あなたが大好き


アイオロス「う〜ん、アフロディーテの誕生日は何を贈ろうかなぁ」

人馬宮でのできごとである。執務中、アイオロスがウキウキと楽しそうな顔をしながら言った。サガは、はぁと溜息をついて窘める。

サガ「その書類、きちんと頭に入ってるか？」
アイオロス「入ってるよ。ポップコーン作り機にするか、アロマポッドにするか、予算は５０００円以内でなんとかしないとな」
サガ「ほんっとうに話聞いてるのか、お前は！３月のくそ忙しいこの時期に、呆けるのもいい加減にしろ！！」
アイオロス「わ、わかってるって！！大丈夫。ハンコをひたすら押せばいいんだろ？」
サガ「だったら、お前などいらん！！自動ハンコ押し機にでもやらせればいい！」
アイオロス「それナイスだな！！ぜひ作ってくれよ！！」
サガ「お前は次期教皇の自覚はあるのかああああ！！」

既に三徹目に突入しているサガが激怒した。執務机には処理しなくてはいけない書類が山のように溜まっているのである。

アイオロス「ま、まあまあ。落ち着け。今日中に終わらせればそれでいいんだろ？」
サガ「貴様の頭の中にきちんと入らねば意味がない！管理できない上司ほど無能なものはないんだぞ！！」
アイオロス「部下の誕生日は全て頭の中に入ってる！」
サガ「誰がどこぞの噺家になれと言った！！」



アイオロス「お前こそ、聞け！！」
サガ「・・・・！？」

ふ抜けてた顔から、一転して真面目なものになったアイオロスにサガは瞠目した。

アイオロス「お前にとっては、目の前の仕事の方が大切かもしれん。だがな、この世に生をうけた日を忘れられるものほど哀しいものはないんだぞ」
サガ「それはそうだが・・・私は別に忘れてなんか・・・」
アイオロス「俺にとっては、書類を頭にいれてみんなに尊敬されるより、誕生日をお祝いして喜ぶあの子の笑顔の方が嬉しい。サガが心配してる通り、仕事は期日までにきっちりやる。頭の中はそれから後でも構わないだろ？」

アイオロスの真剣だけど誇らしい笑みに、サガはとても弱かった。仕事は仕事でプライベートはプライベートで分ければいい、とか、仕事を早く終わらせれば誰も文句は言わないとか、いろいろ言う言葉はあったけれど、

サガ「・・・・・仕方ないな・・・」

と、苦笑するしかなかった。



貴鬼「ムウ様〜、この薔薇模様のクッションはいかがですか？」
ムウ「それくらいだったら、私が作った薔薇細工の方が、よほど精緻ですよ」
貴鬼「じゃあ、作ってしまいますか？」
ムウ「いえ、今年は買ったものって決めたんですよ」
貴鬼「どうしてですか？」
ムウ「私だって、選ぶ楽しみが欲しいですからね」
にこりとムウが微笑む。アテネの市街地では、ムウと貴鬼が雑貨屋でプレゼントを選んでいた。


アルデバラン「料理、焼肉じゃやっぱりダメだよな・・・」
デスマスク「そうか？あいつだって立派な男だろ？男なら肉だって！」
アルデバラン「ん〜、そうか〜？焼肉だとオシャレ感がないだろう？」
デスマスク「美味い料理が好きなわけであって、オシャレ感が必要ってわけじゃねえんだよ。ま、量より質タイプだから、モノは俺がいいもの仕入れてやるからよ」
アルデバラン「それは安心だな。よろしく頼むよ。プレゼントは？」
デスマスク「ま、一応長い付き合いだからな。軽く見繕ってあるよ。お前は何にした？」
アルデバラン「はは、悩んだ末に、猫の形をしたジョウロにしてみた」
デスマスク「お、それいいな！」
朗らかに笑いあう。金牛宮では、アルデバランとデスマスクが当日の料理のプランを検討していた。


アイオリア「お前、まさか骨壷だの数珠だの選んでないだろうな」
シャカ「君こそ、よもやプロテインだのダンベルだの選んでないだろうな」
アイオリア「そんなもの選ぶか。今年の俺は一味違う。ケーキ型のキャンドルだ」
シャカ「ほう。筋肉バカの誉れ高い君にしては、ファンシーなプレゼントではないか。どういう心境だ？」
アイオリア「俺だっていつまでも学習できない子供じゃない。俺の好みではなく、相手の立場にたってプレゼントを考えられるようにならなくてはな。死ぬたびにまっとうな人間になっていくお前のように」
シャカ「私は生まれた時から、まっとう１本だ。どこに堕落したところがあるというのか」
アイオリア「俺の言いたいのは人生ではなく、人格だがな。堕落というよりは、上から目線すぎだ」
シャカ「失礼な話だ。じゃあ、君も、次に復活する時は、『すみません、少々話をさせて頂いてもいいですか？』と言える人間になれるのだな？」
アイオリア「・・・それで負けたらどうする？」
シャカ「読者を落胆させた挙句に、ブロンズに後を託すのだろうな」
アイオリア「それは男としてできん！！」
シャカ「やれやれ」
飾り付けの品物を買いに訪れた店の前で、苦笑するシャカと荒ぶるアイオリアなのであった。


丁度この時、国外へ出張中の者もいた。シュラとカミュである。シュラは故郷スペイン。カミュはベルギーへと出向いていた。２人は宿泊先のホテルで、相談しあっていた。
シュラ「どうだ？当日までには帰れそうか？」
カミュ「多分大丈夫だろう。なんたって、アイオロスが遅刻は許さないって厳命つきだったからな。勅命も無茶のない行程になってる」
シュラ「サガのチェックが入ってるんだろうな。アイオロスの場合『スペインまで走れｖ大丈夫３０分だｖ』みたいな感じで、国境のことまるで考えてないプラン出してきたりするからな」
カミュ「いくら光速なら見えないからって・・・さすがにビザが押されてないのは誰にでもわかるからな・・・」
シュラ「さっき、サガに電話したんだが、ワインを買ってきて欲しいとのことだ」
カミュ「・・・そうか。だったら、フランスで一度落ち合おうか。お前も３日の後には終わるだろう？」
シュラ「あ、そうだな。ワインといえばフランスだものな」
カミュ「私の故郷でもあるし、多少の案内は心得てる。ついでだからケーキでも買って帰ろう」
シュラ「料理はアルデバランとデスマスクの担当じゃなかったか？」
カミュ「客が１４人もいるんだ。２〜３個ホールケーキがあったとしても問題ないだろう。ただでさえ食べ盛りなんだし」
シュラ「サガあたりが、『最近胃もたれして沢山食べられない』って言ってきたぞ。シオン様は『ミキサー食やゼリー食からの解放ヒャッホウ！』って喜んでらしたが」

カミュ「１５０年近く老人食だったらしいからな・・・。私だったらそれだけで死にたくなるな・・・」
シュラ「・・・豪勢なケーキを買って帰ろう。食えるうちに食っておいた方がいい」
カミュ「・・・同意」


童虎「ミロ、おぬしが花を選ぶといい」
ミロ「え、俺がですか！？」
童虎「わしはもう歳じゃ。流行の花などわからん」
ミロ「いや、花にそもそも流行などないでしょう。それに、歳っていうなら、老師の方がお若いのでは？」
童虎「精神は歳を食ってるからのう・・・。実のところ、誕生日も祝いすぎて飽きた感があっての」
ミロ「た、確かに２６１回も祝えば飽きもくるかもしれませぬな・・・それより、どうして、花を買いに行くのに俺を選ばれたのですか？シオン様の方が気心知れてるのでは？」
童虎「あやつは、わしに対して手厳しいからイヤじゃ。どうせ、マナーがなってないだの、センスが悪いだの悪態をつきよるからの」
ミロ「は、はぁ・・・。でも、悪態をつけるのも、老師を信頼なさってるからじゃ・・・」
童虎「当たり前じゃ。素の自分でいられるのもわしくらいじゃ。だが、それはそれ。これはこれ」
ミロ「・・・俺を選んだ理由にはなってないのでは？」
童虎「誰の個性にも合わせられるのはおぬしかと思ってな」
ミロ「・・・俺は気性が激しいし、アルデバランの方がいいのでは？」
童虎「あれとおぬしはまた違うな。アルデバランも人に合わせられるタイプだが、他人とどこか同化するタイプだ。しかし、おぬしは一体感がありながらも自分は自分、他人は他人と区別できるようなタイプだ」
ミロ「・・・・・・」
童虎「だから、ほどよい距離感でいいかのーと思ってな」
ミロ「それは・・・ありがとうございます」
童虎「まっ、わしもムダに歳は重ねてるからのー。おぬしの好きなようにせい。フォローはわしがしてやるからの。」
ミロ「わかりました・・・！じゃあ、店主！ここの薔薇、全部くれ！！」
朗らかに花屋の店員に告げるミロ。後ろから温かく見守る童虎。両手で抱えられないほどの薔薇を抱えて、帰宅する２人なのであった。


シオン「ええ、はい、こちらは万全です。それでは」
チンッと受話器を下ろす。
カノン「なんですって？」
シオン「日本は恙無いようだ。それと、１０日は一緒にギリシャに帰ってこられるとのことだ」
カノン「え、ホントですか！」
シオン「アテナもアフロディーテの誕生日をお祝いしたいんだと。なんと慈悲深い方だ・・・」
カノン「しまった！！グラスや食器が1人分足りない！よもや、星矢たちまで来るってことはないでしょうな！」
シオン「いや、それはないようだ。さすがに学校は休めないようでな」
カノン「あいつら学校に行ってるのか・・・そうだよな。まだ義務教育だもんな」
シオン「お前も学校に行きたいなら行かせてやるってアテナはおっしゃってるぞ」
カノン「２８で幼稚園からやり直すってのは勘弁願います。聖闘士に学歴はいらないですし」

シオン「アテナにミソペサかけてもらおうか？大学卒業して、それから解放してやれば、２８のままだぞ」

カノン「いや、そう言う問題ではないんで。俺の学歴より、食器の方が問題です。どうしましょう、レンタルしましょうか」
シオン「そんなのせずとも、アテナ用の食器があるだろう」
カノン「え、あるんですか！！」
シオン「当然だろ。ギリシャ随一の職人に作らせた、銀のカトラリーがな！」
カノン「それはすごい・・・！でも、何故銀？金の方がいいのでは？」
シオン「暗殺防止だ。銀は毒に反応するからな」
カノン「うちの場合、毒なんてもどろっこしいものじゃなく、短剣でぐっさりでは？」
シオン「やかましいわ！！ホント、短絡的思考しかいないな、ココは！！金田一少年も呆れるトリックだ！」

カノン「トリックっていうよりは、証言を捏造しただけですからね・・・」

シオン「アテナがいらっしゃるからには失敗は許さんぞ。クラッカーで気絶させるような真似はするなよ」
カノン「クラッカーで気絶するようなタマじゃないと思いますけどね・・・」
教皇の間にて、誕生日パーティ企画統括を担当しているシオンとその補佐のカノンなのであった。



チンッ。

沙織「ふふ・・・」
アフロディーテ「嬉しそうですね、アテナ」
沙織「ええ。アフロディーテ、あなたが帰国する時は、私も一緒に行きますからね」
アフロディーテ「えっ！？何かありましたか！？邪悪なコスモでも？」
沙織「いえいえ、そんなものはカケラも。むしろ、幸せなコスモかしら」
アフロディーテ「・・・・・はぁ」
沙織「一週間の長期出張ご苦労様です。あともう少しですから、頑張りましょうね」
アフロディーテ「御意・・・！」
胸に手をあて、軽く頭を下げるアフロディーテ。わざと沙織の補佐を指名し日本へ向かわせ、グラード財団や城戸邸など引き釣り回して一週間。自分の誕生日を覚えているのかいないのか・・・。

沙織「私、あなたの１番の笑顔を見てみたいわ」
アフロディーテ「は、はあ、お見せしましょうか」
沙織「いえ、いいです。今の笑みは、キレイな笑みだもの」
アフロディーテ「はぁ・・・」
怪訝そうなアフロディーテに、沙織はフフッと笑った。

３月１０日は、最も幸せに満ちた日でありますように。



あとがき
よっしゃーーーーーー！！アフロディーテ誕当日アップ！！
アフロディーテの出番、全然ないけど、もうそれは私の作風だからしょうがないや！（主役がテーマなのに、でてこないことが多い；；）
おめでとうアフロディーテ！！１２年間祝わなくてごめんね！！
今まで祝いたかったんだけど、企画やってたり、どうにもうまく書けなくてスルーしちゃったんだ！悪いとは思ってたんだよ！
今回、いつもとは違うペアで会話させてみましたｖロスとサガだけはいつも通りだけど・・・。いやはや、内容を決めずに書き始めて、ロスとサガに喋らせてから『あ、このストーリーいいかも』って思ったから、ロスとサガだけ定番なんだよ（笑）ええ、私はいつもいきあたりばったりのストーリー構成です；；書いて気付いたけど、私って、手作りのバースデー多いな。お店でパーティやったりしないんだ。ついでに、いっつもみんなでさせるんだよね。これは、誰もカップリングでないからか・・・。紫龍×春麗とかは２人っきりでやったりするからのぅ・・・。ハッピーバースデーアフロディーテ！！どうか、最高の誕生日を！！

BY　　MUTUMI