瞬見物

瞬「エアメール。ジュネさんからだ！」
部屋で瞬は手紙を開封した。色気も素っ気もファンシーもない普通の白い紙には少し右あがりの癖を持つアンドロメダ島のジュネの文字が刻まれていた。
一文字も読み落とさない様に羅列された文字を目で追った。読み終え、瞬の顔が綻んだ。

瞬「あの、来週ね、ジュネさんがね、日本に来るんだ。」
瞬が遠慮深そうに話し出す。ゴクンと星矢は食パンを飲みこんだ。
星矢「ジュネさんが？」
瞬「うん。」
氷河「何をしに？」
瞬「僕の生まれ故郷を見てみたいんだって。だからアンドロメダ島から来てくれるんだって。」
紫龍「良かったな、瞬。」
瞬「それで、来週、一日ジュネさんと遊んできたいんだけど・・・・」
星矢「行ってくれば？折角なんだから。東京は、日本はこんなところですって言ってきなよ。」
瞬「ありがとう星矢。」
紫龍「御飯もここで食っていくか？」
瞬「ううん。御飯はいらないって。日帰りだって手紙には書いてあった。」
紫龍「そうか。」
瞬「お昼には出かけたいんだけど・・・・」
紫龍「心配するな。瞬がいなくても、こいつらの飯くらい作れるさ。」
瞬「ありがとう。」
星矢「紫龍。今、俺達を手のかかる弟とかそう言う風に思わなかったか？」
紫龍「いや、そんな事は。」
星矢「ぜってえ思ったろ。じゃなかったら瞬がそんな風に話すわけないもんな！」
星矢がいじける様に叫んだ。
紫龍「そんな事はないから！星矢。」
星矢「じゃあ、昼飯好きなもの作ってくれる？」
紫龍「ああ！」
紫龍がそう答えると途端に笑顔になる星矢。紫龍は操作している様で実は操作されているのかもしれない。
氷河「どこに行くのか決めているのか？」
瞬「ううん。ジュネさん日本初めてだからどこを案内しようか迷うんだ。」
星矢「渋谷とか原宿は？」
瞬「僕が詳しくないよ。」
氷河「ディズニーランドとかは？」
瞬「あそこは千葉県だよね？」
星矢「後楽園は？」
瞬「悪くはないけど。」
紫龍「そう考えなくてもいいだろう。ジュネはきっと瞬の好きなところが知りたいんだから。」
瞬「そうかな。」
紫龍「そうだろう。無理にスポットを定めなくても、普段よく行くところを案内してやればきっと喜ぶと思うぞ。」
流石年長者である。
瞬「良いアドバイスをありがとう。」
紫龍「いや。」
瞬「ご馳走様。僕、ジュネさんに手紙書くから部屋に行くね。」
紫龍「皿、そのままにしてろ。俺が片付けておくから。」
瞬「ありがとう。」
カタンと椅子を引いて立ちあがり、瞬は自室に戻った。瞬が姿を消した途端、星矢が恨めしそうな顔をする。
星矢「紫龍。何で瞬にあんな事言うんだよ。」
紫龍「何でって？」
星矢「どうせならデートコースの方が楽しいじゃん。」
紫龍「は？」
星矢「尾行して覗くつもりだったのに。な、氷河。」
氷河「どんなデートだか興味あったし。」
紫龍「お前ら最初からそのつもりでわざわざデートコースをアドバイスしてたのか？」
星矢「勿論だぜ。」
氷河「面白そうだからな。」
悪びれる様子を全く見せない二人に若干力が抜けた紫龍だった。
紫龍「そっとしてやれよ。折角なんだから。」
星矢「邪魔はしない。大丈夫。ばれない様にするから。」
氷河「遠くからそっと見ていれば何の問題もない。」
星矢「それに知る権利が俺達にもあるだろ？」
紫龍「そんな権利はない。」
星矢「それと、お前も行くよな。」
紫龍「何で！」
氷河「団体行動を乱すな。それに兄さんだろう？」
一輝は現在放浪中。その為、今は紫龍が一番年上で長兄であったのだ。
紫龍「・・・・・・分かった。」
星矢「よし！来週楽しみだな！」
氷河「尾行の練習しなくちゃな。小宇宙を抑える特訓とかな。」
星矢「俺も混ぜてくれ。」
楽しそうにプランを練る星矢と氷河を見て、
紫龍（迷惑になるような事だけは起こさないでくれ・・・・）
皿をカチャカチャとまとめながら、そう思ったのだった。

