聖闘士学園探偵団

財団法人聖闘士学園。幼等部、初等部、中等部、高等部、大学、大学院とでなる巨大なこの学園は、日本一の大財閥城戸がアテナをしょってたつ聖闘士達が少しでも学力の向上することを願い、表向きは日本をしょって立つ若者のささやかな学び舎なれと私財のみで完成した巨大な一つの都市である。寄宿舎、研究所、映画館、病院、銀行などありとあらゆる施設が整ったこの学園都市には青銅、白銀、黄金、聖闘士関係者＋一般生徒合わせて一万人はいると思われる。宿命のある者には男女、出身地関係なく門戸を開き、しばらくしたら姉妹校へ留学し（留学期間は六年間、なので中等部からの再編入が多数）、体力面では誰にも劣らなくなって帰ってきて、才能のある者は家柄、資産関係無く門戸を開いて学園で英才教育を行って学力面では誰にも劣らなくなる。特出、卓越した才能の持ち主が多い事でも有名なこの聖闘士学園は、一方で世界平和を守る為に人知れず活動している。この学園のもう一つの大きな特徴は、幼等部、初等部、中等部、高等部、大学、大学院それぞれに学生会という管理執行組織があり、各等部の運営は全てそれぞれの学生会が行う点である。しかし、絶対権力は理事長にあり、それに逆らう事はできない。ちなみに、中等部学生会はこの三人が動かしている。

星矢「紫龍、俺もう疲れたよ。」
机につっぷす星矢。彼が中等部学生会会長の星矢。彼はギリシャ校へ留学してた生徒で聖闘士学園で一番の実力の持ち主であり、黄金への飛び級も思案されている天才児だ。しかし、性格はめっぽう明るく、一見普通の少年だ。姉が一人おり、高等部の一年生に属している。
紫龍「星矢。まだ全部の書類に判を押してないだろう。今までサボってたからツケが来たんだ。」
そう言って星矢の頭を軽くこづくのが紫龍。彼が中等部学生会の書記である。彼は中国校へ留学し、高名だかい童虎という先生から教えを受けた。そのおかげか中等部二年ではトップの成績で、IQは中等部一と称され、論文などで高い評価を受けている。特に古典、漢文、歴史など文系に強い。大人っぽく、他の聖闘士からも人望がある。
瞬「疲れたら休憩すると良いよ。」
そう言って笑顔で飲み物を差し出したのは瞬。瞬は学生会の会計を担当している。彼はアンドロメダ島校へ留学した。厳しい学校で有名だが見事帰ってきた。女顔で、普通の女性よりも美人である。料理も上手く、性格も清らかで優しく、彼を嫌う人間は・・・・・約一名ほどいるが他の聖闘士は瞬が好きである。彼は、聖闘士には絶対にない力が授かっている。自分の体を依り代として神、ハーデスを降臨させるという技である。一度免疫ができたせいか、体を乗っ取られる事がなくなった今、本当の実力者は瞬かもしれない。ちなみに瞬には高等部に一輝という兄がおり、その兄も高等部学生会の書記を務めている。この三人が中等部学生会を運営している。中等部学生会は、校外の学生にも大人気である。
星矢「ああ〜美味い！生き返る〜」
紫龍「俺が苛めてるみたいじゃないか。」
星矢「なあ、これ何ジュース？」
瞬「オレンジジュース。たったいまジューサーでひいたばかりだから新鮮で美味しいよ。」
星矢「市販よりもずっと美味いよ。」
紫龍を無視して星矢が瞬に笑顔で話しかける。紫龍も瞬からグラスを受け取り、一口飲む。確かに美味い。一流シェフの帽子を脱がせてしまうだけある。だが、それにひたって和やかにお三時をやる暇は無い。
紫龍「星矢。お前の目は節穴か？」
星矢「う？」
ゴクッとジュースを飲み込んだ。
紫龍「何でそんなにお気楽なんだ。分かってるのか？隣の書類の束を！」
瞬と星矢が揃って隣を向く。そこには、塵も積もれば山となるを地でいった書類の山ができていた。
星矢「紫龍がこんなに書類を作るのがいけないんじゃないか。」
紫龍「ほぉ〜、俺の所為にする気か。」
星矢「だって書記の役目だろ？書類作成。」
紫龍「なら、新体操部の参加書類と柔道部の参加書類を一緒にして構わないと？規定も内容も服装もごっちゃごちゃにしてもOKというんだな？」
新体操部のユニフォームを着た柔道部・・・・かなり気持ちが悪い。
瞬「二人共、喧嘩は止めて。今はそんな事話してる暇は無いでしょう？」
