YOURS☆EVER

『想いは永遠。ずっと見守っているわ。何かあった時は必ず側にいるわ。』

星矢「瞬。」
全員で食事をしていた。子供百人を養うのにそんなにお金をかけないと決めてあるのかクリームシチューにコッペパンであった。
星矢「瞬！」
瞬「・・・・・え？」
瞬が星矢の方をむいた。
瞬「なあに？星矢。」
星矢「お前、元気無くないか？」
瞬「そんな事・・・・無いよ。」
紫龍「頬が痛むのか？」
瞬「ううん、痛くない。」
瞬は食事前、誰かにやられたのか頬にアザを作っていた。まあ、おおよそ見当はつくのだが。
瞬「どうして、そんな事聞くの？星矢。」
星矢「や、だってさ・・・・」
そんな事一目瞭然である。道端の小石さえも綺麗といって微笑む瞬が、ほぼ無表情なのだ。何かあったと考えてもおかしくはない。鈍感の上に超と激がつくほどの星矢でもわかった。
紫龍「どうかしたのか？」
瞬「何も無いから心配しないで。美味しいね、シチュー。」
本当に美味しいと思ってるのか疑問である。言葉と表情がまるで一致していない。
一輝「嫌いな食べ物でもあったか？」
瞬「僕、人参だってピーマンだって食べられるよ。」
一輝「そうだったな。」
好き嫌いをしてるわけでもなさそうだ。そもそも一輝が好き嫌いは瞬に教え込ませたのだ。食べられないと拒否する事は卒業していた。
氷河「悩み事があるなら相談しろよ。」
瞬「大丈夫だよ、氷河。」
全員（本当か？）
瞬の言葉を半信半疑になりながら食事をすすめた。食事が終ったら夜間の特訓だった。今日の特訓は試合だった。こういう場合熱血型の星矢と一輝には向いてるのだが、戦いを好まない瞬には不向きの競技だった。予想通り星矢達は手加減無しでとういうよりは星矢の場合力任せだが、勝利を収めた。紫龍は冷静にあっさりと勝利を収めた。氷河の場合、全く相手にならない相手を当ったので練習にすらならなかったが勝利した。
氷河「一輝、これは試合だからな。」
一輝「分かってるさ。」
星矢「本当かよ。殴りにいくなよ、瞬が泣いても。」
瞬の相手は邪武であった。瞬を一番いじめる人間であり、百人の中で実力もあった。しかし、星矢の心配は別の方面で現された。
紫龍「あいつ、今日おかしいぞ。」
星矢「止めたほうが良いんじゃないか？」
瞬がガードしかできないのは当然だが、感情を失っていることはなかった。しかし、今ガードもできるかどうか危うい。眼がうつろで戦いをしているとは思えない。邪武も相当動揺していた。
邪武「おい、瞬。お前どうしたんだよ。」
瞬「別に。」
邪武「そう、無表情だとこっちが困るんだよ。新手の技か？」
瞬「ワザ・・・・・？」
心外だなと言わんばかりに首を傾ける瞬。
星矢「おい！邪武！お前棄権しろ！今日の瞬、様子が違う！」
紫龍「分かるだろ！意味が！」
邪武「・・・・」
邪武は握っていた拳を緩めた。生来負けず嫌いな邪武ではあるが、この様子は尋常ではないと思い、棄権した。瞬は初めて勝利をおさめたが瞬の尋常ならぬ態度は半信半疑ではなく全疑となったのだった。

特訓後、瞬は居間のソファにちんまりと座っていた。薄ぼんやりとした、電球も一つしかついていない中に瞬はいた。もうすぐ消灯時間である。
氷河「瞬。」
氷河が瞬の隣に座った。スプリングがはね、瞬の身体を揺らす。
風呂上りの湿っていた髪の毛の雫がはねた。
氷河「どうかしたのか？」
瞬「何が？」
氷河「皆心配してるぞ。」
瞬「何で？」
氷河「お前の様子がおかしいから。」
瞬「僕の様子が？」
ほんの少し不思議そうな顔をした。
瞬「氷河、氷河ってそのネックレス、いつも持ってるの？」
瞬が氷河のネックレスを指差した。
氷河「これか？」
首から外す。マーマの形見のロザリオである。金細工に宝石が施された高価そうな物だ。
瞬「綺麗だね。」
氷河「勿論だ。マーマの形見なんだ。」
瞬「マーマの？」
氷河「そうだ。マーマといつも一緒にいたいから肌身離さず持ってるんだ。」