瞬「ジュネさん！」
ジュネ「瞬！」
ジュネが到着したのは予定より少し遅い午後一時十五分だった。日帰りのため、ジュネの荷物はボロボロの革鞄一つだけである。
ジュネ「久し振り、瞬。」
瞬「久し振りです。体調は大丈夫ですか？」
ジュネ「大丈夫。飛行機でも寝たし。」
瞬「えっと、今日は・・・・」
ジュネ「瞬のお気に入りの場所を案内してくれるんだろ？」
瞬「ハイ！」
ジュネ「楽しみにしてる。どこにいくんだい？」
瞬「えっとですね、前偶然小物店見つけたんです。凄く大きくて、日本の小物全部揃ってるそうなんですよ。」
ジュネ「それは凄いね。」
瞬「ティーカップとかいろいろあるんです。」
ジュネ「一度綺麗なのも見てみたいね。うちのカップは半分ヒビ入ってるからね。」
瞬「気に入ってもらえると良いけど。」
ジュネ「瞬の行くところならどこでも楽しいさ。」
瞬「じゃあ、行きましょう。」
瞬とジュネは小物店に向かって歩き出した。道を歩いてる時ジュネが首を傾げた。
ジュネ「なあ、あれは何なんだ？」
瞬「え？」
ジュネ「ほら、赤、黄、緑のお化けみたいなやつ。」
瞬「ああ、信号ですよ。」
ジュネ「シンゴウ？」
瞬「そうです。日本は交通量が多いです。ですから、勝手にしたら事故が絶えません。信号で、交通を規制することによって事故を防ぐんです。」
ジュネ「へえ〜」
ジュネが興味深そうに信号に触る。
ジュネ「冷たいんだね。」
瞬「金属でできてますから。」

星矢「あいつら、信号で何してるんだ？」
星矢がどこかの店の看板からひょいっと覗き出しながら聞いた。覗く気満々の星矢と氷河の服装は、誘拐して逃げまわってますといわんばかりのグラサンにマスクに帽子に薄茶のコート。まあ、この時期だから花粉症の人間と思われるかもしれないが。紫龍のみが普通の中国服である。
星矢「信号のあたりに何かあるのか？」
氷河「いや、ジュネの事だから、信号が珍しいんだろう。」
星矢「信号なんてどこにでもあるのになあ。」
紫龍「信号は日本などの先進国にしか必要のないものだからな。アンドロメダ島なんて最たるものだろ。」
星矢「氷河のシベリアは？」
氷河「俺の住んでたところは犬橇が普通だったからな。もっと都心に行けばあるだろう。」
星矢「おっ！瞬達が動き出したぞ！追うぞ！氷河！」
氷河「おう！」
小宇宙を断ちながら瞬とジュネを尾行する。これが刑事なら凄いのだが、単なる覗きであり、ストーカーなので、凄いとかいう問題じゃない。
バリン
それに先ほどの看板を倒していくと言う事も忘れなかった。紫龍は大衆食堂何でも料理に入った。
店主「らっしゃーい。何に金を払いてえんだ？」
紫龍「店の看板。」
店主「は・・・？」
ポロリとお玉を落とした。今までそんな注文をした奴なんか見た事も聞いた事も無い。
店主「お持ち帰りですかい？」
思わず変な言葉を言う。大衆食堂でお持ち帰りなんか無い。
紫龍「ああ。引き取らせてもらう。」
店主「看板は六万円だ。」
紫龍「すまない。これで頼む。ああ、そのあとの看板を立てる費用も取ってってくれ。金に糸目はつけないから。」
店主「じゃあ、十六万円貰っておくよ。」
差し出された紫龍のゴールドカードを通しながら言う。破片を貰ったビニール袋に包み、紫龍は手に持って星矢と氷河の後を追った。後日、大衆食堂何でも料理の前には立派な看板が立ったという。

