ナッツナツのアツ
星矢「なぁなぁ、これ、行ってみたいんだけど！！」
夏の熱気にも負けない城戸邸一の元気ッ子が、チラシを見せる。
瞬「・・・お祭り？」
星矢「そ！！今日、星海神社でやるんだって！！屋台いっぱいでるってさ！！」
紫龍「そこか。お前、屋台が目的だろ」
星矢「お祭りって、それ以外の目的ってあるのか・・・？」
キョトンとした顔を浮かべる星矢。祭りの感覚など、お子様にはその程度の認識だろう。
紫龍「行ってみるか、せっかくだし」
氷河「俺は暑いからパス」
瞬「ダメだよ。暑いからって、冷房いれっぱなしで外にも出ようとしないじゃない。夜になれば、少しは暑さも和らぐし、でかけようよ」
氷河「・・・特製ウォータースーツ着てってもいいか？」
瞬「・・・・・初耳だけど、いいよ」
星矢「こういうのって、大勢の方が楽しいだろ！沙織さん達も誘おうぜ！！よっし、燃えてきた〜〜！！」
紫龍「これ以上、室温はあげないでもらえるか・・・？」
つぅっと、こめかみから汗が伝う紫龍。
今日の気温は３５度。向日葵もヘタる気候なのであった。
日も沈み、ホッと息のつける時間の頃。
星海神社のお祭りには、大勢の人が訪れていた。家族連れやカップルと、その層も様々だ。夏の風物詩である浴衣が、いたるところで華を咲かせている。
星矢「おお、沙織さん、すごいキレイ！」
沙織「そう？ありがとう」
沙織は朝顔の柄の浴衣を着ていた。藤色の髪に、薄紅と薄紫の朝顔が良く映える。
市「アタシはどうざんすか！！誰もが振り返るように特注したざんすよ！！」
意気揚揚と歩く市。誰もが振り返るというか・・・誰もが目をそらしている。
檄「・・・・・すまん、一緒に歩きたくない・・・」
市「どうしてざんすか！？」
檄「ド派手のフリフリに電飾までつけた浴衣なんて・・・どこの紅白歌合戦だ」
市「アタシくらいの美貌になると、普通の浴衣じゃ役立たずざんすからね！」
檄「蛮！！頼む！！こいつの隣代わってくれ！！」
蛮「こんな時だけ頼るな！！」
檄「いいだろ！！Ωで聖衣もない、出番もない、人気もない、ライオネットボンバーも取られたお前が目立つチャンスだ！」
蛮「Ωで人気が出たと思って調子に乗りやがって・・・」
市「オホホホ、蛮、あなたが私の引き立て役ざんすか。結構ざんす」
蛮「・・・・・・・・まぁな」
市「暑いざんすねえ。団扇でも出すざんす」
そういって、取り出したのは、薔薇柄の団扇。
蛮「・・・似合うと思ってるのか？」
市「私の美しさにつりあう花は薔薇くらいざんすよ」
蛮「お前、実は別の惑星から来ただろ・・・？」
半分でも同じ血が繋がっているとは思いたくない蛮なのであった。
瞬「ひょ、氷河・・・君、それは・・・！？」
氷河「特製のウォータースーツだ」
瞬「ウォータースーツっていうか、身体を氷漬けにしたっていう方が近いんじゃないの！？」
氷河「まぁ、そうとも言うな。涼しくて気持ちいいぞ」
自信満々に言う氷河。お前、どこのマジンガーだ。
というか、客が微妙に避けている。
紫龍「やりすぎだろ。凍傷になるぞ」
氷河「これくらいではならない。お前、シベリア舐めるな」
紫龍「お前、カミュにカチンコチンに凍らされてただろ。危うく瞬が死にかけたんだぞ・・・」
瞬「僕、さすがにこの大勢の人の前で君を温めることはできないなぁ」
邪武「お嬢様！！人ごみで歩くのが大変です！どうぞ、この邪武の手をおとりください」
沙織「大丈夫ですよ、子供ではないんですから」
邪武「じゃあ、歩くのは大変かと思いますので、どうぞ、俺を馬にしてください！！」
沙織「あら、まだそんなことを覚えているのですか。あの時は酷いことをしましたね。ごめんなさい、もうそんなことをしなくていいのですよ」
申し訳無さそうな顔をして、沙織が手前のリンゴ飴屋を覗きに行く。
邪武「くそ・・・！！」
星矢「お前さあ！常識で考えて、こんな人ごみで人馬ってありえねえだろ。もし、サガだったら、
『アテナ、こんな人ごみではおみ足を傷めてしまいます。
失礼して、このサガ、抱き上げさせて頂きます』
とか言うぜ！」
邪武「うっ・・・・・・」
星矢「はっきり言って、この世の９９％の人間は落ちるぞ。魔鈴さんくらいだよ、袖にできるのは。そんな奴がいる中『俺を踏んでください、お嬢様！』って、ＳＭか！もうそろそろ現実見つめろよ！」
邪武「俺の中のおてんばなお嬢様は、もう記憶の人なのか・・・」
星矢「なんだ、その残念みたいなオーラ」
邪武「うん、でも、お嬢様はお嬢様だ。今後、どうなっても、俺の心には永遠に輝き続けるさ」
星矢「お前が言うと、本気で永遠に輝き続けそうだよな。この世に女は沙織さんだけじゃないんだぞ？」
邪武「女は沙織お嬢様だけじゃないが、沙織お嬢様はこの世でただ１人だ」
星矢「・・・・・はは、そっか・・・」
邪武「俺、大人になったらアメリカに行こうかな」
星矢「うんうん、世界にはばたいてこいよ。そんで、男を磨いて来るんだ」
邪武「よし、今度、マントとテンガロンハット買ってこよう」
星矢「・・・変な方向にキャラ変するなよ？」
沙織「リンゴ飴美味しい〜〜！！」
瞬「じゃんけんに勝てたから、２個ももらえて良かったですね」
紫龍「こういうのは屋台じゃないと食べられないからな」
星矢と邪武がそんな会話をしてるとは露知らず、ペロペロとリンゴ飴を舐める沙織。楽しそうな姿は、年頃の１３歳そのままである。
沙織「リンゴ飴と言えば、修学旅行を思い出します」
瞬「沙織さんって、学校に行ったことありましたっけ？」
沙織「友人から聞いた話なんですけどね。友人の小学校は修学旅行に榛名に行くそうなんです。で、修学旅行といえば、やっぱりお土産です」
紫龍「楽しみの１つですよね。その土地にしかないお土産がたくさんありますから」
沙織「生徒は９０人くらい。榛名の名物は『リンゴ飴』。お土産もの屋は学校指定。生徒はリンゴ飴に殺到し、その結果・・・」
瞬「その結果・・・？」
沙織「その店のリンゴ飴を全部買い占めたらしいです」
紫龍「それはすごい・・・。後の客のことを誰も考えなかったんですね」
沙織「値段もリーズナブルで何個も買い易かったらしいです。忘れられない武勇伝だそうですよ」
瞬「お店の人もさぞパニックだったでしょうね・・・」
沙織「パニックといえば、日光です！」
紫龍「また随分違う場所ですね。それも修学旅行ですか？」
沙織「ええ、そうです。これも伝え聞いた話ですが、友人の修学旅行は日光だったそうです。日光といえば、いろは坂。いろは坂といえば、首ナシライダーです」
瞬「・・・新しい仮面ライダーですか？」
沙織「それは、ウィザードです。そうじゃなくて、いろは坂では、ある何番目かの曲がり角で首ナシライダーがでるというのです。修学旅行前、とても盛り上がっていたそうですよ」
紫龍「へぇ・・・それで出たんですか」
沙織「何番目かの坂を曲がった時、でたそうですよ。何人もの目撃者がいました」
瞬「そ、それは怖い・・・！」
沙織「けど、私から言わせればただのライダーの間違いではないかと。そう上手い具合にホイホイでてくるとは思えませんし、ほぼ全員が見るって変でしょう。真昼でしたし」
紫龍「真昼のオバケって間抜けですよね・・・」
沙織「間抜けといえば・・・」
瞬「ま、まだあるんですか？」
沙織「学生の有終の美といえば、卒業遠足です。中学の卒業遠足は生徒全員で行くものです。遊園地の定番と言えば、何だと思いますか？」
瞬「やっぱり、ディズニーランドですか？」
沙織「そうです！！あの夢の国です！！」
紫龍「夢なのはイメージだけで、お金的にはリアルそのものですよね、あそこ」
沙織「塾の仲間達はディズニーランドだ〜って浮かれていたのに！その友人の卒業遠足の行き先は！！」
瞬「としまえん？後楽園？」
沙織「相模湖ピクニックランドだったそうです」
紫龍「・・・・・どこですか、それ」
沙織「神奈川県にあるレジャー施設です。ちなみに知らない間に名称変更してました。相模湖ピクニックランドから、さがみ湖リゾート プレジャーフォレストに変わってました」
瞬「あ、随分、ゴージャズな感じになりましたね」
沙織「当時は全然、ゴージャスでもなんでもなかったですけどね。なんせ、自分達以外にお客さんがいなかったそうですから」
紫龍「貸切じゃなくて？」
沙織「たかが一中学校に貸切にするほどの財力はありませんよ。トランポリンなど３つの屋外施設があったんですが、職員が誰もいなかったそうですしね」
瞬「誰もいないって大丈夫なの！？」
沙織「しばらくして、１人きたそうです。２〜３つの施設を掛け持ちしてたそうですよ。トランポリンは１回１０分ぐらいだったのに、誰一人他の客がいないからと２０分以上やらせてもらい、自分達の独占状態だったと・・・」
紫龍「それは贅沢ですね・・・」
沙織「施設のすぐ近くの休憩用のテーブルには、雨が降ったらずぶぬれなのに、内線用の電話がドンと無防備に置いてあったそうですよ」
瞬「よっぽど人手不足なんでしょうかね・・・」
沙織「観覧車も、乗ってるのは自分達ぐらいで、上から見下ろすと、どこもかしこも自分達のジャージばかり。一般客なんて、チラホラだったそうです」
紫龍「・・・だから、その中学も卒業遠足にそこを選べたんじゃないでしょうか？」
沙織「焼肉食べ放題は、皿いっぱいにお肉を持ってきて、かなり食べ尽くしたみたいですよ」
瞬「さすが、育ち盛り・・・」
沙織「最初はお野菜も持ってきてたのに、回を追うごとにお肉の量が増していき、最後には肉のみになったと・・・」
紫龍「ワイルドだ・・・。俺、そんなに食べられないですよ」
沙織「今度、行ってみますか？もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、カッコ良く都会的になってるかもしれません」
瞬「そんな、『あいたかった』みたいに連呼しなくても・・・。でも、面白いかもしれませんね」
那智「お、おい、大変だ！！」
沙織「あら、那智。いたんですか」
那智「いたんですかって・・・」
沙織「ほほ、冗談ですよ（本当はマジだけど；；）。どうしたんですか？」
那智「氷河が！！」
沙織「え、氷河がどうしたんですか？」
瞬「熱中症で倒れたかな？」
紫龍「あの氷ロボットで倒れるなんて、よっぽどだぞ」
瞬「え〜、僕、暖めるのは嫌だよ？」
那智「氷河が、クジビキに夢中になって止めそうにない！！」
瞬「ええ、なんで！？」
那智「それは・・・見ればわかる・・・」
沙織「とりあえず、氷河のとこに行きましょう」
紫龍「他人の振りして、離れたのが仇になったか・・・！くそ、急ぐぞ！」
カタカタとゲタを鳴らして、そのクジビキ屋に向かう。
氷河「・・・・・く・・・また、はずれか」
クジビキ屋「残念だったね、はい、オモチャのピストル」
クジビキ屋についた途端、理由がわかった。
特賞のアイドルブロマイドが、マーマそっくりだ。
瞬「ちょ、しっかりしてよ！！そんな、当たりがあるかわからないクジビキ屋に貢がないでよ！！」
紫龍「そうだ。しかも、あれは、マーマじゃない。マーマにそっくりなアイドルブロマイドだ！！マーマじゃないぞ！！」
氷河「しかし・・・あのブロマイドは俺を見つめている・・・」
沙織「写真があなたを見つめてるんじゃなくて、あなたが写真を見つめてるんです！写真が人をみつめたら、バケモノですよ！」
氷河「名前も、ナタ・シヤ子というのだ。とても他人とは思えん」
瞬「他人でしょ。完璧他人でしょう。僕はあんな姉さん持った覚えはないよ」
沙織「氷河、私の力があれば、そのアイドルに直接会わせることができますから。それで、いいでしょう？」
氷河「それは俺のポリシーに反する」
瞬「何の！？」
氷河「マーマとは心と心で会話するのだ。現実などいらん」
真性だ〜〜〜〜！！
瞬「氷河、帰るよ！」
氷河「嫌だ！！」
だだをこねてる氷河からちょっと離れた沙織が、どこへともなく語りかける。
沙織「一輝、いるんでしょう？鳳凰幻魔拳をかけて、氷河をおとなしくさせてください」
那智「一輝、来てるんですか？」
沙織「来てないわけないでしょう！何もしてなくてもトランクに閉じ込められる昨今、心配性の一輝がいないわけがない！！」
那智「あれ、でも、氷河って一輝の鳳凰幻魔拳食らってませんでした？聖闘士に同じ技は通じないはずじゃ・・・」
沙織「そんなの気合でどうにかしなさい！一輝、頼みますよ！！」
「・・・・・・見返りは？」
げええ！！マジでいた！！
沙織「あなたが欲しがっていた、１００万円の皮ジャンを買ってあげます」
「・・・取引成立だな」
沙織「さ、これで万事解決！！さあ、行きますよ皆さん！！」
『万事』か・・・？と喉からでかかった青銅だったが、何も言えないのであった。
星矢「あ〜、楽しかった！！」
帰宅後、ヨーヨーに金魚、お面とおもいっきり夏祭りを楽しんだであろう星矢が、どさっとソファに座る。
星矢「あれ、なんかやつれてない？お前ら」
瞬「・・・うん、まぁ・・・」
紫龍「いろいろあってな」
星矢「邪武って射的上手いんだぜ？知らなかった。ほら、お前らにやるよ」
瞬「あ、ありがと・・・ってええええ！！」
星矢「俺、良く知らないからさ。なんか、最近人気のアイドルらしいぜ」
紫龍「隠せ！今すぐ隠せ！！ていうか燃やせ〜〜！！」
星矢から渡されたのは、ナタ・シヤ子のブロマイドだったと言う。
慌しくも、暑い夏はまだしばらく日本に留まりそうである。
あとがき
181818番はレインディ様でした！！ありがとうございます！！
御題は『青銅1軍＆2軍＋沙織さんで夏祭り』でした。
こ、こんな感じで大丈夫でしょうか・・・？なんか、暑さでみんなぶっ飛んじゃってるよ。
沙織さんの友人の語りは、自分の経験談です（笑）リンゴ飴は、私は買えなかった。あまり好きじゃないし、いっか〜って思ってたら、なんか売り切れてた。みんな集中しすぎだよ；；確かに、旅行前からリンゴ飴に注目してたけどね、みんなさ。首ナシライダーは私も見た。すごい盛り上がってたけど、あれ、多分、普通のライダーだと思うんだよね・・・。相模湖ピクニックランドは・・・本当、どうして？ってくらい他の客がいなくて、ほぼ独占状態だった。観覧車だって、乗ってるの私の学校くらいだったし。これらのネタは私のネタランキングの上位なので、いつかまた出てくると思います（笑）
ちなみに、冒頭の星海神社は、一輝瞬ゲーム『日常の微熱』に出てくる神社の名前です（笑）
Ωの影響を結構受けてるこの作品、楽しんで頂けるかな？ドキドキ。
リクエスト、ありがとうございましたｖｖ
BY MUTUMI