ちっとも楽しくないよ。」
エスメラルダ「そう・・・・なの？でも次々に人入っていくのに。」
一輝「エスメラルダには刺激が強すぎるよ。」
エスメラルダ「でも・・・・・・入ってみたいな。」
しなを作るエスメラルダに、一輝はこれ以上反論はできない。エスメラルダを守れば良いだけの事と腹をくくり、ゲームセンターに入った。数十分後、何かに格闘し終えて一輝が燃えつきてでてきたのだった。その代わりにエスメラルダの機嫌は一番良かったのだった。

星矢「すっげ楽しいな、ここ。」
一時になり、一同メモリアルカフェに集まっていた。皆思い思いの食べ物を頼んだ。
瞬「うん！どきどきわくわくして最高だね。」
パクッとポテトを食べる。
氷河「一輝達はどうだった？」
一輝「あ、ああ。楽しかったぞ。」
エスメラルダ「あのね、初めてゲームセンターっていうところにはいったの。」
嬉しそうにエスメラルダが話した。
瞬「兄さんがゲームセンター？珍しいね。どうしたの？」
一輝「エスメラルダが興味を持ったから・・・・・」
氷河「それ、一輝に取ってもらったのかい？」
エスメラルダの腕の中に、可愛らしい犬のヌイグルミがあった。出かけには勿論持ってはいなかった。
一輝「エスメラルダが欲しいって言うから頑張って取った。」
紫龍「クレーンキャッチャーか？」
一輝「ああ。」
紫龍「お前ああいうの普段やらないだろ。俺もやらないけど。いくらかけた？」
一輝「三千円。」
ブッと思わず麦茶を吐き出しそうになった紫龍。三千円とは100×30である。ゲーマーがかける数字と同じだ。
瞬「兄さん三十回もやったんですか？」
一輝「バカクレーンがちっともそれを掴んでくれないからな。」
瞬「破産しちゃいますよ。」
星矢「俺だったら、最高で一回。最低で六回で取って見せるぜ。俺に言えば良かったのに。無駄金使わなくてすんだよ。」
一輝「確かにな。すまないな、エスメラルダ。俺なんかが挑戦したから無駄な時間と手間かけさせて。」
エスメラルダ「一輝がくれるのが一番良いの。一輝がくれないのなら、あまり嬉しくはないわ。」
一輝「そうか。」
何だかあてられてるようである。人間機関銃の星矢も二の句が継げなくなる。
星矢「俺、静かな奴乗ってこようかな。」
紫龍「お前、食休みは？」
星矢「大丈夫。ジャングルクルーズとか静かなの乗るから。」
紫龍「俺もついてってやるよ。帰れなくなったら困るだろう。」
星矢「ガキ扱いするなよ。」
紫龍「念には念をいれておかなきゃな。じゃ、俺達行ってくるよ。」
星矢と紫龍はジャングルクルーズに向かっていった。
一輝「瞬、お前は食休みしろよ。」
瞬「分かってます。食べてから運動するとお腹痛くなりますからね。」
一輝「そうだ。」
チューッとコーラを啜った。そよ風が気持ちいい。お腹も膨れてるし、眠りの天使がまどろみを誘う。初体験のこともあって普段よりも疲労を感じるだろう。
瞬「・・・・・・あれ？」
一輝「エスメラルダ・・・・・」
犬のヌイグルミを抱えて、エスメラルダは転寝を始めてしまった。気持ち良さそうに眠っている。
瞬「エスメラルダさん眠っちゃったね。」
氷河「そうだな。」
一輝「疲れたんだろう。何もかも初めてだろうしな。」
そう言うと、一輝は来ていたパーカーをエスメラルダにかけた。ピクッと体が動いたが、すぐまた眠りに落ちる。
瞬「今日はもう帰りますか？」
氷河「エスメラルダさんも疲れたみたいだしな。」
瞬「僕達はまた来ればいいですよね。」
一輝「お前らは残っていろ。」
瞬「え？」
一輝「俺が先にエスメラルダを連れて帰る。お前らはゆっくりしていけ。」
瞬「で、でも・・・・・」
一輝「俺に遠慮する事は無い。瞬は星矢達と遊んでいけ。」
氷河「星矢達に聞いてから結論を出そう。」
十分後、星矢と紫龍が帰ってきた。

星矢「ん〜、そうか。エスメラルダさん眠っちゃったのか。」
紫龍「確かに今日は人も多いし、疲れただろう。」
星矢「俺、まだ遊びたいなあ。」
一輝「お前らはまだ残ってていい。エスメラルダ連れて俺は帰る。」
氷河「本当にいいのか？」
一輝「全然構わない。エスメラルダを叩き起こしてこれ以上つき合わせるなど俺にはできん。」
瞬「じゃあ、僕達はもう少し遊んでいきます。」
星矢「随分あっさりと引き下がるな。瞬は一緒に帰るかと思ったぜ。」
瞬「エスメラルダさんとの約束があるからね。」
眠ってるエスメラルダを見てニコッと笑った。
氷河「？」
一輝「じゃあな。瞬、門限は五時だぞ。」
瞬「分かってますよ。」
一輝「五時一分でも門限破りだからな。家にいれないぞ。」
紫龍「俺が監督するから大丈夫だとは思うが・・・・」
チラッと星矢を見る。」
星矢「何か言いたいか？紫龍。」
紫龍「いや。」
一輝「門限は守れよ。」
そう言い捨てると、一輝はエスメラルダを背負って遊園地をでていった。
星矢「一輝って瞬とエスメラルダさんどっちが大切なのかなあ。」
瞬「どっちでもいいじゃない。僕もエスメラルダさんも兄さん大好きだもの。星矢こそ、大切な人絞り込めば？」
星矢「絞り込むって誰と誰を？」
氷河「星矢を好きになった人が一番不憫かもな。」
紫龍「超ド級の鈍感だからな。」
星矢「？」
瞬「次は何乗ろうか。紫龍好きなのはある？氷河も。」
紫龍「ん、じゃあ死神の黙示録でも・・・・」
氷河「ホラーか。瞬、平気か？」
瞬「ちょっと苦手かも。」
星矢「一輝いないからって泣くなよ？」
瞬「泣かないよ。もうそんな子供じゃないんだから。」
氷河「パンフには、世界一怖いと書いてあるが・・・・」
瞬「大丈夫。多分。」
死神の黙示録に入ることを決めた。意を決して入ったが、悲鳴をあげまくったのは、勿論瞬もであるが、星矢もであった。