瞬「綺麗でしょう？」
ジュネ「そうだね。」
小物店SIZUKUには沢山の客が居た。プレゼント用に送ろうと考えている男を除けば、客はほぼ百パーセント女なのだが、瞬がいても全く違和感がない。
ジュネ「瞬はキラキラしたの物が好きなのかい？」
瞬「何でも好きですよ。猫も好きですし、夕焼けも綺麗だと思うし、花の香りも好きです。心が安らぎます。」
ジュネ「そうだね、心が安らぐよ。」
クリスタルの猫を見ながらジュネが答える。
ジュネ「でも、高いね。」
瞬「そうですね。これは特別ですよ。ガラスだったらもっと安いです。」
ジュネ「ガラスとクリスタルの違いが良く分からないんだけど。」
瞬「僕も分かりません。」
ジュネ「クスッ。ここには良く来るのかい？」
瞬「たまにです。カップとか割っちゃった時に来たりします。それにやっぱりちょっと恥ずかしいですしね。」
ジュネ「何で？」
瞬「周りが女性ばかりじゃないですか。こんな女の子っぽいのが好きなんて、ちょっと恥ずかしいです。」
ジュネ「好きなものは好きなんだからいいじゃない。」
仮面の下で優しく笑った気がした。
瞬「そうですか？」
ジュネ「そうだよ。それなら私だって、手製のバーベルとかで特訓してて、男っぽいじゃない？」
瞬「ジュネさんは優しい女の人ですよ？」
ジュネ「それなら瞬だって優しい男でしょ。芸術には男も女も関係ないんだよ。大事なのは好きだな、とか凄いな、とか感じる心じゃない？それを感じる事が出来ない無関心病なんて人間として情けないよ。」
瞬「そ、うですね。」
ジュネ「ここに着いた時、階段で困ってる車椅子の人がいてね、上に上がりたいって言ってたから、車椅子肩に担いで、その人背負って、上まで運んだんだ。」
瞬「だから遅かったんですね。」
ジュネ「瞬とか星矢とかいたらたら、一緒に手伝ってくれるのになとか思ったよ。まあ、自分で楽に出きるからいいんだけど、大丈夫ですかって言う人もいなかったから。」
瞬「皆が皆そうじゃないですよ。きっと心の中でごめんなさいしてる人はいますよ。」
ジュネ「まあね。そう思ってるけど。でも、瞬は、そういう人を見捨てる人にはなって欲しくは無いな。」
瞬「分かってます。兄さんもきっとそう言います。」
ジュネ「もしもそんな事があったら喝を入れに行くからね。」
瞬「そんな事が無いようにしますよ。」
そう言うと、ジュネは嬉しそうに笑った。
ジュネ「ねえ、これ特別綺麗だね。」
ジュネが指したのは、クリーム色のカップに、天使の羽がついたものだった。取っ手が二つついていて、可愛らしい。
ジュネ「これ、欲しいな。」
瞬「じゃあ、買いましょうか？」
ジュネ「え、いいよ。明日、もういらないかもしれないもの。」
瞬「でも、今日は欲しいし、明日はジュネさんここにはいないでしょう？」
ジュネ「そうだけど・・・・」
瞬「明日いらないかもしれないって言うのは、明日、別の物がどこかで出会えるかもしれないから言える事です。ジュネさんは違うでしょう？他じゃ手に入らな・・・。」
ジュネ「どうしたの？瞬。」
瞬「手に入らないんだ・・・・・こんな風に沢山ないから・・・・・」
ジュネ「そりゃ、カップは木で作ればいいから別に選ぶとかそういう物じゃないよ。」
瞬「そうだけど。ここにあるのってお金出せば買えるんですね・・・・」
ジュネ「まあ、そうだけどさ・・・・」
瞬「俗物なんでしょうか？」
ジュネ「そんな事ないって。私達だって欲しいって思うものあるよ。選択する物あるよ。」
瞬「そうですか？」
ジュネ「今だって、欲しいって思ったし。買ってくれるの？」
瞬「ゴールドカード持ってますし、大丈夫です。」
ジュネ「いいの？」
瞬「大丈夫です。」
ジュネ「どうせならお揃いにしよう。」
瞬「そうですね。じゃあ、買ってきますね。」
瞬がカップを二つ持ってレジに並ぶ。十分もすると、箱を抱えて戻ってきた。
瞬「お待たせしましたジュネさん。」
ジュネ「ありがとう。」
瞬「全然。今日、これ使いますね。」
ジュネ「私も使うよ。」
瞬「ちょっとお腹も空いたし、食べにいきませんか？お気に入りのお店があるんです。」
ジュネ「楽しみにしてる。」
瞬「気に入ってくれると嬉しいです。」
瞬とジュネはカップの入った箱を壊れない様に鞄にしまった。

