あなたに乾杯
サガ「だぁーーーーーーーー！！！やってもやってもやってもやっても！！」
仕事が終わらんっ！！！
教皇の間にて、ジェミニの聖闘士サガが雄たけびをあげた。
サガ「もう３日も眠ってない！！いい加減寝たい！！だが、寝たら最後、ギリシャも沈む！！」
巷で話題になっているギリシャ経済危機。それを水際で防いでいるのは、何を隠そう聖域なのであった。
サガ「ギリシャ人はのんびり屋であまり働かないからこんなことになるんだと、どっかの誰かが抜かしているが、だったら、言ってやろうか！！今度の聖戦は有料だ！！料金によって、出動させる聖闘士のランクを決めてやる！！」
ジョークなのだろうが、机の脇に料金表があるところを見ると、かなり追い詰められているようだ。
サガ「まだ処理しなくちゃいけない書類がいっぱいある！！料金表とか作って遊んでいるんじゃなかった！！
よく見れば、作りかけの料金表がいくつか散らばっている。早朝手当て、深夜手当てなど細かい料金設定がされており、ムダに時間を費やしていたようだ。
サガ「忙しすぎてどうにかなりそうだ。猫の手でも借りたいっ！！」
？？「では、私に手伝わせてください」
突然の声に、顔をあげると――――
サガ「アテナ！！！！？」
沙織「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーんです」
サガ「いつお越しになったんですか。おっしゃってくだされば、お迎えにあがったのに」
余裕がないせいなのか、沙織の言葉を完全スルーである。
沙織「ついさっき到着しました。忙しいサガの手を煩わせてはいけないと思って、こっそり来たのですよ」
サガ「それは失礼しました。アテナに気を使わせるとは情けない」
沙織「いえいえ、気にしないでください。半分仕事で来たのもありますし」
サガ「仕事ですか？」
沙織「今、ギリシャが大変なことになっているでしょう。アテナとして、見過ごすわけには行きません。なので、グラード財団総帥としてギリシャに来たのです」
サガ「そうだったのですか・・・大変申し訳ありません。我々ギリシャ人が不甲斐ないばかりに・・・」
沙織「謝らないでください。あなた方が悪いわけではないのです。サガはよくやってくれていますよ」
サガ「優しい心に感謝致します」
沙織「さて、仕事を片付けましょう。進行状況を教えてください」
サガ「え、そんな！アテナに仕事をしていただくわけには・・・」
沙織「猫の手も借りたいほど忙しいのでしょう？」
サガ「そんな！アテナは猫ではございません！！」
突っ込むところが大いに間違っている。
沙織「ほほほ、生まれ変わったら猫になるのもいいですね。１日のんびりと過ごしたいです」
サガ「でしたら、ギリシャの猫がよろしいでしょう。ギリシャには猫がたくさんいますから」
沙織「あら、いいですね。では、来世にギリシャの猫になる為にも、ギリシャを救わなくてはいけませんね」
サガ「あ・・・・・・・っ」
脱線したように見せかけて、核心をつく。
実業家、城戸沙織の隠れた必殺技である。
沙織「さぁ、仕事をくださいな」
スッと両の手の平を差し出される。
サガ「わかりました。よろしくお願いします」
にっこりと笑うアテナに完敗したサガであった。
月が空にかかって、何時間か過ぎた頃――――
サガ「やった！！できた！！」
沙織「やりましたねっ！！」
机の上から書類が消え、２人で手を叩いて感涙した。
お互い、心身ともにボロボロである。
サガ「アテナがいらっしゃったおかげです！アテナがいらっしゃらなかったら、こんなにも仕事が速く終わらせることなど出来なかったでしょう」
沙織「いえ、私の力など大した事ありませんよ。サガが的確な指示をしてくれたからですよ」
サガ「このたびは本当にご心配をおかけしました。これで、何とか危機を脱する事が出来そうです」
沙織「良かったです。次のアテナが降誕した時、ギリシャがなかったなんてオチ、絶対避けたいですからね」
サガ「聖闘士の意義が根底から崩れ落ちますからね」
沙織「ていうか、ゼウスたちオリュンポス十二神に何を言われるか分かりません。彼らもどこにターゲットを絞ればいいのか迷ってしまうでしょう」
的というものが無くなってしまったら、放つ矢も放てないだろう。
サガ「しまった・・・もうこんな時間ですね。もうお疲れでしょう。あとは私が片付けますから、お休みになってください」
沙織「あら、そういうわけにはいきませんよ」
サガ「いえ、これ以上、アテナを働かせるわけには参りません。どうか、お休みくださいませ」
沙織「・・・・・やっぱり、忘れてるんですね」
その言葉には含みがあった。
怪訝そうな顔をしていると、沙織がポケットから何かを取り出し、サガの目の前に差し出した。
沙織「ハッピーバースデー、サガ」
開かれた手の平に載っているのは、白いリボンで結ばれた、メタリックピンクの袋。
サガ「・・・・・・え・・・・」
沙織「私からの誕生日プレゼントです」
サガ「仕事でいらしたのではないのですか！！？」
沙織「半分・・・と言ったはずですよ」
にこっと悪戯っ子のような瞳をして笑う。
沙織「残りの半分はコレです。」
サガ「・・・・・・・・・」
沙織「受け取って頂けませんか？」
サガ「も、勿論、頂戴致します。ちょっと嬉しくて言葉がでなかったので・・・」
誕生日プレゼントが、沙織からサガの手に移る。
シュルッとリボンをほどき、袋に手をいれる。
中から出てきたのは―――――
サガ「懐中時計・・・・・」
沙織「この間、壊れてしまったと聞いていたので」
サガ「覚えていてくださったのですか・・・！？」
沙織「そりゃあ、覚えてますよ。うっかりテンプラ油に落として、揚げてしまったなんて楽しい話、滅多にありませんから」
サガ「うっ・・・・・」
沙織「ジュワーッと勢いよく揚がって、とりだした時は、文字盤が油で浸ってたって言うじゃありませんか。ふふっ、思い出すだけで笑いが・・・！」
サガ「時計を油に入れちゃいけないという勉強になりました。結局、油で手を滑らせて、床に落として、トドメをさしてしまいましたから」
沙織「なので、サガに新しいものを持って欲しいと思いまして。特注品ですよ」
カチッと懐中時計の蓋を開いた。サガが瞠目する。
十二宮の火時計を思わせるように、アラビア数字と共に星座のエンブレムが刻まれている。銀河を思わせる色合いの中、ジェミニのエンブレムだけが金色に輝いている。
沙織「気に入っていただけましたか？」
サガ「勿論です！一生、大事にします！」
沙織「よかった！」
嬉しそうに沙織が微笑む。カチカチと時を刻む時計をみつめ、サガも口元を緩ませた。
沙織「今、何時ですか？」
サガ「午後９時のようですが・・・」
沙織「まだサガの誕生日ですね。お腹も空きましたし、遅いお夕飯へと繰り出しましょう。私がご馳走しますから」
サガ「そんな！アテナにご馳走になるわけには参りません」
沙織「誕生日の主役がおごる方が、あってはならないことです。今日はサガがこの世に生まれた大切な日。お祝いさせてくださいな」
サガ「・・・・・・・・・・」
ニコニコと嬉しそうに言われたら、うなずくしかないではないか。
サガ「ありがとうございます。では、このサガ、お言葉に甘えさせていただきます」
沙織「さぁ、街に行きますよっ！ガンガン金を使って、ギリシャに金を落としましょう！」
サガ「私の誕生日も祝えて、ギリシャのためにもなって、一石二鳥ですね」
沙織「残り３時間、徹底的に楽しみますよっ！なんなら、ギリシャを全部貸しきりにしても構いませんっ！」
サガ「そっ、それは・・・・・！！ギリシャはディズニーランドではありませんから・・・！」
本気か冗談か分からない会話を交わしながら、下の宮へ降りていく。
サガ「ところでアテナ・・・。今日が誕生日の者はもう１人いるはずですが・・・」
沙織「あら、一人一人別々に祝いますよ」
サガ「あ、では、ここにいらっしゃる前に祝ったのですか？」
沙織「いいえ、これから祝うんです」
サガ「あ、もしかして、カノンも一緒に食事に誘ってるんですか？」
沙織「一人一人・・・と言ったでしょう？」
サガ「・・・・・・・・」
沙織「この世には、まだ五月三十日ではない国がありますから」
満面の笑みでサラッと答える沙織。
アテナの慈悲深さと、スケールの大きさに、心から乾杯したサガなのだった。
あとがき
サガ、誕生日おめでとおおおお！！間に合ったよ！！毎日毎日、少しずつ書いた甲斐があった！！
珍しいサガ＆沙織。やっぱりアテナ最強伝説。
ギャグにするか、ほのぼのにするか迷って、半分半分な感じに。
ちなみに揚げ物の話は、ほぼノンフィクションです。
実際あげたのは、食べ物のデジタル温度計です。メンチか何かをあげて、刺して温度を測ってたら、ツルッと滑って油鍋の中に入っちゃいました。すんごい勢いでジュージュー揚がって、慌てて上げたんですが、表示部分が油に浸かっててすごいことに・・・。その後、デジタル温度計は別の人が落っことして、トドメ指しました（笑）
袋の色がメタリックピンクなのは、今年の母の日のプレゼントのラッピングがメタリックピンクだったからです。ちなみにプレゼントは、聖☆おにいさんと百鬼夜行抄の最新刊。とっても喜んでくれました☆
ギリシャ危機を食い止めてたのは聖域だったのかっ！！なんて、ツッコミをいれてみたり。ホントにギリシャが倒れたら、聖闘士の根本が崩れちゃうぜ。アテナＶＳポセイドンが成り立たなくなっちゃうよ（笑）
ハッピーバースデー、サガ♪
ＢＹ ＭＵＴＵＭＩ