余にも奇妙な物語
全員「う〜〜〜ん。」
一輝、また城戸邸内在住の青銅は唸り声をあげた。全員腕を組み、テーブルをじっと凝視している。
星矢「やっぱり彼女はリカちゃんかな？それともいずみちゃん？」
氷河「大人っぽいジェニーなんてどうだ？」
紫龍「輸入物のバービーかもよ。」
邪武「いや、アニメ路線からいって、綾波レイとか藤崎詩織とか真宮寺さくらとか・・・・」
着せ替え人形、またフィギュアの名がどうしてポンポンでてくるかは謎である。邪武の発言が一番危ない。
市「問題なのはそれじゃないざんすよ。」
那智「そうだ。問題はこれだ。」
どんっと前にだす、一本の一升瓶。タイトル名、亀印の逆玉手箱。さっぱり訳わからないタイトルである。
星矢「この飲み物、名前と合い過ぎだぜ。」
紫龍「少々意味が違うけどな。」
檄「それにしても、体質があったのは、瞬だけだったんだな。」
邪武「俺達は何ともないもんな。不憫な奴」
瞬「僕もそう思うよ。」
ちょこんと、テーブルクロスの上でちょこんと座る瞬。そう！瞬は亀印の逆玉手箱を飲み、作用で小さくなってしまったのだった。六分の一サイズで人形と同じ大きさである。この発端は、星矢が買ったこのジュースである。行商人の浦島太郎（苗字が浦。名前が島太郎である）に呼びとめられ、若返るだの何だのいわれ、半分冗談のつもりで購入したのだった。そして、冗談の延長線上で全員で飲んだあげくはこうなった。
邪武「そもそも星矢！お前、俺らが若返りの薬飲んで本当にちっこくなったらどうする気でいたんだよ。」
星矢「いや、失った青春をもう一度やりなおそうかな〜と思って。」
邪武「勉強勉強で過ぎた大学生みたいに言うな！俺らはまだ青春真っ只中じゃないか！」
星矢「だって、俺、小学校知らないし・・・・」
邪武「俺もだ！だが別に学校なんてどうでもいい。」
星矢「俺はよくない！俺・・・・小学校で、シチューとコッペパン、あとテトラパックの牛乳飲んでみたかった。姉さんがね、男子生徒が小学校の頃牛乳パックに、水詰めこんで教室中に投げ合って遊んでたって、言うから俺もやってみたくて・・・・・」
紫龍「一言で言いから、勉強がやりたいといってくれ・・・・・」
瞬「フェックシュ！」
本当に小さい瞬のくしゃみが聞こえた。
市「で、小さいのは、今どうにもならないからほっとくとして服がないのはどうするざんす？」
瞬は体が小さくなったわけで洋服のサイズまで小さくなったわけではない。服はそのままである。瞬は一輝のハンカチを体に巻いていたのだった。
那智「星の子学園の美穂とか絵梨衣に、着せ替え人形の服でも借りてこいよ。」
瞬「やだ！僕スカートは絶対に穿きたくない！」
那智「だが・・・・・」
瞬「それだったら、他のフィギュアのにしてよ！」
那智「他って？この世に蔓延してるのは女のフィギュアだぞ。」
瞬「サザエさんのフィギュアは存在しないじゃない。」
那智「あんなの集めるオタクどこにいるよ・・・・・」
瞬「じゃあ、島村ジョーの戦闘服にして。あれは体型に合うと思うから。他にも錠シンジの服も探せばある！」
那智「・・・・お前も結構アニメ見てるんだな。訳分からん。」
星矢「盛りあがってるの悪いが、美穂ちゃんの着せ替え人形のを借りていくのはちょっとな・・・・美穂ちゃん一個しか持ってないし、それ凄く大切にしてるから・・・・」
氷河「絵梨衣さんは、普通の人形しか持ってないぞ。しかも凄く古そうな奴。ツギの入ってる服着てるからかなりの物だ。悪いがそれほどまでに大切にしてるものを貸してくれとはとてもじゃないが言えない。」
瞬「やった！」
本気で喜んだ瞬であった。
一輝「俺が服調達してきてやるよ。」
全員「え!?」
息を呑んだ青銅達であった。
一輝「何だ？何がおかしい。俺の弟だ。俺が調達して何の不思議もないだろう。」
星矢「一輝が、玩具屋見てまわるのか〜〜〜？」
氷河「結構妖しげだぞ。」
紫龍「何を理由に買うつもりだ？」