瞬「ちょっと貸してくれる？」
氷河「いいよ。」
氷河のロザリオを瞬に渡してやる。瞬はロザリオを頬に当てた。
瞬「あったかいね。」
氷河「そりゃな。」
瞬「マーマが生きてるみたい。」
氷河「俺の心にはまだ生きてるんだぞ。」
瞬「そうなの？」
氷河「そう。」
瞬「ねえ、氷河。もしも大切にしてる物が遠くに行っちゃったら寂しい？」
氷河「どういう意味だ？」
瞬「例えばね、そのロザリオがね、誰かに奪われちゃって捨てられて手元に無くなっちゃったら。」
氷河「探す。俺は見つかるまで探す。」
瞬「探すの？」
氷河「マーマが寂しがる。ロザリオはマーマなんだ。もしも雨とかに打たれてたらマーマが寒がる。そんなの嫌だ。」
瞬「そう・・・・」
瞬は黙りこくってしまった。氷河は静かに部屋を出ると報告を待っている寝室に向かった。五人部屋だった。そう後の青銅五人が同じ部屋なのだった。
星矢「で、何か喋ったか？」
氷河「まあ、喋った事は喋ったんだが・・・・」
紫龍「何て言ってた？」
氷河「俺のロザリオについて話してたからな。瞬の気持ちが前面にでたかどうか。」
一輝「へえ、ロザリオなんて持ってるのか。」
氷河「珍しいか？女々しいと思うか？」
紫龍「それはロザリオに失礼だぞ。ついでに神父さんにもな。」
星矢「氷河ってそんなに信心深かったっけ？」
氷河「これは特別だ。マーマの形見なんだ。」
一輝「マーマの？」
氷河「そうだ。マーマが俺に残してくれた宝物だ。」
ロザリオを見せる。
一輝「瞬が持ってるのと似てる。」
氷河「瞬も持ってるのか？」
一輝「母さんの形見のペンダント。綺麗なペンダントだ。」
星矢「へえ。知らなかったよ。」
氷河「先刻俺にはそれを見せてはくれなかったな。」
紫龍「大事なものだから見せたくないんじゃないのか？」
氷河「俺は見せても構わないが。」
紫龍「それは俺達を信頼してるからじゃないのか？」
星矢「そうそう。邪武とかに見せたら女々しいだのマザコンだの言われてなじられるのがオチだぜ。」
氷河「すると何か？俺は瞬に信頼されてないと？」
星矢「いきなりそう結論付けるのはどうかと思うけど。」
紫龍「瞬は基本的に誰でも好いてると思うけどね。」
氷河「じゃあ俺は嫌われてるのか？」
紫龍「そこまでいく事は無いと思うぞ。」
氷河「何で見せてくれなかったんだろう。」
紫龍「それは本人に聞いてみないとな。それで氷河、瞬はロザリオの話をしたらしいが内容は？」
氷河「それがさ、もしも大切な物がどこかに行ってしまったら・・・だったっけ。そうだ奪われて捨てられてしまったらどうする？って言ってきたんだ。」
一輝「大切な物が奪われて捨てられてどこかに行ってしまったら？」
氷河「ああ。」
紫龍「お前は何て言ったんだ？」
氷河「俺は見つかるまで探すと。俺のロザリオを見つけるまで探しつづけるって感じで。」
紫龍「ふうん。」
氷河「何だ？紫龍。」
紫龍「少し、羨ましいかなと思って。」
氷河「羨ましい？」
紫龍「俺は俺の昔の事を知ってる人を知らないから。俺の母さんがどんな人かなんて一生分からない。お母さんを知ってるって良いなって思って。」
星矢「そうか。紫龍は一人っ子だもんな。」
紫龍「一人っ子っていうのも良く分からないけどな。」
氷河「瞬は母さんの事を覚えてるのか？」
一輝「多分、瞬は母さんの事を覚えていないぞ。」
星矢「そうなのか？」
一輝「母さんが死んだのは瞬がずっと小さかった頃だ。俺でも強烈な事以外もうボケ始めてるから瞬は顔すらも覚えてないだろう。」
氷河「俺は未だ良い方だな。マーマも覚えてるし、形見もあるし。」
星矢「じゃあ、瞬の場合母さんを覚えていないから形見をより一層母親って感じに思ってるかもな。」
一輝「そうかもな。」
キーンコーンキーンコーン
消灯の鐘が鳴った。全員ベッドにもぐりこむ。
星矢「瞬、帰ってこないな。」
氷河「寝てるフリでもしてないと、見まわりに来た辰巳にどやされるのに。」
