仏蘭西戦争

北方の国アスガルド。極度の寒さの為、一年の内三分の一は草が全く生えない土地。勿論貧乏。そうであったとしても、家庭は穏やかである。普段は節約し、慎ましく暮らしているアスガルドの国民だがたまに貧乏なりの贅沢をする。レストランで食事をしたり、服を買ったり。土地だけは異常にあるワルハラ宮。ワルハラ宮でも、凄く久し振りに贅沢をしていた。

フレア「フランス料理なんて食べるの初めてよ。」
嬉しそうにフレアが席に座っている。
アルベリッヒ「どういう風の吹き回しですか？フランス料理なんて贅沢の極みではないですか。貧乏性の貴方がどうして？」
ジークフリート「お前！」
アルベリッヒ「本当の事だ。」
悪態をつくアルベリッヒであったが、ヒルダはにっこりと微笑む。
ヒルダ「いいではないですか。たまの贅沢も。」
アルベリッヒ「まあ、こちらとしても願ってないことですが。」
ヒルダ「今日は思いきり楽しみましょう？ね、アルベリッヒ。」
アルベリッヒ「は、はい。」
理由を何も言わないヒルダに多少の疑問を感じたが、これでフランス料理をふいにするわけにもいかないので、大人しく席についたアルベリッヒだった。
フレア「お姉様、私フランス料理って良く知らないの。どうすればいいの？」
ヒルダ「さあ、私も良くは知らないのです。アルベリッヒ。」
アルベリッヒ「知らないのなら、そういうことしないでください。フランス料理はコース料理からなっており、多数の料理が楽しめます。魚や肉、鳥など万別です。とりあえず、デギュスタシオンならばバカでも楽しめるでしょう。」
フェンリル「俺のことか？」
アルベリッヒ「さあ。」
ヒルダ「だ、そうです。一つずつメニューの中から選んでください。」
パラッとメニューを捲る。なるほど、フランス語尽くしだが、ちゃんとアスガルド語がふってある。
ハーゲン「ここまで本格的のも珍しいな。」
ジークフリート「ああ。」
フレア「ハーゲン、美味しかったら分けてね。」
ハーゲン「勿論です。お嫌いなものもお引き受けします。」
シド「フレア様には甘いんだから。」
ミーメ「いいじゃないか。」
ここまでは所謂上流階級の人達である。ジークフリートとハーゲンは、元は貧乏だったかもしれないが、ヒルダとフレアについて十年近く。ワルハラ宮で過ごす年月の方が長く、ある程度の思慮がある。ミーメは英雄フォルケルに育てられた。フォルケルは剣だけでなく、一応の礼儀作法も教えたのでミーメも准ずることができる。勇者だけあって暮らしは裕福であったし。シド、アルベリッヒは言うまでもなく貴族出身だ。さて、ず〜〜〜っと貧乏暮らしだった他の者の反応は全然違った。
フェンリル「ナイフとフォークがこんなに沢山あるなんて面倒だ。いいじゃん、一本ずつで。」
トール「全くだ。ソースだなんだと余計な物が多すぎる。肉は焼くだけで十分な旨みが出る。」
バド「分かる分かる。ウサギのグリル美味いよな。」
野生児のフェンリル、バド、トール。彼らには理解しがたい物があるだろう。とりあえず、上から選んだ。
アルベリッヒ「ヒルダ様、飲み物はどうしますか？」
ヒルダ「適当で良いですよ。安くて美味しいのをお願いします。」
アルベリッヒ「ワインはノンアルコールにもできるそうですが。」
ヒルダ「では私とフレアにはそれを。あなた達はお好きにどうぞ。」
アルベリッヒ「いいのですか？」
ヒルダ「今日くらいは。飲み過ぎで急性アルコール中毒にはならないようにね。」
アルベリッヒ「・・・じゃ、適当に・・・・」
アルベリッヒはおつきのソムリエにワインを頼んだ。しばらくするとワインと共に前菜が運ばれてきた。自分で選んだ物が並べられる。
フレア「あら、ハーゲン。あなたもマリネなの？」
ハーゲン「はい。」
フレア「私と同じね。フフッ。」
同じ物を頼んだと喜びでにこりと微笑む。
ジークフリート「ヒルダ様はアスパラガスですか？」
ヒルダ「ええ。アスパラガスの緑が好きで。ソースとよく合ってますよ。ジークフリートと同じですね。」
ジークフリート「私も同じ物です。」
ヒルダ「美味しいですものね、アスパラガスは。」
にっこりと微笑む。フレアと態度は同じだが、中身が違う。やはりかなりの鈍感である。
ミーメ「君はやはりそれか。」
アルベリッヒ「悪いか？」
ミーメ「悪くはないが、君らしいと思って。」
アルベリッヒはキャビアを選んでいたのだった。
