The time it flows gently slowly steadily

全ての聖戦が終り、アテナの力で全員生き返った。黄金も白銀も、勿論青銅も元気に暮らしている。聖域内の確執はもう殆ど失われていた。ただ一組を除いては。
魔鈴「・・・・・はあ・・・・」
シャイナ「どうしたんだい？魔鈴。」
魔鈴「シャイナ。」
シャイナ「元気がないね。どうかしたのかい？」
魔鈴「あいつはやっぱり私のことを裏切り者と思っているのだろうか？」
シャイナ「誰が？」
魔鈴「アステリオン。」
シャイナ「どうして？」
魔鈴「私を避けている様なんだ。」
仮面をつけてはいるが、沈んでいるのは良く分かる。
魔鈴「シャイナ、私は間違った事をしたとは思っていない。あの時私は聖域は悪だと思った。だから、星矢達の方についた。それは後悔していない。」
シャイナ「それ、私に言われても・・・・最前線で聖域側にいたのは私だぞ。」
魔鈴「・・・・まあ、その事は置いておいて。」
ほんの少し微笑んだ気がした。
魔鈴「だけど・・・・アステリオンに避けられているのはやはりな・・・あいつの信頼を裏切ったのは少し・・・・悪かったなと思う。」
シャイナ「そんなに気にする事は無いさ。確かに白銀はお前とオルフェを除いたら聖域側にいたんだから。勇気出して声かけて仲直りしたら？昔、白銀の間ではあんたらカップルって噂されたんだぞ。」
魔鈴「嘘!?」
シャイナ「本当。今は別の人にお熱みたいだけど♪」
魔鈴「シャイナ！」
シャイナ「猟犬よりは獅子の方がかっこいいのかな？」
魔鈴「あんまりからかうと蹴るよ。」
軽く怒気が入っている。図星を隠してるという感じだ。
魔鈴「なあ、どうしたら仲直りできるだろう。」
シャイナ「仲直りするなら、話すに限るだろ。」
魔鈴「話すか・・・・」
シャイナ「ゴメンの一言でもあれば、ばっちしだろ。」
魔鈴「ゴメン・・・・・私に言えるかな？」
シャイナ「あんたも私と同じくらいプライド高いからね。」
魔鈴「・・・・そうかもね。」
シャイナ「他の人にも意見を聞いてみたら？私のは所詮女の意見だからね。」
魔鈴「そうしようかな。」
シャイナ「そうしなよ。皆のいる場所はわかってるだろ？」
魔鈴「ああ。」
シャイナ「頑張りな。」
軽く微笑むような感じで、魔鈴はシャイナと別れた。

ミスティ「仲直りする方法？」
魔鈴「そう。」
魔鈴は闘技場に来ていた。白銀は大抵そこにいる。
アルゴル「仲直りならぶん殴りの喧嘩でもしたらどうだ？」
魔鈴「・・・・それはあんまりじゃないだろうか？」
アルゴル「私だったら、気の済むまで殴り合いの喧嘩をするが。勿論盾は無しで。」
今現在盾は背中に装着されている。後にいる奴は誰もいない。
ジャミアン「手紙はどうだ？手紙で烏にでも届けさせるのは。」
魔鈴「・・・・・私は烏と友達じゃあない。」
ジャミアン「じゃあ、郵送にしろ。」
魔鈴「郵送するほど遠いところに住んでる訳じゃないしな。」
トレミー「じゃあ、矢文はどうだ？心臓めがけて。」
魔鈴「死ぬだろうが。仲直り所じゃない。」
アルゴル「魔鈴でも喧嘩する事があるんだな。」
魔鈴「喧嘩というほど喧嘩している訳じゃないが。」
トレミー「ミスティは何か無いのか？」
ミスティ「私は私と喧嘩した事無いから分からん。喧嘩のプロフェッショナルなら、オルフェに頼めば良いだろう。」
オルフェもユリティースと一緒に闘技場にいた。ユリティースもアテナの力で、呪いから解放され、聖域に住んでいる。仮面は特別につけなくてよいとされた。
オルフェ「喧嘩のプロフェッショナルって何だ、プロフェッショナルって。」
ミスティ「君は、ブスのユリティースの彼氏だろう。男女のすれ違いってのは大抵あるもんじゃないのか？」
温厚のオルフェの癇に障る一言があった。
オルフェ「ちょっとまて。ユリティースの容姿が何だって？」
ミスティ「ブスだと。」
オルフェ「聞き捨てならない。どうしてユリティースが・・・・なんだ。」
ミスティ「私よりも醜いから。」
オルフェ「ユリティースはとても美人だ。」
ミスティ「恋は盲目というしな。人の好みはそれぞれだ。」
オルフェ「・・・・・・・」
かなり頭にき始めているオルフェ。口喧嘩はミスティの方が上か。
オルフェ「・・・・！」
琴に手を触れようとしたのを制したのは勿論さっきから側で聞いてたユリティースだった。
ユリティース「オルフェ、喧嘩はダメ。」
オルフェ「ユリティース。」
ユリティース「アテナにも私闘はダメって言われたでしょ？私は全然傷ついてなんかいないから、大事な琴をつまらないことで使わないで。」
オルフェ「・・・・・分かった。」
オルフェは肩の力を抜くとユリティースに微笑んだのだった。
魔鈴「ユリティース、ちょっと。」
ユリティース「何かしら、魔鈴。」
魔鈴においでおいでされたユリティースはオルフェからちょっと離れた。
魔鈴「・・・・・・ユリティース、本当に平気なのか？」
ユリティース「ええ。」
魔鈴「何でだ？」
ユリティース「だって、オルフェが怒ってくれたし。少なくともオルフェは私のことブスだって思ってくれてないから。」
魔鈴「オルフェと喧嘩する事ってあるのか？」
ユリティース「内緒だけど・・・・時々ね。好みが食い違ったりしたりでね。オルフェ、ピーマン嫌いなの。で、私が大好きだから喧嘩になっちゃってね。」
魔鈴「微笑ましい喧嘩だが、仲直りってどうしたらできるんだ？」
ユリティース「ゴメンナサイって謝るの。そうすると、オルフェも許してくれるし、何より私が私を許せるから。勿論逆もあるわ。魔鈴、誰かと喧嘩してるの？」
魔鈴「・・・・・そうであり、そうでないような・・・・」
ユリティース「できることは早目の方が良いと思う。時は人の心を攫っていってしまうから。」
魔鈴「そうか・・・・」
ユリティース「頑張って！オルフェ、お昼ご飯食べにいかない？」
ユリティースは、魔鈴に微笑むとオルフェに駆けて行った。
魔鈴「・・・・・行くか。」
魔鈴は闘技場の外れにいるアステリオンのところに行った。

