GENZAI

星矢「俺は、デブデブを推すな。」
紫龍「俺もデブデブが良いと思う。」
瞬「僕もデブデブが一番だと思うな。」
長い長いコートにサングラスといういかにも怪しげな井出達。つるっぱげにしていないので、職質はされていないものの、妖しさは百％だ。そして、動物園にいるので、目立ち度は二百％だ。


ほんでもって、デブデブってのは、とっても肉付きが良く、ぴちぴちで、美味そうな




















アザラシである。


星矢「でもさ、どうやって連れていくんだ？」
紫龍「かっぱらったら誘拐罪だもんな。」
瞬「人間誘拐するよりはマシだけどね。氷河の誕生日祝と引き換えにブタバコ行きってこんなバカな話はないよ。」


アザラシかっぱらいが氷河の誕生祝？



全ては過去へと遡る・・・・・




氷河「アザラシが食いたい。」
紫龍　星矢　瞬「はあ!?」
氷河「俺、誕生日にアザラシが食いたい。」
誕生日の朝突然氷河は食卓の席でこう言った。
紫龍「アザラシって・・・・？」
氷河「アザラシ。お前アザラシも知らないのか？アザラシ科の動物の総称。オットセイに似ているが、外耳はない。四つあしは毛でおおわれ、爪がよく発達。ひれ状の後ろあしは魚の尾びれのように動く。体毛はかたく、綿毛はない。主に北洋と南極周辺にすみ、魚などを食べる。皮・脂肪が利用され・・・・」
星矢「いい！御託はいい！ついでにアザラシぐらい知ってるさ！何でアザラシなんだ？」
氷河「何か、無性に懐かしくなって食べたくなった。」
瞬「それでアザラシ？」
紫龍「ほ、他にはないのか？俺と瞬で作るからさ。」
氷河「ヤダ。アザラシ。」
瞬「氷河の好きなボルシチ作るよ。ピロシキでも。」
紫龍「カミュの故郷フランスのフランス料理でも良いぞ。日本料理なら寿司でも何でも。」
食の宝庫日本でもアザラシなんぞ滅多に入るものではない。何とか妥協案をだす二人。星矢が出さないのは、星矢は食べるだけだから。



氷河「ヤダ。アザラシ。アザラシが食べたい。」




無理が通れば道理が引っ込む。それに加え、主役は氷河。言う事を聞かざるを得なかったのだった。





星矢「で？どうすんのさ。」
紫龍「困った。氷河はアザラシは良く食ってたらしいからな。誤魔化そうにも誤魔化せないだろう。」
瞬「そうだよね〜〜〜イスラム教の人に、豚肉食えって言ってるのと同じだもんね。イスラム教の人って、凄く敏感なんだよ。これは鶏肉だよって言っても違うって匂いで判断するんだよ。」
星矢「何で知ってるんだ？」
瞬「いたから。アンドロメダ島で。結局栄養失調で死んじゃったんだけどね。」
星矢「笑えねえ話だな。」
紫龍「むしろ、俺は尊敬するがな。命を永らえることよりも、宗教を貫く事を選んだか。」
アッラーも神冥利に尽きた事だろう。
瞬「どうする？買う？」
紫龍「沙織さんに迷惑がかかるからな。知ってるか？アザラシって八十万はするんだぞ。」
星矢「すげえ！ガリ○リ君が十、百、いや、えっと・・・・沢山買えるな！」
初等教育に必要な期間を筋肉増強に取られてしまったのが悪いのか。あまりあるバカ発言に涙がでてくる。
瞬「どうにかして、タダでデブデブを手に入れないとね。」


デブデブ『ウィウィ』
デブデブが瞬を見て鳴いた。

瞬「ふふっ。美味しそう♪」
無邪気な声をだしておきながら、目はハンターである。または、ライオン。
紫龍「いつまでも獲物を見ていても、仕方ないな。何が打開策を考えないと。」
星矢「う〜ん・・・・・」

井出達、雰囲気ともに妖しさ全開の少年達が腕を組んで考え始める。


？？「キャアアアアア!!」


突然絹どころかプラスチックすら切裂くような女の悲鳴が響いた。
紫龍「な、何だ？」
瞬「何かあったのかな。」
自分達が何かあったわけではないが、胸がドキドキしている。十秒後、その声の理屈がわかるアナウンスが聞こえた。

『ええ〜〜皆さん！動物園から、大型のホワイトタイガー、ルルが、壊れたオリから逃げ、現在動物園を歩き回っています！皆さん、逃げてください！落ちついて。落ちついてください。出会っても死ぬ事はない・・・・・・と思われます。出会ってもオカシを忘れずに、落ちついて逃げてください。それではさようなら。』




野獣が開け放たれている状態で、誰が落ちついて逃げる事などできるものか。火事じゃあるまいし、誰がオカシなんて守るものか。
さようならってなんだよ。さようならって。あの世へか？そうなのか？

キーキーキャーキャー
霊長目ヒト科の動物達が、独特の奇声を発しながら逃げ惑う。


星矢「俺らは別に良いな。」
紫龍「ああ。聖闘士だからな。」
瞬「三人もいるし。」
野獣なんて目ではない世界で暮らしてきた三人にとって、別にホワイトタイガーは恐怖の存在でも何でもなかった。
瞬「でも、人が傷ついたらだめだよね。僕達が何とかしないと。」
紫龍「そうだな。ホワイトタイガーも人を殺したら、自分も殺されるからな。」
星矢「とりあえず、さっきの声がした方に行ってみよう。」
三人は、パニック状態の人達を掻き分けながら、さっきの女の声がした方へと向かっていったのだった。


星矢「げ・・・・・・・・」
紫龍「おお・・・・・・」
瞬「な・・・・・」

ホワイトタイガーは、とんでもなくでかかった。お前、何か化学操作しただろってくらいでかい。ホワイトタイガーの近くに人がばたばた倒れているが、これは、死んだフリ、または気絶しているのどちらかである。

職員「そこの人、危ないですから逃げてください！」
散弾銃を持った職員が星矢達に駆けつけた。
職員「このルルは、ビタミンAとビタミンE、カルシウムをふんだんに投与して育てたホワイトタイガーなんです。並大抵の虎じゃありません。」
星矢「ほんとにそれだけか？」
星矢の声は皆の声であった。
職員「とにかく、ルルは私達が始末します。早く逃げてください。」
星矢の言葉を完全にシカトしてずずっと三人をどかそうとする職員。
紫龍「ちょっと待て。ルルを殺すのか？」
職員「このままでは他の人達に害になります。」
星矢「ルルが可哀相だろ。」
職員「人命の方が大切です。」
職員がルルに銃口を向ける。
瞬「待って！」
職員「待ちません！」

ズドン！

職員「・・・・・・」
星矢「だから、早まるなって。」
職員は思わず銃を落とした。ショックで顔が引きつっている。それもそのはず、星矢が、弾を素手で受けとめたからである。
職員「あ・・・ああ・・・あな・・・あなた達は・・・・」
ショック過ぎて口がまともに動かない。
紫龍「ルルを殺さずに大人しくさせるから、ルルを殺さないでくれ。」
職員「そ、そりゃ、ルルは動物園の目玉ですし、殺さないですむならそれにこしたことはありませんが・・・・・・」
瞬「じゃ、黙ってみててね。」
そう言うと、職員の前に三人はでた。
瞬「グレートキャプチュアー！」
アンドロメダチェーンがルルを捕える。熊と虎ならどっちが強いのか分からないが、とにかくルルは拘束された。
星矢「ペガサス彗星拳！」
星矢がルルの目の前をパンチする。とてつもなく大きなクレーターができた。ルルは強大な力の前に頭が下がった。
紫龍「オマケ。」
ルルの鼻に何かをあてた。ルルは酔っ払った猫状態になった。この状態になるのは勿論マタタビである。


こうして、ルルはものの一分で大人しくなったのだった。




園長「いやあ、本当にありがとうございました。」
動物園の職員皆の前で三人は表彰された。ルルは大人しくなり、オリに戻った。
園長「あなた達の勇気には本当に頭が下がります。」
パチパチパチと職員と園長が拍手を送る。
星矢「いや、そんな俺達そんなつもりじゃないんですよ。」
紫龍「ルルを殺さずにしとめた礼が欲しい。」
瞬「僕達お願いがあるんです。」
園長「どうぞ！なんなりと！」
瞬「そう？じゃあ・・・・・・・・・」
にんまりと三人が微笑んだ。




氷河「うわ〜！凄い美味いよ。」
氷河が口に運んだ物に感涙している。氷河の誕生日パーティだ。
瞬「へへ、そうでしょ。僕達どんどん裁くから何が良いか言って言って。」
寿司ネタを握るように、目の前でどんどん料理をしていく。
氷河「じゃあ、刺身頼める？それとステーキ。」
瞬　紫龍「了解！」
包丁を握って、厚い肉を切り分ける。
氷河「それにしても、よくこんな良い肉があったな。どうしたんだ？」
星矢「俺達の尊い労働のおかげで手に入れたんだ。な！」
瞬「そうだよ。美味しく味わってね。天国にいるデブデブの為に。」
紫龍「デブデブよ、俺達は忘れない。君のようなアザラシがいたことを。」


楽しい夜は更けていく。
血肉に飢えた野獣の腹が満たされていく。
彼らの原罪があまりにも深く暗い事を神よ許し給え。
そして、生き長らえることができなかったデブデブに冥福を祈らん。





あとがき
氷河誕生日おめでとう。誕生日の癖に殆どでてこなかった・・・・・許してくれ。イラストではソロを飾ってるからさ。アザラシは美味いのかな。美味いような気がする。そうそう、瞬がアンドロメダ島で死んだイスラム教徒の話をしてますが、事実です。イスラムの人に豚肉と教えなくても彼らは匂いで感じ拒否します。ポトフとかシチューとか匂いがわからなくなるような料理でも。私の小学校にバングラデシュから来た子がいたんです。彼は絶対に食べませんでした。子供心にどんなに騙そうとしても見破った彼を凄いと思いました。（騙そうとするところからいって日本の宗教の信仰心のほどがうかがえるなあ）

ちなみに私、バングラデシュ語で自分の名前書けたりします。


ＢＹ　　ＭＵＴＵＭＩ