三人共、口が歪んでいる。恐らく笑いをこらえてるんだろう。
瞬「兄さん、いいですよ、無理しなくても。」
一輝「別に無理じゃない。大丈夫だ。」
瞬「本当に？」
一輝「ああ。俺、今から行ってくるよ。ミシンと裁縫道具の準備よろしく頼むな。」
紫龍「ああ。・・・・・・あ？」
妙な台詞に疑問を持ったときは既に一輝はいなかった。
邪武「あいつ、今ミシンと裁縫道具って言ったか？」
紫龍「ああ。」
邪武「もしかして手縫いする気なのか？」
星矢「それより一輝ミシン使えるのかよ。」
紫龍「さあ・・・・とりあえず一式揃えてくる。」
紫龍はクローゼットの中を漁り始めた。他の青銅は一輝が何を買ってくるのか内心心待ちにしながら、椅子に座っていたのだった。
一輝「ただいま。」
一輝が帰ってきたのは、およそ一時間後だった。いろいろ材料を持ってる。
瞬「お帰りなさい兄さん。」
一輝「ただいま、瞬。」
紫龍「とりあえず、ミシンと裁縫道具は用意しておいたぞ。」
一輝「ああ、サンキュ。」
星矢「なあ！一体何買ってきたんだ？」
一輝「その瞳を輝かせてるのはなんだ。俺が買ってきたのはこれだ。」
袋から取り出したのは、瞬の体に合うのか疑問な、GIジョーであった。
市「これなら・・・・一輝に合うざんす。」
那智「ああ。非常にな。」
紫龍「これ、瞬の体に合うのか？」
一輝「だから、瞬の体の寸法に合わせて作りなおす。」
全員「え!?」
再び驚愕する青銅達。
星矢「一輝、ミシンで作れるのか!?」
一輝「サイズ直しだから楽だ。」
氷河「意外だ・・・・・」
一輝「さて、すぐとりかかるとするか。寒いだろう？瞬。お前の部屋で作るぞ。」
一輝はミシンと裁縫道具と、瞬を持つと、ほぼ強制的に瞬の部屋に向かったのだった。
瞬「流石兄さんです。」
鮮やかな手付きで、ミシンを動かしていく。
瞬「そういえば、兄さんは僕の服のほつれ、直してくれてましたものね。できないことはないですよね。」
一輝「まあな。」
瞬を机に乗せて、ミシンから目をそらさずに布を動かす。
瞬「でも、何でミリタリーなんですか？」
一輝「他に思いつく物がないから。流石に型紙とって自分で作るって芸当はできないしな。」
その割りに丁寧にサイズを直している。肩が広いから、詰めてるくらいなら最初から作ったほうが良いのではないかと思うが。
一輝「こんなんでどうだ？」
ぷちんと糸を噛切った。瞬に着させる。迷彩であるが、瞬が着て見ると、不思議と可愛らしい。服を詰めた所為かもしれない。
瞬「わあ、ピッタリです。ありがとうございます。」
にっこりと微笑む。
瞬「兄さん、わざわざ手間取らせてすみません。」
一輝「悪いのは星矢だ。着にするな。」
瞬「でも・・・・小さくなっちゃってどうしましょう。このまま戻らなかったらどうします？」
一輝「俺が、星矢が会ったという浦島太郎に会って、しばいて元に戻る方法を聞き出す。」
瞬「暴力は駄目ですよ。」
心配そうに瞬が言った。
一輝「大丈夫だ。聞き出すだけだ。」
瞬「それならいいですけど。でも、浦さんに会えるんでしょうか。」
一輝「瞬、アンドロメダチェーン使えないのか？」
瞬「兄さん、今の僕には大きすぎて、操る事なんて出来ないですよ。」
六分の一サイズの今の大きさでは、チェーンに押しつぶされかねない。老師が素のままで聖衣を纏うのと同じ位の危険さだ。
一輝「じゃあ、星矢に浦島太郎の容姿とか聞いて、見つけるしかないな。瞬、一緒に行くか？」
瞬「うん。ごめんなさい。」
一輝「謝る必要はないといっているだろう。俺は全然気にしてないから大丈夫だ。」
瞬「はい。」
一輝「さて、二着目に取りかかるか。」
瞬「ありがとうございます。頑張ってください。」
一輝「応援してくれるのは嬉しいが、ミシンにまきこまれない様にしろよ。」
瞬「はい。」
瞬はミリタリーの服を着ながら、新たに服を作り始めた一輝と楽しくお喋りをしたのだった。