アルベリッヒ「清貧を愛するヒルダ様が珍しく贅沢を行動に移されたのだ。こういう時を外せば一生後悔する。」
ミーメ「それは分かるが・・・・」
アルベリッヒ「俺ははっきりいって今回のことまだ信じられん。あの、衣服、食事、に全く執着心のない人が、なんの考えもなしに、ただたまの贅沢ということでフランス料理を選んだとは考えられんのだ。」
ミーメ「それは言えるね。」
アルベリッヒ「きっと、何かある。まあ、毒を入れるとかそんな生易しい物ではなく、腹黒い何かが・・・・」
シド「ヒルダ様を悪く言うな。」
ミーメ「シド。」
シド「たまの贅沢だって良いじゃないか。それくらいしたって罰が当らないと思う。アテナなんて、噂では毎日キャビアだのフォワグラだの食べてるらしいぞ。」
アルベリッヒ「そりゃ、世界に名高いグラード財団の総帥なんだからな。」
ミーメ「何故、アテナがそういう職業についてるのか全く疑問だがな。」
シド「ん？兄さんどうかしましたか？」
バド「あ？」
シド「何だか、眉間に皺が寄ってますが・・・・」
ひねくれて、シドを妬みまくっていたあの頃の顔によく似ている。つまりは怒っているのだ。
バド「心配するな。ちょびちょび食べてる所為で腹が余計に空いていらついてるだけだ。」
トール「こんなつまらん前菜じゃなくて、肉を最初からだせ。」
フェンリル「ギングだってこんなのやだって言ってる。」
ミーメ「少し落ちつけ。コース料理だから長いぞ。」
シド「ワインでも飲んだらどうですか？気付けに。」
バド「貰おうか。」
トール「俺にもよこせ。」
アルベリッヒ「結構高価だからじっくり味わえ・・・・って何するんだ！」
じっくりと味わう為にワインを口から飲んでいたトールであった。
アルベリッヒ「何してるんだよ！」
トール「何が？」
アルベリッヒ「ワインを口から飲んでどうするんだ！」
トール「悪いか？」
アルベリッヒ「悪いわ！」
バド「俺は気にしないけどな。男同士だし、そんな事気にするなよ。俺にもよこせ。」
トール「ああ。」
ワインをバドに渡し、バドもまたぐいっとワインをラッパのみする。
アルベリッヒ「馬鹿か！」
ミーメ「馬鹿だよ。」
フェンリル「俺にも飲ませろ。」
バド「これ美味いぞ。いい白だ。」
フェンリル「本当だ。」
まるで、ワインが焼酎の様に思えてきた三人であった。イメージ的にはぼんやりしたものだったが、シドとミーメの脳裏には、日本の酔っ払い親父のイメージが浮かんだのだった。
アルベリッヒ「フランス料理の高貴な雰囲気がこいつらの所為でぶち壊しだな。」
ミーメ「次元を忘れたあそこは前菜だけで盛りあがりまくってるが。」
フレアとハーゲン、ヒルダとジークフリートは、そのままフランス料理店においてきても成り立つような雰囲気である。もともと美男美女だし。
ミーメ「それで、このワインはもう飲めないぞ。新しいの開けてくれるか？」
アルベリッヒ「頼むしかないだろう。お前らどんなワインがいい？」
ミーメ「飲んでないとは言わないがそんなに詳しくないぞ。」
シド「たまにやっつけで昼間にくいっといくが。」
アルベリッヒ「ヒルダ様に対してどうしても納得のいかんときに赤を飲む。白よりは赤だな。」
別に神闘士が不良なのではなく、アスガルドでは至極普通の事である。アスガルド憲法第二十四条飲酒は十四歳から。ちなみに喫煙はアスガルド憲法第三十二条喫煙は二十七歳から。ちなみに成人は十八歳。ド貧乏な為、寿命が少々短い為である。喫煙と飲酒の制限にばらつきがあるのは、シベリアと同じ理屈である。寒いので、酒を飲んで身体を温めるのである。喫煙は飲酒と違って何の良い効果も示さないので、二十七歳と決められている。
ミーメ「私のお勧めは『アスガルドの露』だな。ボディがしっかりしていて、結構いいぞ。」
シド「それ美味しいよな。『オーディーン』もいけるぞ。喉ごしがきりっとしているんだ。」
アルベリッヒ「『北極星』は俺的には結構ヒットだ。ちょっと桃色がかったロゼで微かな甘味がする。」
ミーメ「その辺でいいんじゃないか？」
アルベリッヒ「フランス料理にはちょいと力不足だとは思うが。」
シド「慣れ親しんでる酒の方が酔いにくいだろう。」
アルベリッヒ「それじゃ、さっきの三本と＋αでいいな。すまない、ソムリエ！」
こうして、ソムリエにワインを見繕ってもらい、前菜は終わりを告げるのだった。

