中華戦争

北欧の国アスガルド。冬将軍が国を支配している。しかし、支配をしていても朝はやってくるし、日は昇らなくてもお腹は空く。ワルハラ宮でも、食事の時間だった。今日は違う国の文化を味わおうと中国料理である。

フレア「今日は中国料理なのね♪」
ヒルダ「中国料理は身体にいいですからね。」
フレア「杏仁豆腐も有る♪」
ルンルン気分で食卓につくフレア。フレアは杏仁豆腐が大のお気に入りである。
ハーゲン「フレア様。良ければ私のもお食べ下さい。」
フレア「いいの？ハーゲン。」
ハーゲン「勿論です。お取り下さい。」
フレア「じゃあ、私のチンジャオロースをあげるわ。」
フレアが皿をハーゲンに渡そうとする。それを制したのはヒルダだった。
ヒルダ「フレア、ハーゲンが優しい事を良い事に我侭を言ってはなりませんよ。」
フレア「お姉様。」
ヒルダ「フレア、人は皆平等なのです。自分に与えられた物に感謝して食べるのです。いくら好物だからと言って、他人の物を欲しがったりしてはいけません。」
フレア「でも・・・・」
ヒルダ「それに、チンジャオロースをあげるというのは好意ではないでしょう？フレアはピーマンが嫌いだから、ハーゲンに食べさせようと思っているのでは有りませんか？」
ハーゲン「例えそうであっても私は構いません。フレア様が嫌いな物を無理に食べる必要はありません。」
ヒルダ「迷惑でしょう？」
ハーゲン「そんなこと有る筈がありません。フレア様の幸せは私の幸せです。」
フレア「ハーゲン、チンジャオロースあげる♪」
ハーゲン「光栄です。」
ヒルダの言葉はすり抜けて、結局杏仁豆腐とチンジャオロースは交換された。
ヒルダ「それでは、日々の糧が得られる事を我らが神オーディーンに感謝し、アスガルドの平和を願いましょう。いただきます。」
全員「いただきます。」
手を合わせた後、箸を持って食べ始める。他愛の無い会話を交えながら食事が始まる。しかし、周囲にあまりとけこんでいない人間がいた。
ヒルダ「ミーメ。」
ミーメ「はい？」
ヒルダ「美味しくありませんか？」
ミーメ「そんな事は決して。」
ヒルダ「ですが、いつも静かに食べているし、美味しくないのなら文句を言ってください。」
ミーメ「美味しいですよ。」
微笑んで見せるミーメ。
ヒルダ（話しかければちゃんと答えるし、会話ができないわけではないけれど、感情を露にするような場面を私は見た事が無いですね。どうかならないでしょうか・・・・）
考えこむヒルダ。いろいろと模索している中、蒸篭の中の小龍包が目に入った。
ヒルダ（そういえば、ミーメは小龍包が大好物だった筈・・・・・）
ヒルダ「ジークフリート。」
ジークフリート「はい。何ですかヒルダ様。」
ヒルダ「ちょっとお願いがあります。」
ヒソヒソヒソと耳打ちするヒルダ。提案を聞き、その提案に一度は反対したもののヒルダの純粋な気持ちに心打たれ、承諾したのだった。