一輝「背中に亀の甲羅？」
夕食時間の時である。青銅全員で食事をとる。
星矢「ああ。ちょっと古いシャツとパンツで背中に甲羅しょってた。」
氷河「変わった奴だな。」
紫龍「ああ。」
星矢「結構カッコイイ男だったぞ。」
一輝「それはどうでもいい。星矢、浦島太郎はどこで会ったんだ？」
星矢「海岸で。ほら、俺のヨットハウスの近くの海岸だよ。」
市「その浦島太郎、本当に人間なのか怪しいざんすね。」
一輝「明日辺り、張り込むか。瞬、お前も行くだろ？」
瞬「はい。」
ドールハウス用の食器達を使って、食事を進めている瞬が言った。瞬のメニューは、御飯粒十粒ほどと、スープ一匙。ハンバーグ消しゴムサイズ。そして、葡萄一個である。
一輝「美味しいか？その料理。」
瞬「美味しいですよ。」
紫龍「瞬ほどのサイズだと食事が楽でいいな。大きくなられるよりはマシだな。」
城戸邸のコック紫龍が言った。瞬と共同で行っているが、瞬がこの有様なので一人で作っている。一人だと、欠食児童の食事を作るのに、1,5時間も余計にかかった。
星矢「俺も小さくなりたかったな・・・・・そしたら、ハンバーグを腹がはちきれるほど食べられるのに。テレビだって大画面だし。」
紫龍「その方が食費も減るし、作る時間も大幅に減るし、よっぽど良かった。」
星矢「そうだよなあ〜」
紫龍の嫌味に全く気付かない星矢であった。
瞬「でも、小さいってあまりいい事無いよ。確かに人より御飯の量は多くなるけど、少し大味なんだ。すぐ冷めちゃうし。テレビの音は大きくて耳痛くなるし。」
紫龍「俺達の声やかましいか？」
瞬「ううん。紫龍達の声は全然平気。でも、ゲームとかの電子音が頭痛くなりそうなんだ。」
氷河「星矢、ゲームは程ほどにな。」
星矢「・・・ああ。」
普段ゲームを二三時間ざらにする星矢にとっては少々重い忠告であった。
瞬「兄さんいないと踏まれそうで怖いし。僕、大きくなりたいよ。」
小さい声が更に小さくなって言った。
一輝「心配するな。俺が絶対に浦島太郎をみつける。」
瞬「お願いします。」
那智「俺達も情報くらいは探すから。」
市「小さくなったのも経験ざんす。いいこともあるかもしれないざんすよ。」
瞬「ありがとう。兄さんお願いなんですけどもう一つ葡萄くれますか？」
一輝「ああ、いいぞ。」
ぷつっと葡萄を取って瞬に渡す。瞬は手で皮を取ると、がぶっと食らいついた。その光景は小さなネズミの様だった。
翌日から、一輝と瞬の張り込みが始まった。怪しまれないように、本を読みつつ、周囲に目を配っているところが既に怪しい。サングラスまでかけてるので尚更である。
瞬「兄さん、現れますかね、浦さん。」
一輝の胸ポケットから瞬が心配そうに呟く。
一輝「さあな。この出没するといった海岸で待っていれば間違い無いだろう。」
現実的に考えて、海岸などにぽつんといたら、どこかの国、まあ合えて口には出さないが、拉致されてもおかしくないのだが、そんなことお構いなしである。工作員ごときに拉致されるほどの実力じゃないので心配は無駄なものだが。
一輝「寒くないか？瞬。」
瞬「大丈夫です。兄さんの体温とても温かですから。」
一輝「そうか？」
瞬「はい。」
すっぽりと胸ポケットに収まる。
一輝「野郎、なかなか現れないな・・・・」
瞬「そうですね・・・・」
それから、三時間あまりたった。十二時をまわっている。
一輝「瞬、お腹減ってないか？」
瞬「少し。」
一輝「何か買ってくるか。瞬はちょっとここで待っててくれるか？」
瞬「分かりました。」
一輝「すぐ帰ってくるから待ってろ。」
一輝はポケットから瞬を出し、ちょこんと座らせるとすぐ近くのコンビニに駆けた。コンビニにには、季節関係なく、様々な物が売っている。
一輝「何がいいか・・・・・」
品物を見てまわるが、どれも大きすぎる。小人用の飯など誰も作っていない。
一輝「しょうがない。」