紫龍「すぐ帰ってくるさ。」
しばらくすると、小さいペタンペタンという足音が聞こえてきた。
星矢「瞬だ。」
ドアが開くのを待っていた。しかし、足音はどんどん遠ざかっていった。全員跳ね起きる。
紫龍「今のは瞬の足音じゃなかったのか？」
氷河「瞬だと思う。居間には瞬しかいなかった。」
星矢「じゃあ、何で戻ってこないんだ。」
一輝「分からん。部屋を間違えるということでもないようだし。」
隣の部屋のドアも、その隣のドアが開かないところを聞くと、間違えたわけでは無さそうだ。
氷河「探しに行くか。」
星矢「脱け出したのばれたら辰巳に死ぬほどお仕置きくらうぜ。」
一輝「しかし、瞬がどこかに行ったのに寝ていられるほど無神経じゃない。」
紫龍「結局俺達もお仕置きされそうだしな。」
星矢「でていくもお仕置き。でていかないもお仕置きなら探しに行ったほうが
マシだな。」
一輝「とりあえず、辰巳の目を誤魔化すために枕をベッドの中に入れておく。それならばれにくい。」
紫龍「電気をつけることは無さそうだしな。」
全員枕をポンポンと叩きできるだけ膨らませた後、人間に見える様にベッドの中に押しこんだ。そして、足音を立てないように部屋をでた。

紫龍「どこに行ったのかな。」
氷河「トイレにもいなかったしな。」
瞬が行きそうなところはある程度探した。今のところ辰巳には捕まってはいない。気配を断つ事はもうできる。
星矢「一輝。兄弟の勘ってのは無いのか？」
一輝「分からん。今日の瞬は。」
星矢「今日の瞬、変だからな。」
紫龍「夕食頃からおかしいもんな。」
氷河「いや。夕方からだぞ。」
紫龍「夕方？」
氷河「丁度瞬が頬にアザを作った頃だな。マーマに綺麗な夕陽を見せてあげたいと思ってテラスに行ったら瞬が手すりに寄っかかって遠くの方を見てた。それで頬が青いのに気づいて一輝のところに連れていったんだ。」
一輝「どうせ、また邪武達だろう。」
星矢「そうだろうな。良く苛められてるもんな。俺もこの間シスコンって言われてさ、大喧嘩したよ。」
氷河「あの大喧嘩はそれが原因か。」
何日か前、邪武と星矢は大喧嘩をした。野良犬同士の喧嘩っぽく荒れに荒れた。調度品を何個か壊し、辰巳がその場にいた全員の食事抜きを決行したのだった。
星矢「いやあ、全員に迷惑かけてちょっと申し訳無かったな。」
紫龍「ついでに聞くがシスコンって知ってるか？」
星矢「さあ。良くは分からないんだけどさ。最初はパソコンとかリモコンの類かと思ったけど、そんなん悪口じゃないだろうからイヤな事なんだろうなと思って。」
紫龍「納得。」
星矢の考え方に半ば呆れもしたものの、納得したくなった紫龍であった。
ポツンポツン
雨がガラスを叩いた。
氷河「雨か。夕方は天気良かったのに。」
一輝「明日は屋内練習かな・・・・・ってあれ見てみろ。」
星矢「何だ？」
一輝「緑っぽい何かが動いてる。」
紫龍「何？」
全員で窓を覗きこむ。確かに緑の何かがうごめいていた。
氷河「もしかして瞬か？」
星矢「ありえる。」
紫龍「何やってるんだ？」
一輝「分からんが行ってみよう。」
辰巳に見つからないようにしながらその何かに向かった。

瞬「どこ・・・・どこにあるの・・・」
瞬は傘もささず、裸足で城戸邸の庭をさまよっていた。ガサガサと芝生を掻き分け、綺麗に整備された植え込みには顔を突っ込む。木は意外に強靭で、やわな肌に傷をつけた。
瞬「僕の・・・・大事な・・・・」
一輝「瞬！」
わらわらとちゃんと靴を履いて一輝達が瞬に駆けた。雨音と夜の闇が見まわりから彼らを庇ってくれていた。
瞬「に・・・・さ？」
一輝「何やってるんだ、瞬。」
氷河「裸足で傘もささないで。風邪ひいてしまうぞ。」
紫龍「どうしたんだ？」
瞬「僕の・・・・・お母さん探して。」
瞬が涙を零した。実際は雨の雫かもしれない。
星矢「お母さん？」
瞬「お母さん、寒がってるの。ひとりぽっちじゃ寂しがる。探さなきゃ。」
紫龍「どういうことだ？」
瞬「氷河のお母さんは氷河の側にいるのに、僕のお母さんはひとりぽっちでいるなんて嫌！」
氷河「お前、ペンダント身につけてないのか？」
核心を突かれて、瞬の瞳が大きく開かれた。雨の雫ではない暖かい大きな粒が瞬の頬を伝った。
瞬「取られちゃったの。」
紫龍「誰に取られたんだ。」
瞬「邪武達に・・・・取られちゃったの。」
一輝「何だと!?」
驚きの声をひとたびあげる。
瞬「夕陽が凄く綺麗だったからお母さんに見せたかった。きっと喜んでもらえると思ってテラスに行ったの。一番良く見える場所で見せてあげてたら、邪武達がやってきて、ペンダント、そんな高級そうなの生意気だってって言われて殴られて、一生懸命抗ったんだけどペンダント・・・・ヒック・・と、とられちゃってテラスからペンダント投げられたの。ピカって光ってどこかに行っちゃった。僕の大事なもの、無くなったの。ウ・・ヒック」
一輝「あの野郎〜」
拳を強く握り締める。
瞬「ずっとずっとどうしようって考えてて。僕にみつけられるかなってそればっかり考えてて。でも、氷河が俺は探すって言ったでしょ。僕のお母さんは僕がみつけなきゃって思って、それで・・・・」
星矢「外に出て探してたのか。」
一輝「あいつ、明日覚えてろよ。謝っても許さん。」
ボキッと腕を鳴らした。
紫龍「この辺にあるのは間違いないのか？」
瞬「テラスからまっすぐ飛んでいったから間違い無いと思う。」
星矢「手分けして探すぞ。」
氷河「おう！」
瞬「ありがとう。」
四つん這いになって五人はペンダントを探した。一人なら見落としがあるかもしれないが、五人ならその確率は格段に低くなる。しばらく探していた時天の悪戯かほんの一時雨がやみ、雲の間から月光がさしこんだ。
紫龍「ん！あそこ何か光ってないか？」
瞬「どこ？」
紫龍「あの木の上。」
紫龍が落葉樹の木を指差した。
星矢「露じゃないのか？」
一輝「とにかく行ってみよう。」
五人はキラリと光った木の所へ向かった。
瞬「あ、あった・・・・」
星矢「木に引っかかってたのか。」
ひょっと伸びている枝にペンダントは引っかかっていた。
星矢「俺が取ってやるよ。」
ニコッと笑った。元気少年星矢にはわけなかった。
瞬「やだ。僕が取る。」
星矢「やだってお前、木登りできるか？」
瞬「やった事無いけど・・・・でも僕が取りたい。」
氷河「やってみるか？」
瞬「やる。」
一輝「落ちても俺達がいるから安心して登れ。」
瞬「はい。」
瞬は皆のアドバイスを受けながら木に登った。危なっかしくもゆっくりゆっくり登っていく。本当は今の一輝より一つ頭くらい大きいほどの木なのだが、小さい子供の頃、五人の中で一番小柄の瞬には凄く大きく感じた。
瞬「ん・・・しょ。うん・・・しょ。」
届きそうな距離になって瞬が必死に手を伸ばす。
瞬「やった！・・・!?」
ペンダントを掴んで安堵した所為か、グラッと視界が揺れた。バランスを崩し、落ちたのだ。
一輝「ほっと！」
ポスッと一輝が瞬を抱きとめた。
瞬「ありがとう、兄さん。」
一輝「壊れてないか？そのペンダント。」
そうっとペンダントを開いてみる。
瞬「壊れてない。どこも壊れてないよ。」
安心する様に微笑む。お役御免とばかりに月光は消えた。また雨が降り始める。
星矢「暗いから良く見えないな。」
瞬「今度見せてあげる。ちゃんとね。」
星矢「楽しみにしてる。」
瞬「お母さん、ひとりぽっちにしてごめんなさい。すっかり冷たくなっちゃったね。」
ぴとっとペンダントを頬に当てる。冷気が頬に伝わる。
一輝「ほら、ペンダントつけろ。」
瞬「うん。」
頭から通して服の中に入れる。
氷河「帰ろうか。そろそろ帰らないと辰巳にばれるかもしれない。」
瞬「御免ね。」
一輝「お前の所為じゃない。」
瞬「うん・・・・・あ・・れ？」
紫龍「どうした？瞬。」
瞬「物が二重に見える・・・・・」