星矢「全く違和感ないな、瞬。」
氷河「仮面をかぶっているジュネのほうが少々浮いてるな。」
それ以上に浮きまくっている星矢と氷河。紫龍は他人の振りをしている。しかし、手に看板の破片を抱えているところを見ると、紫龍もあまり変わらない。
星矢「こんなところが好きなんだな。」
氷河「似合うけどな。」
星矢「綺麗な物好きだからな、瞬。」
氷河「瞬らしいよな。」
星矢「ハーデスに選ばれるだけあるよな。」
紫龍「お前らじゃ天地がひっくりかえってもありえないな。」
星矢「機嫌悪いのか？紫龍。」
紫龍「いや・・・・」
氷河「こう見てると、きょうだいに見えるな。」
星矢「長い間、一緒に修行してたんだし。」
紫龍「氷河とアイザックだって同じようなもんじゃないのか？」
氷河「まあな。」
星矢「楽しそうだな〜。ジュネさんがどんな顔してるか分からないけど、瞬が笑ってるんだから、きっとジュネさんも笑ってるんだろうな。」
氷河「女聖闘士の表情ってどうやって見分けるんだろう。」
紫龍「瞬はジュネのだけは分かるだろう。あんなに楽しそうなんだから。」
氷河「確かに。相手の気持ちを考えずに笑えるような奴じゃないからな。」
紫龍「星矢だって魔鈴のくらいは分かるんじゃないのか？」
星矢「魔鈴さんの場合、声にはっきりと出るから分かりやすいぞ。態度もはっきりしてるし。」
紫龍「声で判断するのか？」
星矢「はっきりと分かるのはな。けど、そんなんじゃなくて、ほぼ直感で魔鈴さんが怒ってるのか、笑ってるのか、悲しんでるのかは分かるぞ。」
氷河「難しいな。」
星矢「難しくなんかないぜ。ちょっと訓練すれば分かるって。」
紫龍「訓練って何年くらいだ？」
星矢「六年あれば十分だろう。」
氷河「ちょっとじゃないぞ。」
六年といえば、修行期間と同じ年だ。そこまでして会得する気は氷河にはなかった。
星矢「お！二人がまた移動するぞ！」
氷河「人ごみにまぎれたら分からないから気をつけろ！」
紫龍「走るなよ！」
大声で忠告した時星矢が誰かが落としてそのままにしていたらしい皿を踏みつけ、滑って氷河にアタックした。思わぬ圧力で氷河もすっ転び・・・
ドガッシャーン、バリバリバリ
運の悪い事に高級カップコーナーに激突した。数え切れないほどのカップが把握しきれないほど散乱している。頬をスッと切ったが、そんな傷は傷に入らない。二人は何も無かったかのように瞬とジュネを追っていった。
紫龍「ハア。すまんが、ここの責任者をよこしてくれ。」
近くでカップの整理をしていた店員に頼む。店員は急いで責任者を呼んだ。
責任者「ああ、カップを割ったのですね。」
紫龍「そうだ。」
責任者「弁償してもらいます。」
紫龍「勿論だ。」
責任者「あなたに請求してよろしいのですね？」
紫龍「そうしてくれ。」
責任者「ここのカップの料金と、お壊しになったテーブルや棚の料金を含めまして、三百万いただきます。」
紫龍「これで頼む。」
ゴールドカードを渡し、不本意の支払いをする。勿論、割ったカップは紫龍が引き取ったのだった。

