子供疑惑

サガ「五老峰に来るのは始めてだ。気持ち良いな、ここは。」
サガはカノンの様子を見に五老峰に訪れていた。カノンが五老峰に幽閉されてから三ヶ月と二週間。周りに迷惑をかけてないか心配でやってきたのだった。
サガ「さてと、我が愚弟は真面目にやってるかな。」
辺りを散策がてらカノンを捜すことにする。さぼっていたら即座にギャラクシアンエクスプロージョンをかけようと気持ちの整理は既にできていた。しかし、
女性「いつもお疲れ様。」
と、声をかけられる事までは思いもしていなかった。
サガ「・・・・・」
サガ（誰かと間違えているのだろうか。それとも五老峰式の挨拶のし方？）
話しかけた女性はかなりの美人だった。眼も大きいし、何より武骨でない。そして結構アニメ声。
サガ「ああ、はあ。」
とっさに中国語がでる。
女性「これ、お弁当。是非食べてね。お好きなもの詰めましたから。」
サガ「嬉しいですが・・・・・」
女性「遠慮なんて珍しい。娘の分と二人分ありますから全然大丈夫ですよ。」
サガ「・・・・・娘？」
女性「私、家にいますから。何かあったらきてくださいね。」
女性は笑顔をみせると去っていった。実にさわやかな去り方だが、サガの心はねっとりとした疑問に満ち溢れていた。
サガ（これは・・・・人違いされたに決まっているが・・・・私とそっくりなのはカノンしかいないだろう。それは間違い無いが・・・・娘と先ほど言ってなかったか？と、言う事はカノンには子供がいる!?と、言う事はあの女性はカノンの奥さん!?）
凄い結論になった。あの子供っぽさ二百パーセントのカノンが父親。世も末。世紀末。サガは慌てて首を振った。
サガ（これはあくまで推論！カノンが父親である可能性など無い！縛られるのが大嫌いな人間だからな。逃げる事はあっても収まる事はないはず・・・・・）
酷い言葉の連続であるが、間違ってるとは言いきれない。推論を捨てるためにあえてカノンを探した。老師に挨拶した時、サボってなければ畑にいるだろうと教えてくれたから畑を目指す。段々土の香りがしてくる。それと共に、人間の声がする。二人だ。一人は勿論カノン。そしてもう一人は・・・・
サガ「誰だ？あれは。」
幼い子供。五歳くらいか。畑でカノンとじゃれてるのか畑の手伝いをしてるのか良く分からないが、仲は良さそうだ。
サガ（あれは・・・・・子供だよな。お！カノンが笑ってる！子供相手に！あんな風に笑うのは初めてだ！）
遠目に見るカノンの笑顔はいつもの笑顔ではなく、瞬のそれと似ていた。深呼吸をしてからカノンの元に近づくのだった。

カノン「うっとおしい。離れろよ麗花。」
麗花「麗花もお手伝いする。」
カノン「邪魔っけだ。」
麗花「麗花だって、ママの畑のお手伝いしてるもん。できるよ。」
カノン「なら、背中によっかかるの止めろ。」
麗花「パパの背中みたいで安心するんだもん。」
ぎゃんぎゃん子供相手にムキになりながら、雑草を抜くカノン。人見知りもカノン相手にはどこ吹く風である。つい二ヶ月前とは大違いだ。
カノン「お前、春麗に遊んで貰えよ。あっちの方が優しいぞ。」
麗花「春麗お姉ちゃんは忙しいんだもん。それにおじちゃんといるの好きだから。パパみたいで。」
カノン「ファザコン。」
麗花「ファ、ザ、コン？」
カノン「お前みたいなやつの事だ。」
髪を掻き揚げて苦笑しながら言った。
グ〜ッ
麗花「お腹、空いた」
カノン「俺もだ。」
麗花「ママ、お弁当持ってきてくれるかな？」
カノン「弁当？」
麗花「ママに頼んだの。今日畑で遊ぶからって。サンドイッチ。」
カノン「へえ、楽しみだ・・・・ってやっぱ手伝いじゃないじゃないか。」
麗花「ばれ、ちゃった。」
ぺロッと舌をだして麗花が微笑む。
カノン「でも、腹減ったな。サンドイッチが来るまで待てん。」
空腹に耐えるのもなんなのでカノンはずぼっと大根と人参を引っこ抜いた。
カノン「これ、一緒に食うか？」
麗花「うん。麗花人参にする。」
カノン「じゃ、俺大根な。」
泥を流す為に畑の脇を流れている小川に行く。この小川はいずれは廬山の大滝の川へと流れ着く。ジャブジャブと大根と人参を洗い、土手に座った。
カノン「じゃ、食うか。」
麗花「いただきます。」
ガジガジ
ショリショリ
カノン「美味いな。」
麗花「春麗お姉ちゃんが作ってるからだね。」
カノン「俺が手伝ってるからだ。」
麗花「そう？」
ショリショリと小さい音を立てながらかじる。カノンはガジガジと大きい音を立てる。招かれざる客が近づいてる事に気づかない二人だった。

どきどき胸が高鳴っている。心臓の音は爆発寸前。握り締めてる手は汗だく。
サガ「カノン。」
カノン「!?」
驚いた様に振り向いた。子供も振り向く。
カノン「サガ、どうしたんだ。・・・!!」
ギリシャ語が出た。しかし、お仕置きはない。実は数日前、やっと免許皆伝がでて、お仕置き＆中国語修行は無しになった。無しになったけれど、基本的に殆ど毎日中国語を使用している。何故なら周りは全員中国人だから。
サガ「お前が心配で見に来た。」
カノン「そうか。食うか？大根。」
サガ「いや、いい。」
カノン「美味いぞ。」
サガ「お前らに届け物だ。」
カノン「何だ？」
サガ「弁当だ。」
カノン「そうか！サンキュ。」
大根を置いて、弁当に手を伸ばした。子供も嬉しそうな顔をする。
麗花「ママのサンドイッチだ♪」
サガ「マ・・・マのサンドイッチ・・・」
カノン「早く食おうぜ、美味いもんな。」
バスケットを開けてサンドイッチをとりだすと麗花に渡した。
カノン「美味い！」
パクパクと食べている二人。
カノン「サガ、お前もいるか？」
サガ「いや。」
カノン「何でお前が持ってきたんだ？」
サガ「お前と間違えられた。」
カノン「双子だもんな。間違えるのも無理無いか。」
サガ「ところで、この娘は・・・・・？」
カノン「ああ、こいつ？」
サガ「可愛いその女の子だ。」
カノン「（隣の家の）子供。」
サガ「・・・・・では、先ほど私が会った女性は？」
カノン「（隣の家の）奥さんで麗花の母親。」
サガ「・・・・・・・・」
カノン「どうした？顔色悪いぞ。」
サガ「何でも無い。麗花ってこの子か？」
カノン「そうだ。他に誰がいる。」
サガ「帰るよ・・・・・・」
カノン「ゆっくりしてけばいいのに。」
サガ「折角の家族団欒が台無しだろ。」
カノン「団欒？ああ、聞いたのか。別に構わないぞ。お前なら喜んで敷居を通してくれるだろう。老師も簡単に許してくれるだろう。俺と違って真面目だからな。」
今日は麗花が夕食を食べに来るのである。ちょっとしたパーティみたいなものだ。
サガ「・・・・・」
カノン「？」
サガ「仲良く暮らせ。」
カノン「・・・・・・何だそりゃ。」
サガ「じゃあな。」
カノン「おい！今の言葉ってどういう・・・」
止めるのも聞かず、サガは行ってしまった。
カノン「何だあいつは・・・・・・」
麗花「どうかしたの？」
何を話してたのか分からない麗花がカノンの雰囲気を察して話しかける。
カノン「俺のバカ兄貴が訳のわからん事言って帰っていった。」
麗花「あの人がサガおじちゃん？」
カノン「そうだ。」
麗花「おじちゃんにそっくりだったね。」
カノン「中身は全然違う。」
麗花「そうなの？」
カノン「そうだ。あいつはな・・・・」
それからカノンは飯を食いながら子供相手にサガの悪口を言いまくった。喉が枯れるまで言ってたので、喉はカスカス。畑仕事を忘れたので、お仕置きを食らったのだった。

一方サガは聖域に辿りつくまで精神と肉体が離れていた。
サガ（推論が肯定されてしまうとは・・・・あのカノンに子供が・・・・奥さんまでいるとは・・・・・知らなかった。知っていたら、あの二人の側にいさせてやったものを。あの子は私の姪になるのか。可愛かったな。あまりカノンには似てなかったが・・・etc・・etc・・・）
大勘違いを本気で悩んでいるサガ。聖域にもその騒動を持ち込むかはサガ次第である。