ミーメ「うん？」
自分の蒸篭に手をのばしたミーメが不思議そうな声をあげた。
ミーメ「私の小龍包が無い。」
アルベリッヒ「食べたんじゃないのか？」
ミーメ「いや、私は好物は最後に食べる方だ。」
ヒルダ「誰かが取っちゃったのでしょうか。」
このヒルダの発言は故意であった。
ミーメ「誰だ？とったのは。お前かフェンリル。」
ヒルダの言葉に感化されたミーメがガタンと席を蹴った。
フェンリル「何で俺になるんだよ。」
同じく席を蹴る。
ミーメ「ギングの分が足りないから私のを取ったんだろう。」
フェンリル「そんな事しないよ。」
ミーメ「ギングは口をモゴモゴさせてるじゃないか。」
フェンリル「それは俺の小龍包だ。」
ミーメ「証拠は無い！」
フェンリル「お前だって無いだろう。」
ミーメ「とりあえず、お前の物・・・・そうだな餃子を貰っておくぞ。」
そう言って箸で餃子を取り、口に入れた。
フェンリル「あぁ！俺が大事にとっておいた餃子！一口で食っちまいやがって。誰だよ、ミーメの小龍包食ったの！アルベリッヒか！」
アルベリッヒ「何で俺になるんだ。」
フェンリル「ミーメの席に一番近いだろう。」
アルベリッヒ「俺はお前らみたいに食べ物に執着しない！そこの土地の収穫物とかは興味があるけどな！」
フェンリル「なら文句無いだろう。お前のスープ貰うぞ。」
皿をがばっと分捕ると一気に口の中に入れた。
アルベリッヒ「貴様！折角の鱶鰭入りスープを飲みやがったな！高級品だぞ！これは価値のあんまり無い安いやつだけどな！お前分かってるのか！」
フェンリル「分かるかそんなの！お前みたいに守銭奴で野心家じゃない！」
アルベリッヒ「俗世間離れした人間に言われたくないわ！狼少年！」
フェンリル「狼少年のどこが悪い！」
アルベリッヒ「大有りだ！狼に育てられた人間は碌な育ちじゃないと聞くからな！アマラ、カマラ然りだ！」
アマラ、カマラとは、実際に狼育てられた女子のことである。
フェンリル「俺はフェンリル家の息子だ！」
アルベリッヒ「没落したけどな！」
フェンリル「両親が死んだから没落したわけで落ち度は無い！」
アルベリッヒ「トール！」
トール「何だ。」
アルベリッヒ「犯人はお前だろう！」
トール「何で俺になるんだ。」
アルベリッヒ「身長が3.5メートルもあるんだ。良く食べるだろう！それぽっちじゃ足りないんじゃないのか？」
トール「俺は与えられたので満足してる。別にミーメのをとろうとか思ってない。」
アルベリッヒ「じゃあ、どうしてお前のは食事の減りが遅いんだ！」
ビシッと指を指す。トールの皿はまだ結構料理が残っていた。
ミーメ「そうか、君は他の人達からも料理をくすねていたんだね。」
トール「誰がするか。それに腕の細い、食べなきゃ倒れてしまいそうな華奢な人間のとるわけないだろう。もし本当に取るならシドから取る！」
ミーメ「君、私を今までそんな目で・・・・？」
シド「何でだ、トール。」
トール「不意打ちはお前の得意技だろう。」
シド「私は他人の物を盗むような教育はされていない。盗むほど不自由した事も無いしな。」
バド「おい・・・・・俺へ向けてるか？」
シド「そんな、まさか。」
アルベリッヒ「そこ！痴話喧嘩はやめとけ。トール、話をそらすな。何でまだ料理が余ってるんだ？」
トール「俺はちゃんと三十二回噛んでから飲むようにしてるからだ。」
フレア「偉いわトール。」
アルベリッヒ「そんな鈍かったら出来立ての料理も冷めてしまうわ！慰謝料として春巻き全部貰うぞ！」
箸でごそっと持っていくアルベリッヒ。
トール「慰謝料とはなんだ慰謝料とは。濡れ衣にも程がある！お前のやったことは泥棒だぞ泥棒！」
アルベリッヒ「お前だって元山賊だろう？食う食われるは至極当然の事。」
トール「今は山賊は廃業している。神闘士としてワルハラ宮にいるんだし。訴えるぞ！」
アルベリッヒ「俺はアルベリッヒ家の子息だぞ。有力な弁護士を雇って、訴えがえしてやる。」
随分現実的に物事が進んでいく。神闘士が訴え合うという事が非常に情けない行為と言う事に気付いていない。
トール「フェンリルに取られたからって俺のから取ってく必要は無いだろうが。俺だってこの巨体を支えるのにこれっぽっちの食事で満足させるのをどんなに苦労してるか！チビが羨ましい。満足できる努力しなくてすんで。」
トールの台詞に今まで楽しく傍観していたフレアの心に火がついた。
フレア「今チビをバカにしたわね！その発言は全てのチビに対する差別よ！」
トール「別に差別したわけでは・・・」
