俺たちゃソーメン食いでぃ！

星矢「あっちぃな〜！！」
瞬「暑いね」
あまりの暑さに星矢は上半身裸である。瞬はアイスノンを頭にのせている。
一輝「ふ、惰弱な」
そう言って、意地で服をびっちり着た男は初日に熱中症にかかっていた。
星矢「なんかこうスカッとしてさわやかな気分になれないかな〜」
沙織「それなら、プールはいかがですか？」
瞬「あ、それいいかも！でも、この時期どこも混んでますよね」
沙織「それなら問題いりません！グラード財団が経営しているプールがありますから、そこを使いなさい。貸切にしますから思う存分泳げますよ」
星矢「やった！沙織さんありがとう！」
沙織「いえいえ、ですがちょっとお手伝いして欲しいことがあるのですが・・・」
星矢「全然構わないぜ！何でも言ってくれよ！」
沙織「そうですか、それは助かります」
大喜びの星矢をみながら、沙織もにやりと微笑むのだった。


星矢「おぉ〜〜！！広いぜ！！」
さすがはグラード財団経営施設。５０メートル×２５メートルのメインプールに、子供用のミニプール、疲れた体を休めるジャグジーにサウナまである。
沙織「どうです？」
星矢「ありがとう沙織さん！最高だぜ！」
瞬「こんなすごいとこを貸切なんてちょっと悪い気がしちゃいますね」
星矢「さあ！さっそく飛び込むぜ〜〜！！」
紫龍「こらっ、準備体操を――――」
マジメな男の忠告をさらりと無視し、勢いよく飛び込む。

ジャッボ―――ン！！

瞬「ど――――う――――？気持ちいい――――？」
返事はない。待ってみたものの浮かんでこない。
一輝「ガキだな。そんなに浮かれなくてもプールは逃げんだろうが」
五分が経ち・・・
紫龍「よっぽど気持ちいいんだろうな」
十分が経ち・・・
氷河「プールに入るのは久しぶりだ。なまってないだろうか」
そんでもって・・・・一時間。
瞬「ちょ、ちょっとさすがにヤバいんじゃないの！？」
やっと事の次第に気づいた。フツウなら五分の段階で気づくものだが、不幸なことにセイント。身体能力が尋常でない為、異常事態に気づくのもルーズだった。
瞬「大丈夫星矢―――！？」
急いでかけよると、おもいきりアホヅラをかかげながら水底に沈んでいる星矢をみつけたのだった。


星矢「いや〜〜！びっくりしたぜ！」
一時間水の底に沈んでいたが、脅威の回復力で復活した。こういうバケモノ染みたところが、一般的な心配をしなくなるのかもしれない。
瞬「びっくりしたのはこっちなんだからね」
紫龍「いきなり飛び込んだら体がびっくりするだろ。もしもプールじゃなくてアスガルドの海だったら確実にショック死してるぞ」
一輝「聖闘士があまりにも馬鹿馬鹿しい死に様さらしてくれるな」
氷河「あの師匠でどうしてこの弟子なのかわけがわからんな」
星矢「あっはっは〜！ごめんごめん心配かけて。んじゃ、気を取り直して泳ぐとしようぜ！」

ちょっと待て！！

瞬「君、人の話ちゃんと聞いてるの！？」
紫龍「今の今まで黄泉平坂を歩いていた癖に何考えてるんだ」
一輝「もともと知恵の足りない奴だと思っていたがここまで知恵足らずとは」
氷河「呆れてものもいえん」
星矢「え、なんで怒られなきゃいけないんだよ」

ブチッ！

星矢「・・・ん？今何か音がしたぞ」

お前（君）は一時間遊泳禁止！！


星矢「お〜い、そろそろ解いてくれよ〜」
瞬「ダメ！！」
ネビュラチェーンに動きを拘束されて、手を伸ばせば届きそうなのに、お預けをくらう可哀相な自業自得の星矢なのだった。


星矢「そろそろ、腹減ったな――――」
やっと遊泳のお許しがでて、監視員の元静かに泳いでいた星矢が言った。
紫龍「もう昼だからな」
氷河「けど、食べる物何も持ってきてないぞ。一輝、何か用意してきてないのか？」
一輝「何も」
氷河「放浪人間は現地調達が主だもんな。聞くだけ無駄だったか」
一輝「現地調達不可能な土地にいたお前に言われたくはない」
氷河「失礼な。アザラシと白熊がいるわ！」
瞬「・・・余計におなかすかない？」
最もである。
星矢「いっぺん出て買ってくるか」
そうあきらめ気味に呟いた時


お昼ごはんはここにあります！！


ウイーンと天井が開いた。どうやらオープンタイプも可能なプールだったらしい。暑い日差しが降り注ぐ。
沙織「おなかすいたでしょう。私が用意しましたよ」
どこからともなくクレーンが登場する。どうやらクレーンの操縦席に沙織はいるようだ。
星矢「本当！？ありがとう沙織さん！！」
沙織「さあ、思う存分食べてください！」
マイクごしの声が聞こえたかと思うと、クレーンが傾いた。

どさささささ！

瞬「な、何これ！」
一面に広がる糸くず。白いのがほとんどだが、中には緑、ピンクのもある。
瞬「・・・・え、これってもしかして」
沙織「ソーメンです！」

なにぃ！！

星矢「どういうことだよ沙織さん！」
沙織「手伝ってほしいと言ったでしょう。それがこれです。グラード財団に一人では食べきれないほどのソーメンが送られてきて、困り果て、どうにか食べてもらおうと思ったのです」
紫龍「暑中見舞いか何かですか？」
沙織「香典返しです！！」
紫龍「はっ！？香典返し！？」
沙織「その方が言うには、お葬式のお返しには、故人の人生の千倍のソーメンを送るのが習わしらしいのです。故人よりもずっと細く長く生きてほしいからだそうですよ。その気持ちは分かりますが、故人が１００歳で、その千倍っていくらなんでもやりすぎでしょう。十万束だなんて食べられません！」
そのお説によると老師は・・・想像するだに恐ろしい。
沙織「なので！皆さん！がんばって食べてください！」
星矢「ちょっと待ってくれよ！つゆもなしに食べさせるつもりか！？」

ツッコミどころはそこか？

沙織「つゆならあります！」
すると、見る見るうちに水面が茶色になった。泥水につかっているようであまり気分のいい問題じゃない。
沙織「これでいいですね？」
星矢「よくない！」
一輝「よく言った星矢」
星矢「メーカーは星の子麺のつゆって決めてるんだ！これは銀河の麺つゆじゃないか！」

文句はそこなのか！？しかも飲んだだけでメーカーがわかるのか。

沙織「まあ！銀河の麺つゆが不満だというのですか！」
星矢「ああ！俺は江戸っ子だからな！ギリシャっ子の沙織さんにはわからないだろうな！」

おいおい、ギリシャっ子って・・・

沙織「生まれはギリシャでも、12年も日本で育ってきたのですから、あなた達よりも日本で過ごした時間は多いはずですよ！あなたは田の香りや、ウシガエルの鳴き声など知らないでしょう！」
星矢「うっ・・・・！」

・ ・・超都会っ子のあなたこそ知ってるんですか？

沙織「メッキがはがれましたね星矢！あなたが江戸っ子とは片腹痛い！」
星矢「くそっ！」
沙織「ふふふ、もしこれをあなたが一人で食べたら江戸っ子と認めてあげてもよいですよ」
星矢「本当か！よし、その話乗ったぜ！その約束忘れないでくれよ！」
沙織「午後6時に来ます。それまでに食べきっていれば称号をさしあげましょう」
クレーン沙織はどこへともなく去っていった。
星矢「さあ！食うぞ！」
瞬「ちょっと待って！」
星矢「瞬」
瞬「本当に食べる気？」
星矢「沙織さんと約束したんだ。これを食べきったら江戸っ子の称号をやると」
瞬「その話は目の前で見てたから知ってるけど、あまりに無謀すぎるよ！」
星矢「止めてくれる瞬の気持ちはうれしい。けど、男には戦わなければならない時があるんだ」
瞬「あからさまに使い方間違ってるよ！腹がはちきれて手に入るものが江戸っ子の称号なんて、馬鹿馬鹿しくてお医者様にも説明できないよ！」
星矢「それでも称号が欲しいんだ」
瞬「称号が欲しいなら、無謀とか単純とか軽挙妄動とかいろんなのをあげる。だから、あまりに馬鹿馬鹿しい真似はしないで」
星矢「いや、俺は江戸っ子の称号が欲しい」
瞬「江戸っ子の称号が君の何に役に立つというんだ。江戸弁が使用可能になるくらいのオプションがつくくらいじゃないか。自らの体調と評価を暴落させてでも手に入れたいものなの？」
星矢「ああ・・・すまない、瞬」
瞬「それなら、もう僕には止められないね。思う存分食べて」
ぽろりと涙が浮かぶ。時が時なら、演じどころを間違えなければ、大メロドラマのシーンであった。

星矢「よっし、いっただっきまーす！」
プールで使用するにはふさわしくない言葉を言い放ち、星矢はソーメンを食って食って食いまくった。他の四人はプールサイドにあがり、星矢の行動を見守る・・・というか、呆れて放置している。
星矢「ペガサス流星拳―――――！！」
ドゴゥと天井に向けて拳を突き上げ、舞い上げられたソーメンを片っ端から食べていく。普通に食べた方が明らかに早いはずなのに、何故そのようなことをするのかさっぱりわからない。ライトに照らされてソーメンがきらきらと輝き、見ている分には一種のショーのごとく綺麗なのだが。
瞬「星矢食べきるかなあ」
紫龍「どうだろうな。このペースならいけるかもしれないが」

果たして、希望の子、星矢はソーメンを全て食べ、江戸っ子の称号を手に入れることができるのか！！

星矢「・・・・く、苦しい」

当然食べられている筈がなかった。腹をトドのように膨れさせながら、六万三千本目のソーメンに手をつけようとしていた。あーんと口を開けるが、体が拒否するのか、一向に口の中にいれられない。
星矢「く・・・体中でソーメンを食うのを拒否している。ここまでなのか。食いきることはできないのか。ごめん、俺、沙織さんとの約束守れそうにないよ・・・・」
パタリと腕の力が抜け、水中にダイブしそうになったとき、誰かがしっかと肩をつかんだ。
紫龍「志半ばであきらめるなど、いつものお前らしくないぞ」
意識の飛びかけていた星矢を現実に引き戻したのは、兄弟であり友人の紫龍であった。
紫龍「俺も手伝おう」
星矢「ダメだ。これは俺と沙織さんの・・・」
瞬「一人でやるのなんか無理じゃない」
気が付けば瞬や氷河、一輝もプールの中にいた。
瞬「江戸っ子の称号が欲しいなら、僕達が手伝ったの黙ってればいいことだし」
氷河「それに、腹減ったし」
一輝「そうそう。元はお嬢のお茶目な横暴だったのに、勝手にお前とお嬢との大バトルにすりかえただけだろう。馬鹿馬鹿しくてみちゃいられん」
星矢「瞬、氷河、一輝・・・・ありがとう！俺も元気がでてきた！がんばって食おうぜ！」
それからというもの、５人は力を合わせてソーメンを食べることに尽力した。腹がはちきれそうになり、あきらめかけると、誰かが励まし、また食べ始めることができた。ああ、なんて美しい友情なんだろうか。さわやかな笑顔と、キラキラと輝くライトの煌きに、思わず涙が誘われる。



だが、常識のある人間から見れば、異色極まりない光景に違いない。



沙織「まあ！すごい！」
午後六時ぴったり。プールサイドにやってきた沙織が驚嘆の声をあげる。五人は見事ソーメンを食いきったのだった。
星矢「どうだ！沙織さん！」
沙織「すばらしいです！さすが私の聖闘士ですね！あら、紫龍、瞬、氷河、一輝、おなかにベルトなんかまいてどうしたんですか？」
瞬「ファッションですよファッション」
沙織「素肌にまいて、何かいいことがあるんですか・・・？でも、瞬は裸サスペンダーセンスの持ち主だし、紫龍はしょっちゅう半裸になるし、二人は・・・やりかねない空気を持ってますから、納得といえば納得ですね」

・・・・その評価自体に納得がいかないんだけど。

ベルトはぽっこりお腹を隠すために使用しているのだ・・・と言えないのが口惜しい。
星矢「じゃあ、沙織さん！俺に・・・・」
沙織「ええ、江戸っ子の称号をさしあげましょう！」
星矢「よっしゃ！！」

ピロリロリーン！星矢は江戸っ子の称号を手に入れた！

沙織「片付けてもらって本当に助かりました。おいしかったですか？」
星矢「最初はおいしかったけど、最後はもうまずくてまずくてしかたなかった。やっぱりほどほどが一番だよな。今まで戦った中で一番手ごわい相手だった」
沙織「今後こういう敵が現れるとも限りません。筋肉だけでなく、これからは消化器も強化しなければ」
星矢「そうだな沙織さん」


瞬「兄さん、いいの？なんか真剣に考え始めちゃってるよ」
一輝「別にいいんじゃないか？俺、今日から家でていくから」
氷河「あのお嬢とあんなに息が合うなんてさすがは星矢だ。俺には真似できん」
紫龍「もし、そんな敵がでてきたらバトルコミックから、グルメコミックになるんだろうな」

もうすぐ夏も終わる。秋といえば、どんな食べ物があっただろうかと今から起こる出来事をシュミレートし始める、おにーちゃん達なのだった。



あとがき
105000キリリクは実様が踏んでくださいました！テーマは友情！書くのが遅くなってしまって本当にすみません！！伏して謝ります！友情とは結構むずかしいテーマです。テーマを頂いてわかりましたが、うちでは家族的な会話を日々繰り広げてますので、家族と友情を切り離して考えるのが大変でした。それでもちょっと家族っぽいところがありますが・・・・。青銅ギャグは久しぶりでした。気に入っていただけるとうれしいです。

BY　MUTUMI