一輝は瞬が好みそうな握り飯を選んだ。鱈子である。自分用に茶飯とオカカを選んだ。飲み物は、500mlのペットボトルを選んだ。蓋の部分に注げば立派なコップになる。
店員「合計四百七十二円になります。」
店員に金を払って瞬の元へ急ぐ。戻ってきた瞬間
一輝（瞬はどこだ・・・・・・、そしてあの少女達は一体・・・）
と感じた。
ルル「こんにちは。」
ミミ「こんにちは。」
二人の少女が、お人形ごっこをしているのだ。何故海岸で行ってるのかは全くもって謎だが。
ルル「今日も良い天気ね。？ナナ。」
ミミ「勿論元気よ、リリ。」
幼稚園児の会話など他愛無いものだ。この台詞が無ければ。
ルル「ナナ、この砂山には、人が生き埋めになってるんだって。」
ミミ「あら、それじゃ随分前に死んでるんじゃない？」
ルル「それが、良くわからないけれど、生きているんだって。ミステリー研究会として、解明してみる気は無い？」
ミミ「あるある！」
一輝「どけ、お前ら！」
ルル＆ミミの台詞に、驚いた一輝は、二人のすぐ近くに盛り上げてある、砂山に手を突っ込んだ。すぐ異物にぶつかる。ひっぱりあげると、それは瞬であった。ピクリとも動きはしない。
一輝「瞬！」
瞬を思いっきりひっぱたく。激しく咳き込んだと思うと、瞬は目を覚ました。
瞬「に・・・さ・・・・」
一輝「大丈夫か！瞬。」
瞬「死ぬかと・・・思った・・・・」
小さな小さな涙が零れる。
ルル「あ！お兄ちゃんひどい！勝手に取った！」
ミミ「そうよ！美少女探検家リリ＆ナナ、解明！死霊の住む山IN海岸だったのに！馬鹿馬鹿馬鹿！私の人形返してよ！」
一輝「これは俺のだ！」
ルル ミミ「フェ、ウェ〜〜〜〜」
あまりの迫力にルルとミミは泣いてしまった。
一輝「お、おい泣くな！」
ルル「ウェーーーーーん」
ミミ「ワーーーーーン」
収まりそうに無い。
ファンファンファンファン
どこかで聞いたことのありそうな音まで聞こえてきた。
？？「どこだ〜！少女を誘拐しようとしてる男はーー！」
パトと警官である。一輝を誘拐犯と間違えた近くの住民が通報したのだろう。
一輝「まずい！」
面倒は御免と一輝は光速で去った。救いはサングラスをしていて顔が割れなかった事。聖闘士なので、どこに逃げたのか皆目見当もつかない事であった。
一輝「大丈夫か？瞬」
瞬「う・・・・ん」
城戸邸に逃げ帰った一輝は瞬に砂を吐かせ着替えさせた。
一輝「ゴメンな、一時でも離れるべきじゃなかった。」
瞬「いいの、平気。」
一輝「怖かったか？」
瞬「・・・・小さくなっちゃうと、力も全然でないね。砂の山に押しつぶされて呼吸できなかった。」
また瞬から涙が零れた。嗚咽をあげながら泣く。
一輝「食べそこなったお握り食べるか？」
瞬「ヒクッ。うん！」
おにぎりの包みを開け、瞬の体に合わせ、小さくしてやる。涙の跡が残りながら、おにぎりを食べる瞬を見て、一輝は、瞬の側から離れない様に心に誓うのだった。
それ以後、絶対に瞬を離さなくなった一輝であった。五日経った今日も、あの少女に会わないように気を配りながら、浦島太郎を探す。
瞬「あ、兄さん、あの人！」
瞬が指差す。海岸をゆっくりと歩いている人の背中には甲羅を背負っている。
一輝「あいつだ！浦島太郎！」
一輝は浦島太郎に向かって、全力疾走したのだった。
一輝「おい！浦島太郎！」
？？「え？」
振りかえった人は女だった。
一輝「あ？浦島太郎さん？」
乙「いえ、私は乙姫です。」
乙姫がにこっと微笑む。
一輝「乙姫？」
乙「いえいえ、乙、姫です。」
一輝「じゃ、乙。浦島太郎を知っているか？」
乙「浦は私の同僚です。」
一輝「この間、友人が浦島太郎が売ったジュースを買ったんだが。」
乙「まあ、それで効果は？」
一輝「こうなったよ。」
瞬を乙に差し出す。
乙「まあ、可愛いお人形さん。いつも持ち歩いてるんですか？」
一輝「んなわけないだろ。生きてるよ。」
瞬「えと・・・・こんにちは・・・」
乙「まあ、喋るお人形さんですか・・・・」
瞬「違うよ。僕、亀印の逆玉手箱飲んで小さくなっちゃったんだ。」
乙「まあ、ちょっと効果が違ってしまった様ですね。」
一輝「あんたらはどう言う仕事してるんだ。」
乙「秘密結社御伽で働いてる者です。この所絵本も規制が入ってやり難くて。それで私達自らが食費を稼ぐ為に、こうやって効能ジュースを販売してるんです。」
一輝「それで？元に戻す方法は？」
乙「老けるジュースならここに。」
乙が鞄から取り出したのは、ジュース。タイトルは亀印の玉手箱。
一輝「老けるって大丈夫なんだろうなあ。このサイズで老けたらどうしてくれる。」
乙「多分大丈夫ですよ。逆玉手箱とは対になってるジュースですから。」
一輝「もらえるか？それ。」
乙「10000円です。」
一輝「貴様らが原因でこうなってる！ただにしろ！」
乙「こちらも商売ですし・・・・」
一輝「こっちは訴えて商品回収の上賠償請求してやる。」
あまりの気迫に折れた乙姫であった。
乙「分かりました・・・・ただで差し上げます。」
一輝「当たり前だ。そういえば、あんた達はうらしま太郎に関係あるんだな。浦島太郎に乙姫だろ。」
乙「私達はうらしま太郎の出演者ですから。」
一輝「？？まあいい。俺はもう行く。」
乙「そうですか。ジュースが効くと良いですね。」
一輝「ああ。」
一輝は片手に一升瓶の玉手箱を持ち、乙姫と別れた。乙姫は一輝が消えるのを確認した後、海岸を歩き販売を続けたのだった。
一輝「さあ、飲んでみろ。」
家に戻り、瞬の部屋でカップ一杯にジュースを注ぐ。色は水色をしている。
瞬「はい。」
コクコクコクとジュースを飲み干す。
瞬「プハ。」
一輝「どうだ？」
瞬「・・・・・・・」
ポンッ
水色の煙と爆発音が聞こえた。
煙が消える頃には・・・・
瞬「兄さん・・・・」
瞬は身長百六十五ｃｍの元の身長に戻っていたのだった。
一輝「良かった。」
ぱさっと用意してた自分のシャツを渡す。瞬はそれに腕を通した。
瞬「良かった。元に戻れて良かったよ・・・・ヒックヒック。」
ポロポロと涙が零れ始める。一輝が瞬の頭を撫でてやった。
一輝「良かったな、瞬。」
瞬「うん。元に戻れて良かった。」
シャツの裾が涙で濡れている。
瞬「そうだ。」
瞬は涙をぐいと拭くと、本棚に駆けた。
一輝「どうした？」
瞬「ちょっと見たいものがあって。」
瞬が取り出したのは、日本の御伽噺。目次を確認してうらしま太郎の話を開いた。
一輝「げ！」
瞬「嘘！」
本には、亀しか映っていないのであった。亀に乗っているだろううらしま太郎はおらず、立派な竜宮城で出迎える乙姫もいなかった。
瞬「他の話は？」
ペラペラと捲る。かぐや姫では、輝く竹の中には布しかなく、また、翁もいず、ナタと籠以外なかった。桃太郎では、桃の中に桃太郎はおらず、また川には洗濯物しかなく、お供の三匹と鬼しかいないのであった。金太郎に至っては熊が一人相撲をしている。
瞬「まさか・・・・・あの浦さんと乙さんって・・・・」
一輝「言うな。言っても信じてもらえっこない。」
瞬「そうですね。」
あまりの驚きに涙がぴたりと止まった。残されたジュースと一升瓶を見ながら、奇怪な現象に複雑さを隠せない二人であった。
あとがき
ハルカ様が14000を踏んでくださいました。テーマはおや？ほのぼのとした心温まる一輝と瞬＋嬉し涙のはずがどこか違ってしまった様です。すみませんハルカ様。この間完全ほのぼのシリアスを書き上げたのでちょっとギャグ路線で行きたかったんです。青銅も沢山でてるし。マニアックな内容だし。知らなかったらごめんなさい。いつもほのぼの系を書いている私にとって、ほのぼののりクエストは一番困難でした。パターン、マンネリになりやすい為です。ただでさえ瞬の嬉し泣きは山ほどさせてるのに。パターン化しない為にもこれからも精進します。ハルカ様、こんな物でも気に入ってくれたら本望です。
ＢＹ ＭＵＴＵＭＩ