フレア「いいえ！立派な差別よ。聞きなさい！あなたは男性で、私は女性です。男性が女性より背が高くなるのはしょうがないこと。それは事実です。しかし、あなたより高い身長の持ち主なんていないわ！私が首をつりそうにならないとあなたの顔なんて見えないのよ！悪かったわね！小さくて！」
トール「別にフレア様をバカにしては・・・・」
フレア「私だって小さくなりたくて小さくなったわけじゃないわ！」
ハーゲン「フレア様、フレア様はチビではありません。トールが異常なだけです。」
トール「異常だと!?俺を差別するのかハーゲン。」
ハーゲン「そんな巨体普通じゃ考えられない。どこか病気か、突然変異じゃないのか？」
フレアが関係すると、周りが見えなくなるハーゲン。喧嘩は、トールＶＳフレアからＶＳハーゲンにスルーしていった。
トール「俺を化物みたいに言うな！」
ハーゲン「フレア様をけなす奴は俺が許さん。」
トール「黙ってろよ氷菓子！」
ハーゲン「んだと？」
トール「有名な会社の名前だろ！ハーゲン・○ッツ。」
ハーゲン「俺を侮辱する気か！」
トール「喧嘩吹っかけたのはお前だろ！」
ハーゲン「元はと言えばお前だ！」
トール「ええい、もう元かはどうでもいい！お前の饅頭もらうぞ。」
トール専用箸で全部持ってくトール。
ハーゲン「貴様〜!!シドバド！お前ら双子なんだから一つで十分だろう！お前らの杏仁豆腐よこせ！」
バド「無茶苦茶言うな！」
シド「双子でも、身体は別々なんだからな！」
ハーゲン「この間身体がくっついた双子が生まれただろう！そう言う風に考えればお前らは一人だ！」
シド「それこそ侮辱だ！」
バド「そんな人間ちゃんと生きられるわけが無いだろう！」
ハーゲン「ええい！よこせ！」
席を立ち、バドの杏仁豆腐に手をかける。
バド「誰が渡すか！」
神闘士二人が杏仁豆腐の皿を掴む。破壊とは原子を砕く事にある。二人の本気の力に碗が耐えられる筈が無かった。カチャンと音を立て、杏仁豆腐は何と言う偶然かフレアの顔にかかったのだった。
フレア「冷たい!!」
ハーゲン「フレア様、大丈夫ですか？」
ゆであがってたハーゲンの頭が瞬時に冷えた。
フレア「べとべとじゃない。」
ハーゲン「申し訳ありません。」
さっとハンカチをさしだす。フレアはハンカチを受け取り、入念にシロップを体からふき取った後で叫んだ。
フレア「杏仁豆腐を無駄にしたわね！まだ食べられたのに！杏仁豆腐を笑う者は杏仁豆腐に泣くと言う言葉を知らないのね！」
ハーゲン「ちょっとお言葉が違うと・・・・」
フレア「黙ってなさい！」
ハーゲン「はい・・・」
フレアに言われると反論できないハーゲンは小さくなり席についた。
フレア「一体誰です！ミーメの小龍包を盗んだのは！おかげで大事な大事な杏仁豆腐が一つダメになってしまったではないですか！」
ミーメ「それってちょっと観点、論点が違う・・・・」
フェンリル「やっぱ裏切り者のアルベリッヒだろ！」
アルベリッヒ「不意打ちが得意のシドだろ！もしくは卑怯者バド！」
バド「ふざけんな!!」
喧喧諤諤口喧嘩が始まってしまった。収まりそうに無い。このままだと、乱闘まで起こりそうだ。
ジークフリート「ヒルダ様。」
ヒルダ「何です？ジークフリート。」
ジークフリート「あの、険悪なムードですが・・・・」
ヒルダ「あら、こんなに楽しそうなのは初めてではありませんか。」
ジークフリート「楽しそう？そうとは思えませんが。」
ヒルダ「皆が自分の思いを赤裸々に言う。それは素晴らしい事です。わだかまりを無くします。ミーメも感情を露にして。喜ばしい事です。」
ジークフリート「これは何となく溝を深めてる気がしますが・・・・」
ヒルダ「雨降って地かたまるですよ。」
ジークフリート「日本の諺を良くご存知で。」
ヒルダ「オーディーンの地上代行者ですから。」
微笑みながら食事を続ける。ジークフリートは口の端に残った皮をナプキンでそっと拭うと、もう食事の事なんか忘れていがみあっている神闘士＋フレアを目の前にして喧嘩の原因として心から謝りながらも黙殺し、食事を続けたのだった。

あとがき
神闘士主役です。食べ物の恨みは怖いを全面に出してみました。どうでしょうか。ヒルダとジークフリートだけが黙々と食べているシーンというのもちょっと不気味ですね。何でジークフリートが怪しまれないかはちょっと別にして。真相はヒルダとジークフリートによる共犯です。今回の裏シナリオ。ギングは、テーブルの下でギングの飯を食べてますが、フェンリルは自分が美味いと思ったものを上げたりしてます。

　　　　　　　　　　　BY　　MUTUMI