瞬「ここは、添加物とか使ってなくて美味しいんですよ。」
ジュネ「そうなんだ。」
ジャスミンの香りがほのかにする茉莉茶寮。窓際の席を選んだ。
瞬「ここからは庭が見えるんです。芝が綺麗でしょう？」
ジュネ「特等席なんだね。」
瞬「ここのケーキ、美味しいんですよ。」
ジュネ「ケーキ、あまり食べた事無いな。」
瞬「そう・・・ですね。食べられないんですよね。」
少し、哀しそうな顔をした。
ジュネ「瞬、気にしなくて良いよ。」
瞬「でも、エチオピアは毎日の食べ物がなかなか手に入らないのでしょう？」
ジュネ「だからって瞬が気にする事じゃないって。」
瞬「毎日餓えで死んでる人もいるのに、こうやって好きな時に食べられる人もいる。何か、申し訳ないですよね。」
ジュネ「エチオピアでは餓えは当たり前なんだって。当たり前なんだから、誰も気にしてないって。」
瞬「そうですか？」
ジュネ「そうそう。確かに腹いっぱい食える事は少ないけど、その分自然はあるし、とてもいいんだって。」
瞬「自然を破壊しているのも僕達なんですよね・・・・・」
ますます哀しそうな顔をする。そんな顔をされるとジュネは焦る。
ジュネ「瞬がそこまで気にする事無いって。人間運命ってものがあるんだから。それに食えなくても幸せな事だってあるんだよ。皆で協力したりしてさ！」
瞬「そうですか？」
ジュネ「そうだよ。瞬は気にしなくて良いんだよ。」
ポンと瞬の頭に手を置く。まだ大分ナーバスになってるのか、瞬はメニューを開き、遠慮がちに選択する。瞬は一番安いカップケーキを選んだ。ジュネは瞬に勧められてアップサイドダウンケーキを頼んだ。やがてケーキが来て、やっと薄く笑むようになった瞬なのだった。

星矢「お姉さん！俺、追加でモンブランに抹茶ケーキにチーズケーキね！」
氷河「俺もコーヒーお代わり。あと、コーヒーゼリーと紅茶のケーキくれ。」
ガツガツガツと食べながら、一番奥のテーブルでは星矢と氷河と紫龍が陣取っていた。
紫龍「お前ら、そんなに食べなくても良いんじゃないか？」
星矢「だって、食べなきゃ疑われるだろう？」
氷河「それに少しお腹空いたしな。」
星矢「そうそう！」
口にグラノーラをほおばりながら言った。
紫龍「お前らが食べてるの、美味いのか？」
星矢「ケーキ美味いぞ！」
氷河「瞬推薦の店だけある。」
紫龍「本当にそう思うのならもっと味わって食べたらどうだ？」
星矢「味わってるぜ。」
そうは見えない。単に食い散らかしてるようだ。
ウェートレス「お待たせしました。モンブランに抹茶ケーキにチーズケーキにコーヒーゼリーに紅茶ケーキにコーヒーです！」
星矢「ありがとうありがとう。」
ウェートレス「こちらのお皿、片付けてもよろしいでしょうか。」
氷河「ああ。」
前に注文した、オペラ、ショートケーキ、ショコラ、エクルズケーキの皿をウェートレスは持っていった。
氷河「ん？何か知らんが沈んでるな、瞬。」
星矢「どうしたのかな。好きなケーキが売りきれてたか？」
紫龍「そんな事で沈むか？」
星矢「違うのか？」
紫龍「お前はそうかもしれないけどさ。」
紫龍（少し、沈み方が違う様に見えるが・・・・・）
氷河「ジュネが瞬の頭を撫でたぞ。」
星矢「ここから見てると親子みたいだな。」
紫龍「そうか？」
もう相槌にも覇気が無い。
氷河「紫龍、お前何も食べなくていいのか？美味いのに。」
紫龍「・・・・・・」
星矢「お腹一杯なのか？」
紫龍「俺は、水で良い。」
星矢「そうか。俺、もっと頼んでも良いか？」
紫龍「好きにしろ・・・・・」
紫龍の胸のうちを全く知らず、星矢はそれからも注文しつづけた。兄の心弟知らず。ここの支払いは、紫龍が水だけを飲んでいて、三万八千円だったという。

