笑ってハニー

ミロ「ハッピーバースデー！！カミューーーー！」
カミュ「ありがとうミロ。」
出会って十数年、カミュの誕生日はミロのこの言葉から始まる。
カミュ「・・・・・で、プレゼントは？」
出会って十数年、カミュの誕生日はミロのプレゼントで破滅を迎える。
ミロ「まかせろ！今年は本当にカミュがよろこぶプレゼントだ！」
カミュ「・・・肩もみ券ならもうお断りだぞ。」

８年前のプレゼントだった。これを強制的に使われた結果、整形外科に搬送されたのはまだ記憶に新しい。

ミロ「肩もみ券じゃないって。」
カミュ「・・・・料理も結構だぞ。」

６年前のプレゼントだった。これを強制的に食べさせられた結果、内科に搬送された。忘れるには早すぎる。

ミロ「料理じゃないよ。」
カミュ「アロマテラピーもいらないぞ。」

４年前のプレゼントだった。これを強制的にかがされた結果、なぜか心療内科のお世話になることになった。カルテはまだ残っている。

ミロ「そんなんじゃないって。」
カミュ「・・・耳掃除もしてくれなくていいからな。」

２年前のプレゼントだった。これを強制的にやられた結果、耳掻きが突き刺さったまま耳鼻科に運ばれ、手におえないと外科にまわされた。ナースの間で話題になった。

ミロ「耳掃除でもないって。」
カミュ「じゃあなんだ？」
ミロ「これっ！」


ドンッ！


カミュの１つ頭違う背丈ほどの箱。誰か人が入れるくらいの大きさだ。
ミロ「これが！俺のプレゼント！」
カミュ「何が入ってるんだ？」
ミロ「あけてみてくれよ。」
カミュ「まさか、ロボットのお前がでてきて俺の代わりに家事する〜なんて言い出さないだろうな。」
ミロ「ま、近いかもしんないけど。」
最悪の事態をこれでもかと想像して箱をあける。
カミュ「・・・・・ん？」
意外だった。ロボットはロボットでも――――
カミュ「アンドロメダのロボットとは意外だな。」
ミロ「違うって。それ本物。」
カミュ「本物！？」
頬を触ってみる。柔らかくて温かい。
カミュ「よくできたシリコンだ。どこで買ったんだ？秋葉か？」
ミロ「もう！目をみてよ！そんな人形ある？」
じっと目を見てみる。緑色の双眸にじっと見つめ返してくる自分が映っている。
カミュ「実に精巧なガラス球だな。」
瞬「あなたも相当苦労してるんだね。」
パチンと瞬きをしてよいしょと箱からでる。
カミュ「おお、モーター音がなんて静かなんだ。それに随分高性能な人工知能がついてるんだな。お茶の水博士が作ったのか？」
瞬「そこまで疑りぶかいと反対にあなたの頭の方がおかしいように思えてくるよ。僕は正真正銘本物ですっ！」
ぷんっと鼻息を荒くして腰に手を当てる。これは本当に本物のようだ。
カミュ「アンドロメダが本物なのはわかった。で、だからなんだ？」
瞬「僕が今日１日カミュのお世話をさせていただきます。」
カミュ「え！？」
ミロ「俺のプレゼント！それじゃごゆっくり。」
カミュ「え、おい！」
残された宝瓶宮の主人が止める間もなくミロはメイドさんを置いて宮を去っていった。
瞬「ご主人様、コーヒーでもおいれしましょうか。」
カミュ「・・・本気で寒くなるからやめてくれ。それやるならデスマスクにしろ。」
瞬「イヤですよ。あの人相手だとオモチャにされそうですから。」
カミュ「確かに。」
楽しいことをみつけるのが劇的に上手な奴だ。玩具を飽きるまで遊び倒す性格なのは目に見えている。しかし、今は奴のことはどうでもいい。カミュは小さく嘆息した。
カミュ「せっかく来てもらったのに悪いが帰っていいぞ。ミロの奴につきあわされて悪かったな。」
瞬「いえ、これは僕が納得して来たんですから。帰るわけにも謝られるわけにもいきませんよ。」
カミュ「しかし・・・・・」
瞬「今日は１日お世話させていただくって決めたんですから、カミュもゆっくりしてください。」
いつのまにかはたきを持っていた。
瞬「一応これでも家政一般得意ですから。まずお掃除させていただきますね。」
もはや有無を言う権利はカミュにはなかった。


カミュ「・・・・・ピカピカだ。」
瞬「でっしょーー。」
自慢げに声をあげる。
カミュ「こんな綺麗な宝瓶宮は十数年見たことがない。」
瞬「ところどころ修復してるところがあったんですけど。椅子の足とか机の脚とか。」
カミュ「７年前のプレゼントだ。宮中を掃除すると豪語した奴が家具という家具をこれでもかと破壊したんだ。おかげでムウにゴジラでもやってきたんですかとびっくりされた。」
瞬「あの人家具の修繕やるんですか。」
カミュ「基本的に頼めばなんでもしてくれる。それに身内の恥さらしを世間に見せることなどできない。」
瞬「大変ですね。そろそろお昼ですが何か食べたいものありますか？」
カミュ「何でも構わないが・・・・」
瞬「一応言って頂かないと。今日はカミュのお世話にきたんですから一番偉いのはカミュなんですよ。材料見ないとわかりませんが、とりあえずなんでもできますよ。ポトフとかフランス料理もできますし、ボルシチもお手の物です。」
カミュ「・・・・じゃあボルシチ。」
瞬「わかりました、がんばって作りますね。」
にっこりと笑みを浮かべてキッチンに消えていった。人の家のキッチンでうまいものができるのだろうか。ハラハラしながら待つカミュだった。


カミュ「くっ・・・・・・」
でてきた料理に感動のあまり滝の涙を流していた。
瞬「ど、どうしたんです！？」
カミュ「いや、ちゃんと言った通りのものがでてきたからものすごくうれしくて。」
瞬「ふつーのことじゃないんですか？」
カミュ「ミロはシチューをフライパンで炒めるような男だ。６年前のプレゼントは特にひどかった。斬新にもケーキに味噌をぬったくってきたのだ。」
瞬「うわぁ・・・・・」
カミュ「もうこの世とは思えない味だった。シャカに頼まなくても六道巡りをできるほどだ。」
瞬「あなたの苦労は風の噂で聞いていましたけどそこまですごかったとは。食べてみてください。本場のものとは味は違いましょうが。」

パクッ

カミュ「・・・・・おいしい！」
瞬「本当ですか！」
カミュ「この、口中がおいしいと訴えかけるこの触感。飲みこんでも毒と感じない味。胃薬の必要がない日がこようとは、涙で前が見えん！」
瞬「どれだけミロがすごい料理をだしていたのか、僕にはもう想像もつきません。」
感涙しまくっているカミュを尻目になんだか背筋が寒くなる瞬だった。


カミュ「少し休んだらどうだ？」
その後洗濯もこなし、くるくると座ることなく働き続ける瞬をカミュが諭した。
カミュ「もう３時になるし、茶くらいいれるぞ。」
瞬「ですが・・・・」
カミュ「一番偉いのは私なのだろう？なら言うことをきくべきだ。」
瞬「はい。」
伝家の宝刀を使われては仕方ない。持っているものを置いてソファに座る。コポコポとカミュが新しい紅茶をいれた。
瞬「いただきます。」
口に運ぶ。顔がほころぶところをみるとこの味はどうやら合うらしい。瞬も休憩時間に入ったところで、聞いてみたかったことを口にした。
カミュ「どうして今日来てくれたのだ。ミロは君に何を言ったんだ？」
瞬「言ったっていうか・・・・土下座したんですよ。城戸邸で。」
カミュ「私のためにそんなことを・・・・すまなかった。」
瞬「そんな謝らないでくださいよ。別にミロは悪いことをしたわけじゃないんですから。」
カミュ「いや、しかし、奴は無邪気さのあまり想像をこえたことをすることがあるからな。」
瞬「それはわかる気がします・・・けど、ミロだってカミュを大事に思ってるからやるんですよ。」
カミュ「わかっている。大事に思っていなかったら私はもう少しネアカだったに違いない。」
瞬「それはどうかと思いますよ。確かにミロの破天荒なしわざで日陰に拍車はかかったかもしれませんけど、もともとネクラなタイプなんですよ、あなたは。」
カミュ「まあ、そうかもしれないが・・・サガよりはマシだと思う。」
瞬「確かに前科ないですもんね、あなた。まあそれは置いといて。ミロ、僕になんていって土下座したか知ってます？」
カミュ「いや。」
瞬「俺がやるといつもカミュに迷惑がかかる。だがお前ならカミュをのんびりさせてあげられるだろう。頼む！カミュのために、１日プレゼントになってくれって。」
カミュ「ミロ・・・・・・」
瞬「優しいですよね。よっぽどカミュのことが大事なんだろうなあって。ですから、カミュのお世話をしたいって思ったんですよ。」
カミュ「・・・・すまなかった。」
瞬「だから僕は・・・・・」
カミュ「いや、私は自分自身が情けないのだ。ミロをいつでもなんでも人を困らせていると感じてしまった自分が恥ずかしくて。好意をうがった目で見てしまって。アンドロメダを侮辱するようなこともしてしまった。本当にすまなかった。奴にも謝らなくては。」
瞬「僕は気にしてませんよ。ミロだって・・・・あなたが笑ってくれるのが一番うれしいんですよ。謝って欲しいわけじゃありません。カミュの誕生日じゃありませんか。今日一番幸せじゃなくちゃ。まだ今日は大分ありますけどラクできましたか？」
カミュ「ああ、何もしないでこんなに心が安らかだったのは初めてだ。」
瞬「それはよかった。」
うれしそうににっこり笑い茶をすすった。カミュもまたすすった。いつもの味がひときわ美味しいように感じられた。