ミーメ「スープが来たぞ。」
アルベリッヒ「オニオングラタンスープだな、やっぱり。」
シド「ビシソワーズも美味いぞ。」
ミーメ「コンソメやポタージュもいいぞ。」
落ちつきのある会話である。
フェンリル「スープって言ったらあれだよな。肉を直火で焼いてでる美味いスープ！」
バド「ああ。貝のスープも美味いぞ。」
トール「白湯に肉の欠片一ついれるだけで立派なスープになったものだ。」
フェンリル「乾燥した奴だな！」
トール「そうそう！」
流石に北欧だけであってスプーンの使い方はなんとかなっているが、会話がとてつもなく原始人である。いつのまにか、一人一本ワインを手にしてるし。
アルベリッヒ「シド。あいつはお前の兄さんだろ？少しは教育できんのか？」
シド「まあ、長い間ああいう生活スタイルだったようだし、無茶なことはできん。」
ミーメ「まあ、今から貴族になれというのも、ライオンを動物園につれこむような物か。」
席が全く離れていないのにもかかわらずまるで別世界のような会話である。ここで忠告しておきたいが、神闘士、別に仲が悪いわけではない。いつものワルハラ宮殿の食事では、普通に全員対等に普通に会話している。
アルベリッヒ「凄いワインあけてないか？」
ミーメ「うむ。もう六本目か？」
シド「倒れないといいが。」
アルベリッヒ「大丈夫だろ。野生児は酒にも強い。」

ヒルダ「ねえ、ジークフリート。」
ジークフリート「何ですか？」
ヒルダ「何があったとしても何にも関わらずに私の側にいて欲しいのです。」
ジークフリート「は。」
ヒルダ「この夕食の間だけですけれど。」
ジークフリート「は？」

スープが終り、主菜である。
バド「で、何でこれっぽっちなんだ！主菜が！」
フェンリル「腹が減って仕方が無いぞ。」
トール「しかもぐちゃぐちゃした感じだ。生肉みたいだ。」
かなりキレ始めている。再び忠告するが、いつもはもっと大人しい。
ミーメ「ぐちゃぐちゃなのは、タルタルステーキだからだ。三人共、肉汁溢れる肉らしい肉が好きなくせにどうしてそんな物を選んだのだ？」
バド「上から選んだからだ。」
シド「メニュー良く読みましたか？」
バド「お前、俺が貧乏育ちだと思って馬鹿にしてるのか？」
シド「まさかそんな！」
アルベリッヒ「メニューに関わらず、きちんと読む事は、大切だろ。貧乏も金持ちも関係ない。」
フェンリル「ギングも食べないしな・・・・腹は減る一方。フランス料理って何だか拷問だ・・・・・」
バド「・・・・・・」
すっとバドが席を立ちあがった。
シド「兄さんどうかしましたか？」
バド「狩りでは取ったり取られたりは当たり前だ。お前らのよこせ！」
フェンリル「俺にも参加させろ！」
トール「俺も限界だ！」
とうとう理性が切れた野生児たちであった。
ミーメ「何馬鹿言ってるんだ！」
アルベリッヒ「これは狩りじゃないわ！」
シド「まだ、デザートも残ってますから、少し理性を保ってください兄さん！」
野生児「問答無用！」
席を離れて臨戦状態。ヒルダのいる前で大変無礼であるがヒルダは変わらず笑顔である。

ジークフリート「あの、ヒルダ様？」
ヒルダ「どうしました？ジークフリート。」
ジークフリート「アルベリッヒ達が、食事を放棄して戦闘をおっぱじめようとしてますが・・・・・止めなくて良いのですか？」
ヒルダ「良いのですよ。」
ジークフリート「本当に？」
フレア「ジークフリート、心配は要りませんわ。」
ジークフリート「フレア様。しかし、ヒルダ様が傷つかれては大変です。やはりやめさせた方が・・・・」
フレア「私達には、ジークフリートもハーゲンもいるんですもの。例え、流れ弾がやってきても守ってくださるんでしょう？ねえ、ハーゲン？」
ハーゲン「勿論です。」
フレア「それに偶然ではありませんわ。全て必然です。だから、こうなったところで、お姉様は喜びこそすれ、悲しみなどしませんわ。」
ジークフリート「それはどういうことで？」
ヒルダ「私は、皆さんが本音で語らうのが好きなのですよ。ワルハラ宮は会話が少なくて・・・・神闘士は特にね。和気藹々としたものが足りないでしょう？」
ジークフリート「それは・・・・・そうですが・・・・・神闘士がこのような醜い乱闘を・・・・しかもヒルダ様の御前で・・・・」
ヒルダ「私の目の前で起こる様に、わざわざフランス料理を選んだのです。」
フレア「お姉様ったら知能犯♪」
ヒルダ「ほほほ。それではフレア、目の前の料理争奪戦を楽しみながら、食べますよ。」
フレア「ええ、お姉様。ハーゲン、デザートのタルト、私に下さらない？」
ハーゲン「喜んで。」
ジークフリートはまだ事が理解できず目を白黒させる。
ジークフリート「おい、ハーゲン。」
ハーゲン「なんだ、ジークフリート。」
ジークフリート「一体どう言う事なんだ？」
ハーゲン「俺にも詳しい事までは分からないのだが、フレア様が仰るには、ワルハラ宮を活性化させる作戦だそうだ。まあ、心配無いだろう。アイツらだってそう馬鹿じゃない。殺しまではしないさ。」
ジークフリート「まあ、ヒルダ様がいらっしゃるし・・・・・」
ハーゲン「俺らは俺らの任務を全うすればいいんだ。さ、食うぞ。」
ジークフリート「そうだな。」
二人はその後も、あっちを意識しつつ、楽しく会話をした。そして、巻きこんだ野生児と巻き込まれた貴族たちは、無駄に運動をし、碌にフランス料理を食べられずに本日のディナーを終了させたのだった。


あとがき
神闘士二作目！中華戦争と基本は同じです。ギャグばっかりだ。ほのぼのも書けるなら書こう。うちのヒルダは天然で、平和を愛しますが、今回のような、喧嘩も好きです。ワルハラ宮は、聖域のようにやかましくなく、静かなので、ヒルダは、和気藹々とした会話が無い事を寂しく思っているのです。それは仕方ない事だと思いますが。聖域の政治体制とアスガルドの政治体制は似てるようで全然違う気がします。アスガルドの公用語は勿論アスガルド語。貨幣はガルド。１ガルド＝0、09円です。極貧ですのでね。



ＢＹ　　ＭＵＴＵＭＩ