魔鈴「アステリオン。」
アステリオン「・・・・魔鈴。」
魔鈴の方に顔をあまり向けない。
アステリオン「どうかしたのか。」
魔鈴「ごめん、アステリオン。」
アステリオン「どうした。急に。」
魔鈴「私は、お前の信頼を裏切った。」
アステリオン「俺の信頼？」
魔鈴「アステリオンは今でも、私を裏切り者だと思っているだろう？」
アステリオン「そんな事は！」
きっと魔鈴に視線を合わせた。
魔鈴「そう思ってるのではないのか？だからずっと避けてるんじゃないのか？」
アステリオン「あの時の魔鈴の判断は正しかった。だから、聖域が絶対と思ってた自分が何だか情けなくて、それで避けてたんだ。魔鈴を裏切り者なんて思ってはいない。」
魔鈴「そうなのか？」
アステリオン「そうだ。」
魔鈴「・・・・良かった・・・」
アステリオン「・・・・悪かった。露骨に避けたりして。」
魔鈴「別にいいさ。」
ほうっと互いに安堵するような息を吐いた。空気が多少和む。
魔鈴「・・・アステリオン、私を軽蔑はしていないのだな。」
アステリオン「勿論だ。魔鈴は？」
魔鈴「する筈が無い。アステリオンの事は真面目で誠実な奴だと知っている。良かった。ずっとずっと気にしていたんだ。本当に良かった。」
仮面の下の素顔が笑った気がした。
アステリオン「なあ、魔鈴。俺達昔の様に戻れるだ・・・」
？？「魔鈴。」
魔鈴「アイオリア。」
唐突に現れたアイオリアだった。
魔鈴「どうしたんだい？」
アイオリア「近くにカフェがオープンしたらしい。日本びいきの店らしいぞ。」
魔鈴「じゃあ、鯵の干物とかあるだろうか？」
アイオリア「それはどうだろう・・・・ただ、オニギリはメニューにあったぞ。高菜と納豆って書いてあった。」
魔鈴「食べたい。」
アイオリア「一緒に行かないか？」
平たく言うと、簡易なデートのお誘いのようだ。
魔鈴「行く。」
アステリオン「・・・・・楽しんでこいよ。」
魔鈴「一緒に来ないのか？」
アステリオン「・・・アルゴルと用事があるんだ。」
魔鈴「そうか・・・・」
アイオリア「日本びいきといってもギリシャ人が経営してるから多分口に合うはずだ。良かったら行ってみると良い。」
アステリオン「ああ、そうする。」
魔鈴「今日は仲直りができてとても嬉しかった。」
アイオリア「なんだ、喧嘩でもしてたのか？」
魔鈴「そうともいうし、そうとも言わない。」
アイオリア「よく分からんな。」
魔鈴「アイオリアは知らなくて良い。アステリオン、さっき何か言いかけていたが。何？」
アステリオン「これからも友達でいられるかなと思って。」
魔鈴「何言うんだ。勿論さ。」
元気な声を残して、カフェに向かったアイオリアと魔鈴だった。


アステリオン「昔は、ライバルはいないと思っていたんだがな・・・・・何時の間にか、獅子にとられちゃったか。」
ちくんと胸が痛む。


時と共に人の心は移りゆく。雪が溶ければ春になるように、着実に、少しずつ心は変化していく。アステリオン十六才、ちょっぴり苦い恋であった。



あとがき
やっと21000でリクエストがきました。ずっと来なかったので寂しかったのです。ゲッターは瑠宇様でした。いつも料理学校を騒がせている調理室テロ女さんです。魔鈴とアステリオンの仲直りでしたが、こんな感じでどうでしょう？すいません、仲直りはしても、あまりめでたくないですね。時が経っている間に魔鈴とアイオリアがくっついちゃって、アステリオンは失恋って感じに仕上げてみました。やっぱりアステリオンは魔鈴の事を好きだったと思います。魔鈴は何もなければアステリオンの方に行ってたかもしれませんね。でも、心は移ります。今の魔鈴の意中はアイオリアです。タイトルはその通り、時は静かにゆっくりと着実に流れるという意味です。英語って面白いね。でも嫌いだよ。

BY　　MUTUMI