茶の時間のすむ頃、カラスの鳴き声がした。
瞬「さて、またがんばろうかな。」
ガッツポーズをして立ち上がった瞬をカミュは止めた。
カミュ「いや、もう充分だ。帰ってくれていいよ。」
瞬「え、まだ夕食の準備があるじゃないですか。」
カミュ「これだけのんびりしたら充分だ。君も今日はご苦労だった。あとは、私がやる。」
瞬「でも・・・・」
カミュ「わがままを言ってすまない・・・・この手であのバカに食べさせてやりたくてな。」
視線をわざとずらして、頬をわずかに染めながら呟く。言わんとすることがわかった瞬は優しく微笑んだ。
瞬「・・・・・謝らなくていいんですよ。ミロきっと喜びますよ。僕はよろこんで帰らせてもらいます。どうぞ今日この日を幸せに過ごせますように。」
カミュ「今日は本当にありがとう。」
瞬「いえ、困ったらまたすぐ言ってくださいね。」
ヒラヒラと手を振りながら瞬は宝瓶宮を去っていった。


ミロ「カミュ！どうして帰しちゃったんだよ！！」
瞬が降りていったのを知ったミロが宝瓶宮にのりこんでくる。
ミロ「お前のことだから、俺が奴を無理矢理つれてきて迷惑かけさせたって思ったんだろう！！俺は問題ばっかおこすかもしんないけど、こればっかりは違うんだからな！！」
ひとしきり言った後、宮に漂う匂いとテーブルの上のごちそうに気づく。カミュは小さく嘆息して言った。
カミュ「私はお前の気持ちが理解できないほど鈍感ではないぞ。」
ミロ「カミュ・・・・・」
カミュ「誕生日プレゼント、とてもうれしかった。」
唇の端が持ち上がる。あまり見せてはくれない笑顔だ。とてもうれしい。けど、それならばとミロは聞いた。
ミロ「じゃあ、なんで瞬を帰しちゃったんだよ。」
カミュ「感謝を示すために、使うわけにはいかないだろうが。」
大きく嘆息し、タンタンとテーブルを叩いた。
カミュ「早く座れ。せっかく作った飯が冷めてしまう。まったく私の誕生日なのにお前の好物ばかり並べることにはるとは。全部、食ってくれないと私の気が晴れない。」
ミロ「・・・・・・うん！！」
満面の笑みで答え、椅子に座る。フォークにたくさんの具をさして口にねじこむ。
カミュ「うまいか？」
ミロ「ふん、ふはい！（うん、うまい！）」
カミュ「それはよかった。」

―――――今日一番の笑みがこぼれた。




あとがき
ある方からミロとカミュと瞬の話を読んでみたいと言われて、やりたいと思ったものの無為に時間がすぎてしまいました。なのでカミュ誕に使わせていただきましたーーー！なんつーか、シリアスなギャグですか？なんかあまりやらないタイプのスタイルですね。ノーマルモードにしようかと思いましたがそれだとあまりにもギャグが浮いちゃうんで戯曲形式にしました。ミロカミュはおきにキッズに入るほどスキで、ま、ギャグではいつも花形の２人ですがたまにはこんな感じになるのもいいかも。うーん、書いててわからなかったのがカミュの瞬に対する呼び方。アフロディーテとかはアンドロメダなんだけど、カミュは何て呼ぶんだろう。お前？君？わからん。結局アンドロメダ＆君にしました。他の方々はなんて呼ばせてるのでしょうか。この小説のつっこみポイントは個人的にはムウ。あいつ、カミュには修繕なんてのをやってやるんかい。確かに聖域でまじめなカミュにはイヤミとかしなさそうですけどね。


BY　　MUTUMI