あてなカンタービレ
瞬「・・・オーケストラって意外と体育会系なんだね」
星矢「肺活量鍛える為って校庭十周とかするらしいしな」
紫龍「まぁ、リーダーがあの人だしな・・・」
氷河「一輝はどうしたんだ？」
瞬「恐らく１００％の確率で逃げたんだと思うよ。兄さん、団体行動苦手だから」
サガ「こら、そこ！！呼吸を合わせろ！！」
瞬「は、はいっ！！」
サガ「そこのバカ蟹！なんだ、そのやる気のない音色は！！ふざけてるのか！！」
デスマスク「ふざけてねえし！つか、トライアングルに音色もへったくれもあんのか！？」
チンチンチンチンとデスマスクがトライアングルと叩く。
サガ「文句言うな！！私など、音を一つも出さないのだぞ！！出せるだけありがたいと思え！！」
アフロディーテ「って・・・サガ、指揮者じゃない。１番目立つポジションをキープしておきながら何を言ってるのやら」
アフロディーテが、タンバリンを小気味良く叩く。
サガ「それもこれも、アテナに喜んで頂く為だ！サンクチュアリオーケストラを必ず成功させるぞ！！」
９月１日はアテナの誕生日。毎年、誕生の宴が催されるのだが、今年の誕生日プレゼントは聖闘士によるオーケストラに決まった。黄金だけでなく青銅も呼び寄せ、教皇の間で練習をしている。提案者はもちろんサガ。その熱血っぷりたるや、カノン島の噴火以上であった。
サガ「貴様！！やる気あるのか！！」
バシュッと指揮棒が飛ぶ。
ムウ「・・・チョークみたいにホイホイ投げないでくださいよ。昨日飛び込みの仕事が入って、寝不足なんです。弾けてるなら、問題ないじゃないですか」
右手で指揮棒を受け止めたムウ。右手がお留守になっているにも関わらず、高低音の和音が聞こえているのは、ピアノの鍵盤をサイコキネシスで叩いているからである。
サガ「馬鹿者！！サイコキネシスでは、誠実さが伝わらないだろうが！！」
ムウ「誠実さが、あらゆる方向で狂っていたあなたにだけは言われたくありませんよ。指揮棒を飛ばしてしまって、この後どう指揮をするんです？黄金の短剣でするんですか？」
サガ「まさか、指揮棒の予備ならここにある」
ふっと笑って懐から指揮棒を取り出すサガ。
瞬「さすがと言おうかなんと言おうか・・・」
星矢「あの指揮棒、すげえ先尖ってるぜ。俺ら殺る気まんまんじゃねえ？」
紫龍「静かにしろ。指揮棒が飛んでくるぞ」
ドガガガガ！！
サガ「アイオリア！！ティンパニーはもっと繊細に！！雷じゃないんだぞ！！」
アイオリア「そんな面倒なことできるか！！鳴らすか、慣らさないか！ティンパニーとはそう言うものだろう！！」
サガ「そんなわけないだろう！！どうして０か１０しかないんだ、貴様は！！」
ムウ「あなたと似たようなものでしょう。白か黒しかないんですから」
サガ「ええい、口を挟むな！！お前だって、腹の中は黒いだろう！！」
ムウ「もしかして、私にピアノを命じたのは、そういう皮肉だったんですか？白と黒の鍵盤が私の腹のようだと」
シャカ「まさにピッタリではないか。腹黒の君にお似合いだ」
ムウ「ふ、あなたなんてカスタネットじゃないですか。まるで、楽器が土下座をしているようですよ。さすが、大地に頭を擦り付けて私を拝めと言うだけありますね」
シャカ「人が私を拝むのは当然のことだ。なんのおかしいこともない」
ムウ「人がお釈迦様を拝むのは普通のことですが、私を拝めと強要することはおかしいんですよ。はっきり言って、登場したての頃のあなたは、極悪人ですよ。人としてまともなのは、アルデバランだけです」
アルデバラン「いや、俺はそんなつもりは・・・」
星矢「あの時のアルデバランは潔くてカッコよかったぜ〜！！負けを認めて、通っていいなんて、普通言えないぜ！！」
瞬「そうだよね。よ〜く考えたら、戦闘放棄だもんね！！アルデバランの上の宮って巨蟹宮だから、聖衣も逃げ出す大悪人に託すなんて、相当、腹が据わってないとできないよ！！」
ムウ「・・・確かに。よく信じられましたね、デスマスクのことを」
アルデバラン「・・・・・言われてみれば、そうだな」
デスマスク「おい！なんだ、今初めて気付きましたっていう空気は！！アルデバラン、お前だけは俺のことを信じてくれてると思ってたのに！！」
シュラ「しおらしい演技するな。どこをどう見ても、お前は信用するに値しないだろう」
カーン・・・と喉自慢で鐘一つで敗退した音のように、冷ややかに鉄琴が鳴った。
デスマスク「信用ゼロってことはねーだろ」
シュラ「じゃあ、俺の信頼をプラスして、視力検査の１番上ってところだな」
デスマスク「視力検査の１番上って・・・？」
アフロディーテ「０，１ってことじゃない？」
デスマスク「うまい！！！！って、なんだそりゃ――！！！」
サガ「なんだそりゃはこっちのセリフだバカモノ―――！！！」
シュパパパパッと何本もの指揮棒が飛んだ。どこにそんなに指揮棒を隠しているのだろうか。
サガ「聞いてれば、ベラベラしゃべりながら演奏しおって！！少しも私の指揮を見ていないではないか！！どこの世界に、喋りながら演奏するオーケストラがあるんだ！」
デスマスク「前例がないなら、作っちまえば良いと思います！！
」
アイオロス「それは、素晴らしい精神だな！！」
サガが口を開く前に、アイオロスが嬉しそうに笑って言った。
アイオロス「道がないなら作ればいい。とても感激したぞ！！」
ジャーンッと力いっぱいシンバルを叩いて、高らかに宣言した。
アイオロス「これから、指揮者を見ないで演奏する修行を行う！！」
サガ「お、ちょ・・・何言ってるんだ、お前！！」
ミロ「ってことは！！カミュを見ながら演奏するのも言ってことか！！？」
アイオロス「もちろんだ！！俺達は、新しいオーケストラを目指すぞ！！」
ミロ「だってさ！！俺、お前に向かって愛を叫ぶよ！！」
カミュ「さっきから、お前のツバが飛んでくるんだ。むしろ、私に背を向けてくれないか・・・？」
ミロ「おおおおお！そっちの方が、音楽してますって感じだよな！！背中越しからでも、俺の愛が伝わるよう頑張るよ！！」
カミュ「ムウ、クリスタルウォールであいつの周りを覆ってくれ。厳重にな」
ムウ「ミロの笛の音が、アテナに届かなくなっちゃいますけど・・・」
カミュ「大丈夫だ。あいつの楽器は犬笛。もともと、誰の耳にも聞こえん」
ムウ「ミロは、よく納得しましたね」
カミュ「頭の良い人間にしか聞こえないと言ってある。すごい楽器だと喜んでいた」
ムウ「・・・ミロには聞こえてるんですか？」
カミュ「まったく。だが、そういうすごい笛が俺に聞こえるわけがないと思っているし、まして、犬笛だとは微塵も思っていない」
ムウ「うーん・・・バカなんだか、純粋なんだか紙一重ですね」
カミュ「ああ、騙してしまって、少し申し訳ない気持ちになる・・・」
鬱々とした気分をドラムに託し、高らかに打ち鳴らしたカミュだった。
アイオロス「うーん、素晴らしい！！みんなの音が一体となり、一つのハーモニーを生み出す！！はっ、そうだ。いいことを思いついた！！なぁ、サガ。新しいオーケストラが見えてくるかもしれないぞっ！」
サガ「もう・・・好きにしろ」
膝を丸めて、一人寂しく指揮棒を振っているサガなのだった。
そして、アテナの誕生日の宴の当日―――
沙織「まさか、私の為に、オーケストラを結成してくれるなんて。何を弾いてくれるのか楽しみです」
ウキウキしながら、幕があがるのを待つ。数分後、ブーッと開演を知らせるベルがなった。
サンクチュアリオーケストラ
『アテナに捧げるミューズ』
指揮 ジェミニのサガ
ピアノ アリエスのムウ
マラカス タウラスのアルデバラン
トライアングル キャンサーのデスマスク
ティンパニー レオのアイオリア
カスタネット バルゴのシャカ
クレバー犬笛 スコーピオンのミロ
シンバル サジタリアスのアイオロス
鉄琴 カプリコーンのシュラ
ドラム アクエリアスのカミュ
タンバリン ピスケスのアフロディーテ
ギター ペガサス星矢
ソプラノリコーダー アンドロメダ瞬
アルトリコーダー ドラゴン紫龍
ピアニカ キグナス氷河
楽器を手に、みんなが礼をする。静かに楽器を構えて―――
『ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー』
と、何故か歌いだした。
クレバー犬笛は当然のことだが、他のどんな楽器も、何も音を奏でず、聖闘士のアカペラが響く。
沙織「・・・・・・・・え？」
さすがの沙織も目が点である。
『ハッピバースデーディアアテナ〜、ハッピバースデートゥーユー』
ボーイソプラノに低いバスやテノール。
とても素晴らしかった。
歌は。
ついに、最後まで、楽器が奏でられることはなかった。
そして、そのまま、幕が閉じられる。
沙織「・・・・・・・・・・・」
あまりの出来事に二の句が継げなかった。演奏（？）を終えて、晴れやかな表情でみんながやってきた。
アイオロス「アテナ！！お誕生日おめでとうございます！！これが俺達からのプレゼントです！！」
沙織「あ・・・・・・ありがとうございます。えと・・・これは・・・オケではなかったのですか？」
アイオロス「はい！！私が考案した、まったく新しいオーケストラです！！ありとあらゆる楽器を持ちながら、歌を歌うという、オーケストラの常識をひっくり返した、新しいオケです！！な、サガ！！」
サガ「・・・・・・・・・・・ああ、そうだな」
サガの瞳は死んでいる。もう抵抗するのを諦めたようだ。
沙織「そ、そうですか。ありがとうございます。皆さんの気持ち、力いっぱい受け取りましたよ」
心の中では引きつっているものの、満面の笑みを浮かべる沙織。
きっと、こう言いたかったに違いない。
それは、合唱ですよ・・・・・と。
まぁいい。聖闘士達が心をこめて贈ってくれたものに、合奏も合唱も関係ないだろう。それに、大部分が打楽器なことから、合奏が本当に素晴らしかったかどうかは疑問である。何故、カスタネットやトライアングルなどが使用されてたかについては、サガ曰く、
『あいつらに高尚な楽器が使えるはずがないから』
と、言う事らしい。
何はともあれ、アテナの誕生に幸あれ！！！
あとがき
アテナハッピーバースデー！！！今年はこんな感じにしてみました★別に某音楽漫画にハマってるとかそーゆーことではないのですが、なんとなく置いてあった父の手作りギターが目に付いて、『あ、いーなー』って思って。最終的にロスが実権を握った形ですねｖｖｖロスが握るとこーなるんだー（笑）私は、そんなに楽器には縁がないのですが、小学生の頃、学校の金管鼓笛隊があって、曲をいろいろ吹いてました。本当はベルリラがやりたかったのですが、オーディションで落っこちてしまって、リコーダーをやってましたｖｖｖキャッツアイとか、オブラディオブラダとか、宇宙戦艦ヤマトとか、今思えば、モダンなものばっかりやってたなあ。楽しんで頂ければうれしいなっ♪
あ、カノンと老師がいないのは・・・え〜、昔にシリーズものでカノンをある意味リストラしてしまって、それから、なかなか出てきにくくなっちゃったのです。ロスは何とか復活しましたが、カノンは戻ってくるのに、時間がかかるかな・・・？そろそろシリーズの呪縛から解き放たれてもいいかも。うちでシオンがなかなか出てこないのも、開設した時に死んでる設定にしちゃってたからです。昔は今よりもシリアス度が強かったからなぁ・・・！
ＢＹ ＭＵＴＵＭＩ