一輝「二重ってもしかして。」
さっと瞬の額に手をあてた。
一輝「お前、熱があるぞ。」
瞬「本当？」
無理も無い。雨が降って気温が格段に落ちてる上、裸足にパジャマ。体温が奪われているのだ。今の瞬は氷細工の様に冷え切っている。
一輝「早く帰るぞ。肺炎にもなりかねない。おぶされ、瞬。」
瞬「うん。」
一輝におぶさって瞬は家に戻った。辰巳には枕作戦のおかげでばれなかった。ただ、寝不足になったのだけは確かだった。

一輝「静かに寝ていろよ。」
瞬「うん・・・・」
次の日、瞬は休む事を余儀なくされた。辰巳にはまあいろいろ言われたが、一輝や星矢達が庇ってくれた。意外だったのは邪武も庇った事。もしかすると内心気にしていたのかもしれない。一輝は殴り飛ばす事はとりあえず止めにした。
紫龍「熱、早く下がると良いな。」
星矢「飯にはちゃんと来いよ。」
氷河「じゃ、行ってくるな。」
瞬「うん。」
優しく頭を撫でると、四人は出ていった。瞬もゆっくり目を閉じて眠りにおちる。無音となった部屋に突然手に触れられない真っ白な羽が空に舞って天使が舞い降りた。
『今回は少し心配だから来ちゃった。けれどもう大丈夫みたいね。あの子達はとても良いお友達、いえ親友なのね。』
天使が微笑む。
『夢でも会えないけれど、思い出もないけれど、あなたの事は忘れた事は無いわ。ずっと見守ってる。勿論あなたを託したお兄ちゃんも。』
そっと瞬の額に手を当てた。シュッと熱が吸収される。
『これで大丈夫。』
瞬の顔が楽になる。
『あなたに残されたそれは私の物ではないけれど、大切に想ってくれて嬉しいわ。ありがとう。いつか本当の事が分かってしまうとは思うけれど、私はこうやって側にいる事ができるから怖がらないで。』
瞬の頭を優しく撫でる。
『お願いがあるの。私はあなたが泣き虫でも弱くても全然構わないの。私のこと忘れても良い。私より大切な人ができたから忘れるなんてそれ以上の幸せは無いわ。』
瞬の心に語る様に話しかける。
『私の願い。いつか失って得る引き換えの判断を迫られても迷わないで欲しい。例えばペンダント。怖い？でもね、皆が幸せになれるなら失う事は終わりじゃないの。それだけは忘れないで。形があるから永遠じゃない。想いがあるから永遠。大丈夫。絶対に大丈夫。』
天使は可愛い息子の顔にキスをした。
『可愛い瞬。何かあった日には、また来るわね』
笑顔を見せると天使は消えた。いつかまた、何かあったら人知れず訪れる。天から。母の心の声は瞬の心に届いただろうか。



あとがき
2623番はちゃんと他人が踏んでくれました。良かったです。自分のサイトのキリ番を自分で踏むなんて阿呆な事をした人間は多分私だけでしょう。2623はこまこ様が踏んでくれました。テーマは青銅の幼い頃。メインは瞬。でした。こんな感じで書きたいなとネタは決めていたのですが、どこに書こうか迷っていたのでリクエストを読んでとても嬉しかったです。シリアスにまとめてみました。氷河のロザリオは結構人目につくけど、瞬のあのペンダントはあまりお目にかからないので作ってみました。天使は瞬と一輝のマーマです。モデル的にはカード○ャプターさくらの撫子さんってところです。成仏してないように思えますが、天使となりゃ話は別です。お母さんは瞬が心配でしょう。殆どまともに話すことなく死んでしまったから。今回瞬にばかり目が向いているようですが、一輝も当然愛しています。天でいつまでも兄弟を見守っているでしょう。多分エリシオンにいるんじゃないかな。氷河のマーマも多分いてお互い友情を育んでるかもね。今回の裏シナリオ。辰巳にばれなかったのは実はその日は見まわりに行ってないからなんですね。我侭娘沙織嬢につきあってオセロをしていたからです。成長期には異例の二時までやっていました。

　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI