勘違いの極地

サガ「どういうことだ・・・・・・」
サガはあるべきものが無い事に半ば呆然としていた。あるべきものとは老師の家。焼け野原になっていて、『再建予定地』と書かれた札が立っているのみだ。
サガ「一体・・・・・何があったのだ？」
カノンによる過失放火事故があったことなどサガが知る由も無い。
サガ「ここの家人達はどこへ行ってしまったのだ？」
老師はよくわからんが不明。春麗は城戸邸に。カノンは麗花宅である。
サガ「とりあえず・・・・・ん!?」
サガは向こうで歩いている自分を見た。勿論それはカノンである。
サガ「いた！カノン！おー・・・・ぃ」
サガは声をかけづらくなった。何故なら、麗花と王婦人が側にいたからである。
サガ「あれは麗花！そして・・・・奥さん！何て仲が良さそうなんだ・・・・」

王婦人「今日は、主人の誕生日なんですよ。ほら、プレゼントも。」
カノン「へえ。綺麗な包丁だな。」
麗花「麗花が選んだんだよ。」
カノン「そうか。らしいプレゼントだ。」
王婦人「喜んでくれるかしら。」
カノン「大丈夫だろ。麗花、足元気をつけろよ。結構急坂だからな。」
麗花「大丈夫だもん。」

サガ「奥さんのとろけそうな笑顔に麗花の嬉しそうな笑顔。そんなにカノンにぞっこんなのか!?」
完全なる大間違いである。

カノン「白龍酒家は遠いのか？」
王婦人「少しですよ。村から離れていますが、交通の便も悪くないし、美味しいし、村の馴染みのお店です。麗花は行けるかな？」
麗花「麗花五歳だもん、ちゃんと行けるもん。」
カノン「一人で村をでたことないお前が行けるわけないだろう。」
麗花「むう〜〜」
カノン「それより王婦人。俺が一緒に行っても良いのか？親子団欒の方が良いのではないか？」
王婦人「老師様からお預かりしてる大事なお客様ですから一人寂しい御飯にさせるわけにもいかないでしょう？」
カノン「俺は家にいる方が重りが作動しなくていいんだが・・・・・」
総量4000キロの枷の所為で、地面に足の跡がくっきりとついている。
王婦人「まあまあ。自慢になっちゃうかもしれませんけど、白龍酒家は国営菜館ですから、味は超一流ですよ。」
カノン「のろけにも聞こえるが？」
王婦人「そうかもしれませんけど。」

サガ「どこへいくつもりだ！家族団欒か!?」
まあ、間違いではないけれども、カノンは便乗していると言うのが正しい。

王婦人「今日は沢山食べてくださいね。」
カノン「よし！沢山食ってやる。」
麗花「麗花も！」

サガ「どこへいくんだ！よし、私もこっそりついていくとしよう。」

こうして、サガが尾行している事に気づきもしない一行と、勘違いしまくりのサガは白龍酒家に入っていったのだった。

国営菜館白龍酒家は今日も盛況だった。なじみの人達から、ちょっと都会じみた人も訪れている。
ウェイター「いらっしゃい、萌菜さん。」
王婦人「三人、お願いします。」
流石に夫が料理人な所為か、顔が広い。ウェイターに連れられて、四人席に座る。
王婦人「何食べましょうか。どれも美味しいですよ。」
カノン「凄いのろけだぞ。」
麗花「でも、パパの料理はどれも美味しいんだよ。」
カノン「知ってるけどさ。」
王婦人「カノンさん、お酒は飲みますでしょ？」
カノン「いいのか？」
王婦人「ええ。カノンさんお酒に強いですよね。いいお酒を頼みましょう。」
そう言って、先に酒を頼んだ。すぐにウェイターが高級酒を持ってくる。
王婦人「どうぞ、カノンさん。」
カノン「あ、ああ。」
とくとくとくとグラスに酒を注ぐ。そのままぐいっと一気に飲んだ。
王婦人「美味しいですね。」
カノン「何だか、凄く幸せかもしれない。」
そう言って滝のような涙を流した。
王婦人「どうかしましたか？カノンさん。」
カノン「老師の家では俺は馬や豚の家畜同然。六時ピッタリに起きないと、聖衣で叩き起こされるわ、日が暮れるまで働かされて、抵抗しようものなら、罵倒され、暴力で訴えられて、夕食食ったら明けるまで中国語勉強。そして、やっと中国語勉強が終わったと思いきや過失で家を大炎上させて、おしおきで4000キロのおもりつけて、腰痛肩凝りは絶えず、湿布とバン○リンは手放せない始末。そんな日々の中に、こういう贅沢ができるとは・・・・・人間になった気分だ。」
王婦人「いろいろ大変なんですね・・・・・」
状況がいまいち掴めない王婦人だったが、とりあえず解釈できるだけ解釈した。
王婦人「この時間だけは忘れてください。好きなものを注文しましょうね。」
カノン「ああ。」
こういう場合、本当に遠慮を知らないのがカノンである。店の料理を片っ端から注文した。

サガ「カノン、いつからお前金持ちに？」
サガは、こそこそと隠れながら、餃子と飯を食べていた。一番安いメニューである。
サガ「アテナの援助があるとはいえ、贅沢はそれなりに禁止の筈。それでなくても、老師からの請求書をきった為に今月は更に緊縮しなくてはいけないのに。」
食事がわびしいのもその為である。
サガ「麗花の歳が高すぎるとムウに言われたが、この場合、連れ子と考えたら容易に解決する。あの奥さんと似ているし間違い無いだろう。」
失礼な話だ。王はちゃんと生きているし、離婚してもいない。今厨房で立派に働いている。
サガ「きっと、あの奥さんの家が金持ちなんだろう。老師の隣の家は老師の家よりも数段立派だからな。男手がないのをいいことにちゃっかりもぐりこんだか・・・・・」
男手・・・・ではなく、家無き子でもぐりこんではいる。
サガ「は、カノンが滝のような涙を！何故泣いた!?もしかして今日は何かの記念日だったとか！麗花の誕生日？奥さんの誕生日？そうか結婚記念日！」
おいおい。
サガ「それで感動して泣いていたと。」
感動はしていたが、全然違う。
サガ「そうか・・・・私の予想通りなのか・・・・」
その予想は元から誤解の上に成り立っているものである。
サガ「籍を入れているなら私も真剣に考えなくてはいけないな。あの人は私の義理の妹となるのか・・・・見る限り中国人だが、うまくやっていけるのだろうか・・・・・」
安心しろ。そんな心配しなくても、カノンと王家に婚姻関係はまるでない。
サガ「カノンもとうとう一国の主となったか。寂しいような嬉しいような・・・」
誰が花嫁の父を体験しろと言った。
サガ「家庭を持つとなると、中国で暮らすのかギリシャに戻るのか・・・・日本人拉致被害者家族の気持ちが何となく分かったぞ・・・・」
そんな気持ちわかったところで何の意味も価値も無い。
サガ「帰るか・・・・・」
サガは金をゴールドカードで払うと、ひっそりでていった。もしもう少し残っていればサガのこの妄想誤解状態を打破できたのだが、五秒遅かった。

王「萌菜！」
王婦人「あなた！」
王が厨房から脱け出してきた。
王婦人「誕生日おめでとうあなた。」
王「ああ、ありがとう萌菜。」
麗花「これ、プレゼントだよ。」
王「ありがとう。新しい包丁だ！」
王婦人「あなたの磨り減ってしまったでしょう？新しいのをと思ったの。」
王「ありがとう嬉しいよ。」
妻と娘に軽くキスをする。
客１「お！今日誕生日か!?」
王「はい、そうです。」
客２「それはめでたいなあ。兄ちゃんもそう思うだろ？」
カノン「あ、ああ。」
客１「と、きたら、全員で盛りあがろう！」
全員「おーーーーー!!!」
もともと村とは馴染みのある店である。客の大半は見知っている人間だし、遠慮もそうすることもない。
王婦人「じゃ！皆で祝いましょう！」
王「どんどん注文してくれ！俺作るから！ちなみに経費は自分で持てよ！」
全員「へーーーーい。」
こうして白龍酒家はパーティ会場となりいつも以上の盛況であった。

サガ「ん？何だかやかましいな・・・・・」
白龍酒家から大分離れた頃であった。サガは誤解を更に誤解させて五老峰を立ち去ろうとしていた。また騒動を起こすのも時間の問題である。