紫龍「う・・・・」
星矢「あとちょっと休憩したら始めるよ。紫龍、あとちょっとな。」
紫龍「じゃ、あと一分。」
時計を見てカウントを始める。それまで星矢は背伸びをしたり欠伸をしたり、しばらくできなくなる事をしていた。
星矢「あ、れ？」
星矢は腕立てをしていた時床に何か輝いている物を見つけた。
星矢「何だ？これ。」
手に取ったのは指輪。まるっこく乳白色のそれは恐らく真珠だろう。
星矢「なあなあ、紫龍。」
紫龍「何だ？もう休憩時間は終るぞ？」
星矢「これ、何だろう。」
星矢が紫龍に指輪を渡す。
瞬「わあ、綺麗。これ真珠だね。」
紫龍「どうしたんだろうな。」
星矢「男である俺達がこんなのつける筈無い。普通は女性だよな。」
瞬「そうだね。」
紫龍（何だか嫌な予感だ・・・・・）
星矢「俺達がその女生徒に返してあげよう！」
瞬「そうしよう！きっとその女の人困ってるよ。」
紫龍「おい！俺達はそんな暇は・・・・・」
ないぞと言おうと思っていたが、星矢に肩をガシッと掴まれて言葉が続かなくなった。
星矢「紫龍。もし、春麗が困っていたとする。悩み、悲しみに暮れているかもしれない。そんな春麗にお前は学生会の仕事が忙しいからと見て見ぬフリするのか？」
紫龍「それは・・・・・」
星矢「命賭けたって春麗の為に尽くすだろ？これを落とした人だって同じだ。な？紫龍♪」
瞬「ね？」
二人の笑顔攻撃には、中等部一の頭脳の持ち主の紫龍も太刀打ちできなかった。もしも断ったりしたら、天使には涙が浮かび、天馬には仕事放棄され、今より状況が悪化するのは目に見えている。
紫龍「分かった。その指輪の持ち主を探そう。」
星矢「ありがと！紫龍。」
瞬「ありがとう。」
紫龍「・・・・・」
何も思わず、ただ一度ため息をついた。
星矢「じゃ、推理してみよう。瞬、まず考えられる事は？」
瞬「落し物。」
紫龍「そりゃそうだな。」
星矢「だけど、うちの学校貴金属禁止じゃないか。こんなところに落し物って変だろ？」
紫龍「何かに使うために持ってきたとか。」
星矢「それはありえるな。プロポーズとかかな。」
瞬「実は紫龍のじゃないの？」
紫龍「な、何で!?」
思わず顔が赤くなる。
瞬「春麗さんに渡すんじゃないの？」
紫龍「俺達まだ結婚なんてできないぞ。」
瞬「でも、する気なんだよね〜」
星矢「あと四年だよなあ。学生結婚ってのもいいよな。」
紫龍「今は俺の人生設計を考えるんじゃなくてこの指輪の持ち主だろう？」
星矢「そうだったな。これ、微かに小宇宙を感じる。」
瞬「誰の？」
星矢「微量過ぎて何とも。」
紫龍「でもこれで、聖闘士の人間だって分かったな。」
瞬「じゃあ、早速聞きこみに行こう！」
星矢「おう！」
三人は走って学生会室を出ていった。でていってものの数分もしないうちに
麗花「あの〜」
麗花が学生会室に入ってきた。麗花は幼等部学生会会長である。
麗花「あの件についてちょっとお話が・・・・・あれ、いない。」
ファイルを手にし、途方にくれる。
プルルルル、プルルルル
電話が鳴った。突然の静寂を破る音に、一瞬驚いたものの麗花は受話器をとった。
麗花「はい、中等部学生会室です。」
魔鈴「高等部学生会会長の魔鈴だけどさって・・・・あんた星矢じゃないね。」
麗花「幼等部学生会会長の麗花です。」
魔鈴「麗花が何でそこにいるんだい？」
麗花「あの件についてお話を・・・・」
魔鈴「ああ、こっちもだよ。で、麗花、星矢いないのかい？」
麗花「はい。紫龍お兄ちゃんも瞬お兄ちゃんもいません。」
魔鈴「紫龍の奴。また星矢に振りまわされてるのか。瞬は星矢に同調したんだろうし。探偵ごっこする暇あったら滞ってる書類早く提出しろってんだ。皆そこで止まってるんだから。」
麗花「幼等部へ提出する書類も少し滞ってます。」
魔鈴「ウチもだよ。一輝が滅茶苦茶ピリピリしてる。」
麗花「あ、魔鈴お姉さん、高等部学生会に提出した書類に不手際はありませんでしたか？」
魔鈴「ああ、無かったよ。このまま使うよ。こっちのも問題は無かったろ？」
麗花「はい。全然。」
魔鈴「良かった。あ、幼等部学生会もこの後の会議に出るだろ？」
麗花「あ、はい勿論です。」
魔鈴「さっき電話でかわした時に聞いたんだけど、ムウが幼等部に出してたA−12の書類が欲しいんだって。できてたら持ってきてくれって。」
麗花「あ、分かりました。会議の時に持ってきます。」
魔鈴「多分、ムウから詳しく電話行くと思うから。」
麗花「分かりました。」
魔鈴「じゃ、会議でね。」
麗花「はい。」
カチャリと受話器を置く。麗花は渡す筈だったファイルを手に持ち、ムウからの連絡を待つべく幼等部学生会室に戻ったのだった。

星矢「まずは、青銅二軍からな。」
おーいと呼びかける。トレーニングルームで訓練してた五人がやってくる。彼らは聖闘士の才能を見出され、各地の姉妹校に飛んでいた。六年の特訓を経て、聖衣を得てこの学園に戻ってきた。
邪武「何だよ、星矢。」
彼は邪武。アルジェリア校に留学していた生徒である。体力に優れ中でも短距離が得意である。
星矢「邪武、お前これ知らないか？」
邪武「これって指輪だろ？」
指輪を手にとって確認する。
星矢「誰かが落としたんじゃないのか？」
邪武「だからってなんで俺達に？」
星矢「小宇宙が残ってたから聖闘士のもんだろうって思ったんだ。」
那智「誰一人指輪は似合わないだろ。」
彼は那智。リベリア校に留学してた。いつも沈着冷静で物事の正しい判断ができる男である。
市「あたしは似合うかもしれないざんすけど。」
そういったのは市。彼はフィンランド校。独自の言語センスがあり、容姿もかなり特徴的だ。
瞬「どうだろうね。」
蛮「随分小さいサイズだな。」
蛮の小指の第一関節にやっと入るくらいだ。どう考えても女性サイズである。
檄「俺達の手にはまる筈がない。」
彼は蛮と檄。タンザニアとカナダへ留学してた生徒である。二人は特に特徴は無い。
瞬「誰かにあげるため・・・・とかは？」
星矢「邪武が贈る為に持ってきたんじゃないのか？」
邪武「な、何で俺なんだよ！」
瞬「そんなの分かるじゃない。邪武ってあの人にぞっこんでしょ？」
クスッと瞬が笑う。
邪武「泣き虫に言われたくないな。」
邪武がはにかんで腕を組んだ。
瞬「僕はもう泣き虫じゃないよ。」
邪武「兄貴がいなかったら泣き虫のままだっただろ？」
瞬「うるさいな。いいじゃない、たった二人の兄弟だもの。」
邪武「ブラコンだな。」
瞬「邪武にはお兄さんがいたことないから分からないんだよ。」
邪武「幸せな奴だな。」
瞬「その通りだよ♪」
紫龍「そうか、お前らじゃないのか。次を当るよ。」
邪武「そうしてくれ。ああ、そうだ星矢。」
星矢「何だよ。」
邪武「学生会の仕事もあるだろうけど、個人としたのは用意したのか？」
星矢「あ？」
邪武「あれだよあれ。もうすぐだろ？」
星矢「お前は用意したのか？」
邪武「勿論だ。綺麗な髪飾りだ。」
瞬「へえ、似合いそうだね。」
紫龍「金はあったのか？」
邪武「三ヶ月バイトして貯めた。あの人に安物なんて贈れないからな。」
瞬「気持ちがこもってれば値段なんて気にしないよ、あの人。」
紫龍「海に宝石類ぶちこんでまでして俺達に誠意を見せたあの人の事だからな。」
邪武「俺はそうしたいの。」
星矢「じゃ、俺達行くぜ。」
邪武「探偵ごっこも程ほどにしとけよ。」
瞬「じゃあね！」
三人はトレーニングルームをあとにした。

瞬「次は、ジュネさん達だ。」
紫龍「彼女らはいつもどこにいるんだ？」
瞬「ジュネさん達は多分図書室。ジュネさん読書好きだから。レダとスピカもいると思う。」
星矢「じゃあ、図書室だな。」
三階のエレベーターに乗って五階のボタンを押して図書室に向かった。

紫龍「本の香りは良い匂いだな。」
図書室はカビ臭さまで感じるほどだった。日当たりがあまり良くない所為もあるかもしれない。
星矢「俺は本読むの苦手だ。」
瞬「星矢は漫画専門だよね。」
星矢「漫画は俺のバイブルだぜ。」
瞬「え〜っと、あ、いたジュネさんだ。」
ジュネは一番奥の席に座っていた。そこはジュネのお気に入りで、人がいなければ大抵はそこに座っている。新鮮な空気が流れるし、涼しい所為かもしれない。
瞬「ジュネさん！」
周りに迷惑がかからないように、少し小声で言った。
ジュネ「瞬！」
本から頭を持ち上げて、瞬を確認すると笑顔で応えた。ジュネは瞬と同じアンドロメダ島校への留学生だった。瞬のお姉さん的存在で、めげそうな時いつもはげましてくれた優しい人だ。女聖闘士は普段は仮面着用だが、聖闘士学園にいる間は普通の生活をするために仮面を外している。生徒手帳第二十三条に書いてある。
ジュネ「どうしたの？学生会の仕事が忙しいんじゃなかった？」
話す事が嬉しいのかいつにない笑顔で語る。一分前の真剣にして凛とした表情とは大違いだ。まあ、芥川竜之介作羅生門なんて読んで笑顔がでるほうがちょっとおかしいが。
瞬「忙しい事は忙しいよ。」
瞬も持ち前の笑顔を見せる。
ジュネ「気分転換？」
瞬「ちょっと違うかな。」
ジュネ「それじゃ何で？」
瞬「ジュネさん、これ知らない？」
瞬が指輪を渡す。
ジュネ「どうしたんだい？これ。」
瞬「落し物。」
ジュネ「へえ。これ、真珠だね。綺麗だね。」
瞬「そうですよね。」
ジュネ「随分細い指なんだね、この人。私でも入らないよ。」
ジュネの中指の第二関節くらいまでは入るが、それ以上は指が抜けなくなる可能性がある。薬指なら別だが。
ジュネ「私で十一号だから、これは多分九号だね。」
瞬「そうなんですか。」
ジュネ「多分そうだよ。瞬は私より弱冠細いんじゃないかい？」
瞬「そうですか？」
ジュネ「瞬の手って白いし、細いからね。瞬、ちょっとつけてみたら？」
瞬「僕？」
ジュネ「実験だよ。」
瞬の手をぐいとひっぱり、指輪をはめる。中指じゃなくて薬指に。
星矢「お、似合うじゃん。」
瞬「そうかな。」
瞬の手にぴったりの指輪。薬指に難なく入った。白い手に乳白色の真珠は良く似合う。
紫龍「瞬って本当に線が細いんだな。宝石が似合う男ってのも希少価値だな。」
瞬「別に僕はする気はないよ。」
すぽっと抜き、星矢に渡す。
星矢「しててもいいのに。アクセントになるぜ。」
瞬「アフロディーテじゃあるまいし。」
星矢「似合ってたぜ。この制服じゃなかったら絶対女に見えるって。」
聖闘士学園の制服は、理事長の友人月島由梨が作った物である。日本のモードを支える人物の作品は周りからの評判も高く、女性はより女性らしく、男性はより男性らしいのを基調としたブレザーで、入学志望者があとをたたないのもこれが一つの原因と考えられる。
瞬「星矢僕を怒らせたいの？」
図書室にピンクのそよ風が流れ始める。身が動かなくなるようなそよ風。
星矢「ご、御免。俺が悪かったよ。」
瞬「ん、ならいいけど。」
ピンクのそよ風は失せた。星矢からは冷や汗が一筋垂れた。
ジュネ「その指輪、持ち主がわからないの？」
瞬「ええ、心当たりはありませんか？」
ジュネ「・・・・御免ね瞬。ウチの学校は貴金属禁止だろ？そういう違反する人見た事ないんだ。」
瞬「ジュネさんが悪いんじゃありませんよ。」
紫龍「ジュネでもないのなら、他をあたるさ。」
ジュネ「そうだ、瞬。お前はもう決めたのかい？」
瞬「何をです？」
ジュネ「あれだよ。全学生会が行ってる奴さ。私はオルゴールを買ったんだ。」
瞬「わあ、素敵ですね。」
ジュネ「アンドロメダ島を思い出すような良い曲だよ。今度一緒にオルゴール店に行ってみようよ。アルビオレ先生とダイダロス先生にも差し上げたいし。」
瞬「そうですね。」
紫龍「レダやスピカは？」
ジュネ「今日は休みだよ。」
瞬「お休み？」
ジュネ「ああ。今日はバイトらしいよ。」
紫龍「学校よりバイトを選ぶのか？」
ジュネ「金が欲しいからねえ。二人の気持ちも分からんではないよ。」
星矢「ジュネもバイトして金貯めたのか？」
ジュネ「ああ。サーカスで猛獣使い＋調教係を募集してたからね。聖闘士にとってわけない仕事だし、時給三千円は嬉しかった。」
瞬「ジュネさんにぴったりのお仕事ですね。」
ジュネ「でしょ。」
瞬「レダとスピカはどんなバイトしてるんです？」
ジュネ「レダとスピカは警備会社にバイトしてる。二人にピッタリな仕事だろ？」
瞬「そうですね♪チェーン使えば楽に警備できますからね。」
ジュネ「物凄い気に入られたらしいよ。防衛率百％だから。顔に刺青はいってるのは気に食わないみたいだけど。」
瞬「あれはスピカのトレードマークだからしょうがないよ。」
ジュネ「私もまた来てくれって団長から言われてさ、もう目的は果たしたし、働く義理はないんだけど、猛獣達に合うの楽しみだから来月から行くことにしたんだ。」
瞬「頑張ってくださいね。」
ジュネ「勿論だよ。そうそう、瞬、サーカスでのバイトの時だけどにね・・・・」
瞬とジュネが二人の世界に入ってる時星矢が紫龍にそっと耳打ちした。
星矢「なあ、アンドロメダ島留学者、進路決まったんじゃないか？」
サーカスでの面白い話を瞬に話しているジュネを見ると、星矢の言い分が間違ってないように思えた。
紫龍「・・・・そうかもな。」
星矢「だろ？」
それから会話をし続け、図書室司書から叱責をくらったのはいうまでもない。

紫龍「次はどうする？」
星矢「結構人が多い中庭に行ってみようぜ。」
図書館を出てというか半分追い出されて、靴を履き替え、中庭に行く。靴も月島由梨デザインの物で、靴の裏にはアルテミスのトレードマークの三日月が描かれている。黒の革靴で、制服に良く似合っている。
星矢「結構いるな。」
紫龍「そうだな。」
瞬「ねえ、あそこに春麗さんがいるよ。」
木陰では春麗が芝生の上で手を何やら動かして作っていた。暗黙の了解で三人は春麗に近づいた。
紫龍「春麗！」
春麗「!?」
春麗が首を持ち上げた。紫龍の顔を確認すると笑顔を見せた。
春麗「紫龍、どうしたの？星矢さんや瞬さんまで。」
星矢「いや、中庭に来たら春麗さんがいたからつい。」
瞬「紫龍が声もかけないで行っちゃうなんてないと思ったからね。」
春麗「まあ。」
フフッと微笑む。春麗は紫龍の彼女で童虎とは姓が違う事と別居してはいるが、何と童虎の孫娘なのである。彼女は童虎の方針で聖闘士学園に幼等部より在学していた。彼女が六歳の時紫龍がクラスに編入してきて、クラス委員だった春麗がいろいろな事を教えた。気があったので結構下校を共にしていたが、その頃は別に恋愛感情を持ってなかった。しかし、中国校に留学して再会した時にはお互い一目ぼれで、今日に至っているわけである。中等部で一番のカップルと評判だ。
瞬「春麗さん、何作ってるの？」
春麗「これ？あの人へ差し上げる為に作ってるんですよ。」
春麗の手には編み棒が握られていた。編み棒には大分できあがった藤色のセーターが絡み合っていた。
星矢「へえ、上手だね。」
春麗「本を見て作ってるんです。私はお金が無いし、祖父に頼るわけにもいかないし、けどバイトする勇気も無いから手製のサマーセーターを・・・・・」
紫龍「春麗がバイトすることはないよ。必要なら俺が出すし。」
春麗「そんな、紫龍に甘える事なんてできないわ。悪いもの。」
紫龍「全然気にならないけどな。」
春麗「金銭に関してはいくらあなたでも甘えられないわ。好意は凄く嬉しい。ありがとう。」
笑顔をニコッと見せる。
瞬「紫龍のは無いの？」
星矢「そうそう、紫龍に無かったらきっと焼餅焼いちゃうぜ！」
紫龍「星矢！」
紫龍が顔を赤くさせながら叫んだ。
春麗「紫龍のもあるわ。」
そう言って、編物をいれていた鞄からごそごそと何かをさぐった。
春麗「ほら、紫龍の為に。」
でてきたのは、淡い紫色のサマーセーターだった。
春麗「多分、サイズはぴったりだと思うけど。」
セーターを広げて、紫龍の体に合わす。
紫龍「大丈夫だ。ぴったりだよ。」
春麗「良かった♪」
紫龍「これ、俺に？」
春麗「勿論。」
紫龍「貰って良いのか？」
春麗「ええ。」
紫龍「嬉しい。ありがとう春麗。」
春麗「喜んで貰えるなら私も嬉しいわ。」
完全に二人の世界である。
星矢「何だかあてつけられてる気がする。」
瞬「星矢はいいじゃない。美穂ちゃんいるし、シャイナさんだっているでしょ。あの人もね。」
星矢「俺ってモテモテだったりするのか？」
瞬「そりゃあね。気づいてないの？」
星矢「全然知らなかった。」
瞬「鈍感過ぎるよ・・・・」
紫龍と春麗で話が弾み、本論に入れたのは何と二十分も過ぎてからだった。
春麗「この指輪の持ち主？」
紫龍「知らないか？春麗。」
春麗「ごめんなさい、知らないわ。」
紫龍「そうか・・・・」
春麗「あ、でも。」
瞬「でも、何ですか？」
春麗「氷河さんが何か探してたようだわ。」
星矢「ひょうがあ？」
春麗「酷く困ってたみたいなの。多分、Ｂ塔にいると思うわ。」
紫龍「ありがとう春麗。当ってみるよ。」
春麗「指輪の持ち主、見つかると良いわね。」
紫龍「ああ。」
互いに微笑んだ後、別れ、Ｂ塔に向かった。
星矢「春麗さん、紫龍に会えて嬉しそうだったな。」
瞬「学生会のお仕事忙しいもんね。」
紫龍「誰かさんがしっかりしてくれれば、俺はもっと春麗と遊べるのにな〜」
星矢「う！」
紫龍「今日までの書類後何枚あったっけか〜」
星矢「分かったって。この依頼が片付いたら即効やるよ。光速でやってやるから。」
紫龍「それを聞いて安心した。」
瞬（何時、依頼されたかなあ？）
星矢「氷河が指輪の持ち主なのかな？信じられないぜ。」
瞬「まだ分からないじゃない。とりあえずＢ塔を探してみようよ。」
紫龍「そうだな。」
中庭の先にあるＢ塔は、実習室が主になっている。調理室や理科実験室など取り扱いが危険な教室が集まっている。

星矢「さて、氷河はどこに・・・・・」
瞬「いるよ、あそこ。」
瞬が指差す先には、クールを完全に忘れた氷河が、辺りを必死に探していた。
星矢「あいつがあんなに困ってるところ見るの初めて見た。おーいひょうがー」
氷河「!?」
氷河が振り向く。額についたいた汗を腕で拭い取った。
氷河「星矢じゃないか。瞬に紫龍も。どうしたんだ？学生会の仕事済んだのか？」
瞬「今は、探偵団の仕事♪」
氷河「またそんなことやって・・・・」
呆れた様に氷河が呟いた。彼はロシア人とのハーフ。碧眼に金髪である。シベリア校へ留学していた生徒で、二年Ｚ組の委員長だ。長い間シベリアで暮らしていただけあって寒さに滅法強い。そこの先生を心から尊敬しており、クールを追及することを忘れない。同じシベリア校にいて、くしくもその校をさってしまったアイザックという少年とも文通している。隻眼なのだが、潔い好感度ある少年だ。
紫龍「さっき春麗から、何かを無くして困っていると聞いたのだが・・・・」
氷河「そうなんだ。ちょっと無くし物をしてな・・・・」
瞬「それってこれ？」
そう言って指輪を差し出した。その瞬間氷河の瞳の輝きが変わった。
氷河「そう！これだよこれ！」
星矢「氷河のなのか？」
氷河「良かった〜これどこにあったんだ？」
瞬「中等部学生会室だよ。」
氷河「ああ〜そうか。今日持って来た時にポケットに入れてたんだな。書類を持ってった時に落っこちたんだ。」
紫龍「そうだったのか。良かったな、見つかって。」
星矢「でも、氷河が何に使うんだよ。プロポーズでもするのか？」
氷河「何言ってるんだ。プロポーズするのに、素のままの指輪なんて渡すか。ちゃんと箱に入れて渡す。」
瞬「氷河ってこういうところクールなんだよね。」
星矢「誰かとは違うよな。」
ちらっと星矢が紫龍を見る。
紫龍「煩いな、星矢。」
星矢「別に紫龍とは一言だって言ってないぞ。」
紫龍「う・・・・」
瞬「ねえ、氷河、じゃあ指輪何に使うの？」
氷河「本来なら当日まで秘密なんだが・・・・しょうがない、連れてってやる。こっち来いよ。」
命令するかのような言いぐさで案内する。
瞬「ここって・・・・」
着いた先は調理室。中からは良い匂いがする。
氷河「絵梨衣さん！」
氷河が絵梨衣にしか見せない笑顔を見せながら調理室に入った。調理室には絵梨衣と、それから美穂がいた。
絵梨衣「氷河さん、みつかりました？」
氷河「ああ！」
指輪を見せると、絵梨衣は満面の笑顔を浮かべた。
絵梨衣「良かった。ね、美穂ちゃん。」
美穂「本当ね、絵梨衣ちゃん。」
瞬「美穂ちゃんと絵梨衣さん？」
星矢「二人と指輪が関係あるのか？」
美穂と絵梨衣。彼女らは仲の良い親友である。同じ小学校出身で中学受験でこの学園に来た。二人共孤児だったため、奨学金で受けたのだが、見事合格し、二人共毎日勉学に励んでいる。子供好きの所為か、将来は保母さんになりたいということで、星の子学園というところでボランティアを行っている。アキラやマコトなど星の子学園の生徒は美穂姉ちゃん、絵梨衣姉ちゃんと呼び、二人は慕われている。絵梨衣は、氷河と同じクラスで二年Ｚ組の副委員長。そして彼氏彼女の関係である。美穂は、中学からの中途入学とはいえ、家が近かった星矢と幼なじみ。想いを寄せているが鈍感なので気付いてもらえないちょっと可哀相な女の子である。
美穂「そうよ、星矢ちゃん。指輪が無ければできないの。」
絵梨衣「とても大切なんです。」
星矢「料理に指輪が必要なのか？」
絵梨衣「ええ。」
氷河「よっこらせっと。」
氷河がキッチンに胡桃割り人形らしきものをだした。
氷河「それ、貸せ。」
瞬「え？」
氷河「いいから。」
半分引っ手繰るような形で指輪を取った。中に指輪をいれる。
氷河「フン！」
手に力をこめて胡桃割り人形を押した。
ガチャリ
指輪は音を立てて壊れた。
星矢「わわ！何やってるんだよ、お前！」
紫龍「指輪が粉々だぞ。残ってるのはリングだけだ。」
氷河「別にリングは必要無い。必要なのはこの真珠だけだ。」
氷河が大切そうに真珠の粉を集めた。立派な真珠は粉々になってしまったのだった。
絵梨衣「これで、当日の数時間前に振りかければＯＫですね。」
美穂「びっくりしてくれるかしら？」
瞬「ね、ねえ三人共何作ってるの？」
氷河「あの人のプレゼントだよ。学生会役員なんだから知らないとは言わせないぜ。」
絵梨衣「私達は三人でお料理をプレゼントすることにしたんです。」
美穂「それで、星座にちなんだお料理が良いわねって話しててそれならこの料理にしましょうって。」
美穂が鍋を指差す。なるほど、鍋には真っ黒な物が入っている。
瞬「それで、その真珠どうするんですか？」
絵梨衣「真珠の粉を振り掛けて、星空に見せるんです。」
氷河「イカ墨にイカの麺。そして真珠のコントラスト。まるで銀河だろ？名づけて銀河麺だ。」
探偵団の三人は、しばらくの間フリーズした。
星矢「それを振りかけて食うのか？」
氷河「ああ。沢山作ったから、学生会の人間分くらいはあるぞ。」
紫龍「食べられるのか？真珠。」
絵梨衣「食べられますよ。毒でも何でもないし、元は貝の分泌したものが固まった物ですから。」
瞬「ま、そういえばそうだね。」
氷河「悪かったな、わざわざ届けてくれて。」
美穂「星矢ちゃんも学生会のお仕事大変だとは思うけど頑張ってね。」
絵梨衣「私と氷河さんもサポートしますから、困った事があったら遠慮なく呼んでくださいね。」
星矢「あ、ああ・・・・」
氷河「手間を取らせて悪かった。学生会室に戻って仕事頑張ってくれ。言っとくがこの料理は秘密なんだ。当日までばらすなよ。」
手で追い払うようなマイムをして、氷河が言った。三人は反抗せず、Ｂ塔をでた。

学生会室への帰り道・・・
瞬「まさか料理に使うなんて・・・・・」
星矢「落し物ってのと、何かに使う為と、小宇宙を持つ者ってのは当ったが・・・・まだまだ修行が足りなかった。」
瞬「そうだね。」
星矢「俺達もっと鍛えなきゃいけないと思う。」
瞬「そうだね。」
星矢「夏にでも合宿でもやるか。」
瞬「海にする？山にする？」
星矢「どっちも捨てがたいなあ。紫龍はどっちにする？」
紫龍「俺は参加せん。二人で行ってこい。」
瞬「だめだよ、探偵団は三人行動が原則。一人でも欠けたらだめだよ。」
紫龍「別に俺は参加した覚えは・・・・・」
星矢「日夜平和の為につくすのが俺達の役目。ならば、お前も協力しなけりゃな。」
紫龍「それは聖闘士学園の校訓であって、探偵団にそんな決まりは・・・・」
星矢「問答無用！」
星矢がこう言うとテコでも動かないのは良く知っている。星矢と闘って良くて千日戦争。悪くて自分の負けなので、諦めることにした。春麗と五老峰に里帰りする日とぶち当たらないのを願って。ため息を二つほど吐くと中等部学生会室の扉を開けた。

サガ「ギャラクシアンエクスプロージョン!!!!」
突然の衝撃波に中等部学生会室の扉がふっとんだ。何とか耐えた三人が部屋を見渡すと・・・・
ムウ「重役出勤ご苦労様ですね。」
シュラ「随分書類を貯めこんだもんだ。」
大学部学生会の面々。会長サガ。書記シュラ。会計ムウ。黄金聖闘士である。サガは病気療養のため、休学していた為医学科六年生で二十八歳である。シュラは二十三歳で物理学科。修士課程に進む予定だ。ムウは二十。経済学専攻である。弟の貴鬼が初等部に所属している。
魔鈴「あんたが一番遅いとはね。」
シャイナ「主人のいない部屋で待ってるのは寂しいもんだよ。」
一輝「お前またくだらないことして瞬を連れまわしたな。」
高等部学生会の面々。会長魔鈴。書記一輝。会計シャイナ。白銀女聖闘士と青銅。魔鈴は大学部教育学科のアイオリアと実は恋仲である。本人同士は悟られない様に普通に振舞っているが、まわりからは一目瞭然である。シャイナは星矢が好きなのだが星矢が鈍感な為全然気付いてもらえない可哀相な女性パート２である。彼女には義理の妹にあたるヒュギという少女がおり、中等部に所属している。一輝は瞬の兄で、弟想いである。ブラコンに近いものがあるが、しっかりと彼女もいて、名をエスメラルダというが、彼女も中等部に所属している。
星矢「お・・・・や？学生会の皆さんおそろいでどうしたんです？」
サガ「どうしたもこうしたもない。定例会議の時間を大分過ぎてもこないので来てみたのだ！」
ムウ「初等部学生会と幼等部学生会の人達には帰ってもらいましたよ。これから起こる惨劇を前に精神崩壊起こっては問題ですから。」
はっと気付き、紫龍は時計を見た。現在時刻は二時三十分。会議の時間は一時・・・・
紫龍「そうだ、今日は全学生会の会議があったんだ！」
魔鈴「思い出すだけ偉いよ紫龍。」
ムウ「それにしても、私が頼んだ書類、山積みですね。よっぽど私がお嫌いですか？」
星矢「滅相も無い！」
ムウ「これは一ヶ月も前に頼んだ書類です。埃被ってましたよ？」
にっこりと書類を手に持ち微笑むムウ。その微笑みが一番怖いということは誰もが知っている。
魔鈴「うちの書類もまだだな。全く、あんたって奴は・・・・」
シャイナ「これだけの書類マッハで片付ければ二十分で済むだろうに。」
シュラ「中等部が書類を貯めこんでる所為で、全然話が進まない。アテナの誕生祭まであと二日だというのに！」
そう。聖闘士学園の生徒が何かの為に奔走している理由。それはあと二日で理事長。つまりアテナの誕生祭が近づいているからであった。理事長城戸沙織の誕生日は九月一日で始業式なので、日延べして九月七日が誕生祭と生徒会が決め、その為に毎日書類のやりとりが行われているのだった。そして、その書類の波をダムの如く塞き止めてるのが中等部学生会であった。
サガ「この書類の束を片付けない事には、アテナの誕生日どころじゃない。」
一輝「今日から缶詰でこれを片付けてもらう。」
星矢「聖闘士学園は、七時までしか居残りが認められないよな？もし七時までに片付かなかったら？」
サガ「警備員などは幻朧魔皇拳で私達がいないと証言してもらう。心配するな。」
星矢「そんな・・・・」
魔鈴「寝たら、イーグルトゥフラッシュかシャイナのサンダークロウで目を覚まさせてやる。」
シュラ「書類の切り取りがある奴は俺のエクスカリバーでやってやるからな。お前はサインと捺印だけしろ。」
ムウ「紫龍、新たな書類を持ってきましたから、手伝いをよろしくお願いしますね。」
紫龍「あ、ああ。勿論。」
瞬「じゃあ、僕皆さんのお夜食作りますね。」
一輝「頼む。俺は紫龍のサポートするから。」
瞬「はい。」
瞬はニコッと笑った。その傍らでは、どこから持ってきたのかは知らないけれど、星矢がロープで体を椅子に固定されていた。
星矢「あのう、魔鈴さん？」
魔鈴「何だい？」
星矢「これは？」
魔鈴「逃げない様にね。逃げ足ははやいから。」
シャイナ「書類が全部片付くまでここから出さないよ。」
星矢「トイレは？」
シャイナ「膀胱炎起こしてもヒュギがいるから大丈夫。」
星矢「そういう問題かあ!?」
魔鈴「探偵団ならどうすれば良いか推理しな！」
星矢「・・・・・書類を早く片付けること。」
シャイナ「正解！」
それからずーっと、中等部学生会室の電気が消えることはなかった。当日、アテナ誕生祭は無事に決行された事だけは報告しておく。聖闘士学園探偵団が、あれから廃団にになったかどうかは誰も分からない・・・・

あとがき
へたりおん様から6000番のキリリクをいただきました。内容は聖闘士探偵団。探偵団で知ってるのは、この辺なので、私好みにさせていただきました。元ネタを知らない人はごめんなさい。完全なパラレルは初めてでちょっとどきどきして面白かったです。へたりおん様の理想どおりになったか分かりませんが、どうぞお納め下さい。

　　　　　　　　　　　　BY　　　MUTUMI