兄の悩み

ムウ「サガ、どうかしたのですか？」
サガ「ん？」
ムウ「ここのところ上の空じゃないですか。」
聖域に広がるサガの不調。十二宮でもそれは白羊宮から双魚宮まで知れ渡っている。皆理由を聞きたくてうずうずしているのだが、口下手、高飛車などの理由から適任ではなく、ムウが代表として様子を見に来た。見てみると確かにすぐにでも首を狩れそうなほど、ボーっとなっている。
ムウ「悩み事ですか？あまりにくだらない事ならシャットアウトですが、少し聞かせてくれますか？」
サガ「幼い子って可愛いものだろうか？」
ムウ「はい？」
サガ「正直に答えろ。幼子って可愛いか？」
ムウ「貴方の口からそのような単語が出てくるなんて思いもしませんでした。」
サガ「それで？」
ムウ「性格にもよりますけど、基本的に私は好きですよ。貴鬼もいますしね。」
サガ「そうか。確かに貴鬼は可愛いよな。子供らしくて。」
ハアとため息をついた。ムウは質問の意図が理解できなかった。理解できぬまま次の質問が問いかけられる。
サガ「なあ、娘って可愛いのかな。」
ムウ「はい!?」
本気で一瞬耳を疑った。
サガ「娘だ。」
ムウ「精神平気ですか？」
サガ「安心しろ。私は正気だ。黒くなっていないから安心しろ。」
ムウ「黒くてその発言が出る方がよっぽど不安です。」
サガ「で、娘って可愛いか？」
ムウ「娘ってデスマスクが言うような娘ですか？」
サガ「いや、親子関係の娘だ。年齢は五歳くらいの子。」
ムウ「・・・・・・私はまだそういうのよく分かりませんが・・・・」
サガ「想像でいい。」
ムウ「可愛いとは思いますが。血を分けた子なら尚更でしょうね。」
サガ「普通はそうだよな・・・・・」
再びため息をついた。ムウはサガの次に何を言い出すか分からなくなっていた。ムウの記憶回路を辿ってもこのようなサガの事態に対応できる知識はない。
サガ「もう一つ。姪っ子は可愛いと思うか？」
ムウ「姪・・・・ですか？」
サガ「そう。姪。」
ムウ「あの、質問の意図が全然汲み取れません・・・・・・」
サガ「いいからいいから。」
ムウ「あまり良くはありませんが。」
サガ「深くは考えるな。ムウ、ムウは老師のところの春麗とちょっとした知りあいだろう？」
ムウ「まあ、そうですね。小さい頃から知ってると言えば知ってます。」
サガ「姪といえないこともないだろう。」
ムウ「いえませんけど、気分はまあそんな感じかもしれませんね。」
サガ「可愛かったか？」
ムウ「そりゃ。やはり、自分で育てなくていいだけあって、可愛いところだけ見れますからね。今でも可愛いとは思いますよ。過去形使わないで下さい。」
サガ「ふむ・・・・・・」
ムウ「どうかしたんですか？本当に・・・・・」
サガ「あ、茶でもいれるか。ちょっと待ってろ。」
すっと立ちあがり、紅茶を入れに行く。
ムウ「そんな事どうでもいいのに。」
ムウの声は届かない。ぼーっとしてる割りには手際良く紅茶を持ってきた。
サガ「はい、紅茶。ダージリンだ。」
ムウ「いただきますよ。」
ずずっと紅茶を啜る。美味いとは思えないが、不味いともいえない。いわゆる普通の味。サガにしては珍しいものだ。
サガ「なあ、ムウ。」
ムウ「何ですか？」
サガ「聖域に子供って住まわせていいだろうか？」
ムウ「ブハッ!!!」
思いっきり紅茶を吹き出した。ゲホゲホゲホと咳き込む。
ムウ「サ、サガ。ゲッホゲホ。今、何と仰いました？ゲホッ。」
サガ「大丈夫か、ムウ。」
ムウ「わ、私の事より私の質問に答えてください。今、何と仰いました？」
サガ「聖域に子供を住まわせても良いかと。」
ムウ「子供って・・・・・実の？」
サガ「そうだ。」
ムウ「・・・・・・頭痛がしてきました。」
こめかみを押さえるムウ。
サガ「教皇の権限でＯＫしてもいいかな。」
ムウ「オルフェの時はどうしてたんです？彼は聖域で唯一彼女がいたでしょう？彼女、聖域に住んでいたようですけど。」
サガ「ああ、あの時か。自分でも覚えがないのだが、確か覚えてる限りでは蛇を飼いならしていた記憶が・・・・・」
ムウ「ユリティース殺しの犯人は黒サガですか。一人優秀な聖闘士を失ったのはあなたの責任ですね。」
サガ「む、そうかもしれんが。で、今回の場合はＯＫしても構わないだろうか。」
ムウ「その子を黒サガが殺さなきゃいいんじゃないですか？」
サガ「そうか。黒サガはもうあの条件のおかげで凄い悪さをすることも無くなったから、安心だな。教皇としても、兄としてもやはり応援すべきだな。」
ムウ「は、兄？」
サガ「私にも姪ができるわけだし、できる限り可愛がってやろう。」
ムウ「聞きますが、先ほどから思い悩んでる原因ってカノンにあるんですか？」
サガ「そうだ。」
ムウ「カノンは、今五老峰で人間改革中でしょう？何を見たんですか？」
一瞬の沈黙。
サガ「・・・・・・カノンが娘と戯れていた。」
ムウ「カノンが!?娘と!?」
サガ「私がカノンの様子を見に、五老峰を訪れたら、一人の中国人女性に話しかけられた。誰かと私を間違えた様なのだ。」
ムウ「カノンとしか思えませんね。」
サガ「とっさに中国語で会話したところ、娘の分と二人分の弁当を頼まれたので、持ってきたわと言われて、自分はサガだと言えず、弁当を受け取った。」
ムウ「それで？カノンに渡したんですか？」
サガ「そうだ。」
ムウ「本当に実の娘ですか？カノンに聞きました？」
サガ「ああ、聞いた。その子は誰だと。」
ムウ「それで？」
サガ「子供、と言ったのだ。」
ムウ「中国人女性は何と？」
サガ「奥さんで、麗花の母親だと。」
ムウ「麗花とは？」
サガ「その子供のことだ。ムウ、どう考えてもカノンの子供だろう!?」
ガシッとムウの肩を掴む。サガの目は真剣そのものだった。
ムウ「その子の歳は？」
サガ「五歳くらい。」
ムウ「計算合いませんが。」
あまりに簡単な事をさらりというが、サガはそんな事に初めて気付いた様だ。
サガ「あ・・・・・」
ムウ「あなたの勘違いですよ。」
サガ「そうだろうか。」
ムウ「きっと、隣の家というのを省いて言ったのではないですか？」
サガ「そ、そうか。そうだよな。」
ムウ「もう一度行って、誤解を解いてきたらどうです？このままじゃ、宙ぶらりんで気持ち悪いでしょう？」
サガ「仕事があるから・・・・・」
ムウ「呆けてるサガよりは、私やカミュ、シュラでやった方が十万倍早いです。皆には私が伝えますからもう一度五老峰へ行ってきたらどうです？」
サガ「すまないな、迷惑をかけて。」
ムウ「別に良いですよ。」
サガ「じゃ、行ってくる。」
ゆらりと立ちあがると、サガは教皇の間を降りていった。ムウはフウとため息をつくと、やがてあがってくるだろう黄金聖闘士を待っていた。ムウは面倒が片付いたとほっと安心していたが、その頃五老峰では、とてつもない変化が起こっていたのであった。

あとがき
子供疑惑の続き。聖域では・・・・です。あのシチュエーションじゃサガが勘違いしてもおかしくは無いですよね。仲良いし。麗花可愛いし。話知らなくても分かって・・・・もらえるかなあ。御免ね、この話本編の表のつもりで書いたらどこにおいて良いか分からなくて、とりあえずここにしました。まだまだ続きます。こればっかりUPしてますね。他のシリーズもUPします！


　　　　　　　　　　　　　BY　　　MUTUMI