暖かい小宇宙を感じて、エスメラルダは不意に目を覚ました。喧騒もない。
一輝「起きたか？エスメラルダ。」
エスメラルダ「一輝。あれ？私・・・・」
一輝「転寝してたから、俺と一緒に先に帰る事にしたんだ。」
それを聞いて、ぱっと身を起こした。
エスメラルダ「一輝、ごめんなさい。もっと遊びたかったでしょう？」
一輝「いや、もう今日はこれで十分だ。」
エスメラルダ「瞬さんは・・・・・」
一輝「瞬は星矢達とまだ遊んでる。瞬の奴、今日は妙にひっついてこない。」
エスメラルダ「私との約束守ってくれてるんだ・・・・」
一輝「何か言ったか？」
エスメラルダ「何でも無い。」
一輝「今日は楽しかったか？」
エスメラルダ「うん、凄く面白かったわ。」
一輝「今度来る時は、俺の名だけでも日本語で書いてくれ。角の方に小さくて良いから。後で紙に書くから。」
エスメラルダ「うん。ねえ、一輝。一輝はどうしてキリバスの言葉、読めるの？」
一輝「デスクイーン島ではキリバスだらけだったからな。必然的に覚えた。」
エスメラルダ「ごめんなさい、私一輝の国の言葉、読む事も書く事もできなくて。」
一輝「気にしてない。俺の方こそ、日本語で喋ってくれるなんて随分迷惑な事・・・・」
エスメラルダ「迷惑じゃないわ。一輝と少しでも早く仲良くなれたらと思って必死だったの。」
おはよう、こんにちは、おやすみ。それを覚える為に、こき使われる中で何度も何度も反芻した。言葉が通じた時は、天にも昇る気持ちだった。
一輝「俺も、キリバスを覚えるのは必死だった。何とかしてエスメラルダと話したかった。」
エスメラルダ「私の日本語ちゃんと通じてる？意味わかる？」
一輝「上手いよ。アメリカかぶれの日本人よりずっと上手い。」
エスメラルダ「良かった♪」
一輝「俺のキリバスも聞いてくれるか？」
エスメラルダ「ええ。」
一輝「・・・・・・I tangiriko」
エスメラルダ「・・・・・・Kani kaokia riki,taiaoka？」
一輝「I tangiriko」
エスメラルダ「Kukurei」
夢のような言葉にギュッとエスメラルダは一輝を抱きしめた。

翌日、エスメラルダはデスクイーン島に帰っていった。そして、一週間ほどたった日の事・・・・
星矢「おい、またエスメラルダさんからだぞ。」
一輝「本当か!?」
星矢「みてみろ。前と同じ葉書だ。」
確かにハイビスカスのイラストが入っている。
星矢「エスメラルダさん、今度はちゃんと日本語で宛先人書いてくれてるんだぜ。」
一輝「本当だ。」
星矢「カナ釘文字だけど仕方ないか。じきなれるよな。」
一輝「ああ。」
葉書の角には、一生懸命書いたと思われる、エスメラルダの初の日本語が書かれていた。平仮名でたどたどしく、『いっき』と書かれていたのだった。



あとがき
へたりおん様が8000番を踏んでくれました。今回は一輝×エスメラルダ+青銅。この話ではエスメラルダは生きています。パラレルだからこそなせるわざ。へたりおん様、こんなのでいかがでしょうか。デスクイーン島はフェニックス諸島にあると私は思います。パラレル抜きで。だって名前がフェニックス。廬山もシベリアもギリシャもあるのだから、デスクイーン島だって地球に存在する筈です。アンドロメダ島はエチオピア領の島国。初めて外国語を和訳抜きで書いてみました。普段は話の進行上訳しておく、または日本語を学習しているということにしないと、読者にはさっぱりわからないのですが、今回は、ちょっとラブ度をアップさせるためキリバス語を使ってみました。一輝とエスメラルダの言葉訳せましたでしょうか。ちなみに和訳
です。
一輝「・・・・・・愛している。」
エスメラルダ「・・・・・・もう一度言って？」
一輝「愛している。」
エスメラルダ「嬉しい。」
です。和訳しない方がムードでるでしょう？今回の裏シナリオ。門限五時という約束でした。しっかり者の紫龍が時間配分を考え、四時半には家路に到着いたしました。

　　　　　　　　　　　　　BY　　　MUTUMI