キャンドル・オン・ザ・ケーキ

「誕生日、おめでとう星矢」
「ありがとう、姉さん」
ポゥッとキャンドルに火が灯される。ほの赤い光がケーキに陰影を作る。今日は星矢の誕生日。この場には二人しかいない。たった二人の、姉弟だけで過ごすバースデーである。
「俺の為にわざわざ来てくれてありがとう」
「大事な弟の誕生日だもの。何が何でも飛んでいくわよ」
フフッと星華が笑みを深くする。
「沙織さんや、美穂ちゃんには悪い事をしちゃったわね」
星華は心の中で独りごちた。星矢に好意を寄せる沙織や美穂が祝いたくない筈がない。それに、血の絆で結ばれた兄弟達も。けれど、彼女たちは不満の一つも言わずに譲ってくれた。

――星矢が何より喜ぶだろうから。

「なぁなぁ、プレゼント開けていい？」
子犬のようにはしゃぐ星矢に、いいわよと答える。バックに星や音符マークを散らしながら、ウキウキと星矢が箱を開ける。
「わっ！！！」
感嘆の声が漏れる。中から出てきたのは、
「限定のスニーカー！」
「欲しかったものでしょ？」
「う、うん！」
目がキラキラと輝いている。その顔を見られるだけで満たされる。
「ありがとう、姉さん」
「いいえ、どういたしまして」
このスニーカーは、ずっと前から欲しい欲しいと言っていたものだ。本気で欲しい物だから、心底嬉しかった。そして、姉さんが贈ってくれたことが更に嬉しさを募らせていた。
「どうしよう。もったいなすぎて履けないよ」
「履いて頂戴。そのために買ったんだもの。ボロボロになったら、また買ってあげるわ」
春のような温かい笑みは、「姉」のもので。
「姉さんは、どうしてそんな顔ができるの？」
だから、ぽろっとこぼれた。星華が怪訝そうな顔をする。
「あら、私、変な顔をしてる？」
「ああ、そういう意味じゃなくて。姉さんが、姉さんみたいな顔してるから・・・」
「ふふ、私は星矢が産まれたときから星矢のお姉さんじゃない」
「あ、いや、そういうことじゃなくて・・・」
何となく、言いたいことがうまく言えない。もどかしくて星矢は頭をかいた。
「姉さんの笑顔は、優しいんだけど、優しいだけじゃなくて、見守る・・・みたいな雰囲気があるっていうか・・・」
「ふふ、ハーデスを倒した世界最強の男を見守るだなんて、考えてみたらすごいわね」
「あ、いや、そう言うことじゃなくて・・・」
「分かってる。分かってるわよ、星矢。あなたが言いたい事」
星矢が瞠目する。くすりと笑うと星華は続けた。
「どんなに大きくなっても、強くなっても、私にとって星矢は可愛い弟なの」
噛み締めるように言った。
「けっして、子供だと想ってるわけじゃないわよ。とっくに私を乗り越えてると思うの。けれど、あなたの後ろに、小さい頃のあなたが映る」
一拍置いて、呟いた。
「だから、愛しい」
とろけるような優しい響きに、魂が震えるような気がした。
「身を削ってでも、あなたを守りたい。笑顔でいて欲しい。たとえ、どんなに辛くても苦しくても、放り出せない。星矢の姉であることが、私という存在だから」
誇りのような思い。
「逆に言えば、この顔しかできないんだと思うわ。記憶を失わない限りは」
「姉さん、それシャレにならないって」
プッと吹いた。
「姉さんみたいな顔は、俺にはできないってこと？」
「そういうことになるわね〜。星矢は諦めて、笑っていなさい」
「姉さんを守るって決めてるのに！」
「守って御覧なさいな。私はひ弱なお姉さんなんだから」
そう言って笑う星華の顔は、やっぱり姉の物で。青銅たちでも末っ子の星矢には逆立ちしても不可能だろう。
「ケーキ食べましょう！星矢、蝋燭の火、吹き消して」
「おう！」
星矢が顔をケーキに近づいて、息を吹いた。ゆらりと炎が揺れ、静かに消えた。
「誕生日おめでとう、星矢」
「ありがとう、姉さん」
暗闇でも、温かい空気が広がっている。
「ねえ、姉さん」
「なあに？」
「姉さんが、普通の顔できる人っているの？辛い時、頼れる人はいる？」
沈黙は、ほんの数秒。
「いるわ。いるから大丈夫」
ほんの少しだけ、姉の紗が剥がれ落ちた気がした。星華がどんな顔をしているか、見えなかった―――。


あとがき
星矢ハピバ！！今年は星華さんです！！姉や兄ってのは、それだけでプライドや支えなんだろーなーって思います。ひぐらしの悟史君なんか本当にそうだし。星矢の兄弟間は、ある双子のおかげで、ストイックまっしぐらなんが（笑）ちなみに、うちのサークルは妹キャラがいません。星華さんが普通の少女になれるのはどんな時だろうか。書いてて自分自身良く分からない。幸せな誕生日を！ハッピーバースデー星矢！