ジュネ「楽しかったよ。」
空港。あの後、公園で休みそこで猫と遊んだりしてあっと言う間に時間がたってしまった。ジュネのチケットは六時離陸なのでもうお別れである。
瞬「本当ですか？」
ジュネ「瞬の故郷が見れて、凄く楽しかった。」
瞬「アンドロメダ島とは全然違うでしょう？」
ジュネ「そりゃね。でも、そうじゃなきゃつまらない。」
瞬「そうですか。」
ジュネ「そうだよ。」
瞬「日本を好きになってくれましたか？」
ジュネ「瞬は日本が好きかい？」
瞬「はい、好きです。でも・・・・」
ジュネ「瞬、また不安になってるのかい？」
瞬「何か、日本人が薄情な気がして。その猫だって。」
ジュネの傍らには、あの公園の猫がいた。公園で猫が捨てられていたため、遊んでいるうちに情が移り、ジュネが連れて帰ると言い出したのだった。
ジュネ「そんな事ない。この猫だって、籠と一緒にパンが置かれていただろう。きっと、理由があって仕方なしに捨てたんだ。捨てた人は優しい人だったんだよ。」
瞬「ジュネさん。」
ジュネ「瞬が気にする事じゃないさ。」
ギュッとジュネが瞬を抱きしめた。ヒールの高い靴を履いているから、今だけ瞬よりも身長が高い。
ジュネ「瞬が思ってるほど、日本人は薄情じゃないさ。大丈夫だよ。」
瞬「そうですか？」
ジュネ「そうだよ。大丈夫。私は日本が好きだから。」
瞬「ありがとう、ジュネさん。」
ジュネ「また来るから。」
瞬「何時でも来てくださいね。」
ジュネ「うん。」
身体を離す。
ジュネ「泣くんじゃないぞ。」
瞬「泣きませんよ。」
ジュネ「いい子だ。」
ニコッと笑うと、ジュネはアンドロメダ島に帰っていった。姿が見えなくなった後で、瞬はこっそり泣いた。ジュネが日本を好きといってくれて嬉しい気持ちと自分がやっぱり疑問に思って不安な気持ちが混同しながら。そんな時、知らない女の人がハンカチを差し出してくれた事が引金になって、ますます涙が溢れたのだった。

瞬「ただいま〜」
星矢「お帰り！楽しかったか？」
かなり白々しい台詞だ。空港まで尾行していたのに。
瞬「ちょっと物思うこともあったけど、楽しかったよ。」
氷河「どんな事だ？」
瞬「日本がどんな国かってこと。ジュネさんのような人の目で見た日本はどうなのかなって、凄く勉強になったよ。」
星矢「へえ〜」
瞬「あれ？紫龍は？」
星矢「沙織さんのトコ。」
瞬「どうしたんだろ。五老峰に帰るっていう報告かな。」
氷河「さあな。」
瞬「御飯の用意始めるね。紫龍、買い物とか行ってた？」
星矢「分からない。」
今まで一緒に行動していたのだから買い物なんぞ行ってるはずが無いだろう。しらばっくれる特訓もしたようだ。
瞬「じゃあ、冷蔵庫の中見てみるね。」
瞬はキッチンへと向かった。彼らは知らない。紫龍が星矢と氷河の尻拭いをしてゴールドカードを使い、思わぬ大出費をしたとして、沙織に土下座しに行ったことを。


あとがき
1623はごま様が踏んでくださいました。久し振りのキリリクです。お題は瞬とジュネのデート＋尾行する青銅達。何か、暗くなってしまいましたが、ジュネの故郷はエチオピアでありアンドロメダ島。どう考えても発展途上国だったので、日本の見方が違うのではないかと思いました。豊かであればあるほど（沢山の小物や喫茶店）人間情が薄くなっていくのかなあ（車椅子の人を助けない人や捨てられた猫さん）。そんな事を後進国代表のジュネを交えて書いてみたいと思いました。ラストの女の人は、瞬が抱えた疑問を消すためにだした失っていない日本人の優しさの姿です。尾行組は、紫龍に多大の迷惑をかけてしまいました。氷河もちょっと砕けてるし、少し、暗いのでごま様の希望通りではないかもしれませんが、お許し下さい。今回の裏シナリオ。ハンカチはその後女の人に返しました。借りた時に返す日を決め、手もみ洗いをしてアイロンをかけました。時間通りに女の人は現れ、ハンカチは無事女の人の手元に返ったのでした。

追加　ごめんなさい、エチオピアは治安もとてもよろしい国だそうで、どこのかしこも食べ物がろくにないところではなさそうです。ジュネさんの生まれ育った所はそうなんだということにしてください。

　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI