五匹のワンちゃん

星矢「沙織さん！その犬どうしたんだ？」
沙織と共に連れてこられた五匹の犬。いずれもラブラドールレトリーバーだ。
瞬「可愛い♪」
一匹の犬を抱き寄せて頬擦りをする。
沙織「この犬、どうやら捨てられたようなのです。」
紫龍「捨てられた？」
沙織「今朝、家の前にダンボール箱が置かれていて、中にはこの五匹の犬が入っていました。」
氷河「子供産んだけど、育てられないから、金持ちの家に捨てたってトコか。」
沙織「飼い主を探そうと思うのですが、その間だけあなた達に飼ってもらいたいのです。」
一輝「俺もか？」
沙織「ええ。丁度五匹ですし。一ヶ月以内には引き取り手もつくと思います。それまで我慢してください。」
一輝「分かった。」
沙織「犬の遊び道具などは後で届けます。欲しい物があったら私に言ってください。すぐ用意しますから。」
星矢「名前は？」
沙織「ついていませんでしたから、あなた達のセンスに任せます。それじゃあ宜しく頼みますね。」
犬を一なでしていくと、沙織はでていった。
瞬「こんなに可愛いのに捨てられるなんて可哀相だよね。」
紫龍「養うのが大変なんだろう。」
氷河「そっくりだな、五匹とも。」
一輝「五つ子だからな。」
星矢「な、どれ飼う？」
瞬「僕これ。」
先程から抱いていた犬を示した。
紫龍「この中では一番の器量良しだな。」
星矢「じゃあ、俺こいつ！」
元気に尻尾をふっている犬を抱き上げた。
紫龍「じゃあ、これ。」
静かに座っている犬を抱いた。
氷河「ん〜、じゃこれにする。」
眠っている犬を起こさない様に抱き上げた。
一輝「俺はこれか。」
一匹雰囲気の違う犬。それを選んだ。
瞬「じゃあ、御飯も用意しなきゃね。小さいからまだミルクでいいかな。」
紫龍「ペット用のミルクの方がいいだろう。抵抗力をつけなくちゃいけないから。」
瞬「沙織さんに頼んでこよう。」
こうして、子犬を育てることになったのだった。

一週間ほどたったある日。
瞬「どうしたの？ミルク。」
瞬は犬を抱き上げた。色が白いからミルクと名づけられた犬は五匹の犬で一番小柄だった。
紫龍「どうかしたのか？」
紫龍はパタンと本を閉じた。犬がつまらなそうに紫龍を見た。
瞬「ミルクがね、元気ないの。」
紫龍「ミルクが？」
立ちあがって瞬の側まで行く。犬もトコトコとついていく。
瞬「先刻から小さくうずくまっちゃって。」
紫龍「熱は？」
瞬「無いと思う。このコ、一番小さいから少し心配なんだ。」
紫龍「確かに星矢のペガサスや俺のフセとは一回りちかく違うもんな。一輝のじゃ二回りだ。」
瞬「紫龍のフセも女のコなのにね。」
喉を撫でてあげる。クーンと気持ち良さそうに鳴いた。ペガサスは由来が簡単にさっせそうだが、紫龍のは難しいかもしれない。フセとは南総里見八犬伝の伏姫から取った。
瞬「お腹空いてるのかな？」
紫龍「そろそろ昼時だし。」
瞬「そうだよね、きっと。」
星矢「ただいま!!」
元気良く今にやって来た星矢とペガサス。
星矢「こいつ元気だな〜何回フリスビーやっても疲れないんだ。」
紫龍「それは良かったな。」
瞬「少し、ペガサス濡れてない？」
星矢「ああ。露天風呂で汗流してきた。」
瞬「ちゃんと拭いた？」
星矢「大丈夫。その辺は心配要らない。瞬、少しはミルクと遊んでやったらどうだ？いつも抱いてばっかりじゃないか。」
瞬「あまり元気ないんだもの。」
星矢「食わねえからだろ。」
瞬「皿はいつも空っぽなんだけど。ねえ、ミルク。」
ミルクをそっと撫でてやった。
星矢「飯は？」
紫龍「もうできてる。」
星矢「食おうぜ。」
瞬「もうすぐ兄さんと氷河も来るはずだよ。」
瞬の言葉通り五分もすれば、氷河と一輝がやってきた。犬も一緒である。
紫龍「今日の昼飯は炒飯にしてみた。カツオの塩からで日本風味にしてみた。食ってみてくれ。」
全員「いただきまーす。」
犬達も器にミルクを注がれて飲み始める。
瞬「うん、美味しいね。日本の味っぽい。」
星矢「美味い美味い。」
顔が綻ぶ。意識が炒飯に向いていた時、キャンキャンと犬の鳴く声がした。
紫龍「フセの鳴き声だ。」
紫龍がレンゲを置いて、フセの側まで行った。
紫龍「星矢、ペガサスの躾ちゃんとしろよ！」
星矢「ふぇ？」
紫龍「ペガサス、ミルクの分のミルクも飲んでるぞ。」
瞬「ミルクの!?」
カタンとレンゲを置いて半ば駆け足でミルクのところに行った。
瞬「ミルク。」
ミルクはペガサスにミルクを取られていた。自分はおすわりをしている。
瞬「お前、だから元気なくて小さかったの。」
ミルクを抱き上げて抱きしめる。
瞬「星矢！躾ちゃんとして！ミルク飢え死にしちゃうよ！」
星矢もペガサスのところにやってくる。
星矢「お前、ミルクの飲んじゃ駄目だろ！」
コツンと頭を叩く。
星矢「多分、ミルクが分けてくれたんだろうとは思うが、それに甘えるといかん。ミルクは一番ひ弱だからな。取り返しがつかなくなるぞ。分かったか？」
もう一度コツンと叩く。反省するように寂しくクーンと鳴いた。
瞬「ミルクあげるね。どのくらい食べてないのかな。」
氷河「どうやら飯抜きだったことは無さそうだが。」
氷河もやってきて皿を指した。
氷河「俺のオーロラの皿、ミルクが残ってる。」
紫龍「食べさせたか？何か。」
氷河「いいや。」
一輝「ミルクにわけてたんだろう。」
氷河「恐らくそうだろうな。チビの皿にもミルクが残ってる。」
瞬「良かったね、ミルク。ミルク皆から分けてもらってたんだ。」
星矢「すまん。俺のペガサスがとんだことを。今躾したから多分もうしないだろう。」
瞬「大丈夫。ミルク、もう皆から分けてもらわなくて良いからね。大きくなろうね。」
頬擦りをした。冷蔵庫からミルクを持ってきて皿に足すと、ペロペロと舐め始めた。オーロラもチビもそれを見て舐め始めた。その光景を見てから五人も食べに戻ったのだった。

紫龍「今日は日が暖かいから外で食べようか。」
瞬「うん。サンドイッチ作って芝生で皆で食べよう。」
嬉しそうにキャンとミルクとフセが鳴いた。ミルクもフセと変わらないくらいに大きくなった。トントントンと包丁で材料を刻んで食パンに挟む。
瞬「マヨネーズ・・・・・」
マヨネーズを取ろうと冷蔵庫に踵を返すと口にマヨネーズをくわえたミルクがいた。
瞬「僕の欲しいのが分かるの？」
ミルク「キャン！」
瞬「ありがとう。」
ミルクからマヨネーズを受け取った。ニョロッとパンに塗りつける。
紫龍「頭良いんだな、ミルク。もしくは気がきくとも言うか。」
瞬「紫龍のフセは何かする？」
紫龍「俺のところか？フセは毎朝新聞とってくるぞ。」
瞬「新聞？」
紫龍「ああ。俺が起きたらサイドテーブルに新聞が置いてあるんだ。」
瞬「だからこのところ紫龍が毎日新聞もって居間に来るんだね。」
紫龍「俺が本読んでると必ず寄って来て膝の上に乗るしな。本が好きなのかな、こいつは。」
瞬「ペガサスはきっと元気一杯だろうね。」
紫龍「飼い主が星矢だからな。よし、できた。」
瞬「僕も。じゃあ、バスケットにいれて皆で外で食べよ。えっと、バスケットは・・・」
ミルク「キャンキャン」
カシカシと棚と叩きながらミルクが示した。カタッと開けるとちゃんとバスケットがあった。
瞬「ありがとう、ミルク。」
頭を優しく撫でる。バスケットにサンドイッチと紅茶の瓶を入れて、手に持つ。
瞬「じゃあ、いこうか。」
紫龍「そうだな。」
フセ「キャウキャウ」
フセが棚を開けてビニールシートをひっぱりだした。
紫龍「そうだな。ビニールシートがあったほうが良いな。ありがとう、フセ。」
ビニールシートを受け取り、バスケットの中に入れた。部屋でくつろいでいる氷河と一輝を誘って家をでた。

星矢「どうした〜お前ら。」
星矢はペガサスとボールで遊んでいた。汗はダクダクで長い事やっていた事が分かる。
瞬「今日のお昼、ここで食べようと思って。」
星矢「それはいいな！俺、腹減った。」
瞬「沢山作ったから食べようよ。」
紫龍がバサッとビニールシートを広げる。
瞬「これがお前達の御飯だよ。」
ミルクを人数分注ぐ。
氷河「何サンドイッチだ？」
瞬「僕はハムチーズサンドと卵サンド。」
紫龍「俺はジャムのサンドイッチ。」
星矢「美味そうだな。」
瞬「沢山作ったから遠慮しなくて良いよ。」
星矢「大丈夫だよ。そんなに食べないから。」
一輝「お前の分身は遠慮が見えないがな。」
一輝の指した先には餓鬼のようにミルクにがっついているペガサスだった。
星矢「いや、ははは。一杯運動したら腹減るものだよ。」
サンドイッチをパクッと食べた。
星矢「美味い！」
氷河「外で食べるといつもより美味く感じるな。」
瞬「あたたかいね〜今日。」
紅茶を飲んで、景色を愛でながら食事を摂る。サンドイッチも空になり、腹が膨れる頃犬たちは元気に遊び始めた。チビだけは仲間に入らず、少し離れて四匹をみていた。
星矢「チビの奴、遊ばないのな。」
氷河「飼い主に似たんじゃないか？」
一輝「悪かったな。どうせ群れるのが嫌いだ。」
紫龍「氷河のオーロラってフセ達よりも毛の伸びが早くないか？」
瞬「そうだね。何かラブラドールっていうよりゴールデンって感じだよね。」
氷河「それは多分、部屋が寒いからだと思う。」
星矢「まさか、冷房入れてるのか？」
氷河「ちょっとな。」
紫龍「つまり冬毛なんだな、オーロラは。」
氷河「世間ではそういうかもしれん。」
一体どのくらい冷やしているのだろう。不思議だ。日も暖かいと眠くなる。ちょっと横になった瞬はいつのまにか転寝を始めてしまった。
星矢「瞬の奴寝ちまったぞ。」
紫龍「あたたかいからな。」
一輝「風邪はひかんだろう。」
星矢「可愛いな、瞬。」
一輝「お前・・・」
星矢「だって本当だぜ。こんな可愛い寝顔で可愛くないとい言えるか？」
一輝「まあ、大切な弟には変わりないから可愛い事は可愛いが・・・・」
紫龍「本人聞いたら怒るからその辺で止めとけよ。」
何も知らずに瞬は寝息を立てている。スースーと寝息が聞こえたと思ったら音がハモった。聞こえた方向に顔を動かすと、遊びつかれて眠っているミルクとペガサスがいた。
紫龍「こいつらもおねむか。」
一輝「随分遊んでたからな。」
星矢「ペガサスはその前にも二時間遊んでるしな。」
氷河「俺も横になろうかな。」
星矢「俺も疲れた。」
一輝「じゃあ、俺も。」
氷河と星矢と一輝はゴロンと横になった。一人起きている紫龍はバスケットから小さな文庫本をだした。
フセ「キャン」
紫龍「おいで。」
紫龍はフセを呼んだ。フセは胡座を掻いた紫龍の上にちょこんと乗った。
紫龍「変わった奴だな、お前は。」
日が沈み、肌寒くなるまで瞬達は昼寝。紫龍はフセと読書をしていたのだった。

沙織「皆さん、本当にご苦労様でした。」
三週間経った日曜日、沙織が飼い主がみつかったと報告してきた。
沙織「大きくなりましたね。」
瞬「そうですね。三回りくらいは大きくなったと思います。」
沙織「飼い主の人もはやく飼いたいと言ってくれています。見つかって良かったです。」
瞬「お別れなんだ・・・・」
星矢「ちょっと残念だよな。」
一輝「最初から預かるだけだっただろう。」
瞬「そうでしたね、兄さん。」
うっすらと涙が浮かんでいる瞬。
氷河「三週間でも情は移るものだな。」
冬毛でモコモコになっているオーロラを撫でながら氷河は言った。
沙織「三週間の間に随分性格が変わったようですね。」
紫龍「多分飼い主の影響でしょう。」
沙織「それはそうでしょうね。」
一目瞭然である。瞬のミルクはおっとりとして瞬に抱かれているし、紫龍のフセはきりっとして紫龍の側にいるし、星矢のペガサスは快活で一秒と同じ所にいないし、氷河のオーロラに至っては冬毛である。一輝のチビは離れて静かにしている。
沙織「楽しかったですか？」
星矢「ああ！コイツ元気一杯で一日中遊びまわったぜ。」
紫龍「家事の手伝いもしてくれましたし、悪くは無かったですね。」
沙織「迷惑にならなかったのならこちらも嬉しいですね。そろそろ連れてっても良いですか？」
氷河「そうだな。離れないと忘れないもんな、こいつら。」
沙織「では、籠にいれますね。」
一匹ずつ、籠に入れていく。愛用した物も一緒だ。
氷河「星矢、随分ボールとフリスビーボロボロになったもんだなぁ。」
星矢「毎日遊んでたからな。氷河のオーロラは何して遊んでたんだ？」
氷河「俺か？面倒だったから部屋に大型のビニールプール置いて・・・・」
星矢「泳がせたのか？」
氷河「そんな事はできん。ビニールプールの中に雪を降らせて遊ばせた。」
紫龍「氷河だけにできる遊びだな。冬毛になるわけだ。」
瞬「兄さんは・・・・チビに何してあげたの？」
一輝「何も。」
星矢「一輝らしい。紫龍は本読んでたよな、フセと。」
紫龍「読ませる気は無かったんだがな。」
氷河「ずっと一緒だったら漢字が読める犬になってたな、きっと。瞬は？」
瞬「僕は・・・・皆のおやつ作って・・・味見をしてもらったりとか・・・・夜一緒に寝たりとか・・・したよ。」
瞬の瞳は涙で一杯である。
沙織「皆さん本当にご苦労様でした。この犬達は私が責任もって新しい飼い主に届けますね。それでは。」
沙織が籠を持って家をでた。これから新しい飼い主に犬を届けるのだろう。
瞬「ウ・・・・」
声にならない声で瞬が泣いた。涙が零れる。
星矢「瞬、泣くなよ。」
瞬「星矢だって・・・・・」
星矢にも涙が溢れていた。
一輝「何で泣く？」
瞬「いなくなったから・・・・目に見えないところに行っちゃったから・・・」
一輝「本当にいなくなったわけではないだろう。」
瞬「一杯の思い出があるから・・・・・側にいないのが哀しくて・・・・」
瞬の涙が頬を伝う。星矢もつられて涙が零れた。
星矢「一輝はこういう時良いよな。」
一輝「何がだ？」
星矢「別れても哀しくないだろ。」
一輝「哀しいのか？お前は。」
星矢「だってさ、いなくなっちゃうんだぜ。もう会えないかもしれないじゃないか。お前は大事に思ってなかったのか？」
一輝「会えないわけはない。生きてりゃどこかで会える。だから哀しくは無い。」
星矢「そうか？」
氷河「一輝だってチビの事大事に思ってたはずだ。チビ、一輝の側にいたからな。大事に思ってなかったら側になんていないだろう。」
星矢「・・・・・そうか。御免一輝。」
紫龍「沙織さん犬の飼い主の住所控えてたぞ。会おうと思えば会えるさ。」
星矢「そうか！」
紫龍「今日はパーティでもしようか。折角飼い主が決まったんだ。」
瞬「そうだね。美味しい物一杯作ろう。」
星矢「ドッグフードで作るなよ、瞬。」
瞬「最近のドッグフードはできが良いんだよ。そんじょそこらの不明瞭な物より美味しいよ。」
星矢「食ったのか？」
瞬「成分見たら分かるよ。バカにしないでよね。」
日曜の夜は美味しい豪華な料理が並んだ。新しい飼い主が自分が育てた犬をかわいがってくれるように祈りながら食卓を囲んだのだった。

あとがき
2326番のお詫びと申しましょうか。誤爆で自分で踏んでしまいましたから・・・・掲示板新しく作っていたらピッタシカンカンでした。ごめんなさい。私が作らせていただきました。五匹のわんちゃんです。ペットは飼い主を表すそのまんまだったと思います。別れの部分はやっぱり瞬みたいなタイプは辛いと思います。きっと物凄く大事に思っちゃうから。壊れない様に自分で包んであげるみたいな感じで。言うなれば花嫁の父でしょうか。星矢は親友と別れたような感じでしょうね。側にいるのが当たり前みたいな。一輝とは根本的に考えが違うのでしょうね。ご感想をお聞かせ下さい。今回の裏シナリオ。捨てられたわんちゃん達は近所のラブラドールレトリーバーが産んだものです。もともと裕福なうちではなかったので、仕方なく捨てられました。

　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI